ノルディックウォーキングが変形性股関節症患者の歩容に与える影響

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)10 : 25∼11 : 15 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 運動器!骨・関節 18】
0800
ノルディックウォーキングが変形性股関節症患者の歩容に与える影響
骨盤の動きと股関節周囲筋活動に着目して
本間
大介1),地神
裕史2),佐藤成登志3)
1)
新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科,2)東京工科大学理学療法学科,
新潟医療福祉大学理学療法学科
3)
key words ノルディックウォーキング・骨盤の動き・筋活動
【はじめに,目的】
変形性股関節症
(以下,変股症)
は,骨盤の下制や,体幹の側屈を伴う特徴的な歩容を呈する。それらの歩容に対し,2 本のポー
ルを用いるノルディックウォーキング(以下,NW)の 1 つである,日本式(以下,JS)を行うことにより,歩行時の体幹側屈
を軽減させることが報告されている。ポールを斜め後方に使用する従来のヨーロッパ式(以下,ES)とは異なり,JS はポール
を垂直に使用する歩行様式であり,より安全に行うことを目的とし提唱されたものである。先行研究では,変股症患者に対する
体幹側屈の軽減が報告されているが,脊柱と骨盤は連結していることから,骨盤の動きに対しても影響を与えることが考えられ
る。また,運動学的な変化は筋活動にも影響を与えることが考えられるが,それらは明らかではない。そこで,本研究は変股症
患者を対象とし,NW が骨盤の動きと股関節周囲筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,変股症患者 10 名(53.3±10.4 歳)とした。使用機器は筋電図計測装置一式,荷重量測定器内蔵ポール,三軸角加速度計
とした。課題動作は通常歩行
(以下,OW)
,JS,ES とし,2 回ずつランダムに実施した。課題動作は,測定前に全日本ノルディッ
クウォーク連盟が推奨している方法に準じ,指導を行った。また,荷重量測定器内臓ポールを用いてポールに加わる荷重量
(自
重の 10%)と,ポール長(身長×0.64!
0.67)を規定した。筋電図計測装置と三軸ジャイロセンサーは,サンプリング周波数を 1
KHz とし,同時に計測を開始した。解析区間は,z 軸の加速度波形から,立脚期と遊脚期を同定した。骨盤の動きは立脚期とし,
筋活動は立脚期,遊脚期をそれぞれ解析区間とした。骨盤の動きの指標として,前後傾角度,回旋角度,傾斜角度を算出した。
また,筋活動に関して,腹直筋,腰部脊柱起立筋,大腿直筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋を被験筋とした。骨盤の動きは,
両側の後上腸骨棘を結んだ中点に三軸ジャイロセンサーを貼付し,解析区間内の最大値と最小値の絶対値の和を算出した。筋活
動は帯域通過遮断フィルターを 20!
500Hz とし,全波整流を処した。各解析区間の筋活動量を,各筋の最大随意等尺性収縮で除
し,遊脚期,立脚期の筋活動量として,%IEMG を算出した。OW,JS,ES における骨盤の動きと筋活動に関して,反復測定一
元配置分散分析を行い,事後検定として Tukey!
Kramer 法を用い統計学的に検討した。なお,有意水準は 5% とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当施設の倫理委員会の承認を得た上で,全対象者には,口頭と書面にて本研究の趣旨を説明し,署名にて同意を得た。
【結果】
骨盤の動きに関して,骨盤回旋角度は JS で 14.6±6.8̊,ES で 17.5±6.7̊ となり,JS と比較し ES で有意に大きな値となった。骨盤
の傾斜角度,前後傾角度に関しては有意な差は認められなかった。立脚期の筋活動に関して,大殿筋は OW で 47.0±18.58%,JS
で 33.8±12.8%,ES で 43.4±17.3% となり,OW,ES と比較し JS で有意に活動が減少した。中殿筋は OW で 55.0±25.1%,JS
で 41.3±22.0%,ES で 45.0±17.3% となり,OW と比較し,JS,ES で有意に活動が減少した。大腿筋膜張筋は,OW で 40.5±
28.1%,JS で 31.0±25.7% となり,OW と比較し JS で有意に活動が減少した。遊脚期の筋活動に関して,腹直筋は OW で 15.9±
9.7%,JS で 19.7±9.6%,ES で 19.3±9.2% となり,OW と比較し JS,ES で有意に活動が増加した。脊柱起立筋は OW で,38.1±
20.5%,JS で 32.0±17.8% となり,OW と比較し,JS で有意に活動が減少した。なお,すべての結果において,有意水準は p <
0.05 であった。
【考察】
JS は OW と比較し, 立脚期にすべての股関節外転筋群の活動が減少した。 この結果は, ポールを垂直に使用することにより,
股関節モーメントに変化が生じた為と考えた。また,JS は腹直筋の活動が有意に増加していた。腹直筋の活動は,腹圧を上昇さ
せ,骨盤や脊柱の安定に寄与することから,OW と比較し安定した歩行となったことが考えられた。変股症患者は,股関節外転
筋群の過剰な活動により,疼痛が生じ,逃避性の跛行を行うことが報告されており,跛行の運動学習が歩容の改善を妨げる要因
の一つとなる。また,骨盤前傾位をとることが多く,腰背部痛の訴えも多い。よって,本研究の結果から,JS は股関節外転筋群
や,腰背部筋の過剰な活動を軽減することが考えられ,良い歩容を獲得する手段となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,JS は股関節外転筋群や腰背部筋の過剰な活動を軽減させることが明らかとなり,変股症患者に対し,有効な運動
手段の一つとなる可能性が示唆された。このことから,意義のある研究であると考える。