平成19年度 小学校初任者研修講座「センター研修Ⅰ」 理科分科会 講義資料 小学校「理科」の授業の進め方 平成 19 年 5 月 10 日(木) 岩手県立総合教育センター 科学産業教育室(初等理科) はじめに 憧れていた教壇に立ってから、あっという間に1ヶ月たったことと思います。毎日、新しい 発見があると思います。皆さんにとって、理科の授業はいかがですか?理科の指導に自信はあ りますか? 平成17年度に科学産業教育室では、県内国公立小学校から10%を抽出し「小学校理科の 指導に係る実態調査」を実施しました。その結果、およそ6割の教員が理科に苦手意識を持っ ていることがわかりました。男女別にみると、男子教員の約6割が「概ね得意」としているの に対して、「概ね得意」としている女性教員は約3割でした。 理科を「概ね苦手」としている理由をみると「観察・実験の準備に時間がかかる」 「教材研究 の時間が取れない」「理科の専門的な教育を受けてこなかったから」の順に多くなっています。 皆さんは、どうでしょうか?小学校の子どもたちは理科をどう思っているのでしょうか? 理科をもっと楽しみませんか!!そのためには何をすればよいのでしょうか? まずは、自然に親しみ、理科の世界を楽しむことからはじめませんか! 子どもたちとともに、様々な発見、気づき、ひらめきなどをもつようにしましょう。 ・・・とは言っても「何をどうしたらよいかわからない」というのが本音です。 「理科は中学 校以来。高校で少し勉強した程度の自分が理科を教えるなんて・・・。」「小学校のころ、当時 の先生はどう教えてくれたかしら・・・。」こんな声が聞こえてきそうです。 理科を本格的に勉強していなくても、ひとたび教壇に立てばそんなことは言ってはいられま せん。 “子供たち”の前で、理科を教えることができるように、一緒に“理科の教え方”を学び ましょう。 Key word Ⅰ 「学習指導要領」「小中連携」「見通し」 学習指導要領について (1)小学校理科の目標 「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と 自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り、 科学的な見方や考え方を養う」 (2)中学校理科の目標 「自然に対する関心を高め、目的意識をもって観察、実験などを行い,科学的 に調べる能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め、 科学的な見方や考え方を養う」 -1- Ⅱ 7 学校教育指導指針について 小学校理科 (1) 指 導 の 要 点 児童が、自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行うとともに、問題解決の能力と自然を愛する心情を 育て、自然の事物・現象についての理解を図り、科学的な見方や考え方を養うことができるように、指導の充実を 図る。 (2) 指 導 の 具 体 ア 理科の目標に照らして各学年の目標や内容を明確に把握し、地域の実情や児童の実態に応じた指導計画の工 夫・改善に努める。 (ア) 中 学 校 と の 関 連 及 び 各 学 年 ・ 区 分 の 関 連 を 十 分 考 慮 し た 上 で 基 礎 的 ・ 基 本 的 内 容 を 明 ら か に し 、 地 域 の 実 情 や児童の実態に応じた指導内容を工夫する。 (イ) 見 通 し を も っ た 観 察 、 実 験 や も の づ く り な ど 、 児 童 が 直 接 自 然 に 働 き か け る 活 動 を 重 視 し て 、 児 童 の 意 欲 的 な学習を引き出すことによって、自然の事物・現象についての理解を深められるよう指導計画の改善を 図る。 (ウ) 自 然 を 愛 す る 心 情 を 育 て る た め に 、 生 活 科 等 と の 関 連 を 図 り 、 さ ま ざ ま な 生 き 物 に 触 れ 、 感 じ 、 考 え る 学 習 や自分自身を含む動植物が生きていく自然環境等について考える学習を位置付ける。 イ 児童一人一人に基礎・基本の確実な定着を図り、問題解決の能力と自然を愛する心情を育成するための指導過 程や指導方法の工夫・改善に努める。 (ア) 児 童 一 人 一 人 が 自 然 に 親 し み 、 学 ぶ 喜 び を 体 験 で き る よ う な 、 問 題 解 決 的 な 学 習 活 動 を 展 開 す る 。 (イ) 科 学 的 な 見 方 、 考 え 方 を 育 て る 指 導 過 程 及 び 指 導 方 法 を 工 夫 し 、 観 察 、 実 験 や も の づ く り が 児 童 の 問 題 解 決 的な学習活動に明確に位置付くように配慮する。 (ウ) 地 域 素 材 の 教 材 化 及 び 教 材 の 特 質 に 応 じ た 観 察 、 実 験 を 工 夫 し 、 必 要 に 応 じ て 博 物 館 等 の 施 設 、 コ ン ピ ュ ー タ、視聴覚機器などを有効に活用する。 ウ 指導と評価の一体化を図るとともに、児童一人一人を生かす指導体制や学習形態の工夫・改善に努める。 (ア) 「 自 然 事 象 へ の 関 心・意 欲・態 度 」 「科学的な思考」 「 観 察・実 験 の 技 能・表 現 」 「自然事象についての知 識・ 理 解 」の 観 点 別 評 価 規 準 に 基 づ い た 評 価 結 果 の 蓄 積 に 努 め 、 客 観 性 と 信 頼 性 の あ る 目 標 に 準 拠 し た 評 価 を 行 う とともに、発展的な学習や補充的な学習など個に応じた指導の充実を図る。 (イ) テ ィ ー ム ・ テ ィ ー チ ン グ や 少 人 数 指 導 な ど の 指 導 体 制 や 学 習 形 態 を 工 夫 し 、「 わ か る 授 業 」 の 展 開 と 安 全 な 観察、実験等の実施に留意する。 (ウ) 高 学 年 で は 、児 童 の 興 味 ・ 関 心 に 基 づ い た 学 習 や 地 域 の 実 態 に 即 し た 学 習 等 、学 習 内 容 を 選 択 で き る よ う に し、自己選択能力の育成についても配慮する。 (3) 本年度の 重点 学習定着 度状況調 査の結 果、具 体的な 観察対 象物の知 識を問う 問題、実 験結果 の根拠 を問う 論述式の 問題並び に要因を 関連付 けて調 べる力 、条件に 目を向 けながら 調べる力 及び多 面的に 追究す る力等の 問 題解決の能力 を問う問 題等で、理解 が不十分 であった。授業改善に際 しては 、 「事後指 導の手引」等 を参 考にして、特 に次の点 に留意し て基礎・ 基本を確 実に 身に付けさせ る。 ア 実物を使 うことに より実感 を伴った 観察をさ せる とともに、実験結果 等を自分 の言葉で まとめさせ る。 イ 問題解決 的な学習 を重視し 、第3学 年では比 較す ること、第4 学年では 要因を関 連付ける こと、 第5学年では 条件を制 御するこ と、第6 学年では 多面 的にみること 等を意識 して学習 させる。 -2- Ⅲ 理科教育の憂慮すべき傾向 「与えられた観察、実験をその手順に従って行わせているだけ」 「予想を生かしきれず、結果を教え込むことに終始している」 「今日は○○をやります」 「今日の学習課題は○○です」 ・与えられたことしかできない児童生徒 ・実験レポート(考察)が書けない児童生徒 ・知識を詰め込むだけの児童生徒 問題点 観察・実験が単なる作業的体験活動になっている場合があるのでは? Ⅳ 授業の進め方 1.用意するものは? まず用意するものは、理科の 教科書 です。そして、教師用指導書 。学習指導要領 解説理科編 。そして参考となる“ 書籍 ”があれば OK です。 様々な理科のサイトを参考にしましょう。例えば「理科ねっとわーく、NICER」 2.何をその時間で子どもたちに“わからせたいのか?” 目標を定めましょう! 教科書 を読んで見ましょう。 子供たちに何をわからせればよいかわかりましたか。それが授業の目標となります。教科 書を読んでもピンと来なかった人は 教師用指導書 を読んでみましょう。 また、 指導要領解説 には、その単元で取り扱うべき事項がまとめられていますから、 ぜひ目を通しておくことが大切です。 小学校 A区分 知っていまし たか? 豆 知 識 (生物とその環境) B 区分 (物質とエネルギー) C 区分 (地 球 と 宇 宙 ) -3- 中学校 高等学校・大学 2分野 生物 1分野 物理 1分野 化学 2分野 地学 Key word 「好奇心」「わかる授業」「基礎・基本の定着を図る」 3.授業の構想を立てましょう! 目標が定まったら、次は授業をどのように進めていくかの構想を立てましょう。 (1) 45分の授業の構成 ア 45分の授業は、「導入」「展開」「終末」で構成されています。 イ 理科の指導過程は、「事象提示」「学習課題」「予想」「検証計画」「観察・実験」「結果」 「考察」「まとめ」という流れで構成されています。 ウ ゴール(目標)から逆に構想することが大切です。 ワンポイント アドバイス 逆から構想する利点 順序良く構想を積み重ねる方法もありますが、目的がはっき りしていると、時間の配分も含めて、それを達成するために必 要なことが見えてきます。 (2) 「まとめ」 その時間に子供たちになにをわからせたかったの かが凝縮されたものであり、目標(指導目標)と同 事象提示 学習課題を導き 出すための手立 て じになるように「まとめ」、必ず板書するようにしま しょう。 学習課題 (3) 「学習課題」 観察・実験を行 う“動機”とな る 何 の た め に 観 察 ・実 験 を 行 う の か ? そ の 時 間 の 子 供たちが学習を進めるための動機となります。 観察・実験 「学習のめあて」 「学習課題」 目標 子供たちに理解 させたい事柄 「(指導)目標」 この3つは似ているようで 3 つとも違います。違 まとめ いをきちんと説明できますか? (4) 「事象提示」 その時間に学習する内容に興味・関心を持たせ、「学習課題」を導き出すものです。 (5) 「子供たちが“思考をめぐらす場”の設定」 子供たちが頭をひねって考える“思考をめぐらす場”を 1 時間(45 分)の中に設定す るようにしましょう。 「そうか!」 「わかった」こんな声が聞こえてくるようにしたいもの です。 -4- (6) 1 時間(45 分)の授業の流れ 段階 指導過程 展開の基本 ポイント アドバイス 時間 ・ “児童の 常識”が覆る よう な事象の提示 ・ “知的好 奇心”をくす ぐる ような事象の 提示 ・ “児童の心理 を逆手に 取る ような事象の 提示” 1∼2 事象提示 その時間における学習内容 に 児 童 の 興 味 ・関 心 を ひ き つ ける。 課題設定 ・「 ( 指 導 の )目 標 」「 学 習 課 題」 「めあ て」はみな違 う 児童の疑問など児童の思考 内容。 に沿った課題の設定を行う。 ・「∼し よう」Let’s 型の課 “考察”する ための疑 問(問 題ではなく 、 「∼は、ど う 題)となるも の。 してか」Why 型の学習 課 題。 予想(検証計画) “課題”に 対してどの ような 考えを持つの か。でき るだけ 一人ひとりの考えを尊重す ることが大切 。 観察・実験 ・観察・実験前の説明を いか に短 く し児 童に わ から せ るか が ポイ ント 。 ここ が “予想”を 確かめるた めの観 長く な れば 45 分 では 終 察・実験。理科の 授業の本 体。 わらない。 ・観察・実験を行う時間は 10 分程度が目安。 結果→考察 ・観察・実験の結果を板 書す るこ と を“ 考察 ” と勘 違 観察・実験の“結果”を元に いしている教 師が多い 。 学習課題(問 題)の答 えを児 ・児 童一 人 ひと りが “ 学習 童一人ひとり に考えさ せる。 課題 ” に対 する “ 答え ” を考えること 。 導入 展開 ・過 去の 経 験を 元に 書 かせ るように指導 。 ・検 証可 能 かど うか を アド バイスする場 合もある 。 ・理科の授業 の本質部 分。 3∼5 5∼10 10 ∼ 20 5 5∼10 終末 まとめ 授業の目標が その時間 の“ま とめ”とな っているこ とが重 要。 ・ “考察”した 結果を交 流さ せ、 全 体の もの に して 学 習課 題 に対 する 答 えを 練 り上げる。 ・ “練り上 げの段階”で 明ら かに な った こと を 元に 、 本時の目標を まとめる 。 本来、観察・実験は予想を検証するために行われるべきものです。 しかし、いつの間にか観察・実験が理科の授業の中心となり、予想がお座なりになって しまっている現状があります。そのため、単一の観察・実験を“経験(体験?)”するだ けの理科授業となり、児童が「わかった」と理解の喜びを勝ち取る瞬間を無にしてしま っていることが残念でなりません。 最初から背伸びすることはありません。できることから始めてください。 でも、この流れが理想であることを常に意識して授業を展開しましょう。 -5- 4.観察・実験の進め方 (7) 場所を設定しましょう 教室・理科室・校庭・・・。どこで観察・実験を行うのかは、扱う教材によって違ってき ます。それぞれの教材に適した“場所”を設定してください。 (8) 観察・実験の形態をきめましょう 一人ひとりに観察・実験をやらせるのか、グループで観察・実験を行うかで準備の仕方が変 わってきます。予算や学校の設備にもよります。 ワンポイント グループの編成方法 アドバイス ・理科の授業の特別グループを編成 ・予想を同じにするグループ ・男女別のグループ ※ 目的をしっかりともって編成してください。 (9) 観察・実験に必要なものを確認しましょう 観察・実験に必要なものを準備するのが一苦労ですが、これができていないと理科の授業 は始まりません。 【例】6グループで水溶液の実験を行う場合。 3 3 塩酸を準備: 1グルー プうすめ た塩酸 10∼20cm 6 グループで 120cm ある 実 験 では 、 塩酸 は 、 濃塩 酸 (原 液): 水= 1 :1 1 でう す め るの で、濃塩 3 酸は 10cm 必要となる。 3 同様に、1 グループ に 20cm ずつ配布する と仮定す ると 、この単元全 体では 3 3 塩酸を合 計 80cm 使います。1ビン 500cm ですので 、足りなくなら ない よう に 注意 し ま しょ う。(塩 酸 は コン ビ ニで は 売っ て い ませ ん ので 、注 文 して 届 くまでに時間 がかかり ます 。) 他の教科と大きく違うのは、教師自身が見通しを持って準備しておくことが必要なことで す。 ワンポイント アドバイス 栽培教材 少なくとも2週間前には準備に取り掛かる 観察教材 時には天候に左右される場合も(柔軟な対応が必要) 実験教材 薬品の在庫は十分に確かめておきましょう (10) 観察・実験前の説明は手短に 教師の失敗させたくない思いが、ついつい観察・実験前の説明を長くしてしまいます。十 分に気をつけたいものです。 (11) 安全に配慮した観察・実験を進めてください 理科は、薬品や火気を取り扱うことがあり、事故も多い教科でもあります。 -6- 5.板書の書き方 板書する場合は、黒板を縦に3分割して書くと良いようです。 左側・・「学習課題」「予想」 中央・・「観察・実験に係わること」 右側・・「まとめ」「わかったこと」 板書は、できるだけ簡潔に書きましょう。あとで、児童の思考の過程が見える(わかる)よ うな板書がいいといわれています。 ワンポイント 児童の発言を忘れないようにと、すぐに、児童が言っ たまま書こうとしてはだめ。 キーワードを押さえて、簡潔に書く。 児童の思考を“交通整理”しながら書く。 大切なところは、色チョークで書く。 アドバイス Key word 「ひらめき」「自分の考え」「気づき」「表現する力」 6.ノートの指導 ノートの指導は、学年の発達段階にもよりますが、押さえるべき基本は同じです。 ・見開き2ページを 1 時間分(45 分)の基本とする。 ・ 「学習課題」 「予想」 「実験結果」 「考察」 「まとめ」の理科における指導過程を意識して 板書させる。 ・絵を描かせるときは、カードを用意して描かせ、あとで貼るようにさせる。 ・実験結果等は、表を印刷して書き込ませ、あとで貼るようにさせる。 -7- ノートの板書例 7.評価 授業で指導をしたら、どの程度、子供たちが理解しているかを知ることが必要です。それ が評価です。 評価を行う際には、「評価規準」と「具体の評価基準」が必要になってきます。また、どの 観点について評価しようとしているのかを明確にしておくことが大切です。 ・ ・ ・ しかし 、評価も大切ですが、 まず は 指導することに集中してください。 評価にばかり目が行っても、指導が不十分では子どもたちが授業についてきてくれません。 理科の授業を展開することに多少慣れてきたら、評価のことにも目を向けましょう。 ワンポイント アドバイス Key word 指導したことを「できている」「できていない」で2分 しましょう。「できている」児童はAかBです。 「できていない」児童はCですので、できるように“支 援” (Bになるように手を引いてあげること)するので す。 「ネットワークづくり」「授業参観」「教育課題は何か」 -8-
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