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第 40 回 日本泌尿器科学会群馬地方会演題抄録
日 時 平成 17 年 6 月 11 日(土)15 時 00〜 場 所 群馬大学医学部刀城会館 会 長 小林 幹男(伊勢崎市民病院) 事務局 柴田 康博(群馬大院・医・泌尿器病態学)
<臨床症例Ⅰ> 座長 曲 友弘(群馬大院・医・泌尿器病態学) 1.前立腺癌 LH-RH アナログ療法中に SIADH を発症した一例。 森川 泰如、増田 広、 大竹 伸明 関原 哲夫、 (日高病院泌尿器科) 岡本 亘平 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
(キーワード:前立腺癌、LH-RH アナログ、SIADH) 79 歳男性、他院にて前立腺癌 LH-RH アナログ療法中に尿閉にて紹介入院。喘鳴、胸部聴
診にてラ音認め、胸部 CT にて間質性肺炎の診断。また低 Na 血症を認め、精査の結果 SIADH
であった。LHーRH 中止し、除睾術施行後間質性肺炎の改善見られ、呼吸器症状の消失と
ともに SIADH も改善を示した。間質性肺炎を起こすような原因は LH-RH 以外には考え
づらかった。前立腺癌は再燃認めず、SIADH は間質性肺炎が原因と思われた。
2.子宮筋腫による閉尿の 2 例 大木 一成、田村 芳美 (利根中央病院) 49歳、女性。尿閉にて受診。超音波検査にて子宮筋腫と思われる病変を認めた。これよ
り子宮筋腫による尿閉と診断した。MRI では、T2 強調 MRI 矢状断では、子宮体部に径 99
×83 mm の筋腫が存在し、子宮及び膀胱を後方より圧排していた。腫瘍内には不均一に高
信号部分が混在し、筋腫に特徴的な渦巻き状を呈していた。辺縁部は整であった。チェー
ン膀胱尿道造影所見 膀胱は後方より著しく圧排されており、膀胱頚部は前方に偏位して
いた。産婦人科を併診した後、全身麻酔下に腹式単純子宮全摘術・両側付属器摘出術を施
行した。筋腫は子宮左側後壁に認められ、膀胱頚部・後壁を圧迫していた。周囲との癒着
はなく可動性は良好であった。摘出物重量は 709 g であった。術後経過は良好で、その後
排尿困難認めず自然排尿可能となった。外来にて施行した残尿測定では 15 ml と排尿状態
は著明に改善されていた。
3.前立腺癌に合併した陰嚢内脂肪腫 悦永 徹、 黒川 公平、海老原 和典 (国立病院機構高崎病院泌尿器科) 小川 晃 (同 病理)
症例は66歳男性。平成7年頃より右陰嚢内容の無痛性腫大を自覚していたが放置。平成
16 年 12 月 排尿障害と腰痛を主訴に当科初診(PSA268ng/ml )。精査にて前立腺癌 stageD2
と診断された。また同時に右陰嚢内容の腫大も指摘された。前立腺癌についてはホルモン
療法を行い stable disease となった。除痛目的の腸骨への照射後、右陰嚢内容の腫大につき
MRI など評価を行った。画像上右陰嚢内脂肪腫と診断したが脂肪芽腫、脂肪肉腫は完全に
否定できず平成 17 年 4 月右高位精巣摘除術に準じて右陰嚢内腫瘍摘出術を施行した。摘出
物は重量434g。精巣、精索との癒着を認めず、表面平滑で断面は黄色調の充実性腫瘍
であり、病理は脂肪腫であった。
4.サルモネラ腸炎に続発した急性腎不全の 2 例 牧野 武朗、村松 和道、斉藤 佳隆 内田 達也、竹澤 豊、 小林 幹男 (伊勢崎市民病院泌尿器科) 症例は 32 歳男性と 58 歳男性で、2 症例ともサルモネラによる腸炎を認めた後に、腎機能
異常を呈した症例で 58 歳の症例は便だけでなく血液からもサルモネラが検出されていた。 サルモネラは食中毒の原因として非常に多く、胃腸炎症状、下痢症状が主であり、腎機能
障害をきたすことはまれである。しかし、透析が必要になるほど腎機能悪化した症例も多
数報告されており、脱水によるものと軽視することなく、腎機能が悪化する可能性も考え
注意して経過を見ていく必要があると考える。 血液透析が必要になった報告例もあるが、本症例においては輸液により尿量回復したため、
透析施行には至らなかった。しかし、尿量や全身状態をみて場合によっては血液透析を含
めた、適切な初期治療を行うことが重要であると考える。 <臨床症例Ⅱ> 座長 小野 芳啓(古作クリニック玉村) 5.腎細胞癌と腎盂尿路上皮癌の同側同時発生の一例 小屋 智子、大塚 保宏、中野 勝也 中田 誠司、高橋 溥朋 (足利赤十字病院泌尿器科) 清水 和彦 (同病理部) 70 歳男性。無症候性血尿にて初診。初診時尿細胞診は ClassⅢであったが、その後Cla
ssⅤとなった為、膀胱鏡施行した所、左尿管口に有茎性乳頭状腫瘍を認め、TUR-Bt
を施行した。その後腹部 CT 上左腎腫瘍を指摘された。残存尿管への再発も考慮し、腹腔鏡
下補助下左腎尿管全摘術を施行した。術後病理診断にて腎細胞癌と腎盂尿路上皮癌の重複
癌と診断された。病理組織学的には腎細胞癌は RCC Clear cell carcinoma G1-2 INFα pT1a,腎盂腫瘍は UC、G3 pT3 であった。術後脳梗塞となり加療が必要になった事等を考
慮し後療法は施行せず、経過観察をしている。本症例は腎細胞癌と腎盂尿路上皮癌の同側
同時発生例としては本邦 14 例目の報告と考えられた。 6.後腹膜腔鏡下腎摘除術から開腹術に変更となった 2 例 羽鳥 基明、柴田 康博、曲 友弘 野村 昌史、山本 巧、 中里 晴樹 小池 秀和、武智 浩之、大木 一成 富田 光、 関根 芳岳、柏木 文蔵 伊藤 一人、鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学) 小林 幹男 (伊勢崎市民病院泌尿器科) 右尿管癌の2症例に対して、後腹膜鏡下腎摘除術を併用した右腎尿管全摘除術を施行した.
1 例目は腎動脈分枝からの出血が生じたため,2 例目は腎静脈からの出血が生じたため開腹
術に移行した。両症例ともに 2 個の操作ポートで剥離手術を施行していた.このため,術
者の両手操作が損なわれた結果と考えた.今後は,必要と感じたときは速やかに 3 個目の
牽引用ポートを設置して手術を施行すべきと感じている. 7.当院初の前立腺癌小線源療法を施行した一例 村松 和道、牧野 武朗、斉藤 佳隆 内田 達也、竹澤 豊、 小林 幹男 (伊勢崎市民病院泌尿器科) 河村 英将、仲本 宗健 (同 放射線科) 伊藤 一人、鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学) 秋元 哲夫 (同 腫瘍放射線学) 症例は 75 歳の男性。平成 16 年 4 月 21 日 PSA8.49 と上昇を認め、前立腺針生検施行。右
PZ、TZ から高分化型腺癌 Gleason 3+3 が発見された。ステージング行い、T2bN0M0 との
結果を得た。ホルモン療法を施行後平成17年3月29日に小線源療法のプレプランを施
行した。
平成 17 年4月 26 日、全身麻酔下に 125 ヨウ素シード小線源療法施行。ペレット 60 個を挿
入した。4 月 28 日全身状態良好のため退院となった。5 月 30 日ポストプラン目的の CT を
撮影。同日当科外来受診。明らかな合併症を認めなかった。胸腹部のレントゲンでは前立
腺内に 56 個、骨盤内に 3 個、左肺野に 1 個のペレットを認めた。ポストプランでは 60 個
のペレットのうち 4 個が前立腺より脱落したが V100 が91.29%、D90 が 148.76GY と
治療線量としては充分な値が得られた。今回は当院初の小線源療法を施行した一例を報告
した。
8.腹膜透析中止後の難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注療法が効果を示した 一例 新井 誠二、西井 昌弘、岡本 亘平 上井 崇智、曲 友弘、栗田 晋 川口 拓也 (秩父市立病院泌尿器科) 患者は 58 歳男性,既往歴に C 型肝硬変.平成 4 年 6 月糖尿病性慢性腎不全で腹膜透析導 入し,平成 12 年 5 月血液透析に移行し,同年 6 月に CAPD カテーテルを抜去した.同年 9
月頃より腹部膨満あり,画像検査で多量の腹水貯留を認めた.これに対して平成 13 年 9
月〜平成 15 年 5 月で計 6 回腹水濾過濃縮再静注療法(CART)を施行した.腹水量は 2000
〜6000 ml(平均 4117 ml),腹水中 TP は 2.6〜3.2 g/dl(平均 3.0 g/dl)であり,これを
700〜1800 ml(平均 1117 ml),7.0〜8.2 g/dl(平均 7.8 g/dl)に濾過濃縮 後,血液透析時に 300〜400 ml(平均 325 ml)再静注した.最大で 87 cm あった腹囲が 76 cm(平成 17 年 6 月現在)となった.腹水の原因は腹膜生検未検の為不明だが,短 期的には腹水の軽減に CART が効果を認めたと考えられた為,今回報告した. <臨床的研究> 座長 松井 博(群馬県立がんセンター) 9.館林厚生病院で施行した腰椎麻酔下前立腺全摘除術症例についての検討 新田 貴士、奥木 宏延、岡崎 浩 中村 博之 (館林厚生病院泌尿器科) 佐々木 靖 (黒沢病院泌尿器科) 【目的】恥骨後式前立腺全摘除術における腰椎麻酔の有用性を検討する。 【対象と方法】腰椎麻酔下前立腺全摘除術を施行した6例を対象とし、全身麻酔下前立腺
全摘除術を施行した 20 例を比較対象とした。手術時間、出血量、術後経過、合併症等につ
き比較検討した。【結果】腰椎麻酔下で手術時間中央値 156 分、出血量中央値 1050ml、
術後平均飲水開始日 0 日、平均入院期間 15 日。全身麻酔下で手術時間中央値 180 分、出血
量中央値 1238ml、術後平均飲水開始日 1 日、平均入院期間 16.4 日。発熱、嘔気、創の離
開など術後合併症の発生率は腰椎麻酔下で低かった。
【考察】腰椎麻酔下前立腺全摘除術は
全身麻酔下よりも利点が多く、腹腔鏡手術とならぶ低侵襲手術として期待できる。しかし、
合併症の可能性もゼロではなく充分な予防策が必要と考えられる。
10.平成 16 年度群馬県前立腺がん検診の結果と今後の取り組み 河野 真意、武智 浩之、山本 巧 大井 勝、 坂西 理恵、久保田 裕 伊藤 一人、鈴木 和浩 (群馬大学グループ泌尿器腫瘍研究会メンバー) 2004 年度の群馬県前立腺がん検診は、59 市町村で実施され 21092 人が受診し、前立腺がん
は 217 人(1.03%)に発見された。群馬県では年齢階層別 PSA 基準値を設けている。今回は
PSA 値が基準値以上でかつ 4.0ng/ml 以下であった60歳代を検討した。1 次検診異常率は
3%台と高くなく、2 次検診受診率も 70%台で低くなかったが、生検施行率は 20%台と低かっ
た。生検数に対するがん発見率は 20%前後で PSA4.01-5.99ng/ml の割合とほぼ同等であっ
た。年齢階層別 PSA 基準値は若年層の早期がんの発見に寄与したが、生検施行率の低さが
問題と思われた。 11.古作クリニックにおける前立腺生検の検討 河野 真意、松本 和久、小野 芳啓 林 雅道、古作 望 (古作クリニック) 武智 浩之、山本 巧、 伊藤 一人 鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学) 当院では 2000 年度~2004 年度の 5 年間で 529 例前立腺生検を行い、191 例(36.1%)に前立
腺がんが発見された。年齢別 PSA 値別生検陽性率を算出すると、特に PSA 値 4.01-9.99ng/ml
の grey zone において年齢に比例して生検陽性率が高い傾向にあった。年齢別 PSAD 値別生
検陽性率ではそのような傾向はなかった。前立腺がん症例と PSA、PSAD の関係をみると、
PSA、PSAD とも、 %core、Gleason Score に比例して上昇したが、重回帰分析では PSAD
により強い相関があった。 12.透析患者の内シャント狭窄に対する経皮的血管形成術(PTA)の検討 鈴木 光一、松尾 康滋、福間 裕二 野村 昌史、西井 昌弘、富田 光 矢嶋 久徳 (前橋赤十字病院泌尿器科) 【目的】当院における PTA の治療成績を検討した。
【対象】2002 年 6 月より 2005 年 5 月までに行った 18 例 29 回の PTA 症例。
【結果】全例自己血管症例。男女各 9 例。平均年齢 59.9 歳。DM 10 例、非 DM 8 例。各 1
~5 回の PTA を行った。平均狭窄率は 81.0%(DM 83.4%、非 DM 77.1%) PTA 後の平均
残存狭窄率は 14.3%(DM・非 DM 共)。1 次開存率(1 年)は 66.3%(DM 55.3%、非 DM 83.3%)
であった。カッティングバルーンのブレード脱落が 1 例に認められた。
【考察】開存率について DM の方が低い傾向を示したが有意差はなかった。再狭窄を起こ
す問題はあるが、PTA は内シャント狭窄に対する有効な治療法と考えられた。
シンポジウム 「前立腺癌の薬物治療」 座長 小林幹男(伊勢崎市民病院)
Ⅰ 群馬大学附属病院におけるホルモン療法を中心とした前立腺癌の治療成績と 治療方針 山本 巧、 柴田 康博、羽鳥 基明 伊藤 一人、鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
①
群馬大学付属病院におけるホルモン療法を中心とした前立腺癌の長期治療成績につ
いて。 T1c/T2N0M0 症例(n=31)では、5 年および 10 年 PSA 非再燃率はそれぞれ 71.0%、お
よび 71.0%であった。また、5 年および 10 年全生存率は 87.1%、70.5%となり、5 年およ
び 10 年癌特異生存率は 100%、92.9%となった。T3N0M0 症例に対しては、初回治療とし
て LH-RH analogue 単独療法を行い、内分泌療法中に明らかな遠隔転移を伴わない PSA
再燃をきたした症例に対し、12 ヶ月以内に前立腺部に外照射を施行し、LH-RH analogue
は外照射中および外照射後も継続する内分泌・待機放射線療法を行ってきた(n=100)。
LH-RH analogue 単独投与における 5 年および 10 年 PSA 非再燃生存率はそれぞれ 43.6%
および 37.4%であったが、内分泌・待機放射線療法では 5 年および 10 年 PSA 非再燃率は
91.5%および 65.7%に改善した。また、5 年および 10 年全生存率は 87.4%および 69.5%、
5 年および 10 年癌特異生存率は 95.9%および 87.6%となった。TXN1MX/TXNXM1 症例(n=
81)では 5 年全生存率は 51.4%、5 年癌特異生存率は 53.8%であった。 ②
群馬大学付属病院におけるホルモン療法を中心とした前立腺癌の現在の治療方針に
ついて。 T1c/T2N0M0 症例では外来にて LH-RH analogue 単独投与を 6~12 ヶ月行い、PSA の低
下が不良の時は bicalutamide 内服投与を追加している。その後、年齢および治療前 PSA
値、針生検陽性本数、Gleason score によって、ホルモン療法を継続する場合と、原則
として前立腺針生検再施行のうえ、前立腺全摘除術やI-125 brachytherapy、外照射+
HDR-brachytherapy による根治術を施行してホルモン療法を中止する場合とがある。
T3N0M0 症例では flare up 予防として chlormadinone acetate 100mg/day 内服の上、
LH-RH analogue 単独投与を 6~12 ヶ月施行し、PSA の低下が不良の時は bicalutamide 内服投
与を追加している。その後、ホルモン療法の継続のみの場合と、外照射+
HDR-brachytherapy または外照射(心血管系等の合併症あり)を施行し、ホルモン療法
を中止する場合とがある。なお、厚生労働省がん研究助成金吉田班分担研究(旧山中班)
「局所進行前立腺がんに対する内分泌療法・放射線療法併用の意義に関する研究」が現
在全国で進行中であり、群馬大学付属病院でも 2005 年 6 月 1 日現在、90 例登録してい
る。これは T3N0M0/T4(膀胱頸部浸潤のみ)N0M0 症例に対し、flare up 予防として
chlormadinone acetate 100mg/day 内服後、6 ヶ月間の LH-RH analogue を投与した上で、
前立腺部外照射を施行し、無作為割付にて半数は計 5 年間 LH-RH analogue を投与する
群、半数は外照射終了後 6 ヶ月間 LH-RH analogue を投与してから一時投与を中止して
PSA が 10ng/ml 以上になったら LH-RH analogue を再開し、1.0ng/ml 以下になったら再
び投与を中止する間欠療法を行う群とし、2 群を比較する trial である。
T4N0M0/TXN1MX/TXNXM1 症例では、初期治療として入院の上、diethylstilbesterol 125
~250mg/day 点滴静注を治療効果をみながら 4 週前後継続し、骨痛・脊髄離断等症状が
ある場合には対象部位へ外照射を施行している。その後、外来での LH-RH analogue 単
独投与に移行し、再燃時には外来にて bicalutamide 内服を追加し、それでも増悪傾向
を認めるときには再入院の上、diethylstilbesterol 点滴静注を行ったり、対象部位へ
の外照射を施行している。その後は外来での ethynylestradiol 1.5mg/day の内服治療
に以降し、症例により dexamethazone 1~3mg/day の内服を追加している。しかし、
diethylstilbesterol 注の製造中止の問題もあり、今後再燃癌に対する新たな治療法が
待たれるところである。 Ⅱ 前立腺癌に対する内分泌療法の実際 中野 勝也、中田 誠司、大塚 保宏 小屋 智子、高橋 溥朋 (足利赤十字病院泌尿器科) 1992 年から 2004 年 3 月までに当院で登録された前立腺癌 498 例うち、前立腺全摘術、
前立腺根治照射、サーベイランスを除いた、内分泌治療法を施行した 376 例を対象とした。
Stage A、 B、C、D の7年癌特異生存率は、それぞれ 100%、95%、86%、29%であった。
Stage B,C,D それぞれに対して施行された初期治療は、LH-RH アゴニスト、去勢術、
MAB(maximal androgen blockade)などであり、治療郡間に癌特異生存率に差を認めなかっ
た。また、Stage C、D において、治療初期に短期で施行されたホンバンの点滴などの生存
率に対する効果は明らかでなかった。PSA 再燃は 129 例(34%)に認め、その多くは治療開始
より 40 ヶ月の間に PSA の上昇を認めた。再燃時の治療薬の違いによる生存率に差はみられ
なかった。再燃後に第2次、第3次といったように内分泌療法を進めるに従い、PSA の下
降期間は短くなる傾向にあった。PSA 再燃時には、MAB の導入、エストラサイトの投与によ
り一定期間の PSA の下降が期待できるが、生存率の改善につながるかは未解明のままであ
る。 Ⅲ 前立腺癌に対するホルモン療法の新たな可能性 並木 幹夫 教授 (金沢大院・医・集学的治療学(泌尿器科学) 前立腺癌に対するホルモン療法は Huggins 博士に考案されて以来60年以上経過した今
も、進行性前立腺癌に対しては第一選択として用いられている。また、手術療法や放射線
療法の neoadjuvant や adjuvant 療法としても用いられることがある。さらに、高齢者を中
心に限局性前立腺癌に対しても多くの症例で用いられている。 このように前立腺癌に対しホルモン療法は広く用いられているが、その効果の評価は定
まったかのように捉えられてきた。即ち、
「ホルモン療法は言わば姑息的治療で、一定期間
後再燃し、ひとたび再燃した前立腺癌はホルモン不応性で、ホルモン療法はもはや効果が
無い」というような考えである。 本シンポジウムでは、2つの可能性、即ち『限局性前立腺癌では症例によりホルモン療
法のみでも根治に近い長期コントロールが可能なこと』、および『再燃前立腺癌でもホルモ
ン感受性が残っている場合が少なくなく、新たなホルモン療法で治療効果を挙げることが
可能である』ことをお示ししたい。