乳がん検診を受けましょう! 市民公開講座

市民公開講座
乳がん検診を受けましょう!
(乳がんになったらどうなるの?)
平成19年10月25日
神戸医療センター
外科 河野誠之
乳がん検診をなぜ勧めるの?
乳がん検診の普及啓発について
厚生労働省 老健局
がん検診に関する検討会:中間報告より抜粋
(平成16年3月)
• 我が国の乳がんは女性の一生を通じて見た場合に、概して
30人に1人以上が罹患する疾患となっている。乳がん検診を
受けない理由として、自分には関係ないと思っている女性が
多いといわれており、今後、検診や治療について普及啓発や
教育を充実すべきである。特に40歳代からの罹患率が高い
ことから、早期発見するために2年に1度マンモグラフィによ
る検診を受けることを強調しなければならない。
• 自己検診については、日常の健康管理の一環として実施し、
それによりしこりが触れるなどの自覚症状を認めるときは、
検診の機会を待つことなく、速やかに乳房疾患の治療を専
門とする診療科(乳腺外科等)を受診することが重要であり、
このための普及啓発をより一層図っていくべきである・・・。
がんの部位別死亡率の推移(人口10万人対)
男 性
300
女 性
300
全部位
全部位
胃
100
100
胃
肺
肝
食道
10
子宮
大腸
大腸
肝
10
乳房
肺
膵
膵
白血病
白血病
前立腺
卵巣
胆嚢・胆管
1
1
0.3
1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 '95 '00 '04(年)
0.3
胆嚢・胆管
食道
1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 '95 '00 '04(年)
標準人口は1985年の日本のモデル人口
厚生労働省大臣官房統計情報部編「平成16年人口動態統計」
がんの部位別罹患率の推移(人口10万人対)
男 性
女 性
400
400
全部位
全部位
胃
100
100
胃
肺
結腸
直腸
肝
前立腺
10
乳房
結腸
子宮
直腸
肺
食道
膵
10
肝
卵巣
白血病
膵
白血病
食道
1
0.3
1
1975'80 '85 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99(年)
0.3
1975'80 '85 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99(年)
標準人口は1985年の日本のモデル人口
国立がんセンター「がんの統計」編集委員会, 「がんの統計'05」
主要国における乳がん死亡率の推移
30
U.K.
デンマーク
オランダ
ベルギー
ニュージーランド
25
スイス
カナダ
オーストラリア
20
ノルウェー
15
フランス
フィンランド
イタリア
10
U.S.
スウェーデン
スペイン
シンガポール
香港
日本
5
0
'53-57 '58-62 '63-67 '68-72 '73-77 '78-82 '83-87 '88-92 '93-97
(年)
大島明ほか編「がん・統計白書−罹患/死亡/予後−2004」(篠原出版新社),303, 2004
主要国で乳がん死亡率が減少している理由*
• マンモグラフィ検診の普及
• 乳がん治療の進歩
(ホルモン療法・化学療法・放射線療法など)
*UK and USA breast cancer deaths down 25% in year 2000 at ages 20-69 years.
Lancet. 2000 May 20;355(9217):1822
*US preventive Services Task Force. Screening for breast cancer:
recommendations and rationale.
Annals of Internal Medicine 137:344-346, 2002
乳がん検診を勧める理由①
(集団という側面から)
• 乳がんになる人が多い。
女性のがん罹患の第1位。
年間約3.5万人が発症し、約1万人が死亡。
一生涯の間に概ね女性の30人に1人が罹患。
• 日本では乳がんで亡くなる人が増加している。
• 欧米ではマンモグラフィを用いた乳がん検診で、死
亡率減少効果があると報告されている。
• 日本ではまだまだ乳がん検診の受診率が低い。
乳がんになったらどうなるの?
ここですこし気分をかえて・・・
乳がんの診断
乳がんの治療
乳がんには2種類
非浸潤癌
浸潤癌
乳がんには2種類
• 非浸潤癌(早期のがん)
腫瘤(しこり)を作らないことが多い。
触診ではわからないことが多い。
しばしば石灰化を伴う。
転移しないがん。
• 浸潤癌
腫瘤(しこり)を作ることが多い。
乳がんの大部分を占める。
転移するがん(リンパ節転移、遠隔転移)。
乳がんの診断方法
視触診
マンモグラフィ
乳房超音波(エコー)
↓
細胞診
針生検(組織診)
}
検診
視触診(乳がんの症状)
腫瘤(しこり)
えくぼ様症状
乳頭陥凹
皮膚潰瘍
乳房の変形
乳頭異常分泌
自分でもわかる
視触診(乳がんの症状)
皮膚潰瘍
えくぼ様症状
浸潤癌でみられる症状
視触診(乳がんの症状)
乳頭異常分泌(血性)
非浸潤癌でみられる症状
視触診(乳がんの症状)
しこり(腫瘤)
えくぼ様症状
乳頭陥凹
皮膚潰瘍
乳房の変形
乳頭異常分泌
→
小さいもの、
非浸潤癌、
はわからないことがある
乳がんの診断方法
視触診
マンモグラフィ
乳房超音波(エコー)
↓
細胞診
針生検(組織診)
マンモグラフィ
CC
MLO
癌研究会病院 霞 富士雄 監修 患者インフォームドコンセント資料より
正常乳腺マンモグラフィ
正常な乳腺の写真
MLO
マンモグラフィで見るもの
腫瘤
石灰化
左右対称性
皮膚の変形
構築の乱れなど
乳がんの典型(腫瘤)
高濃度な腫瘤
スピキュラを伴う腫瘤
乳がん腫瘤の分類
乳がんの典型(石灰化)
領域性の石灰化
線状の石灰化
乳がん石灰化の分類
マンモグラフィの特徴
• 腫瘤(しこり)がわかる。
(約15mmで小さく触れないものも含む)
• 触診ではわからない非浸潤癌がわかる。
(石灰化、濃度の変化、構築の乱れ等)
• 良性のものも精査目的で異常とされる。
乳がんの診断方法
視触診
マンモグラフィ
乳房超音波(エコー)
↓
細胞診
針生検(組織診)
乳房超音波(エコー)
乳房腫瘤
腫瘤(しこり)
腫瘤と拡張乳管
乳房腫瘤
小さい腫瘤(約5mm)
非浸潤癌(難しい)
乳房超音波(エコー)の特徴
•
•
•
•
5mm程度の小さな腫瘤がわかる。
非浸潤癌ではわからないものがある。
痛くない。
現在のところ検診(市町村)では行われてい
ない(検診で異常を認めた時に行う)。
乳がんの診断方法
視触診
マンモグラフィ
乳房超音波(エコー)
↓
細胞診
針生検(組織診)
細胞診
• 超音波を用いながら、注射器で腫瘤を穿刺
して細胞を採取する。
• 麻酔無しで細い針を使用。
癌研究会病院 霞 富士雄 監修 患者インフォームドコンセント資料より
乳がんの診断方法
視触診
マンモグラフィ
乳房超音波(エコー)
↓
細胞診
針生検(組織診)
針生検(組織診)
乳がんの確定診断となるが、
診断がつかないときは摘出生検
針生検(組織診)
病理診断(がん)
マンモトーム生検
(吸引補助下針生検)
施行できる施設が限られている
乳がん診断のまとめ
• 触診でみつかるものがある(自分でもできる)。
• マンモグラフィは触らないがんを発見できる。
(早期のがんをみつけることができる)
• 異常があれば乳房超音波(エコー)で精密検査。
• 最終的に乳がんと診断するためには細胞診や
針生検(もしくは摘出生検)が必要。
乳がんになったらどうなるの?
乳がんの診断
乳がんの治療
乳がんの治療方法
手術
ホルモン療法
化学療法(抗癌剤)
分子標的治療
放射線療法
その前に・・・
乳がんの治療ではエビデンスに
基づいた治療が行われる!
エビデンス=科学的根拠
個人の経験や権威などによらず、
無作為的な大規模比較試験等で
得られた結果を根拠として治療が
選択される。
イベントが認められた患者の割合 (%)
比較試験の例
20
p-value
A
T
HR
HR+
424
497
0.83
(0.73–0.94) 0.005
ITT
575
651
0.87
(0.78-0.97)
25
95% CI
0.01
15
アリミデックス群(A)
タモキシフェン群 (T)
10
5
Absolute difference:
1.6%
0
0
At risk:
A 2618
T 2598
1
2
2.6%
3
2.5%
3.3%
4
5
6
2268
2189
2014
1932
830
774
追 跡 期 間 (年)
2540
2516
2448
2398
2355
2304
イベント:局所再発,遠隔再発,新病巣(対側乳癌)の発生、又は死亡。
乳がんの治療方法
手術
ホルモン療法
化学療法(抗癌剤)
分子標的治療
放射線療法
乳がん手術の種類
定型乳房切除術
乳房と大胸筋・小胸筋も切除する。
乳房切除術
乳房を全部切除する。
乳房温存術
乳房の一部を切除する。
定型乳房切除術
かつては標準治療であったが
現在ではほとんど行われない
乳房切除術
乳房温存ができないとき
乳房温存術
腫瘍が小さいときに可能
変形するが乳房が残る
術後放射線治療が必要
縮小手術への変化
80
70
乳房温存
60
50
乳房切除
40
30
20
10
拡大
年
06
20
04
20
02
20
00
20
98
96
94
92
90
88
86
0
84
%
定型
腋窩リンパ節郭清とリンパ浮腫
わきのリンパ節を郭清(リンパ節を
全てとる)するとしばしば起こる。
センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節とは乳がん細胞
が最初に流れつくリンパ節のこと
リンパ節を2、3個とる
浸潤癌
リンパ節転移
センチネルリンパ節生検
• センチネルリンパ節にがんの転移が無ければ腋窩
郭清が不要で、術後のリンパ浮腫や機能障害等が
ほとんど起こらない。
• 現在普及しつつある手技(方法や手技などの課題
あり)。
• センチネルリンパ節に転移がある場合は腋窩リン
パ節郭清が必要。
• 乳房の腫瘍が大きくなると腋窩リンパ節転移の割
合が高くなる。
乳がんの治療方法
手術
ホルモン療法
化学療法(抗癌剤)
分子標的治療
放射線療法
ホルモン療法のしくみ
性腺刺激ホルモン枯渇
(ゾラデックス・リュウプリン)
視床下部下垂体系
視床下部下垂体系
性腺刺激ホルモン
乳がんはホルモン刺激で増殖
抗エストロゲン
(ノルバデックス)
抗エストロゲン剤
(ノルバデックス・フェアストン)
副腎
エストロゲン
アンドロゲン
卵巣
閉経前
アロマターゼ阻害剤
(アリミデックス・アロマシ
ン・フェマーラ)
腫瘍・皮下脂肪内
アロマターゼ活性
閉経後
乳がんのホルモン療法
• 乳がんの多くはホルモン感受性のがん。
• ホルモンの刺激により増殖するため、ホルモンの刺激
を抑えたり、ホルモンの産生を減らすことで治療効果
がえられることがある。
• 補助ホルモン療法では5年間内服することが多い。
• 化学療法にくらべて副作用が少ない。
乳がんの治療方法
手術
ホルモン療法
化学療法(抗癌剤)
分子標的治療
放射線療法
乳がんの化学療法
薬で直接腫瘍をやっつける
抗癌剤の種類
アンスラサイクリン(アドリアマイシン、エピルビシン)
タキサン(タキソール、タキソテール)
フッ化ピリミジン(5-FU、フルツロン、TS-1)
エンドキサン
メソトレキセート
その他
抗癌剤の副作用
ショック
白血球減少
重症感染症
嘔気、嘔吐、下痢
しびれ
脱毛
その他
比較的強い副作用
乳がんの化学療法
• 乳がんでは抗癌剤による治療が有効。
• 原則的には外来通院で行われる。
• 大きい腫瘍の場合は手術の後(もしくは前)
に化学療法が必要となる。
• 補助化学療法としては約半年間行う。
• 比較的副作用が強い。
乳がんの分子標的治療
• 腫瘍細胞の膜に存在するレセプターをター
ゲットとして腫瘍をやっつける。
• 現在ではハーセプチンが用いられている。
• 約3割の乳がんで使用できる。
• 副作用が少ない(心不全など)。
• 高価である。
乳がんの放射線療法
• 乳房温存術を行う場合には必要となる。
• 術後補助療法としては乳房接線照射。そ
の場合は約5週間(基本的には通院で)。
• 再発の治療では主に症状緩和目的。
• 皮膚炎やまれに肺炎などの合併症がある。
薬剤による補助療法について
低リスク
中間リスク
腋窩リンパ節転移陰性で、以下の項目を全て満たすもの:
z病理学的腫瘍径(pT) ≦2cm
zグレード 1
z腫瘍周囲の脈管浸潤がない
zHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅がない
z年齢≧35歳
腋窩リンパ節転移陰性で、以下の項目が1つでも該当するもの:
z病理学的腫瘍径(pT) >2cm
zグレード 2∼3
z腫瘍周囲の脈管浸潤を伴う
zHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅を伴う
z年齢<35歳
腋窩リンパ節転移1∼3個で、
zHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅がない
高リスク
腋窩リンパ節転移1∼3個で、
zHER2/neuの過剰発現・遺伝子増幅を伴う
腋窩リンパ節転移4個以上
Goldhirsch, A., et al.:Ann. Oncol., 16(10), 1569, 2005
薬剤による補助療法について
リスク
カテゴリー
内分泌反応性
内分泌反応性
不確実(uncertain)
内分泌非反応性
低リスク
内分泌療法
or 治療なし
内分泌療法
or 治療なし
該当なし
(controversial)
内分泌療法単独
or
化学療法 → 内分泌
中間リスク
療法
(化学療法 + 内分
泌療法)
トラスツズマブ注)※
化学療法 → 内分泌
療法
(化学療法 + 内分
高リスク
泌療法)
トラスツズマブ注)※
化学療法 → 内分泌
療法
化学療法
(化学療法 + 内分 トラスツズマブ注)
※
泌療法)
トラスツズマブ注)※
化学療法 → 内分泌
療法
化学療法
(化学療法 + 内分 トラスツズマブ注)
※
泌療法)
トラスツズマブ注)※
St Gallen 2006年改訂版
薬剤による補助療法について
• 手術後(もしくは前)に再発を予防するために行わ
れ、乳がんの再発率・死亡率を減少させる。
• 低リスク(早期のがん)であればホルモン療法のみ選
択されうるが、ハイリスクとなると化学療法(抗癌
剤)が必要となる。
• 今後は分子標的治療薬のハーセプチンなど新しい
薬剤が加えられると考えられる。
乳がんの再発について
• 乳がん全体では約3割の人が再発する。
• 乳がんは肺・骨・肝臓に転移しやすい。
• 再発した場合は基本的に治癒しないため、
多くの場合は数年以内に死亡する。
(再発率を減らすことが重要)
• 生命予後を延長したり、症状を軽減するた
めにホルモン治療・化学療法・放射線療法が
行われる。
乳がん治療のまとめ
• 乳がんの手術は縮小の方向にあり、最近では
乳房温存術が多い。
• 乳がんの多くはホルモン感受性で、ホルモン
剤が有効である。
• 乳がんでは抗癌剤による化学療法が有効で
ある。
• 術後の補助療法は腫瘍の進行度に応じてホ
ルモン剤および抗癌剤等が選択される。
• 乳房温存術後には放射線療法が追加される。
では、ここでもう一度・・・
乳がん検診の普及啓発について
厚生労働省 老健局
がん検診に関する検討会:中間報告より抜粋
(平成16年3月)
• 我が国の乳がんは女性の一生を通じて見た場合に、概して
30人に1人以上が罹患する疾患となっている。乳がん検診を
受けない理由として、自分には関係ないと思っている女性が
多いといわれており、今後、検診や治療について普及啓発や
教育を充実すべきである。特に40歳代からの罹患率が高い
ことから、早期発見するために2年に1度マンモグラフィによ
る検診を受けることを強調しなければならない。
• 自己検診については、日常の健康管理の一環として実施し、
それによりしこりが触れるなどの自覚症状を認めるときは、
検診の機会を待つことなく、速やかに乳房疾患の治療を専
門とする診療科(乳腺外科等)を受診することが重要であり、
このための普及啓発をより一層図っていくべきである・・・。
乳がん検診を勧める理由①
(集団という側面から)
• 乳がんになる人が多い。
女性のがん罹患の第1位。
年間約3.5万人が発症し、約1万人が死亡。
一生涯の間に概ね女性の30人に1人が罹患。
• 日本では乳がんで亡くなる人が増加している。
• 欧米ではマンモグラフィを用いた乳がん検診で、死
亡率減少効果があると報告されている。
• 日本ではまだまだ乳がん検診の受診率が低い。
乳がん検診を勧める理由②
(個人という側面から)
• 自分では分からない、症状のない早期のがん
を見つけることができる。
• 早期で発見できると、乳房温存術が可能と
なったり、再発せずにすむ割合が高くなる。
• 治療を行う場合には、副作用の少ない治療
ですむ割合が高くなる。
乳がん検診を受ける方がいいかも?
乳がん検診を受けましょう!
マンモグラフィ検診
40歳以上のすべての女性
40歳以上50歳未満は2方向
2年に1回(間は月1回の自己検診)
視診および触診も併せて実施