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第 46 回 日本泌尿器科学会群馬地方会演題抄録
日 時: 平成 19 年 6 月 9 日(土)15 時 00〜
場 所: 群馬大学医学部刀城会館
会 長: 小林 幹男(伊勢崎市民病院)
事務局: 柴田 康博(群馬大院・医・泌尿器病態学)
<セッションⅠ> 座長 福間 裕二 (本庄総合病院)
臨床症例
1.HD 併用療法にて胸水改善を認めた CAPD の 1 例
狩野 臨、岡本 亘平、川口 拓也 (秩父市立病院)
牧野 武朗 (館林厚生病院)
西井 昌弘 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
岡部 和彦 (本島総合病院)
症例は 46 歳男性。1997 年慢性腎不全にて CAPD 導入。2005 年 12 月より咳嗽出現。2006 年 10
月咳嗽増悪し胸水を認めたため入院加療となった。胸水穿刺の結果 CAPD 胸水は否定的であっ
た。尿毒症の増悪と考え、週 6 日の CAPD および週 1 回の HD を開始した。HD を導入後より
咳嗽などの症状が改善し、また胸水及び心機能の改善も認められた。CAPD、HD 併用療法は、
HD のタイミングを本人の都合に合わせれば QOL をそれほど損なうことが無く、透析量不足を
補うことが可能と考えられた。
2.透析患者に発生した腸腰筋膿瘍の 1 例
古谷 洋介、小野 芳啓、松本 和久 林 雅道 古作 望 (古作クリニック)
症例は多発性嚢胞腎による慢性腎不全で血液透析中の 56 歳女性。H18.12.21 難治性の左腎嚢胞
感染に対して左腎摘除術を施行した。術後、炎症所見は一旦改善したものの術後 2 ヶ月より再
び発熱と著明な炎症所見を認めた。CT より左腸腰筋膿瘍と診断し、抗生剤 MINO、IPM/CS の
投与により保存的に治療を行った。腸腰筋膿瘍は糖尿病をはじめとする易感染状態に発生する
ことがほとんどで、治療は抗生剤投与に加え膿瘍のドレナージ、難治例においては開放手術を
行う場合もある。本症例では慢性腎不全による易感染性を素因として、腎嚢胞感染の炎症の波
及による続発性腸腰筋膿瘍が発生したものと考えられる。保存的に治療を行い得る条件として
膿瘍サイズが比較的小さく単房性であること、膿瘍が多部位に及ばないことが挙げられる。
3.癌性腹膜炎による疼痛に対してキシロカインの持続皮下注射が有効であった 2 例
牧野 武朗、奥木 宏延、岡崎 浩
中村 敏之 (館林厚生病院 泌尿器科)
症例1は 82 歳男性。膀胱癌進行による、腎後性腎不全および癌性腹膜炎のため入院。入院後、
オピオイド、ステロイド、ソマトスタチンアナログに加えてキシロカインの持続皮下注射施行
した。症例2は 61 歳男性。膀胱癌進行による多発肺転移、肝転移に加え、疼痛の増悪および
呼吸苦あり入院。入院後、癌性腹膜炎の診断でオピオイドに加えてキシロカインの持続皮下注
射施行した。消化管閉塞症状に伴う内臓痛をはじめとした諸症状に対して、オピオイドによる
十分な鎮痛は得がたく、適切な鎮痛補助薬を併用することが望ましい。近年オピオイド抵抗性
の癌性腹膜炎の疼痛にキシロカインが有効であるという報告も散見され、鎮痛補助薬として有
効な選択肢の一つになりうると考えられた。
4.尿道下裂術後の尿道結石の一例
藤塚 雄司、悦永 徹 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
塩野 昭彦、小林 大志朗、町田 昌巳
牧野 武雄、柴山 勝太郎 (公立富岡総合病院 泌尿器科)
症例は 26 歳男性。幼少期、尿道下裂手術歴がある。排尿時の違和感と排尿時痛が出現し当科
受診。触診にて陰茎根部に小指頭大の結節を触知。ブジーにて結石を感知し、尿道造影にて直
径1cm の尿道結石及び尿道憩室を確認した。腰椎麻酔下で尿道切石術及び前部尿道形成術を
施行。尿道内に陰毛を認め、陰毛を核とした結石が生じていた。結石を摘出、憩室を切除した。
尿道結石は稀な疾患であるが、尿道下裂術後合併症としては 8%に認められたとの報告がある。
国内報告例では 15~27 歳、腫瘤触知で発見され、開放術・TUL など施行されている。本症例
では憩室合併あり、尿道形成が必要と考えられたため開放術を選択した。尿道下裂術施行時に、
陰毛の発生する陰嚢皮膚などを使用しない術式を選択することが重要と考えられた。
5.spindle cell carcinoma の一例 周東 孝浩、増田 広、 大竹 伸明
関原 哲夫 (日高病院 泌尿器科)
小屋 智子、金城 佐和子 (群馬大院・医・付属病院)
【症例】60 歳男性【主訴】肉眼的血尿【現病歴】2006 年 7 月、肉眼的血尿がありA病院を受
診。IPで左腎結石があり経過観察されていたが、12 月、再度肉眼的血尿が出現した。エコー、
CTで左腎腫瘍を疑われ、当科を受診した。左腎盂腫瘍 T3N1M0 の診断にて 2007 年 2 月右腎
尿管全摘除術を行った。病理組織は RCC,spindle cell carcinoma,pT3aN0M0、腫大した核をもつ紡
錘形の異型上皮細胞が浸潤性に増殖し、免疫組織化学的に腫瘍細胞は
CK7(+),CK20(-)vimentin(+)であった。顆粒細胞癌、乳頭状腎細胞癌の混在を認めた。
【まとめ】今回我々は腎盂腫瘍と鑑別が困難であった spindle cell carcinoma の1例を経験した。
<セッションⅡ> 座長 柏木 文蔵 (桐生厚生総合病院)
臨床症例
6.精巣転移をきたした前立腺癌の一例
悦永 徹、西井 昌弘、藤塚 雄司
新井 誠二、大塚 保宏、小屋 智子 野村 昌史、関根 芳岳、小池 秀和
曲 友弘、松井 博、山本 巧
柴田 康博、羽鳥 基明、伊藤 一人
鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
宮久保 真意 (立川相互病院泌尿器科)
川口 拓也 (秩父市立病院泌尿器科)
症例は 70 歳男性.2000 年 4 月 7 日夜間頻尿で秩父市立病院を初診.PSA193.1ng/ml であり前立
腺生検施行,病理は poorly.diff.adenocarcinoma Gleason4+5 であり stageD2(骨転移)の診断でホ
ルモン療法を開始した.PSA 徐々に上昇しカソデックス→エストラサイト追加するも無効のた
め,2004 年 10 月 22 日当科紹介され初診.局所再燃の診断で前立腺への照射(69Gy)および
ホンバンの経静脈投与を施行した.その後再度 PSA の上昇あり,骨転移の増悪を認めたためデ
カドロン+プロセキソールを開始した.さらに PSA 再燃に対してドセタキセルを検討していた
ところ 2007 年 2 月 6 日右精巣の無痛性腫大を認めた.2 月 26 日右高位精巣摘除術施行したと
ころ,病理は前立腺癌の転移(PSA 染色陽性)であった.現在ドセタキセル+ゾメタ療法を施
行中である.
7.鼠径部腫瘤にて発症した悪性リンパ腫 森川 泰如、黒川 公平 (国立病院機構高崎病院 泌尿器科) 小川 晃 (国立病院機構高崎病院臨床検査科) 古谷 洋介 (古作クリニック) 症例は54歳、男性。H19 年 1 月頃より 左鼠径部の腫瘤を自覚した。腫瘤が徐々増大した
ため、H19.4.5 近医受診。精査・加療のため当科に紹介された。左鼠部径皮下に弾性硬で可
動性のある母指頭大腫瘤を認めた。エコーは比較的均一な hypoechoic mass で、MRI では
T1 強調で低信号、T2 強調で高信号の分葉状の mass であった。精索に隣接していたが連続
性は無かった。腰椎麻酔下に腫瘍摘除術施行した。精索と腫瘍と交通は見られず、摘出重
量 14g で均一な灰白質の腫瘤であった。病理診断は非ホジキンリンパ腫 びまん性大細胞
型リンパ腫(DLCBCL)であった。画像診断にて病期ⅠA と診断した。現在、当院内科で
化学療法療法施行中である。 8.PSA 低値であった進行前立腺癌の1例 大滝 容一、新田 貴士、鈴木 光一 松尾 康滋、矢嶋 久徳 (前橋赤十字病院) 61 歳、男性。排尿困難を主訴に 2000 年 2 月当科初診。同年 9 月に PSA4.3ng/ml で生検施行、
前立腺肥大の診断だった。以降 PSA 低値で推移。2006 年 12 月に微熱・食欲不振の精査目的に
撮影した CT にて多発肝腫瘍と前立腺腫瘍を認めた。直腸診でも左葉に硬結を触知したが、PSA
の値は 0.074ng/ml であった。前立腺生検で低分化腺癌(GS3+4)であり肝生検でも低分化腺癌。
前立腺癌肝転移としてホンバン治療開始したが、開始後 3 日で肝機能障害出現し治療を断念し
た。多臓器不全で 2007 年 1 月 7 日永眠した。病理解剖では肝・骨・リンパ節・肺に転移があ
り GS5+5 であった。低分化腺癌等で PSA が低値ながら進行癌で発見される症例も報告されて
おり、本症例はそのような一例であったと考える。 9.ホルミウム(Ho)レーザーが有用であった尿管結石症の 2 例 藤塚 雄司、小池 秀和、柴田 康博
新井 誠二、大塚 保宏、小屋 智子
悦永 徹、野村 昌史、関根 芳岳
西井 昌弘、曲 友弘、松井 博
山本 巧、羽鳥 基明、伊藤 一人
鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
近年、Ho レーザーが内視鏡下尿路結石治療で安全・有効なエネルギーソースとして使用され
ており、当施設も平成 18 年 11 月に導入した。特に砕石に有用であった2症例を報告する。1
例目は 84 歳男性、40 年前に右尿管皮膚瘻術を施行されており、ストーマからの血尿で受診。
両側腎尿管結石の診断。右尿管皮膚瘻より軟性内視鏡を挿入し、Ho レーザーで尿管屈曲部に
嵌頓していた結石を砕石した。2 例目は 69 歳女性、ANCA 関連血管炎症候群にて PSL、AZP
内服中、4cm 程の膀胱結石を認めたため Ho レーザーで砕石した。実際の映像を放映する。上
記症例から、軟性鏡を使用した砕石が可能であること、粘膜損傷を起こしたくない例に有用で
あることが利点であると考えられた。
ビデオ症例
10.膀胱瘤に対するメッシュを使用した前膣壁形成術の経験 曲 友弘、柴田 康博、羽鳥 基明 伊藤 一人、鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学) 猿木 和久 (さるきクリニック) 狩野 臨 (秩父市立病院) 【始めに】当院では、2007 年 2 月より膀胱瘤症例に対してガイネメッシュを用いた前腟壁形成
術(A-TVM)を開始し、同年4月までに 5 例施行した。今回 1 例の術中ビデオを供覧する。
【症
例】59 歳女性。2006 年頃より腹圧時の下腹部違和感、尿勢低下出現したため、同年 12 月婦人
科受診しペッサリー挿入された。症状改善せず 2007 年1月前医受診し、120ml の残尿、膀胱瘤
を指摘され、当科紹介となった。Baden & Walker の分類で Grade 3 の膀胱瘤を認め、前膣壁形
成術を施行した。術後排尿状態の改善を認め、再発も認めない。【まとめ】手術時間、出血量
などさらなる症例の積み重ねが必要である。今後後膣壁形成術(P-TVM)も導入予定である。
<セッションⅢ> 座長 松井 博 (群馬大院・医・泌尿器病態学) ビデオ症例
11.腹腔鏡手術に関する国内留学の経験
野村 昌史、鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
桶川 隆嗣、奴田原 紀久雄、東原 英二 (杏林大学泌尿器科)
2006 年 4 月より 1 年間、腹腔鏡技術習得を目的に、杏林大学泌尿器科に国内留学。執刀例と
して約 20 例、助手その他として約 40 例の腹腔鏡手術を経験した。執刀例としては腎摘除術 11
例(経腹膜 7 例、経後腹膜 4 例)、副腎摘除術 3 例、腎尿管全摘除術 6 例、精索静脈結紮術 1
例を経験した。腹腔鏡手術を始めるにあたって、日本内視鏡外科学会が制定するガイドライン
に示されるように、内視鏡下に見る各臓器の解剖学的構造や相対的位置関係の理解や、特殊機
器使用法の習熟などが特に重要に感じられた。また、実際の手術見学(体位などの手術準備か
ら閉創まで)や、動物を使用したトレーニングなどを十分に行う必要があると思われた。1 年
間の研修を経て、今年度の泌尿器腹腔鏡技術認定医の申請を行う予定である。
臨床的研究
12.伊勢崎市民病院におけるフルニエ壊疽症例の検討
中嶋 仁、武智 浩之、斉藤 佳隆
内田 達也、竹澤 豊、小林 幹男 (伊勢崎市民病院)
フルニエ壊疽は、性別に関係なく発症する、外陰部に生じた壊死性筋膜炎と定義されている。
重症感染症であり、敗血症、DIC を合併し致死率は約 15%である。フルニエ壊疽と診断された
ら迅速な外科的処置、適切な抗生剤投与、術後管理が必要である。当院では過去約 10 年間で
フルニエ壊疽は 4 症例経験している。いずれもフルニエ壊疽と診断された当日にドレナージ、
デブリードマンといった外科的処置を行い、広域スペクトルの抗生剤投与、術後管理にて治癒
に至っている。これらの我々が経験した症例と若干の文献的考察を加えて報告とする。
13.2006 年度群馬県前立腺がん検診の結果と 2007 年度の実施状況
武智 浩之、山本 巧、宮久保 真意
大井 勝、鈴木 理恵、久保田 裕 伊藤 一人、 鈴木 和浩(群馬大学グループ泌尿器腫瘍研究会メンバー)
目的:2006 度群馬県前立腺がん検診の結果について以前の結果と比較検討する。 対象:2006 年度は 62 市町村で検診を実施。今回集計できた 48 市町村にて 18,800 人受
診した。結果:前立腺がん症例は検診初回受診者 3,782 人中 67 人(1.77%)、再診者 15,018
人中 96 人(0.64%)に発見された。発見されたがん症例の割合は以前と比較して変動はみられ
なかったが、最近は検診再診者の割合が増加している傾向にあった。また検診の形態は市町村
数でみてみると前立腺癌検診単独検診の割合が減り人間ドック等との併行検診の割合が増加
している傾向がみられた。また、2000 年度より導入している年齢階層別 PSA 基準値の有用
性については、がん症例は発見されているもののいまだ生検施行率が低い現状がみられた。 結語:2007 年度も市民や保健婦を初めとする医療関係者に群馬県前立腺がん検診を啓発しつ
つ継続していく。
14.腎細胞癌における TS 活性および DPD 活性の検討
蓮見 勝、濱野 達也、清水 信明 (群馬県立がんセンター) 松井 博 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
【 目 的 】 ピ リ ミ ジ ン 系 抗 が ん 剤 の 代 謝 に 関 係 す る 酵 素 thymidylate synthase (TS),
dihydropyrimidine dehydrogenase (DPD), Orotate Phosphoribosyl Transferase (OPRT)の、腎癌および
正常組織における活性を測定。
【対象と方法】2003 年 4 月から 2005 年 9 月に腎癌と診断された
26 例の正常および癌組織の酵素活性を ELISA 法により測定。【結果】TS 活性は癌で有意に高
値であった。DPD 活性に関しては癌で高い傾向にあったが、有意差は認めず。OPRT に関して
も有意差は認めず。clear cell ca に比べ spindle cell ca における TS/DPD 活性が有意に高値を示し
た。INFαよりも INFβの TS 活性が有意に高値であった。【考察】腎癌におけるピリミジン系
抗がん剤代謝に関係する酵素発現の特徴の一面が示された。この結果が抗腫瘍効果のさらなる
向上あるいは副作用の軽減に応用されることが期待できる。
15.前立腺全摘除術における自己血輸血の意義
竹澤 豊、周東 孝浩、廣野 正法 牧野 武朗、村松 和道、齋藤 佳隆
内田 達也、小林 幹男 (伊勢崎市民病院)
【目的】自己血採取を行い、前立腺全摘除術を受けた症例を解析して前立腺全摘除術における
自己血輸血の意義を検討した。
【対象】1995 年から 2006 年 8 月 10 日までに自己血採取を行い、前立腺全摘除術を受けた症例
288 例
【結果】患者年齢:66.9±5.38 才、出血量:1315±772ml、
手術時間:200±41 分、輸血施行例:275 例、同種血輸血症例:12 例
【結論】前立腺全摘除術のように比較的出血の多い手術で自己血輸血をおこなうことは同種血
輸血を回避する上で有意義であると考えた。
特別講演 座長 鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)
山形大学医学部 腎泌尿器外科 教授 冨田 善彦先生
腎細胞癌の治療 up to date これまでの腎細胞癌の治療
腎細胞癌は手術療法が最も効果が確実であり,放射療法は palliative な効果しか期待できず,
これまでの抗がん剤も腫瘍縮小効果はほとんどないのは皆さんご承知の通りです.サイトカイ
ン療法は,インターフェロンαとインターロイキン-2が用いられてきましたが,限られた症例
に効果を認めるのみでした.
癌の基礎研究
癌の研究は,なぜ,正常細胞ががん化するのか,癌とは何ものなのか,どうして正常細胞と
は違う性質,つまり無限に増殖し,転移,浸潤をし,死に至らしめるのかを根本の疑問として
発展してきたといえるでしょう.これまでに,いくつかの技術の進歩,つまり,細胞培養法の
確立,モノクローナル抗体作成の技術の確立,そして,ワトソンクリックによる(本当の発見
者は違うのですが)DNA が「遺伝子」であることの発見に続く分子生物学的技術の発展,確立
がこれらの疑問に対しての解答を次々にあたえてきたのです.
癌細胞における生命機能の制御は,しかし,画一的なものでなく,それぞれの細胞種により
まったく異なっていることが明らかになってきました.追い詰めたと思っても,するりとかわ
される,いたちごっこのようなことが展開されてきたわけです.泌尿器科癌では腎細胞癌で von
Hippel-Lindau 病の責任遺伝子(VHL 遺伝子)が単離同定され,これが,腎細胞癌の 80%を占める
淡明細胞癌で高頻度に遺伝子変異があることが明らかになったことが大きいと思います.なぜ
なら,その遺伝子産物の機能の解析から腎細胞癌の腫瘍としての特徴がほぼ理解・説明できる
ようになったからです.(もちろん例外として考えなければならないこともあります.)
基礎研究から具体的な治療法へ
腫瘍の基礎研究は,もちろん,新たな治療法の開発につながらなければなりません.1080 年
代後半からの「遺伝子」研究のブームから,「蛋白分子」へと全体の興味が移るにつれ,基礎
研究と治療の連携がにわかに‘現実味’を帯びてきました.さらに,2 つの画期的な技術上の
innovation,human genome の解明とコンピューターにアシストされた分子立体構造の理解とヒ
ト型抗体作成法の確立,がこれを‘現実’にしたわけです.
分子標的薬の時代
「分子標的薬」の定義はありませんが,この数年,小分子とヒト型抗体が悪性腫瘍の治療に
急速な勢いで応用されるようになっています.泌尿器科領域では腎細胞癌がそのもっとも良い
ターゲットとなっています.ただ,分子標的薬も夢の薬ではありません.
今回の講演では腎細胞癌と分子標的薬の話を中心にお話したいと思います. <閉会の挨拶> 鈴木 和浩 (群馬大院・医・泌尿器病態学)