Title 生物活性物質としての高歪籠型化合物の合成と - Osaka University

Title
Author(s)
生物活性物質としての高歪籠型化合物の合成と反応
長谷川, 武司
Citation
Issue Date
Text Version none
URL
http://hdl.handle.net/11094/38080
DOI
Rights
Osaka University
<19>
はせがわ
たけ
し
名長谷川武司
氏
博士の専攻分野の名称
博士(理学)
学位記番号第
1
059 7
号
学位授与年月日
平成 5 年 3 月 25 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 1 項該当
理学研究科有機化学専攻
学位論文名
生物活性物質としての高歪範型化合物の合成と反応
論文審査委員
(主査)
教授植田育男
(副査)
教授小田雅司
教授井畑敏一
論文内容の要旨
キュパンは高い歪を持った寵型化合物であり
通常の有機化合物とは異なった化学的物理的性質を示す CTable
1)。キュパンの標準生成熱は 144 土 1.3kcal/mol と算出さ
れているが,この値はこの分子の全歪エネルギー 166
T
a
b
l
e 1.
P
h
y
s
i
c
o
c
h
e
m
i
c
a
lP
r
o
p
e
r
t
i
e
so
fCubane
kcal/
mol に相当し,炭素-炭素結合当たりの歪エネルギーは約 14
kcal/mol にもなる o ところが
u
v
0
で,溶液中 200 C で加熱するとゆっくり分解する O この異常と
もいえる熱的安定性はキュパンの魅力の 1 つとなっている o
しかし,これまでキュパンの生物活性についての研究例は極
めて少ない。私はキュパンおよびホモキュパン類の新規誘導
体を合成し,高歪寵型化合物の pharmacophore としての利用
の可能性を調べる目的で本研究に着手した。その結果数種の
N-[
3
-[
3
C
p
i
p
e
r
i
d
i
n
o
m
e
t
h
yl
)p
h
e
n
o
x
y
Jpropyl
]c
a
r
b
o
x
a
m
i
de 誘導体 CA , ß , C およびD) がヒスタミン H2 受容体アンタゴ
d
CONHR1
R=C O N J
C
l
e
a
r
lHNMR
13C NMR
J13C _H
δ4.04ppm
δ47.3ppm
155Hz
31%
Sc
h
a
r
a
c
t
e
rC
C
H
)
C-Cl
e
n
g
t
h
C-Hl
e
n
g
t
h
C-C-Ca
n
g
l
e
1.550 土 0.003λ
1. 06 士 0.05Å
90.0 土 0.5 。
Heato
fFormation
T
o
t
a
lS
t
r
a
i
nEnergy
1)。
。ぺ
R@
0
0
I
R
この分子は異常なまでに安定
ニスト作用を示すことが明らかとなった CScheme
130-131C
1
3
0C
2992 ,1235 ,852cm- 1
mp
bp
P~
Ph
_11-0H
~。
CONHR1
C
X=Br, Y=H
X=H , Y=Br
B
。CH心
Scheme1
-37-
D
144 土 1.3kcal/mol
166kcal/mol
また,合成研究の過程で種々の興味あるキュパン,ホモキュパンの骨格転位反応を見い出した。以下,本研究で得
られた研究結果の概略を述べる O
まず第 2 章では高歪化合物,キュパン,ホモキュパンおよび pentacyclodecane 類の合成 (Scheme 2) とそれらの
N- [3-[3-(piperidinomethyl
)phenoxyJ
propyl
]carboxamide
る。
誘導体 (A , ß , C およびD) の生物活性について述べ
2 七romocyclopen t
a
d
i
e
n
o
n
ee
t
h
yl
e
n
ea
c
e
t
a
l (1 71) の Diels- A
l
d
e
rd
i
m
e
r
i
z
ation で,通常の付加体 (3 a)
ほか, 4.5% の収率で異性体である endo-
2, 7-dibromodicyclopentadiene-l , 8b
i
s
e
t
h
y
l
e
n
ea
c
e
t
a
l (3b) が得られた。
3b は本研究で最初に同定された化合物である。これは cubane化合物 10-oxa-
1, 3d
i
c
a
r
b
o
x
y
l
i
ca
c
i
d (1 47a) および新規な龍型
9o
x
o
p
e
n
t
a
c
y
c
l
o[5 , 3 , 0 , 0 ,4, 0 ,6, 05,8J d
e
c
a
n
e
-3c
a
r
b
o
x
y
l
i
ca
c
i
d (1 35)
2
なった。ここで合成された N-
の
3
の重要な合成中間体と
[3-[3-(piperidinomethyl) phenoxyJpropylJcarboxamide 誘導体 (A , ß , C およびD)
はヒスタミン H2 受容体アンタゴ、ニスト作用により胃酸分泌を緩徐に抑制し,細胞防御作用を持つことが示された。
興味ある結果としてこれら誘導体がペプシン排池抑制作用を合わせもつことも明らかにされた。
f
23B 一品 ιI
17E
h
xzJf…叩 P
160
。
もよ時 HtFj
135
134
KOOIO.O
=H
~~'-C者
ぬ。
161
も:殺品不
136
133
1
3
5
Scheme3
gtbL55L-qご
1
5
8
130
147.:R ・ H
147b:R-M・
Scheme2
第 3 章では,
1 , 5d
i
b
r
o
m
o
p
e
n
t
a
c
y
c
l
o[5 , 3 , 0 , 025 ,
位反応による 10-oxa-
0 ペ 0 叶 decane-
6,1 0-dione
(1 60)
の Haller-Bauer 型転
9o
x
o
p
e
n
t
a
c
y
c
l
o[5 , 3 , O
.0 ,4, 0 ,6, 05,8J d
e
c
a
n
e
-3c
a
r
b
o
x
y
l
i
ca
c
i
d (1 35)
2
3
について述べる1, 5-dibromo体(1 60) は通常の Favorskii 反応条件 (20 % KOHaq. ,
不明の極性物質を与えたが,
5%KOHaq. , 8
0oC ,
の合成と生成機構
r
e
f
l
u
x
i
n
g water) 下では構造
15min の条件で、 87% の収率で、 135 を与えた。 135 の生成において 1 ,
e
x
o
-7-Dibromo-9o
x
o
t
e
t
r
a
c
y
c
l
o[4 , 3 , 0 , 0 2,5, 03,8J n
o
n
a
n
e
e
n
d
o
-4c
a
r
b
o
x
y
l
i
ca
c
i
d (1 34)
が中間体であること
が示唆された。そして重水中での反応の結果とをふまえて生成機構を考察した (Scheme 3) 。
第 4 章では,キュパンからホモキュパンへの環拡大反応における歪と炭素陽イオンの影響について述べる。
mo-4-(α ,
nonane叫J
αd
i
s
u
b
s
t
i
t
u
t
e
d hydroxymethyl
)s
p
i
r
o[1" 3'
d
i
o
x
o
l
a
n
e
-2" 9p
e
n
t
a
c
y
c
l
o[4
l-bro
4つ
,77つ]
, 3, O
. 0 2,5, 0 3 ,8吋0 吐叩勺
(E) 即ち, homo
か-c叩
uby
升lcωar
巾
bino
叫l の Wa
勾
gne
訂
r
の置換基が低級アルキル基でで、あるとき,
1 , 3 七 ishomocubane (G) が優先的に生成された。このときの炭素陽イオ
ン (J) に対する求核種から,何れも分子内置換反応がおこっていることが示唆された。他方, ι 炭素上にシクロプ
ロピル基やアリール基が置換されるとし 4
されると 1 , 3bishomocubane (G) 対 1 ,
-bishomocubane (F) の生成が増加し,特に 4 -methoxyphenyl 基が置換
4-bishomocubane (F) の生成比は約 2 対 1 になった。また,このときの
炭素陽イオン(1), (J) に対する求核種から,分子内のほかに分子間でも置換反応が起こっていることが示された。
このような現象は中間に生成される homocu b
yl
c
a
r
b
o
c
at
i
o
n(H) の安定性が生成物の決定に大きく関与することを
示唆している
また,
(Scheme
1,4b
i
s[α ,
4) 。
α-disubstituted
hydroxymethyl
]p
e
n
t
a
c
y
c
l
o[4 , 2 , 0 , 0 2,5,
0 3 ,80 勺 octanes (K) 即ち,キュ
パンーし 4- ビスカルビノール類の Wagner-Meerwein 型反応条件下で、の反応について述べる O ここでは,従来報告さ
れていたし 3
-bishomocubanesystem (N) への転位に加え, 1 , 4-bishomocubanesystem (M) への転位反応が
n
o
qJ
起こる事を明らかにした。
1 , 4 一体 (M) への反応は ι炭素上の置換基に強く影響されており
特に炭素陽イオンを
安定化する 4 -methoxyphenyl 基が置換されているときに最大収率30% で1, 4- 体 (M) を生成した。また,
c
a
r
b
i
n
o
l
s (K)
1 , 4b
i
s
ュ
から最初の Wagner-Meerwein 型転位反応により homocubane (P) が生成され,ついで中間に生成
される炭素陽イオン (Q) から Homoallylic 転位反応によって homosecocubane (L) を,一方,ヒドロキ、ン基を持つ
炭素陽イオン (R) から Pinacol-Pinacolone 型転位反応によりシクロペンテノン誘導体 (0) を与えることがわかっ
た。これらの生成物は何れも歪エネルギーを解消する方向で生成されていると考えられる (Scheme 5) 。
F
F
入
ヘノ
o
。
ムAMVR
t&
J
1
ru
ド
a .1 ,3-bishomocubane
b :1, 4 -bishomocubane
Scheme4
(a)Wag間r-M舵附酬転fi/_→Hαnoaltylic
f
i
f
v
:
(b)Wagner-Mee附ein 制合:→Pinacol~Pinacolo間転位
S
c
h
e
m
e5
論文審査の結果の要旨
長谷川君はキュパン,ホモキュパン等の高歪化合物が生物活性発現の助作用団 (pharmacophore) として有用であ
ることを初めて明らかにすると共に消化性漬療治療薬の新規なリード化合物の合成に成功した。さらにビスホモキュ
パンの縮環反応およびキュビカルビノールの環拡大反応を利用して
ユニークな高歪龍型化合物を合成し,その生成
機構も明らかにした。これらの成果は博士(理学)の学位論文として充分価値あるものと認める O
-39-