原子核物理学 I (2014 年度、担当:飯嶋) 問題 I の解答例 1. 波長 400nm のフォトンのエネルギーを eV を単位として表せ。 フォトンのエネルギーを E 、波長を λ とすると、E = pc = hc/λ 。ここで、hc = 2π · ¯ hc = 2π · 197.3 fm · MeV を使い、単位を合わせると、 E[eV] = 1240/λ[nm] (1) が得られる。数値を代入して、E = 3.10MeV と求まる。 2. 陽子の半径はおよそ 1fm である。その大きさを測るのに必要な電子ビームのエネルギーを 概算せよ。 電子ビームのドブロイ波長が陽子の半径程度となればよい。問 1 と同様の考えで、 E[MeV] = 1240/λ[fm] (2) を得る。ここで、十分エネルギーが高ければ E pc と近似できることを用いた。これより、 必要なエネルギーは 1000 MeV (1 GeV)程度と概算できる。 3. 荷電パイ中間子 (π ± ) の質量は mπ = 140 MeV/c2 、寿命は τπ = 2.60 × 10−8 s で、ミューオ ンと (ミュー型) ニュートリノに崩壊する (π + → µ+ + νµ もしくは π − → µ− + ν¯µ )。ミュー オンの質量は mµ = 106 MeV/c2 、ニュートリノの質量は 0 とする。 以下の問いに答えよ。 (a) 静止した荷電パイ中間子が崩壊したときのミューオンの速さ β を mπ と mµ で表し、数 値を計算せよ。 粒子のエネルギー E は運動量 P と質量 m を用いて、 E 2 = |P |2 c2 + m2 c4 (3) エネルギー保存則と運動量保存則から、 Eπ = Eµ + Eν (4) Pπ = Pµ + Pν (5) 1 ここで、Pπ = 0 と式 4、5 から √ mπ c2 = ( m2π c2 + |Pµ |2 + |Pµ |)c これを |Pµ | について解き、 (6) m2π − m2µ c 2mπ (7) m2π + m2µ 2 c 2mπ (8) m2π − m2µ |Pµ |c = 2 Eµ mπ + m2µ (9) |Pµ | = さらに、 Eµ = を得る。従って、 βµ = 数値を代入して、βµ = 0.271 と計算される。 4元運動量ベクトルと自然単位表記を使って以下のようにも解ける。 pν = pπ − pµ (10) p2ν = p2π + p2µ − 2pπ pµ (11) から、 ここで、p2ν = 0、p2π = m2π 、p2µ = m2µ 、さらに pπ pµ = Eπ Eµ − Pπ · Pµ = mπ Eµ なので、 0 = m2π + m2µ − 2mπ Eµ (12) これより、 Eµ = m2π + m2µ 2mπ (13) 以下、同様。 (b) 荷電パイ中間子が運動量 Pπ = 2 GeV/c で運動しているときの速さ β を求めよ。 (自然単位 (c = 1)を使った表記で) β= P 2 P =√ = 0.9976 =√ E P 2 + m2 22 + 0.142 0.998 (14) (c) また、このとき荷電パイ中間子が崩壊するまでに飛ぶ平均距離 (崩壊長)Lπ を求めよ。 √ 静止した観測者からみた平均寿命は γ = 1/ 1 − β 2 倍に伸びるから、崩壊するまでに 飛ぶ平均距離は、 Lπ = cτπ βπ γπ = 111m (15) 2 4. LHC は 7TeV の陽子同士を正面衝突させるコライダー型加速器である。 (a) このとき重心系の全エネルギー W を求めよ。 一般に、粒子1と粒子2が衝突するとき、系の全エネルギー E と全運動量 P は、 E = E1 + E2 (16) P (17) = P1 + P2 であり、重心系の全エネルギー W は、 W 2 = E 2 − |P |2 (18) = (E1 + E2 ) − (P1 + P2 ) (19) = m21 + m22 + 2(E1 E2 − |P1 ||P2 |cosθ) (20) 2 2 となる (θ は粒子 1 と 2 の運動量ベクトルのなす角度)。LHC のようなコライダー加速 器の場合には θ = π であり、十分高エネルギー (E1(2) >> m1(2) ) では、 W √ 4E1 E2 = 2E (if E1 = E2 ) (21) となる。従って答えは 14TeV. (b) 静止した水素標的に陽子ビームを照射する場合 (固定標的実験)、LHC と同じ重心系エ ネルギーを得るために必要となる陽子ビームのエネルギーを計算せよ。 一方、陽子ビーム (粒子 1) が水素標的 (粒子 2)に衝突する場合は、P2 = 0 かつ E2 = m2 なので、 √ W 2E1 m2 (22) 従って、W = 14TeV を得るには、E1 = W 2 /2m1 = 142 /(2 · 0.000938) = 1.04 × 105 1.0 × 105 TeV が必要となる。 【注記】 • 問題 3 (b) の β が荷電パイ中間子の β かミューオンの β なのかが不明確でした。出題の意図 は荷電パイ中間子の β です。 • また、問題文の運動量の有効数字が一桁になっているのは適切ではありませんでした(解答 例は3桁としている)。 以上に関して不公平が生じないように採点では考慮します。 3
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