第48回日本理学療法学術大会(名古屋) O-A基礎-106 上り傾斜トレッドミル歩行が下肢筋活動に与える影響 宮本 沙季 1), 小宅 一彰 1), 藤本 修平 1), 山口 智史 2,3), 田辺 茂雄 4), 近藤 国嗣 1), 大高 洋平 1,5) 東京湾岸リハビリテーション病院 , 2)慶應義塾大学大学院医学研究科 , 3)日本学術振興会 , 藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科 , 5)慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 1) 4) key words 歩行分析・筋電図・歩行速度 【はじめに、目的】トレッドミルを用いた歩行トレーニングでは,限られた空間での連続した歩行が可能であり,下肢への 運動負荷を効率良く与えられる.臨床では,トレッドミル歩行の設定は安全を考慮し,至適速度で実施することが多い.し かしながら,トレッドミル歩行の至適速度は平地歩行に比べ低下し,下肢筋活動量は減少すると報告されている.一方,上 り傾斜でのトレッドミル歩行は,傾斜の増加に伴い,下肢筋活動量を高めることができる.しかし至適速度によるトレッ ドミル歩行に上り傾斜を付加した場合に,平地での至適歩行と比較し,どの程度の傾斜で同等もしくは高い筋活動量を得 られるかは検証されていない.本研究では,至適速度でのトレッドミル歩行において傾斜を付加し,平地歩行との下肢筋 活動量を比較した.また,その歩行の違いを,加速度計を用いた重心運動の解析から検討した. 【方法】 対象は健常男性 13 名, 年齢 25.0 ± 2.7 歳 (平均値±標準偏差),身長 1.73 ± 0.04m,体重 63.9 ± 8.1kgであった.課題は, 至適速度での平地およびトレッドミル歩行とした.トレッドミル歩行では,3 条件の傾斜(傾斜 0%,傾斜 5%,傾斜 10%) を設定した.至適速度の決定は,平地歩行においては,10m 歩行を本人の任意の速度で反復し,中間 5m の範囲での至適速 度を算出した.トレッドミル歩行では,傾斜 0%で 60m/min を基準に速度変化させ,対象者が至適と判断する速度を選択 した.課題は,まず平地歩行を実施し,その後トレッドミル歩行 3 条件をランダムに実施した(合計 4 条件).下肢筋活動の 測定は,表面筋電図計(DELSYS 社)を用い,右下肢から記録した.記録筋は,前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SOL),大腿直筋 (RF) , 内側ハムストリングス(MH) , 中殿筋(GM)の 5 筋とした.歩行周期は,右側の前足部と踵部に貼付したフットスイッ チで特定した.データは,サンプリング周波数 1kHz で同時に記録した.得られた筋電図は,全波整流後 30 歩行周期分を加 算平均した.さらに立脚相の Root Mean Square 値を算出し,筋活動量の指標とした.筋活動量は,平地歩行に対する,傾 斜付加によるトレッドミル歩行の筋活動量の変化を比較するために,平地歩行に対する比率を算出した.重心運動の評価 では,第三腰椎部に固定した加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を用いた.加速度データは,30 歩行周期分を加算平均 し平滑化後,時間で 2 回積分し変位を求めた.その変位から,上下および左右の重心移動幅を算出した.統計解析は,歩行 速度を比較するために,対応のある t 検定を用いた.筋活動量と重心移動幅において,多重比較法(Bonferroni 法)を用いて 平地歩行とトレッドミル歩行の各条件を比較した.有意水準は 5% とした. 【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理審査会で承認後,対象に対して研究内容を十分に説明し,同意を得た. 【結果】至適速度(m/min)は,平地歩行 82.2 ± 9.6,トレッドミル歩行 61.7 ± 5.9 で有意差を認めた.筋活動量は,平地歩行 と比較し,TA と RF では傾斜 0%において有意に減少した.一方,傾斜 0%と比較し,傾斜 10%では TA,RF ともに有意に 増加した.SOL,MH,GM では,平地歩行と比較し,傾斜 0%において有意差は認められなかった. SOL では,傾斜 10% において各歩行条件と比較し,有意に増加した.MH,GM では,平地歩行および傾斜 0% と比較し,傾斜 5%,傾斜 10% に おいてそれぞれ有意に増加した.重心移動の上下幅は,平地歩行と比較し,傾斜 0%で有意に減少した.一方,傾斜 10%では, 傾斜 0% と比較し有意に増加した.左右幅は,平地歩行と比較し,傾斜 5% および 10%で有意に増加した. 【考察】過去の報告と同様に,平地歩行と比べトレッドミル歩行では,至適速度が有意に減少した.この速度減少に伴い, 傾斜 0%のトレッドミル歩行では, TA および RF と重心移動の上下幅が減少したと考えられる.SOL,MH,GM においては, 歩行速度が減少することで,立脚相が延長し,平地歩行と比べても傾斜 0%で活動量が維持されたと推察される.一方で, 傾斜の増加に伴い,すべての筋で活動量の増加を示した.これは傾斜に伴い重心移動の上下左右幅が増加していることか ら,仕事量の増加が影響していると考えられた.上記から,トレッドミル歩行で平地歩行と,同等もしくは高い筋活動量を 得るには傾斜 5%以上を適用することが必要であると考えられた.しかしながら,10%以上の傾斜は,歩容の変化や転倒リ スクなど,臨床上実施可能かどうかの判断を行う必要がある. 【理学療法学研究としての意義】本研究は,臨床において上り傾斜トレッドミル歩行練習の実施を判断する根拠を示してい る点で意義がある.
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