H19-JA019 好塩性セレン酸還元菌のキャラクタリゼーション

別紙2
装置利用支援
H19-019
好塩性セレン酸還元菌のキャラクタリゼーション
Characterization of halophilic selenium oxyanion-reducing bacteria
阪口利文a, 土井祐貴a, 門脇由希子a
Toshifumi Sakaguchia, Yuuki Doia, Yukiko Kadowaki
a
a
県立広島大学、環境科学科
Department of Environmental Sciences, Prefectural University of Hiroshima
セレンにはレアエレメントとして戦略物質の希少性があり、元素としての循環利用技術が必要とされて
いる。そのため、新規の処理技術素材として環境に流出したセレンオキサニオンのバイオレメディエー
ションや資源回収に微生物の利用をする動きが盛んである。ある種の微生物は毒性の高いセレン酸
(SeO42-)や亜セレン酸(SeO32-)などを最終電子受容体としてエネルギーを獲得できる。そこで、本研究で
は、高塩濃度の存在下においても、セレンオキサニオンを還元し沈澱できうる微生物の獲得について検
討した。
Selenium is one of metalloid element widely distributing in terrestrial ores and aquatic zones on the earth. It is
found in a variety of chemical forms in soil, sediment, ground water, and biological components. Its soluble
oxyanions as selenate and selenite are lethal toxicants to animals, and cause the serious toxication and carcinoma.
Although metalloid elements such as selenium can be essential to industrial material production as rare earth
element, the effective recovery method of these released or contaminated elements have not been required. Further
research should explore the biological function which can apply to develop the recovery and recycling technology.
In this study, we have isolated and characterized newly isolated selenium-oxyanion-reducing bacteria from
various marine organisms and environments.
背景: ガラスや家電製品の製造にはセレンなど
のレアメタルが多く用いられ、特異的な色彩や電
気・光学的挙動を生み出す材料元素として幅広く
利用されている1,)。また石油や石炭などの化石燃
料にもセレンは含まれており、燃焼に伴って環境
中に排出されている2)。このような工業的利用の
副産物として排出されたセレン化合物、たとえば
そのアニオン性酸化物質であるセレンオキサニ
オンは高い毒性を有し、生体に対し多くの弊害を
もたらす可能性がある。ある種の微生物は嫌気条
件下で、毒性の高いセレン酸(SeO42-)や亜セレン
酸(SeO32-)などを最終電子受容体として、生体活
動のエネルギーを獲得するということが知られ
ている。これらは(亜)セレン酸還元菌と呼ばれ、
セレン化合物をより毒性の低い単体セレン(Se(0))
や亜セレン酸などの酸化度の低いイオン種にま
で還元することができる3)。現在では様々な環境
中の微生物がセレン酸還元能を持つことが知ら
れているが、詳細な研究が実施された微生物種は
限られたものであり、(亜)セレン酸還元菌に関し
ては代謝機構や種系統などの詳しい特性におい
て不明な点が多く、バイオレメディエーションや
材料合成への利用を目的とした菌体内外へのセ
レン粒子の合成過程やその分子メカニズムに関
する知見を得るためにも、培養特性などの把握が
望まれるところである。
目的:本研究では、高塩濃度の存在下においても、
セレンオキサニオンを還元し沈澱できうる微生
物種の獲得について検討する。加えて、セレン酸
イオンなどのセレンオキサニオンイオンをセレ
ンナノ結晶として回収、変換できる可能性につい
て検討し、実試料に適応できるような塩耐性セレ
ンオキサニオン還元性微生物を用いたセレン除
去、さらにセレンナノ結晶材料の合成による再資
源化技術の開発を目的とした。
実験方法: セレン酸などの金属様オキサニオン
を最終電子受容体として、乳酸もしくは酢酸を電
子供与体物質として含み、その他燐酸などの無機
塩などから構成される培地に3%以上(3%、5%、
10%、15%、20%)の塩化ナトリウム濃度を含む
集積培地を作製した。次に、日本各地の海洋環境
などから海洋生物を中心に接種試料を採取した。
また、塩田、炭坑・鉱山跡地、原油湧出地などか
らも泥質、水質を収集し、接種試料とした。微生
物の培養に伴い、菌体内外に生成したナノ結晶粒
子を超音波破砕機もしくは、リゾチーム、プロテ
アーゼ酵素処理によって抽出した。その後、蒸留
水で洗浄、メンブランフィルターなどを用いて粒
径分画された生成微粒子について透過型電子顕
微鏡観察の他、X線元素分析、結晶回折など解析
を行った。
結果及び考察: 日本各地の様々な海洋泥質や海
洋生物などから海洋環境の塩濃度である3%
NaClや高塩環境の塩濃度である5%、10%におい
て生育可能なセレンオキサニオン還元性微生物
株の分離が可能であった。まず、一般的な海洋環
境の塩濃度である3%のNaClを含む培地からは、
セレン酸ナトリウムを単体セレンまで還元でき
るNZ3-1株、亜セレン酸ナトリウムを還元し、単
体セレンを生成できるNZ3-2、NZ3-3株が長崎県
福島の海洋泥質から分離された。この他にも、ホ
タテウロからHU-1,HU-2株などの好塩性菌株が
分離された(Fig. 1 A)。これらはいずれも大きさが
2~3μmのグラム陰性短桿菌であった。この他に
も有明海、日本海、瀬戸内海、太平洋沿岸から採
取された泥質から同様に多くの(合計20数株)グ
ラム陰性短桿菌のセレンオキサニオン還元性微
生物の分離株を獲得できた。全体的な傾向として、
これらの分離株の多くが、セレン酸よりも亜セレ
ン酸に対して強い還元能を有しており、海洋泥質
においては亜セレン酸を単体セレンまで還元で
きる微生物が多く分布していると考えられた。さ
らに、これらの菌体をネガティブ染色法によって
染色し、透過型電子顕微鏡で観察を行った。その
結 果 、 菌 体 に は 電 子 線 を 通 さ な い 約 100nm~
300nmセレンのみで構成される球状微粒子が形
成されており(Fig. 1 B)、(亜)セレン酸の嫌気代
謝によって、ナノサイズのセレン単体結晶粒子の
形成が行われていることが明らかになった。さら
にこれらの微粒子から回折像が得られたことか
ら、結晶体の微粒子であると示唆された 。また、
セレンオキサニオンの減少モル量に相当する単
体セレンの形成が確認され、これらの培養液中か
らの単体セレンの回収は可能であり、遠心分離な
どによって容易にセレンを除去できることが確
認された。
結論: 本研究では、バイオレメディエーション
への利用を踏まえ、酸素族のセレンの微生物回収
を目的として、様々な海洋環境、海洋生物から
NaCl耐性を有し、セレンオキサニオンを還元で
きる微生物株の獲得、ならびにその還元機構を利
用したセレンナノ微粒子の形成の可能性につい
て研究を遂行した。結果的に目的とするいくつか
の分離株が得られた。今後はさらにスクリーニン
グを継続させることで目的株の獲得を目指した
い。また、得られた純化株に対する系統分析が現
在ところの不十分であり、新規の微生物であるこ
とが予想されることから早急に16SrDNAにもと
づく解析を実行したいと考えている。さらに、純
化微生物株、集積培養コンソーシアによるバイオ
レメディエーション、元素資源回収をリアクター
などのモデルシステムを用いて評価、実行する必
要があると考えている。
A
B
Fig. 1. TEM observation of selenite-reducing pure isolate
(strain HU-2) from a mid-gut grand of scallop (Patinopecten
yessoensis). (A: Cell, B: Bacterial Se precipitate)
Bars indicate A:200 nm and B: 200 nm respectively.
論文発表状況・特許状況
[1] 現在準備中
参考文献
1) 加藤 勇、(1995) 五訂 公害防止の技術と
法 規 “3 水 質 関 係 有 害 物 質 処 理 技 術 ”
pp.281~282、公害防止の技術と法規編集委
員会 編、丸善株式会社、東京.
2) H. J. Schroeder (1978) 環境汚染物質の生体
への影響 4 セレン “4. 循環”
pp.44、桜井 治彦,土屋 健三郎 訳、東京
化学同人、東京.
3) J. F. Stolz and R. S. Oremland (1999) Bacterial
respiration of arsenic and selenium 。 FEMS
Microbial Rev. 23, 615-627.
キーワード
・セレンオキサニオン
セレン(Se)を含む酸化物アニオン、一般に毒
性が高く、環境中に放出されるセレンのイオン種
として存在する化学形態である。セレン酸、亜セ
レン酸などが該当する。
・セレン酸還元菌
セレン酸を端末電子受容体として嫌気状態で
還元しながら生育できる微生物の総称。セレンオ
キサニオン還元性微生物とも呼ばれ、セレン酸の
場合は、亜セレン酸や元素体セレンまで還元され
る。また亜セレン酸の場合では、不溶性の元素体
セレンまで還元される。イオン体のセレンオキサ
ニオンを不溶体のセレンまで変換できることか
らセレンの環境浄化や資源回収のための生物素
材として期待されている。