食品分野における非加熱殺菌技術

食品分野における非加熱殺菌技術
著者: 五十部誠一郎、鈴木徹、小林史幸、大嶋孝之、等々力節子、
坂元仁、土戸哲明、植村邦彦、伊東
繁、濱中大介、高橋章、
粟飯原睦美、芥川正武、馬渡一諭、柳生義人、作道章一、
三沢達也、西岡輝美、高井雄一郎
発 行 :㈱ エ ヌ ・ テ ィ ー ・ エ ス / 〒 113-0034
東 京 都 文 京 区 湯 島 2-16-16/
☎ 0 3 -3 8 14- 9 1 51 / B5 判 / 2 0 0 頁 / 価 格 2 4 , 0 0 0 円 ( 税 別 ) / 2 0 1 3 年 1 1 月 8 日
食 中 毒 は 一 年 を 通 し て 発 生 す る 重 大 な 事 件 の 一 つ で あ る 。細 菌 性 食 中 毒 は 春 先
か ら 秋 頃 ま で 続 き 、一 方 、ノ ロ ウ イ ル ス に 代 表 さ れ る ウ イ ル ス 性 の 食 中 毒 は 冬 季
を 中 心 と し て 、一 年 を 通 し て 発 生 の リ ス ク が 絶 え な い の が 現 状 で あ る 。こ の よ う
な 食 中 毒 の 発 生 予 防 に は 、食 品 の 十 分 な 加 熱 処 理 が 有 効 な 手 段 の 一 つ で あ る 。し
か し 、食 品 の 中 に は 品 質 保 持 面 で 熱 に 弱 い も の も 多 い 。本 書 は そ の よ う な 食 品 な
ら び に 食 品 素 材 等 の 殺 菌 に 対 し て 、十 二 分 に 威 力 を 発 揮 す る こ と を 主 眼 に ま と め
られた書籍である。
本 書 の 紹 介 の 中 で 、「 お い し さ と 安 全 保 持 の 両 立 を 目 指 す 非 加 熱 殺 菌 。 マ イ ク
ロバブル、衝撃波、放射線照射、赤外線照射、近紫外線発光ダイオード、ガスプ
ラズマ、高電圧パルス電界・放電、微生物自殺システム、冷凍など新たな手段を
詳 解 。」 と 記 さ れ て い る 。 ま た 、 『 美 味 し さ と 品 質 ・ 安 全 性 保 持 の 両 立 ! 食 品 分
野で悩まされてきたこれらの問題解決に有効な手段として注目を集める“非加
熱 殺 菌 技 術 ” を 詳 解 。本 書 は 本 書 の 出 版 元 が 主 催 し た セ ミ ナ ー で あ る「 食 品 に お
け る 非 加 熱 殺 菌 技 術 研 究 の 最 新 動 向 」 ( 2012 年 12 月 6 日 開 催 ) の 講 演 内 容 に 、
新規の執筆原稿を追加し書籍化したものです。』とも述べられている。従って、
本書は、食品分野における非加熱殺菌技術の最新情報を提供する書籍である。
次に、各講について、順を追って紹介する。
第 1 講 は 、「 非 加 熱 殺 菌 技 術 研 究 の 現 状 と 今 後 の 展 望 」と 題 し て 、日 本 大 学 の
五 十 部 誠 一 郎 先 生 が 、非 加 熱 殺 菌 技 術 は 産 業 界 に お い て 、加 熱 技 術 で 品 質 の 劣 化
する食品や食材の安全性確保のための技術として常に注目されていることを踏
まえ、詳細に非加熱殺菌技術の現状を述べておられる。
第 2 講 は 、「 冷 凍 に よ る 非 加 熱 殺 菌 技 術 へ の 応 用 の 可 能 性 」と 題 し て 、東 京 海
洋大学の鈴木
徹先生が、単に温度をマイナスにするだけでなく、X 線や放射線
の照射あるいは高圧にすることにより菌の死滅率を高めること等を述べておら
れる。
第3講は、「マイクロバブル化した加圧二酸化炭素を用いた非加熱殺菌技術」
と 題 し て 、日 本 獣 医 生 命 科 学 大 学 の 小 林 史 幸 先 生 が 、マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し た 加 圧
二 酸 化 炭 素 の 殺 菌 効 果 の 有 用 性 を 述 べ て お ら れ 、生 酒 の 殺 菌 と 酵 素 失 活 法 と し て
の 本 法 の実 用 化 を進 め て いる こ と も述 べ て おら れ る。な お 、課題 を し て、圧力を
加 え る た め 、青 果 物 の 表 面 殺 菌 時 に お け る 野 菜 や 果 物 に ど の 程 度 の ダ メ ー ジ が あ
るか、どの程度でダメージが回避できるかについて検討中とのことである。
第 4 講 は 、「 高 電 圧 パ ル ス 電 界・ 放 電 を 用 い た 非 加 熱 殺 菌 技 術 」と 題 し て 、群
馬 大 学 の大 嶋 孝 之先 生 が、本 技 術(非 加 熱 パル ス 殺 菌)の 現状を 解 説 する と とも
に 、新しい 食 品 の創 製 へ の応 用 に 向け て 現 在も 研 究 中と の こ とで あ る。な お、高
電界および放電プラズマの生物工学への応用が始まったのはさほど古い話では
な く 、 1990 年 代 半 ば か ら 報 告 が 増 え 始 め 、 現 在 に 至 っ て い る 。
第 5 講 は、「 食 肉へ の 放 射線 照 射 によ る 殺 菌技 術 」と題 し て 、( 独 )農業・食
品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 の 等 々 力 節 子 先 生 が 、放 射 線 殺 菌 の 基 礎 と 食 肉 処 理 へ の
応用について解説されておられる。我が国では、バレイショの発芽防止を除き、
食 品 へ の 放 射 線 照 射 は 食 品 衛 生 法 で 禁 止 さ れ て い る が 、食 品 に お け る 非 加 熱 殺 菌
技術としての優れた潜在力を示唆するものである。
第 6 講 は 、「 微 生 物 の 自 殺 シ ス テ ム を 利 用 し た 新 殺 菌 法 の 開 発 」と 題 し て 、関
西大学の坂元
仁・土 戸哲明 の 両 先生 が 、自殺 誘 発 殺菌 法 の 概念 に 始 まり 、微生
物 の 自 殺 シ ス テ ム と そ れ に 関 連 し た 研 究 動 向 を 紹 介 し 、非 加 熱 法 に よ る 有 害 微 生
物制御への利用の可能性について解説されておられる。
第7講は、「短波帯交流電界を用いた液状食品の殺菌技術」と題して、(独)
農 業 ・食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 の 植 村 邦 彦 先 生 が 、交 流 高 電 界 に よ る 果 汁 飲 料
な ど の 酸 性 飲 料 の 殺 菌 処 理 技 術 、さ ら に は タ ン パ ク 質 を 含 む 中 性 飲 料 の 殺 菌 に 対
する短波帯電界処理について解説されている。
第 8 講 は 、「 衝 撃 波 を 用 い た 粉 体 食 品 の 殺 菌 技 術 」と 題 し て 、沖 縄 工 業 高 等 専
門学校の伊東
繁 先 生 が 、衝 撃 波 に つ い て 解 説 さ れ て い る と と も に 、殺 菌 に 効 果
的な衝撃波処理が、非加熱で効果的な殺菌を可能にすることを述べておられる。
第 9 講 は 、「 赤 外 線 照 射 と の 併 用 に よ る 紫 外 線 殺 菌 技 術 の 向 上 」と 題 し て 、九
州 大 学 大 学 院 の 濱 中 大 介 先 生 が 、赤 外 加 熱 と 紫 外 線 照 射 の 併 用 に よ る 殺 菌 効 果 に
つ い て 、最 近 の 学 術 論 文 な ら び に 筆 者 ら の 研 究 デ ー タ を 解 説 し な が ら 述 べ て お ら
れる。
第 1 0 講 は 、「 近 紫 外 線 発 光 ダ イ オ ー ド を 用 い た 殺 菌 シ ス テ ム 」 と 題 し て 、徳
島大学大学院の高橋
章・粟飯原睦美・芥川正武・馬渡一諭の各先生方が、試作
し た 近 紫 外 線 発 光 ダ イ オ ー ド ( UVA-LED) を 用 い た 水 殺 菌 シ ス テ ム を さ ら に 応 用
し 、 食 品 用 に 向 け て 最 適 化 し た こ と を 解 説 さ れ て い る 。 UVA-LED に よ る 方 法 は 、
従 来 の 紫 外 線 殺 菌 に 代 わ る も の で は な く 、新 た な 殺 菌 方 法 と 考 え ら れ る と 述 べ て
おられる。
第 1 1 講 は 、「 ガ ス プ ラ ズ マ を 用 い た 農 産 物 の 殺 菌 技 術 」 と 題 し て 、佐 世 保 工
業 高 等 専 門 学 校 の 柳 生 義 人 、琉 球 大 学 の 作 道 章 一 、佐 賀 大 学 の 三 沢 達 也 お よ び 大
阪 府 立 環 境 農 林 水 産 総 合 研 究 所 の 西 岡 輝 美・高 井 雄 一 郎 の 各 先 生 方 が 、本 法 は 低
温およびドライ・低温プロセスでの処理が可能であり、生産・収穫から消費に至
る ま で 複 数 回 に わ た り 殺 菌 処 理 が 適 用 で き る だ け で な く 、毒 性 が 残 存 し な い こ と
を 述 べ て お ら れ る 。こ の 点 よ り 、農 産 物 を は じ め プ ラ ズ マ 殺 菌 技 術 の 利 用 用 途 は
幅広いことを述べておられる。
最 後 に 、各 講 で 取 り 上 げ ら れ て い る 項 目 を 以 下 に 記 載 す る 。本 書 は 食 品 関 係 組
織 等 で 、新 た な 殺 菌 法 と し て 取 り 上 げ ら れ る 可 能 性 を 秘 め た 書 籍 で あ り 、か つ 意
義 深 い 書 籍 で あ る こ と を 強 調 し 、本 書 の 紹 介 と す る 。(近 畿 大 学 農 学 部
第1講
非加熱殺菌技術研究の現状と今後の展望
日本大学
はじめに
食品のために求められる特質(品質と安全性)
農産物・食品の加工技術の方向性
食品の高品質化への取組み
高品質化のための非加熱処理の利用可能性
殺菌処理と品質のバランス
高圧処理による殺菌の特徴
高圧技術の食品利用への試み
高圧加工食品の現状
圧力以外の殺菌処理法のトピックス:放射線殺菌処理、他
非加熱処理の実用について
予測微生物、蛍光指紋とは
まとめ
坂上吉一)
五十部誠一郎
第2講
冷凍による非加熱殺菌技術への応用の可能性
東京海洋大学
鈴木
マイクロバブル化した加圧二酸化炭素を用いた非加熱殺菌技術
日
徹
はじめに
一般的な食材の冷凍冷蔵保存と微生物の挙動
細胞・微生物の冷凍によるダメージと耐性
凍結速度と細胞の関係
凍結による微生物・細胞の破壊のプロセス
乳酸菌の凍結とダメージの例
おわりに
第3講
本獣医生命科学大学
小林史幸
はじめに
M B ― CO 2 処 理 装 置 と は
M B ― CO 2 処 理 装 置 を 用 い た 生 酒 の 殺 菌
M B ― CO 2 連 続 処 理 装 置 の 開 発
M B ― CO 2 連 続 処 理 装 置 を 用 い た 生 酒 の 殺 菌
食物以外でのマイクロバブル殺菌技術の応用例
おわりに
第4講
高 電 圧 パ ル ス 電 界・放 電 を 用 い た 非 加 熱 殺 菌 技 術
群馬大学
大嶋孝之
はじめに
高電圧パルスと水系
パルス電圧を水中に印加したときの 2 つの現象
水中放電プラズマの作用と応用
パルス電界による殺菌―パルス殺菌
パルス殺菌槽(電極構造)の改良
放電プラズマと電界作用のまとめ
第5講
研究機構
はじめに
食肉への放射線照射による殺菌技術
等々力節子
(独)農業・食品産業技術総合
放射線照射の工程
殺菌に利用される放射線
放射線照射施設
放射線の単位と吸収線量
放射線照射による殺菌効果
生物の放射線感受性
細菌の放射線感受性と影響因子
放射線照射で生じる食品成分の変化
放射線照射食品の安全性評価と規格基準
照 射 食 品 の 安 全 性 評 価 の 論 点 ( 健 全 性 : Wholesomeness)
放射線照射特異的分解生成物の安全性評価
欧米の規制・基準
食肉の放射線殺菌の実際
おわりに
第6講
微生物の自殺システムを利用した新殺菌法の開発
関西大学
坂元
仁、土戸哲明
微生物細胞における自殺誘発システム
細胞壁ペプチドグリカン分解能の活性化による細胞死
核酸分解能の顕在化による細胞死
細胞膜脂質・オルガネラの分解誘発による細胞死
細胞内活性酸素発生による細胞死
自殺誘発殺菌法の特性と微生物制御分野における応用の可能性
第7講
短波帯交流電界を用いた液状食品の殺菌技術
技術総合研究機構
植村邦彦
はじめに
ジュール加熱の殺菌効果
交流高電界技術
電界効果
芽胞の失活
各種微生物に対する殺菌効果
(独)農業・食品産業
交流高電界処理による品質変化
交流高電界処理による酵素失活
交流高電界技術の実用化
豆乳の短波帯交流電界処理
短波帯交流処理用電極
短波帯周波数が枯草菌芽胞の失活に与える影響
豆乳中の枯草菌芽胞の失活
短波帯処理が豆腐の物性に与える影響
第8講
衝撃波を用いた粉体食品の殺菌技術
沖縄工業高等専門学校
伊東
繁
衝撃波とは
衝撃波
衝撃波による高速破壊現象
衝撃波の非加熱性
衝撃波による殺菌
衝撃波処理方法
殺菌実験例
衝撃波殺菌の有効性
まとめ
第9講
赤外線照射との併用による紫外線殺菌技術の向上
九州大学大学院
濱中大介
はじめに
紫外線と加熱の併用による殺菌効果
紫外線と赤外線の併用による殺菌効果
カビ胞子に対する紫外線・赤外線併用効果
伝導加熱あるいは赤外加熱と紫外線の併用による殺菌効果の違い
第10講
高橋
近紫外線発光ダイオードを用いた殺菌システム
章、粟飯原睦美、芥川正武、馬渡一諭
はじめに
徳島大学大学院
UVA 照 射 に よ る 殺 菌 メ カ ニ ズ ム
病 原 微 生 物 の 種 類 と UVA 照 射 に よ る 殺 菌 ・ 不 活 化
細菌(バクテリア)
ウイルスとバクテリオファージ
原虫(寄生虫)
LED を 用 い た 紫 外 線 殺 菌 装 置 の 設 計 ・ 製 作
第11講
ガスプラズマを用いた農産物の殺菌技術
佐世保工業高等専門学校
柳生義人
琉球大学
作道章一
佐賀大学
三沢達也
大阪府立環境農林水産総合研究所
西岡輝美、高井雄一郎
はじめに
大気圧ガスプラズマを用いた農産物の殺菌
大気圧アルゴンガスプラズマジェットを用いたカット野菜表面の殺菌