博士論文審査報告書 - 早稲田大学リポジトリ

早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論
文
題
目
Selective crystallization process to recover
desired pseudopolymorph crystals
希望の品質を有する擬多形結晶を選択的に
回収する晶析プロセス
申
請
者
神代
瑞希
Mizuki
Kumashiro
応用化学専攻
2011 年
化学工学研究
2 月
晶析は固液間の異相界面現象を取り扱った化学工学の単位操作であり、希
望 す る 結 晶 群 を 生 産 す る 操 作 で あ る こ と と 同 時 に 、目 的 成 分 を 純 度 高 く 分 離 ・
回収する操作である。従って、製品の品質(粒径、形状、分散性等)は晶析
の操作手法に大きく影響を受ける。多形は、結晶を構成する原子や分子、イ
オンの配列の仕方が異なるために、融点、沸点、溶解性等の物理学的性質が
異なるものである。ある多形が別の異なる多形へ変化する現象は転移と呼ば
れ、多形転移の制御が希望する結晶を安定して生産するために重要となる。
結晶中に溶媒分子が一定の割合で取り込まれる溶媒和物結晶は擬多形と分類
され、溶媒数が変化することで転移が生じる。擬多形は、温度や湿度、乾燥
方法に影響を受け、その転移メカニズムは複雑である。擬多形結晶を選択的
に回収する晶析プロセスを確立するために、転移挙動や溶媒和物の安定性に
関する知見を整理することはきわめて重要と言える。
以上の点を踏まえて、擬多形を有する無機物質および有機物質を対象に、
希望する品質の結晶を選択的に回収する晶析プロセスついて研究している。
無機物質と有機物質の結晶は溶媒との結合力が異なるため、転移メカニズム
や制御手法が異なることが考えられる。したがって各々の結晶が希望する品
質を考慮した上で、適切なプロセスと制御手法を提案した。無機物質につい
て は 冷 却 晶 析 と 融 解 晶 析 を 組 み 合 わ せ る こ と で 希 望 の 結 晶 を 高 度 に 分 離 ・回
収するプロセスを、有機物質については貧溶媒に種結晶を添加することで過
飽和度を生成させることなく転移させるプロセスを晶析工学の観点から提案
しようとしている。
本論文は全七章より構成されており、以下にその審査結果を記述する。
第一章では、緒言として擬多形の定義と特徴、課題について整理・体系化
している。特に本研究の対象となる擬多形の立場を明確にし、関連した研究
報告を調査した上で現状を整理し、導出された課題を踏まえた上で、本論文
の位置づけを明らかにしている。
第 二 章 で は 、 擬 多 形 を 有 す る 無 機 物 質 と し て UO 2(NO3 )2・6H2O を 対 象 と し
た冷却晶析および融解晶析のプロセスについて、既往研究および現状の課題
を 整 理 し て い る 。U O 2 ( N O 3 ) 2 ・ 6 H 2 O は 抽 出 に 特 化 し た 再 処 理 プ ロ セ ス に よ り 回
収 ・ 再 利 用 さ れ て い る が 、課 題 と し て 、操 作 数 が 多 く 、多 量 の 抽 出 剤 を 使 用 す
るためコストが高い問題点があることを明示している。したがって、効率的
な再処理プロセスが希求されており、晶析法による新規再処理プロセスの可
能性を見出すに至った。晶析法の課題として、冷却晶析時に結晶中に含有す
る液体不純物、及び同時に析出する固体不純物の除去プロセスの確立が挙げ
られているが、冷却晶析後に融解工程を組み込むことにより結晶と不純物を
高 度 に 分 離 す る 可 能 性 を 見 出 し た 。U O 2 ( N O 3 ) 2 ・ 6 H 2 O は 、放 射 性 を 有 す る 点 と 、
試験に際して法律上の制約を受ける点から、成立性の判断に十分な試行回数
を満たせない課題があるため模擬物質を用いた分離精製メカニズムの研究が
1
必要であとしている。この結果、不純物の形態により適切な分離精製プロセ
スの選択が必要であることを見出した点は、価値が高い。
第三章では、第二章において不純物の形態により分離精製プロセスを選択
す る 必 要 が 生 じ た こ と か ら 、液 体 不 純 物 と し て S r ( N O 3 ) 2 を 含 有 し た 結 晶 の 冷
却晶析および融解晶析における精製効果について研究を進めた。不純物は実
際の再処理工程に存在する典型的な不純物を選択している。精製対象の母結
晶 は 同 じ 硝 酸 塩 で あ る Ba (NO3) 2 お よ び Al(NO3) 3・9H2O を 選 択 し 、 冷 却 晶 析
による不純物の取り込み、融解晶析による不純物の除去について研究・解析
した。その結果、不純物濃度に関係せず冷却晶析によって得られた結晶の除
染係数がほぼ一定の値を示し、結晶純度は原料溶液の不純物濃度の影響を受
けることが明らかになった。冷却晶析により高純度の結晶を回収するには、
原料の不純物濃度を調整する方法および再結晶法が効果的であることを見出
したことは、意義深い。また冷却パターンの制御により結晶の粒径制御およ
び純度向上について研究している。その結果、冷却パターンの制御により結
晶の高純度化が確かめられ、高い除染係数を得た。また、冷却晶析により結
晶中に含有する液体不純物を除去するために、融解晶析による精製プロセス
を研究した。液体不純物は融解晶析により除去され、結晶純度および除染係
数の値が向上することを見出したことは、新規な効果的操作の提案に貢献し
ている。
第四章では、第二章において不純物の形態により分離精製プロセスを選択
す る 必 要 が 生 じ た こ と か ら 、固 体 不 純 物 と し て B a ( N O 3 ) 2 が 存 在 す る 結 晶 の 冷
却晶析および融解晶析における精製効果について研究している。不純物は実
際 の 再 処 理 工 程 に 存 在 す る 典 型 的 な 物 質 と し て B a ( N O 3 ) 2 を 選 択 し 、不 純 物 挙
動 の 可 視 化 を 目 的 と し て S U S 粉 を 選 択 し た 。精 製 対 象 の 母 結 晶 は 硝 酸 塩 と し
て Sr(NO3)2 お よ び Al(NO3)3・9H2O を 選 択 し 、 冷 却 晶 析 に よ る 不 純 物 の 取 り
込み、融解晶析による不純物の除去について検討した。その結果、冷却晶析
により析出する固体不純物には溶解度の特性があることを明確にした。固体
不純物の溶解度は溶媒の濃度および他成分の溶質の影響を大きく受け、溶解
度が著しく低下する機構を見出した。したがって固体不純物の析出挙動が明
らかになり、冷却晶析で析出する固体不純物を融解晶析により除去するプロ
セスを提案した。その結果、固体不純物が融液の流れに伴って下部へと移動
する性質を明確にした。また母結晶と比較して粒径の小さな固体不純物が攪
拌操作によって分級され、下部へと移動する性質も明確にした。以上の結果
より、固体不純物が融解操作により分離精製され、母結晶の高純度化が期待
で き る こ と を 見 出 し た こ と は 、独 創 的 で 新 規 な 成 果 で あ り 、高 く 評 価 で き る 。
第 五 章 で は 、 擬 多 形 を 有 す る 有 機 物 質 と し て myo- inosit ol を 対 象 と し た 冷
却晶析および貧溶媒添加晶析について、晶析温度による結晶の安定性、貧溶
媒 の 添 加 方 法 に よ る 結 晶 形 状 を 研 究 し て い る 。 対 象 物 質 28°C 付 近 で 安 定 形
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と準安定形が入れ替わるエナンチオトロピック系の溶解度を有することを明
ら か に し た 。 晶 析 温 度 が 28°C よ り 高 温 条 件 で は 、 オ ス ト ワ ル ド の 段 階 則 に
従って、準安定形が安定形に転移する挙動を見出した。低温側では、準安定
形の種結晶を添加しても、安定形への転移が確認されなかった。さらに、貧
溶媒添加法の晶析により擬多形結晶の生成頻度が上昇することが明らかにし、
結晶形状として双晶が一部析出する現象を見出した。この結果、擬多形の結
晶形状を制御するために無水和物を選択的に析出させるプロセスを提案した
ことは工学的価値がある。
第 六 章 で は 、 第 五 章 に て 対 象 と し た my o- inosit ol の 種 結 晶 を 貧 溶 媒 中 に 添
加することで生じる転移現象に着目し、転移速度を解析した。有機溶媒の種
類をパラメータとした転移現象の研究により、親水基を有する溶媒が転移現
象に関係することを明らかにした。親水基を有する単純な溶媒として、炭素
鎖の異なるアルコール溶媒を選定し、転移速度を算出した。その結果、炭素
鎖が長くなるに従い、転移速度が遅くなり、親水性が擬多形転移に影響する
ことを見出した。この結果を受けて、エタノールと水の分率を任意に選定す
ることで、溶媒分率が転移速度に与える影響を評価した。エタノールの分率
が大きいほど転移速度が速く、エタノールの分率が低いほど転移速度が遅い
傾向を見出した。以上の結果より、溶媒を利用して希望の擬多形結晶を析出
させるプロセスに関する知見を得た。過飽和度を生成することなく溶媒に種
結晶を添加するだけで希望する擬多形を選択的に晶析するという新しいプロ
セスを提案したことは、きわめて独創的で意義ある成果と言える。
以上、本論文では、希望の品質を有する擬多形結晶を選択的に回収する晶
析プロセスを研究している。無機物質の擬多形を制御する手法として、冷却
晶析に融解晶析を組み合わせた二段階の操作が効果的であることを明らかに
した。擬多形を有する無機物質に対する融解晶析の適用は新規性があり、特
に固体不純物を分離することにより高純度結晶を回収するプロセスを確立す
るための基礎概念として寄与するものである。有機物質の擬多形を制御する
手法として、貧溶媒中に種結晶を添加する方法が効果的であることを明らか
にした。さらに、過飽和溶液を用いることなく、効果的に転移を進行させる
手法は新規性があり、希望の擬多形結晶を回収するプロセスを確立するため
の基盤的概念になり得る。提出した晶析工学に基づく擬多形結晶の制御手法
は 高 品 位 結 晶 の 工 業 的 生 産 に お い て 新 た な 展 開 を 見 出 す も の で あ る 。よ っ て 、
本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。
2 0 11 年 2 月
審査員(主査)
早稲田大学
工学博士(早稲田大学)平澤
早稲田大学
工学博士(早稲田大学)酒井清孝
Martin― Luther 大 学 Ph.D
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泉
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