「GIS による造成宅地の推定盛土深さと地震被害との関連」岩井哲氏 2005 年 7 月 19 日(火)福岡会場/2005 年 7 月 21 日(木)広島会場 「GIS による造成宅地の推定盛土深さと地震被害との関連」 広島工業大学 工学部 建設工学科 教授 地理情報システム学会 中国地方事務局長 岩井哲氏 -1- 本日の講演概要 空間情報シンポジウム2005 GISによる造成宅地の推定盛土深さ 瀬戸内海で2001年に発生した芸予地震(M6.7) によって,広島市近郊地域では造成された丘陵盛土 と地震被害との関連 地盤上で木造住宅の瓦屋根被害が多く現れた。GIS を利用して造成宅地の切土・盛土の層厚の推定を行っ 広島工業大学 工学部 建設工学科 た。この切土・盛土の層厚と地盤の常時微動特性, 教授 岩井 哲 e-mail: [email protected] 地震被害の関連を考察する。 1 2 目的 平成13年の芸予地震によって,丘陵地に造 成された木造住宅団地では,盛土地盤で瓦屋 根被害が多く集中する傾向が見られた。 1. 地震被害分析のための3D-GISに よる盛土・切土地盤の区分評価 本研究はGIS(地理情報システム)を用いて, 造成前・後の地形を立体的(3D)データ化し, ①盛土・切土を区分判別すること,②盛土深さ を推定することにより,木造被害と盛土地盤・ 盛土深さとの関連を調べるものである。 3 4 広島市西区己斐上3丁目 丘陵地住宅団地の木造屋根瓦被害 (広島市西区己斐上3丁目) 5 6 1 地図の3D化 ■ 切土 ■ 盛土 (a) S45標高の入力 (b) S45標高の抽出 (c) S45グリッドの生成 (d) S45グリッドの3D化 0 50 200 100 300 400 500m 造成前と後を重ね合わせたもの (e) H10標高の入力 (f) H10標高の抽出 (g) H10グリッドの生成 (h) H10グリッドの3D化 0 50 100 200 300 400 500m 地盤の切盛り区分と常時微動計測点 (廿日市市阿品) N 0100200300400500(m) 平成10年の地形図 1/2500 (i) 切土・盛土のグリッド (j) 切土・盛土のグリッドの3D化 31 50 100 200 300 400 500m 200 阿品台北 160 阿品台2丁目 家屋件数 140 阿品台1丁目 阿品台5丁目 50 瓦屋根被害率(%) 瓦屋根家屋件数 スレート屋根件数 RC等の陸屋根件数 瓦屋根被害件数 180 45 40 35 120 30 100 25 80 20 60 15 40 10 20 5 0 0 -40 阿品台4丁目 -30 -20 -10 0 10 切土・盛土の層厚(m) 20 30 40 阿品台 阿品台3丁目 50 切 土 50 盛 土 45 40 30 30 25 20 20 15 阿品4丁目 10 瓦屋根被害率(%) 40 35 家屋件数 32 昭和45年の地形図 1/2500 瓦屋根被害率(%) 0 2. 地震被害分析のための3D-GISに よる盛土・切土地盤の区分評価 10 5 0 0 -40 -30 -20 -10 0 10 切土・盛土の層厚(m) 阿品4丁目 0 100 200 400 600 800 1000m 20 30 40 33 34 家屋の切土・盛土の層厚と瓦屋根被害 目的 常時微動計測器 上下方向 本報告は廿日市市阿品の造成宅地において、 GIS(地理情報システム)を用い切土・盛土 の判別を行うともに、地盤の常時微動調査を 水平方向 行い、造成宅地の盛土・切土地盤における常時 微動振動特性と推定される盛土深さとの関連 について調べたものである。 動コイル型電磁変換方式小型長周期振動計 【東京測振社製SM-121(水平動)、SM-122(上下動)】 35 水平方向 36 1 速度波形一例 計測速度 mkine(10 -3 cm/sec) 2 測点7(盛土厚26m) 1 0 -1 -2 0 10.24 Max= 0.547 -3 計測速度 2 mkine(10 cm/sec) 20.48 時間 (sec) Min= mkine -0.543 mkine 測点14(切土厚33m) 1 0 -1 -2 0 10.24 Max= 0.182 20.48 時間 (sec) Min= mkine -0.246 mkine 37 38 解析方法 阿品台 常時微動計測(東西方向) 速度H/Vスペクトル 計測した速度波形 4096 6144 切土 8192 フーリエスペクトル解析結果 1 0 地盤 NS方向 8192 2 10240 12288 14336 1 0 -1 -2 14336 2 16384 18432 20480 1 0 -1 -2 20480 2 22528 24576 26624 28672 30720 32768 フーリエスペクトル (mkine・sec) -2 0.4 3.1Hz 0.3 パワースペクトル比 12.5 0.5 -1 10 7.5 盛土 1v-EW/UD 2v-EW/UD 13v-EW/UD 19v-EW/UD 25v-EW/UD 27v-EW/UD 26v-EW/UD 8v-EW/UD 10v-EW/UD 17v-EW/UD 21v-EW/UD 23v-EW/UD 12.5 5 2.5 パワースペクトル比 2048 2 10 7.5 9v-EW/UD 14v-EW/UD 18v-EW/UD 22v-EW/UD 24v-EW/UD 5 2.5 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 0 2 4 6 8 振動数(Hz) 0.2 10 12 14 16 18 20 振動数(Hz) 地盤の常時微動の速度H/Vスペクトルの傾向 0.1 1 0 -1 0 -2 26624 2 2 4 6 8 10 12 12 14 14 16 16 卓越振動数 比 率 振動数特性 18 18 20 20 振動数(Hz) 1 0 39 盛土 3∼4Hzでピーク 4∼6倍 盛土では共通している 切土 もたない(フラット) 1∼2倍 盛土・境界と異なる 0 40 -1 -2 地盤のH/Vスペクトル 15 3 11 10 12 14 16 18 20 H/V スペクトル 2 4 6 2 4 6 8 10 12 17 14 16 18 4 8 10 12 振動数(Hz) 14 16 18 20 2 4 6 8 10 12 14 16 18 16 18 20 0 3.2Hz 3.5 Hz 2 4 6 8 10 12 14 16 18 6 8 10 12 振動数(Hz) 14 16 18 20 16 18 20 0 2 7 4 6 8 10 12 14 16 18 20 振動数(Hz) 2.8 Hz 2.7 Hz 盛土26m 12 6 0 14 盛土16m 2.9 Hz 3.0 Hz 盛土23m 9 0 12 6 20 12 4 9 15 19 3 10 0 0 3 8 3 盛土22m 2.4 Hz 2.4 Hz 2 6 12 6 振動数(Hz) 9 0 4 振動数(Hz) 15 6 2 9 盛土12m 9 20 H/V スペクトル H/V スペクトル 14 0 0 H/V スペクトル 6 12 3 12 0 10 18 4.3 Hz 5 3 8 15 盛土11m 4.2 Hz 盛土16m 2.9 Hz 2.9 Hz 2 6 振動数(Hz) 9 0 4 振動数(Hz) 9 20 12 6 2 12 6 15.7 Hz 15.3 Hz 6 0 0 20 15 22 41 18 0 0 6 16 15 振動数(Hz) 18 14 3 0 19 12 ここから盛土 4.9 Hz 5.6 Hz 6 15 17 10 12 3 5 8 9 3 振動数(Hz) 盛土7m 9 6 0 0 15 H/V スペクトル 20 4 12 S 8 3 7 16 E 6 切土14m 12 9 3 振動数(Hz) H/V スペクトル 3 15 W 4 12 14 N 2 15 24 8 6 0 0 21 2 9 3 0 9 23 1 13 6 2 切土22m 12 H/V スペクトル 22 15 16 切土24m 12 H/V スペクトル H/V スペクトル 10 15 12 切土33m 9 H/V スペクトル 14 12 H/V スペクトル 15 H/V スペクトル 阿品4丁目 地盤の測点位置 2.6 Hz 2.5 Hz 9 6 3 42 0 0 2 4 6 8 10 12 振動数(Hz) 14 16 18 20 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 振動数(Hz) 1 地盤の卓越振動数 地盤の卓越振動数と切土・盛土の層厚の関係 -40 NS方向 EW方向 -30 3.37 3.56 切土・盛土の層厚 H (m) 10 14.5 14.45 18.95 15.67 15.33 -20 2.88 2.88 3.61 3.91 22 2.64 11 2.88 2.98 2.64 9 23 -10 21 1 切土 13 0 30 卓越 -2卓越 0 なし 2 なし 4 6 24 5.62 4.93 8 2.73 2.83 3 7.23 4 16 2.44 2.39 2.59 2.54 5 12 4.25 4.3 3.47 3.22 2.49 2.2 N 8 10 12 卓越振動数 f (Hz) 14 16 18 20 W 43 E 20 7 3.37 2.39 15 f = 151/4H r = 0.59 f = 144/4H r = 0.47 20 2 14 盛土 10 4.35 4.15 17 18 19 6 44 S 結論 1. 盛土の厚い層厚にかけて卓越振動数が2.2∼5.6Hzと 低くなる傾向がみられる。切土で20mを超える層厚 を持つ硬い地盤では明確な卓越振動数を持たない。 2.造成地盤の卓越振動数が3Hzに満たない地域の周辺 家屋では多くの瓦屋根被害が出ている。卓越振動数 を持たないか、10Hzを超える高い卓越振動数を持 つところでは瓦屋根被害はほとんどない。 3. 木造住宅の常時微動特性と 2001年芸予地震による被害との 対応 3.切土・盛土の層厚が地盤の卓越振動数に関わり、地 盤の卓越振動数の違いが家屋の瓦屋根被害に大きく 45 影響を与えた可能性は高いと考えられる。 安芸郡熊野町の被害 新宮 初神 46 木造家屋の常時微動計測概要 建設地 城之堀 中溝 平谷 安芸郡熊野町 萩原 出来庭 呉地 川角 N 500 0 500 1000 1500m ■被害率10%以上 ■被害率5∼10% ■被害率3∼5% ●被害家屋 建物名称 被 延べ面積 建築年 害 (㎡) 廿日市市阿品 耐力壁 屋根 ① SY邸 有 1992年 219.91 軸組構法 二つ割筋かい 瓦屋根 ② TY邸 無 1982年 96.07 軸組構法 三つ割筋かい 瓦屋根 ③ UK邸 有 1981年 - 軸組構法 - 瓦屋根 ④ BK邸 無 1979年 - 軸組構法 - 瓦屋根 - 瓦屋根 ⑤ WF邸 無 1979年 123.35 木質パネル ⑥ YS邸 有 1978年 129.61 軸組構法 三つ割筋かい 瓦屋根 ⑦ KK邸 無 1972年 120.08 軸組構法 三つ割筋かい 瓦屋根 ⑧ KT邸 無 1969年 262.18 軸組構法 三つ割筋かい 瓦屋根 軸組構法 - 瓦屋根 軸組構法 - 瓦屋根 軸組構法 三つ割筋かい 瓦屋根 軸組構法 - 48 スレート屋根 ⑨ MK邸 有 1964年 47 構造 - ⑩ YK邸 無 1979年 119.23 ⑪ FK邸 無 1984年 135.40 ⑫ NT邸 無 1985年 - 2 計測位置 (平面図) △ △ ▲ △ △ ▲ 浴室 ▲ 和室 居間 ▲ Y軸 ▲ 2階平面図 和室8帖 便所 浴室 脱衣所 浴室 台所 1/4 台所 存在壁量 > 1.0 建築基準法で定める必要壁量 両端の充足率の小さい方 > 0.5 両端の充足率の大きい方 押入 押入 押入 ホール 和室8 帖 和室8帖 和室8帖 和室8帖 玄関 押入 1/4 玄関 廊下 押入 廊下 Y 1/4 51 X 1/4 壁量充足率、充足率の比 1/4 1.0 40 250 0.8 0.8 0.2 0.0 X軸方向 Y軸方向 X軸方向 Y軸方向 0.6 0.4 被害あり 被害あり 被害なし 被害なし 0.2 0.0 2 4 6 8 10 12 家屋 卓越振動数(Hz) 充足率と家屋の卓越振動数 0 2 4 6 8 X軸方向 Y軸方向 X軸方向 Y軸方向 10 12 家屋 卓越振動数(Hz) 53 充足率の比と家屋の卓越振動数 30 20 被害あり 被害あり(2次) 被害なし 被害なし(2次) 10 0 家屋 延べ面積(㎡) 1.0 家屋 築年数(年) 300 充足率の比 50 被害あり 被害あり 被害なし 被害なし 52 X 常時微動特性 1.2 0.4 Y 1/4 1.2 0.6 押入 ホール 1/4 脱衣所 50 充足率の比 和室8帖 便所 △ 1/4 壁量充足率 △ ▲ 1階平面図 X軸 49 △ ▲ ▲ ノートPC 【ソニー製、VAIO】 動コイル型電磁変換方式小型長周期振動計 【東京測振社製SM-121(水平動)、SM-122(上下動)】 和室 押入 △ 和室 ▲ ▲ ▲ X軸方向 ▲ 地盤 地盤 X Y UD方向 押入 2階 食堂 △ 押入 down △ △ up ホール 玄関 PCカード型データ収集システム 【キーエンス製、NR−2000】 充足率 便所 洋室 台所 Y軸方向 0 押入 脱衣 ▲ 低周波増幅器 【東京測振製、AL−120】 2階 X Y UD方向 △ 洗面 便所 和室 UD方向 △ 木造家屋の計測方法 200 150 100 被害あり 被害あり 被害なし 被害なし 50 0 0 2 4 6 8 10 12 家屋 X軸方向 卓越振動数(Hz) 築年数と家屋の卓越振動数 0 2 4 6 8 X軸方向 Y軸方向 X軸方向 Y軸方向 10 12 家屋 卓越振動数(Hz) 54 延べ面積と家屋の卓越振動数 3 常時微動特性 常時微動特性 木質パネル構造 被害あり 被害なし 0 0 2 4 6 8 10 12 6 4 被害あり 被害あり(2次) 被害なし 2 軸組構法 0 0 地盤 X軸方向 卓越振動数(Hz) 地盤の卓越振動数 2 4 10 8 6 4 被害あり 被害あり(2次) 被害なし 被害なし(2次) 2 0 6 8 10 12 家屋 X軸方向 卓越振動数(Hz) 55 家屋の卓越振動数 0 2 4 6 8 10 家屋 Y軸方向 卓越振動数(Hz) 2 8 家屋 X軸方向 卓越振動数(Hz) 4 家屋 Y軸方向 卓越振動数(Hz) 地盤 Y軸方向 卓越振動数(Hz) 6 10 z 2H 8 12 z 2H 10 12 z 2H 12 z 2H 12 10 12 地盤 X軸方向 卓越振動数(Hz) 8 6 4 被害あり 被害あり(2次) 被害なし 被害なし(2次) 2 0 0 2 4 6 8 10 12 地盤 Y軸方向 卓越振動数(Hz) 地盤と家屋の卓越振動数 56 GISセミナー・中国 結論 1.地盤の卓越振動数は2.2∼5.5Hzに卓越しているとこ ろが多く、被害のあった家屋の地盤の卓越振動数は 5Hz付近に集中している。 2.家屋の卓越振動数は、軸組構法では平均はX軸方向で 2.7∼5.9Hzで平均4.7Hz、Y軸方向は2.8∼5.1Hzで平 均3.8Hzとなっている。木質パネル構造では軸組構法 と比べると3Hz以上高い卓越振動数を持つ。 3.家屋と地盤の卓越振動数の差が2Hz以上ある所では瓦 屋根被害は起きていない。さらに、家屋と地盤の卓 57 越振動数が共に3∼6Hz付近までの所で起きている。 参考文献 岩井哲,浅野照雄(2003)平成13年芸予地震による丘陵地 造成地の木造住宅被害と地盤の常時微動特性(その1∼その 2),日本建築学会中国支部研究報告集 第26巻,P.155162. 岩井 哲,浅野照雄(2004)平成13年芸予地震による丘陵 造成地の木造住宅瓦屋根被害と地盤の常時微動特性,自然災 害科学,日本自然災害学会,Vol.22,No.4,pp.429-440. 藤原健蔵・資料(2001)広島市消防局 広島市地震情報ネッ トワークシステム検討委員会 平成13年度資料. 山本春行(2003)地域防災ネットワーク構築事業成果報告 書(5.3 人工造成地盤の切盛り区分情報),平成14年度広島大 学地域貢献特別支援事業,地域防災ネットワーク構築事業実 59 行委員会,pp.80-85. http://www.osu.ac.jp/ gisac/ 地理情報システム学会 中国地方事務局 主催 年間2回,これまでに3回 開催 産・官・学を問わず,GISに関心のある方々 が自由にご参加戴くよう期待します。 セミナーやGIS関連情報はGIS学会員に は,ニュースレターやメーリングリストでお 知らせしています。が,本セミナーは学会員 以外の方のご参加も大歓迎です。 58 謝辞 使用した都市計画図は廿日市市役所から,住宅地図 Zmap−TOWNⅡは(株)ゼンリンからご提供頂きま した。広島大学大学院国際協力研究科山本春行助教授 には地図の取り扱いやデジタル処理において有意義な 指摘を戴きました。 本研究の実施には平成16年度科学研究費[基盤研究 (C)(2)課題番号16560518,研究課題名:人工造 成宅地における木造家屋と瓦屋根の地震被害に関する 研究(研究代表者名:岩井 哲)]の補助金を一部利 用させていただきました。ここに,記して深く感謝し ます。 60 4
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