DBF 海洋レーダの実用化 - 電力中央研究所

環
電力中央研究所報告
境
報告書番号: N 0 9 0 0 5
DBF 海洋レーダの実用化
−遠隔リアルタイム流況観測システムの構築−
背
景
当所が開発した DBF 海洋レーダ 1)は,表層流れの分布を国内最高レベルの解像度
(時間分解能 15 分,空間分解能 500m)で,連続して観測することができ,発電所周
辺の温排水拡散のモニタリングへの活用が期待される.さらに,この観測システム
は可搬型で,緊急観測に対応可能であり,ゴミ,海域に流出した重油,及び大型ク
ラゲ等の漂流予測に活用できる.これらの実用的な観測では,迅速な対応策の構築
に資するため,リアルタイムに表層流速ベクトル分布が得られることが必要である.
本海洋レーダは,二箇所の基地局から,海域を異なる方向からそれぞれ観測して
各方向の表層流速を測定する.これらの各基地局の表層流速を合成することにより,
表層流速ベクトル分布を得ることができる.当所では,遠隔リアルタイム流況観測
を目指して,各基地局で高精度に表層流速を抽出する表層流速自動推定法 2)を開発
した.リアルタイムの観測を実現するためには,各基地局のデータを集約するサー
バ及び基地局とサーバを接続する通信システムが必要である.
目
的
DBF 海洋レーダの実用化に資するために,遠隔リアルタイム流況観測システムを
構築する.
主な成果
1.遠隔リアルタイム流況観測システムの概要
2 つの基地局において,当所で開発した表層流速自動推定法を用いて得られた各
流速データを,今回開発した通信システムで我孫子地区のサーバに転送し,流速ベ
クトルデータを作成する 2).さらに風や潮位の情報と合わせて,このデータを図化
する.これらは,定期的に自動で実行され,以下のことが実現された.
1)表層流速ベクトルデータ,ベクトル図とそのアニメーション,これらを 15 分毎に
自動作成し,表層流速をリアルタイムで把握することができる.
2)このベクトル図やアニメーションについて,インターネットを介してウェッブブ
ラウザで閲覧できる機能を有する.過去のベクトル図やアニメーションも検索可
能である.また,携帯電話から現況のベクトル図を確認することできる.
3)無線通信(FOMA)を利用しており,ほとんどの日本全国沿岸で利用可能である.
4)自動メール配信や遠隔操作から構成される観測監視システムを構築した.基地局
の障害を早期に検知し,障害復旧を効率的に実施できる.
5)現在の観測用ソフトウェアは稼働する OS が古く,最新の PC に移植することが難
しい.そこで,このソフトウェアが稼働する OS を含めた PC 環境を仮想化注 1)し,
最新の PC 上で,OS に依存することなく観測用ソフトが稼働できるよう改良した.
仮想化した PC 環境は複製が容易なので,観測用 PC に障害が発生した場合に,代
替 PC による早期復旧が可能である.
2.遠隔リアルタイム流況観測システムの現場への適用
有明海の観測 3)における観測システムの障害事例を整理したところ,送受信アン
プ故障以外の欠測期間は全体の 1%程度と小さい.なお,送受信アンプは対策がなさ
れ,故障の可能性はさらに小さくなった.
有明海で遠隔リアルタイム流況観測を 13 ヶ月間運用した.通信システムの障害は
4 回発生したが,遠隔操作により一日程度で復旧し,安定したデータ配信を継続し
た.
以上より,海洋レーダの可搬性を損なうことなく,遠隔リアルタイム流況観測を
実現した.また,本観測監視システムは,沿岸における種々の遠隔観測に活用する
ことが可能である.
注 1) PC の OS,ネットワーク,ハードディスクなどのリソースをソフトウェア上で模擬する技術,ある OS で
起動した仮想ソフトウェア内で別の Windows や Linux 等の OS を稼働させることができる.
図
研究報告
N09005
関連研究報告書
担 当 者
連 絡 先
[非売品・不許複製]
リアルタイム観測による表層流れベクトル図例
キーワード:海洋レーダ,リアルタイム観測,無線通信
1)「広域流動観測のための高性能沿岸海洋レーダの開発」U02056(2003.4)
2)「DBF海洋レーダの表層流速自動推定法の開発」V06012(2007.10)
3)「VHF帯DBF海洋レーダにおけるデータ測得に与える要因に関する考察」V07017
(2008.6)
松山
昌史(地球工学研究所
流体科学領域)
(財)電力中央研究所 地球工学研究所
Tel. 04-7182-1181(代)
E-mail : [email protected]
©財団法人電力中央研究所
平成22年3月
09−008