コンセンサス癌治療 2005 Autumn - Cancer Therapy.jp:コンセンサス癌

6.
Ⅲ期非小細胞肺癌の治療
(1)内科の立場から
東京都立駒込病院呼吸器内科
細見 幸生/澁谷 昌彦
Yukio Hosomi / Masahiko Shibuya
び微小遠隔転移巣
(micro metastasis)
はじめに
6)
た。Le Chevalierが行った比較試験
の制御があげられている 。現在ま
でも同様に,放射線と化学療法の
Ⅲ期非小細胞肺癌には,ⅢA期
でに,抗癌剤の種類・抗癌剤の投
併用が放射線単独に比べ有意に生
(T3 N1 M0,anyT N2 M0)
およびⅢ
与方法・放射線のタイミング・放
存期間を延長した
(表1)
。
B期
(T4 anyN M0,anyT N3 M0)
が
射線の照射方法・放射線治療後の
含まれ,予後から考えても異質な
地固め療法
(consolidation)
などさま
グループで成り立っている。N2症
ざまな方法が検討されている。
例をとっても確診方法
(CT,PET,
縦隔鏡)
の違いやN2リンパ節の数
化学療法に放射線照射を追加す
る有効性の検討も同様に報告され
異なると考えられる。さらには,
放射線療法+化学療法 vs
放射線療法
悪性胸水貯留のⅢB期症例は予後か
放射線に化学療法を追加する有
は,化学療法で効果の認められた
ら考えるとⅣ期に近く,実際Ⅳ期
効性の検討としてCancer and Leuke-
症例に対し放射線療法を追加する
と同じ抗癌剤による治療のみが行
mia Group B
(CALGB)
8433,Radia-
意義を検討している。2つの報告と
われている。また,cT3N1M0は手
tion Therapy Oncology Group
(RTOG)
も化学療法と放射線療法の併用群
術適応があると考えられている。
8808の試験,Le Chevalierが行った
は化学療法単独群と比べMSTに有
(single or multiple)
によっても予後が
196
化学療法+放射線療法 vs
化学療法
1)
ている。KubotaらおよびSculierら
近年,Ⅲ期に対する治療は,抗癌
比較試験などがあげられる 。
意な差はないものの,長期生存率
剤・放射線治療・手術などを組み
CALGB 8433ではfull doseのシスプ
が優れていることを示した1)7)。
合わせた集学的な治療が標準的に
ラチンとビンブラスチンの化学療
なりつつあるが,今回は手術適応
法後に放射線治療
(60Gy)
を行った
のない切除不能局所進行Ⅲ期非小
群でのMST
(median survival time)
は
細胞肺癌の治療について述べる。
13.8カ月で,放射線単独
(60Gy)
の
1970年代は,放射線治療が化学
MST 9.7カ月と比べ有意に延長し
化学療法+同時放射線照射
vs 化学療法+異時放射線照
射
(第2世代レジメン)
療法よりも奏効率が高かったた
た。また,R T O G 8 8 0 8 では,
化学療法と放射線療法の併用
め,切除不能局所進行非小細胞肺
CALGBと同じシスプラチンとビン
が,放射線療法単独および化学療
癌の標準的治療とされていた。し
ブラスチンの化学療法後に放射線
法単独よりも優れていることが示
かし,放射線治療単独では局所再
治療
(60Gy)
を行った群,放射線治
された後,どのタイミングで放射
発率および遠隔転移再発率が高い
療単独群
(60Gy)
と多分割放射線照
線治療を行うことがよいのか検討
ことなどから,放射線に抗癌剤を
射群
(69.6Gy / 58 fraction,1日2回照
された。これらの検討について
組み合わせた併用療法が試みられ
射)
を比較した。結果は化学療法を
は,第2世代の抗癌剤を用いたfull
るようになった。放射線に抗癌剤
加えた群で生存率が有意に延長
dose化学療法と放射線との同時併
を組み合わせる目的として,放射
し,放射線単独群と多分割放射線
用と異時併用の比較試験の報告が
線の感受性増加作用
(sensitizer)
およ
照射群では有意差を認めなかっ
ある。代表的なものとして,Japan
コンセンサス癌治療 VOL.4 NO.4
表 1 放射線化学療法と放射線療法の比較試験
ている。結果は生存期間に有意差
〔文献 1)より改変〕
試験
CALGB 8433
RTOG 8808
症例数
155
452
レジメン
生存率(%)
PVi → RT(60Gy)
13.8
3 年:23
7 年:13
長い傾向にあった。しかし,この
RT(60Gy)
9.7
3 年:10
で9.5%,異時併用群で5.6%と非常
13.2
7 年:6 3 年:17
に高いものであった。
PVi → RT(60Gy)
RT(60Gy)
Hfx-RT(69.6Gy)
Le Chevalier
353
はなかったものの,同時併用群で
MST(月)
ViLPC × 3 → RT(65Gy)→
試験での治療関連死は同時併用群
5 年:8 これらの結果から,異時併用療
11.4
3 年:11
5 年:5 法より同時併用療法が推奨されて
12
3 年:14
12
5 年:6 3 年:12
ViLPC × 3
いる。しかし,いずれの試験にお
いても毒性は同時併用療法で高い
傾向にあり,すべての症例に化学
療法と放射線同時照射が推奨され
RT(65Gy)
10
3 年:4 P:シスプラチン,Vi:ビンブラスチン,RT:放射線治療,Hfx-RT:多分割放射線
るわけではない。
照射,L:ロムスチン,C:シクロホスファミド
化学療法+放射線療法
(第3世代レジメン)
表 2 放射線化学療法(第 2 世代)の主な臨床試験
〔文献 1)より改変〕
試験
症例数
JCOG
320
RTOG 9410
GLOT-GFPC
610
212
レジメン
全身化学療法においては,第3世
MST(月)
生存率(%)
PVdM → RT
(56Gy,continuous)
13.3
2 年:27.4
5 年:8.9 PVdM + RT(56Gy,split)
16.6
2 年:34.6
PVi → RT(60Gy)
14.6
5 年:8.9 4 年:12 PVi + RT(60Gy)
17
4 年:21 られている。しかし,full dose第3
PE + Hfx-RT(69.6Gy)
PE + RT(66Gy)→ PN
15.6
16.6
4 年:17 3 年:18.6
世代レジメンと放射線同時併用は
PN → RT(66Gy)
12.9
3 年:9.5 毒性の上から実施困難であり,さ
P:シスプラチン,Vd:ビンデシン,M:マイトマイシン,E:エトポシド,N:ビ
ノレルビン,Vi:ビンブラスチン,RT:放射線治療,Hfx-RT:多分割放射線照射
代レジメンの併用療法が第2世代レ
ジメンの併用療法より優れている
ことが確認されたため,第3世代レ
ジメンと放射線療法の併用が試み
まざまな方法が試みられている
(図
1)
。大きく分けて,①投与量を減
量した化学療法と放射線同時併用
療法後,full doseの化学療法を行う
2)
Clinical Oncology Group
(JCOG) ,
法放射線同時照射群
(CON-QD)
と
方法
(concurrent/consolidationもしく
RTOGおよびGLOT-GFPC study NPC
化学療法同時多分割放射線照射群
はimmediate hybrid)
,②full doseの化
95-01の3つの比較試験があげられ
(CON-BID)
との3群比較試験を行っ
学療法後に投与量を減量した化学
1)
る
(表2)
。JCOGの試験ではシスプ
た。ただし,SEQ群とCON-QD群
療法と放射線同時併用療法を行う
ラチン・ビンデシン・マイトマイ
ではシスプラチンとビンブラスチ
方法
(induction/concurrentもしくは
シンの3剤併用化学療法に放射線を
ンの併用療法が用いられたのに対
delayed hybrid)
,がある7)。有名な
同時併用する群
(合計56Gy,split)
し,CON-BID群ではシスプラチン
試験としてThe American College of
と化学療法後に放射線照射をする
と経口エトポシドの併用療法が用
Radiology
(ACR)
が行ったrandomized
群
(56Gy)
で比較検討された。結果
いられた。結果は,CON-QD群が
phase Ⅱ studyのLocally Advanced
は,同時照射と異時照射でそれぞ
SEQ群と比較し有意にMSTを延長
Multimodality Protocol
(LAMP)
study
れMSTが16.6カ月と13.3カ月,5年
した。しかし,CON-BID群はSEQ
がある3)。この試験はカルボプラチ
生存率が15.8%と8.9%で有意差を
と比べ有意な結果は得られなかっ
ン+パクリタキセルの化学療法と
もって同時照射群が優れていた。
た。GLOT-GFPCの試験では,異時
放射線照射の異時併用法,concur-
一方,RTOG 9410の試験では,化
併用群と同時併用群でシスプラチ
rent/consolidation法,induction/con-
学療法後に放射線を行う異時併用
ン+ビノレルビン,シスプラチン
current法の3群に分けて行われてい
群
(SEQ)
をcontrol armとし,化学療
+エトポシドとレジメンが異なっ
る。MSTはconcurrent/consolidation法
197
特集■コンセンサス 肺癌の治療 2005 ∼ 2007
1 放射線単独療法
放射線治療
2 化学療法/放射線療法 異時併用療法
化学療法(full dose)
放射線治療
3a 化学療法/放射線療法 同時併用療法
放射線治療
化学療法(full dose)
3b 化学療法/放射線療法 同時併用療法(concurrent/consolidationもしくはimmediate hybrid)
放射線治療
化学療法(reduced dose)
化学療法(full dose)
3c 化学療法/放射線療法 同時併用療法(induciton/concurrentもしくはdelayed hybrid)
化学療法(full dose)
化学療法(reduced dose)
放射線治療
図 1 放射線療法と化学療法の組み合わせ
198
が16カ月でinduction/concurrent法と
放射線単独と放射線療法+低用量
線との併用療法は第2世代レジメン
異時併用法が12.5カ月と11カ月で
カルボプラチンのphase Ⅲ studyを報
を用いた場合と比べ良好であると
あった。チェコでは,シスプラチ
告したが,MSTは11カ月と14カ月
はいい難く,さらなる検討が必要
ン+ビノレルビンを用いた異時併
であり有意差はなく,治療関連死
である。
用法とinduction/concurrent法の
も多く,明確な結論は得られてい
randmized phase Ⅲ studyが行われ,
ない。
MSTがそれぞれ12.9カ月と16.6カ月
近年,注目されている試験とし
で有意にinduction/concurrent法が
て,SWOG 9504
(phase Ⅱ study)
が
4)
おわりに
2005年のASCOで,SWOG 9504
勝っていた。また,ドイツのHuber
ある 。この試験は,シスプラチ
のconsolidationとしてのドセタキセ
らが報告したphase Ⅲ studyで,カル
ン+エトポシドの化学療法に同時
ル3コース終了後にゲフィチニブも
ボプラチンとパクリタキセルの併
放射線照射を行い,その後consoli-
しくはプラセボを用いた比較試験
用化学療法と放射線照射の異時併
dationとしてドセタキセルを3コー
であるSWOG 0023の結果が報告さ
用法とinduction/concurrent法を比較
ス行うconcurrent/consolidation法で
れたが,残念ながらⅢ期における
する試験では,有意差はないもの
あるが,concurrent法の治療には減
ゲフィチニブの有効性は証明され
のMSTがそれぞれ14.6カ月と19.2カ
量した第3世代のレジメンではな
なかった。しかし今後も,分子標
月でinduction/concurrent法が長い傾
く,full doseの第2世代レジメンを
的薬のⅢ期非小細胞肺癌に対する
向にあった。また,CALGB 39801
用いている。結果は,MSTが26カ
有効性の検討は必要であると考え
ではカルボプラチン+パクリタキ
月,5年生存率29%と今までの報告
る。
セルの化学療法と放射線照射のin-
の中で最良であり,同じSWOGが
現在のⅢ期非小細胞肺癌の治療
duction/concurrent法とconcurrent法を
行ったSWOG 9019
(SWOG 9504の
におけるコンセンサスとして,化
比較しM S T はそれぞれ1 4 カ月と
consolidation部分がシスプラチン+
学療法と同時放射線照射
(concurrent
11.4カ月であったが,他の報告と比
エトポシド)
のMST 15カ月と比較
法)
が標準的治療法と考えられてい
較しMSTが不良であり,結論は得
しても良好な成績であった。今後
るが,現在,化学療法と放射線療
られていない。2005年のASCOでは
の第Ⅲ相試験の結果が待たれる。
法を組み合わせたさまざまな治療
フランスのGervaisらがシスプラチ
以上のように,現状では第3世代
法
(図1 ,2 )
が試みられているの
ン+ビノレルビンの化学療法後に
レジメンを用いた化学療法と放射
で,今後その中から現在より延命
コンセンサス癌治療 VOL.4 NO.4
1 単純分割照射(Conventional fractionation)
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
金
土
日
月
火
水
木
金
日
月
火
水
木
金
火
水
2 多分割照射法(Hyperfractionation)
a 過分割照射法
月
火
水
木
b HART(Hyperfractionated Accelerated Radio Therapy)
月
火
水
木
金
土
c CHART(Continuous Hyperfractionated Accelerated Radio Therapy)
月
火
水
木
金
土
日
月
〔文献 5)より改変〕
図 2 放射線照射の違い
効果の高い治療法が開発されるこ
protocol
(LAMP)
:ACR 427:A
人病と生活習慣病 35:341∼
とを期待するものである。
randomized phase II study of three
8,2005.
chemo-radiation regimens with
●文献
1)Farray D,et al:Multimodality
therapy for stage III non-small-cell
lung cancer.J Clin Oncol 23:
3257∼69,2005.
2)Furuse K,et al:Phase III study
of concurrent versus sequential thoracic radiotherapy in combination
with mitomycin,vindesine,and
cisplatin in unresectable stage Ⅲ
non-small-cell lung cancer.J Clin
Oncol 17:2692∼9,1999.
3)Choy H,et al:Preliminary report
of locally advanced multimodality
paclitaxel,carboplatin,and tho-
●レビュー文献
racic radiation for patients with lo-
6)Johnson DH:Combined modality
cally advanced non small cell lung
treatment for locally advanced,
cancer.Proc Am Soc Clin Oncol
unresectable non-small cell lung
21:291,2002
(abstr 1160)
.
cancer.In:Lung Cancer Principles
4)Gandara DR,et al:Consolida-
and Practice.ed by Pass HI,et al,
tion docetaxel after concurrent
2nd edition,Lippincott Williams &
chemoradiotherapy in stage ⅢB
Wilkins,Philadelphia,2000,
non-small cell lung cancer:A
p910∼20.
Southwest Oncology Group study
7)山本信之:非小細胞肺癌.臨
S9504.J Clin Oncol 21:2004
床腫瘍学,日本臨床腫瘍学会
∼10,2003.
編,第3版,癌と化学療法社,
5)早川和重:肺癌に対して放射
東京,2004,p548∼60.
線療法をいかに用いるか.成
199