Notice on Plankton Seminar #07017 9:30-11:30, 18 Sep. (Tue), 2007 at Room #W-103 ******************************************************************************************** Ueda, H. and A. C. Bucklin (2006) Acartia (Odontacartia) ohtsukai, a new brackish-water calanoid copepod from Ariake Bay, Japan, with a redescription of the closely related A. pacifica from the Seto Inland Sea Hydrobiologia. 560: 77-91 有明湾で発見された汽水性カラヌス目カイアシ類の新種 Acartia (Odontacartia) ohtsukai と 本種に近似する瀬戸内海産 Acartia pacifica の再記載 カラヌス目カイアシ類 Acartia (Odontacartia) pacifica Steuer は太平洋と大西洋に広く分布し、日本で は瀬戸内海の高塩分域 (>30 psu) や有明湾の低塩分域 (< 10 psu) に生息している。同種のカイアシ類が このような広範囲の塩分域で繁殖するとは考え難い。そこで本研究は日本の瀬戸内海や有明湾の六角川河 口域で採集した A. pacifica s. l. 標本の形態的、遺伝的特徴を解析し、これらが同種か否かを検証した。 試料は2002年9月3日と9日に瀬戸内海西部 (33°58´N, 132°39´E) でプランクトンネットの鉛直曳、 2002年8月22日に有明湾の六角川河口 (33°12´N, 130°13´E) でプランクトンネットの表層水平曳で採 集した。表層の水温と塩分は瀬戸内海西部で26 ℃、33 psu、六角川河口域で29 ℃、5 psuであった。外 部形態は顕微鏡観察と附属肢解剖を行った。遺伝子解析はmtCOⅠ遺伝子とmt16S rRNA遺伝子を用い、 マルチプルアライメント、遺伝距離を解析し、A. tsuensis Ito (Bucklin et al., 未公表)をアウトグループ として系統樹を作成した。 その結果、これら Acartia 2 個体群間には種内変異を超える遺伝的、外部形態的差異が存在した。有明 湾の個体群を新たに Acartia (Odontacartia) ohtsukai と命名した(新種)。外部形態から A. ohtsukai は雌 では caudal rami と小触角、雄では後体部と第 5 胸肢が A. pacifica のそれらと異なっていた。また、 A. ohtsukai の外部形態に最も近似するのは A. mertoni であるが、A. mertoni は雄の後体部背面に棘を持 つ点で A. ohtsukai とは異なる。遺伝的にも 2 種類のミトコンドリア遺伝子の DNA 塩基配列で、有明湾 と瀬戸内海で採集した Acartia 個体群は有意に異なり (mtCOⅠ遺伝子で 23‐24%、mt16S rRNA 遺伝子 で 28%の変異)、それぞれ別種であることを示した。 Acartia 属の他の 6 種の種間変異は mtCOⅠDNA 塩基配列で 23-27%、mt16S rRNA 塩基配列で 18 -29%の範囲である。これらは本研究結果と近い値であり、A. ohtsukai が独立した種であることを示し ている。有明湾は東アジア大陸遺存種が生息する特殊な海域である。カイアシ類では東アジア大陸沿岸の 汽水域に分布する Sinocalanus sinensis や Tortanus derjugini Smirnov の出現が既に報告されているが、 本研究で新種とした A. ohtsukai も東アジア大陸沿岸域の遺存種であると考えられる。 石黒 公章
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