特別寄稿記事:米国におけるスマホ決済

スマートフォンをクレジットカードの読み取り端末として利用する「スマホ決済」はアメリカ
で生まれ、低いコストと面倒な契約事務を回避できることから急速に広がった。さらに、スマ
ホを簡易なPOSレジとして活用する、
来店客のスマホで商品のバーコードを読み取らせて「セ
ルフサービスレジ」機能をもたせるといった取組みも登場している。こうしたサービスの開発
メントがシェアを奪い取ってい
読み取り機を使わずに、スマホ
が旧来型のクレジットカードの
の主役は、非銀行系のITベンダーである。
ントの市場規模は2012年の
くことが予測されている。
のイヤホンジャック等にクレジ
128億㌦から 年には900
億㌦へとおよそ7倍に成長する
ットカードの読み取り機を接続
滑らせるだけでクレジットカー
し、そこにクレジットカードを
林立するスマホ決済業者
40
あるとおり、アメリカにおける
︵図表1︶
。さらに、図表2に
ドの支払いの受取りができると
アメリカではスマートフォン
︵スマホ︶の普及により、携帯
以上のようなモバイルペイメ
ントは、消費者側がスマホをク
いう﹁スマホ決済﹂がアメリカ
の予想によると、ア
Research
メリカにおけるモバイルペイメ
で あ る。調 査 会 社
支払いの方法としては、まだま
レジットカード等の提示に代わ
でも普及している。
電話での決済︵モバイルペイメ
る支払手段として用いることを
この分野のパイオニアはスク
だ現金や小切手といったアナロ
Forrester グベースの支払いが %を占め
ている。今後、こうしたアナロ
意味しているが、近年、店舗側
ント︶が急速に成長する見込み
グの支払手段からモバイルペイ
モバイルペイメントは
5年で7倍の伸び
17
26
2013.7.22 金融財政事情
でクレジットカードによる支払
利用して献金を集めた。これま
ー陣営の双方が同社のアプリを
のオバマ陣営、共和党のロムニ
エア︵ Square
︶社である。昨
年の大統領選の際には、民主党
スクエア社のスマホ決済が人
気になったのは、スマホでカー
ため、人気を博している。
で支払いを受けることができる
イト学生でもクレジットカード
営業担当者、家庭教師のアルバ
れば、中小店舗や外回りが多い
サービスでは、ややこしい契約
ワークが必要であった。同社の
や契約に関して膨大なペーパー
利用しようとすると、本人確認
顧客が銀行の新しいサービスを
いう革新性だけではない。従来、
ドの支払い・受取りができると
受け取れるペイパルヒア︵ Pay-
ル、そして小切手でも支払いを
ード、デビットカード、ペイパ
スマホを利用してクレジットカ
ペイパルは中小店舗等向けに、
様のサービスを提供している。
舗側は銀行にマーチャント口座
け取った金額に応じて支払
費はなく、カード払いを受
る。また、利用料金も固定
その日からすぐに利用でき
た読み取り機を入手すれ ば、
利用者は同社から郵送され
事務はほとんど発生せず、
ができる。アメリカの大手銀行
ることで、支払いを受けること
トカードを滑らせて読み取らせ
機にクレジットカードやデビッ
︵無料︶を差し込み、読み取り
ジャックにカードの読み取り機
iPhoneであればイヤホン
アでは、スクエアと同じように、
︶と呼ばれるサービ
Pal Here
スを提供している。ペイパルヒ
いの受取りを行うためには、店
と呼ばれる口座を開設し、比較
う手数料のみである。読み
の一角であるバンク・オブ・ア
小切手等
12%
デビットカード
31%
数料を支払ったりする必要があ
った。同社のサービスを利用す
現金
29%
その他電子決済
10%
プリペイドカード
1%
的高額な機材を購入したり、手
取り機は通常は無料︵近く
%と比較的低額である。不
マホ決済サービスの提供を開始
である中小店舗向けに同様のス
興IT企業に対抗すべく、顧客
のコンビニ等で買う場合は
アメリカにおける支払手段シェア
(2010年・件数ベース)
〔図表2〕
の手数料も取引額の2・
要になれば契約を解除する
した。
スクエア社は、さらに先進的
なサービスも模索している。ス
タブレットレジでの競争
必要もなく、たんに使わな
ければよい。
(出所)
アメリカ連邦準備銀行
いまではスクエアだけで
はなく、
ペイパル
︵ PayPal
︶
、
など多くの業者が同
intuit
金融財政事情 2013.7.22
27
2016
6,170
2011
2,400
2015
6,700
Juniper
Research
1,715
世界
2012
Gartner
900
世界
2017
Forrester
Research
128
アメリカ
2012
調査会社
取引高(億ドル)
年
地域
75
メリカもこのほど、こうした新
(出所)
筆者作成
有料︶であり、一取引当り
〔図表1〕 急拡大するモバイルペイメント市場
クレジットカード
17%
ための小さなプリンターと現金
機、そしてレシートを発行する
iPadおよびカード読み取り
に力を入れているのだ。これは
した店舗のレジシステムの普及
iPadなどタブレットを活用
マホ決済をさらに発展させて、
はなく、小規模店舗でもできる
大手ソフトウェアベンダーの
社では、こうした通路で
intuit
の支払いを大手の小売店だけで
のサービスに参入している。
なども、すでにタブレットレジ
既存レジの大手であるNCR社
odを使って会計をしてくれる。
店員は専用ケースに入ったiP
通路にいる店員に会計を頼めば、
で決済ができる。
イパルで支払う﹂と告げるだけ
識させれば、あとは店員に﹁ペ
店のなかにいることを店側に認
イルアプリでチェックインして
プリで支払う場合、顧客はモバ
ことも可能である。ペイパルア
ペイパル口座の残高から支払う
プリ︵ペイパルアプリ︶により
ペイパルヒアでは、消費者側
がカードを使わず、スマホのア
負担は生じない。
用しなければ顧客にも店舗にも
高くなる︶
。固定費はなく、利
高いため、店舗に課す手数料も
合よりも後者のほうがリスクが
で物理的にカードを使用する場
カード発行銀行にとっては対面
む場合に不正が多い。よって、
ッピングのように番号を打ち込
もあり、優良顧客に対してポイ
る。顧客情報分析ができる機能
サインをしてもらって決済をす
ってクレジットカードの支払い
理がシームレスに行える。さら
支払いの受取りと商品の在庫管
というサービスを組
Payment
み合わせれば、中小の店舗でも
という同社
Books Point of Sale
のPOS・在庫管理システムと、
とができる。
で小切手を撮影して入金するこ
払いが受けられる同社の
理することもできる。小切手払
Gonいの場合も、モバイルのカメラ
スマホでクレジットカードの支
店側が支払う手数料は、カー
ド払いの場合にのみ発生し、読
い る。 具 体 的 に は、
さ ら に、 同 社 が 買 収 し た
Quick 社のIT技術によって
card.io
スマホのカメラでクレジットカ
クレジットカードで決済される。
ボタンをタップすると、あらか
購入する場合はチェックアウト
の評判︶を確認し、気に入って
商品のバーコードをスキャンし、
では、専用のiP
magicbeans
honeアプリにより、店内の
ントを付与して利用促進を促す
じめモバイルに登録されている
28
2013.7.22 金融財政事情
るのではなく、オンラインショ
的なレジが設定できるサービス
ようにするサービスを開始して
こともできる。
に、GPSを利用して、アメリ
店を出るときは、モバイルアプ
格納箱があれば、個人でも本格
利用する店舗は、iPadを使
である。 このレジシステムを
ボストンを中心にした玩具や
ベビー用品のチェーン店である
こうしたスマホ決済は、もと
もとは中小店舗や外商をターゲ
み取り機に読み取らせる場合は
リに表示されたレシートを出口
を受けて、iPad上で顧客に
ットにしたサービスであったが、
カでは市町村ごとに異なる消費
販売代金の2・7%、カード番
で見張っている店員に提示すれ
使って購入した場合は %引き
ばよい。さらに、このアプリを
︵一般に、カードを読み取らせ
・5%+0・ ㌦となっている
ードの情報を読み取って送金処
このところ大手の小売店も﹁通
税の計算も自動的に行ってくれ
号をアプリに入力する場合は3
商品のレビュー︵購入者等から
路払い﹂のツールとしての利用
る。
進化する店舗での決済
を模索している。すでにアップ
ル社の直営店であるアップルス
トアでは、レジを廃しており、
10
15
ーパー等をGPSで検索し、入
えで専用アプリが利用できるス
リをインストールする。そのう
自分のiPhoneに専用アプ
わせた方法もある。顧客はまず、
のセルフサービスレジを組み合
レジのように、客のスマホと店
モバイル連動型セルフサービス
また、POSシステムやキオ
スク大手のNCR社が開発した
になるというメリットもある。
ルを利用して支払うことも可能
モバイルアプリにおいてペイパ
現金で支払うこともできるが、
サービスレジにおいてカードや
に処理する。合計金額はセルフ
まセルフサービスレジで追加的
た商品があった場合は、そのま
モバイルでスキャンできなかっ
野菜のようにバーコードがなく、
ビスレジの画面に表示される。
入れておいた商品がセルフサー
モバイルアプリ上の買物かごに
した不安をもっていると思われ
然としてセキュリティに漠然と
る。しかし、多くの利用者は依
は悪用されないようになってい
はただちに暗号化され、簡単に
クレジットカードの情報は通常
モバイル端末でクレジットカ
ードを受け取る場合においても、
メリカでは検討されている。
な対策を導入することが現在ア
行システムの外に漏れないよう
情報を乱数化し、個人情報が銀
渡す際にはクレジットカードの
ら収益性 を確保していく必要が
に利便性と安全性を提供しなが
関としては彼らと協業し、顧客
存在感を発揮している。金融機
非銀行系ITベンダーが大きな
ペイメント関連サービスでは、
時間がかかりそうだ。モバイル
しまうという課題もあり、規格
るとさまざまな規格が乱立して
が市場に殺到している。そうす
るため、このところ多くの業者
ト市場は急成長が期待されてい
ある。
を導入する店舗側としては﹁従
る。また、モバイルペイメント
な利用者啓蒙が必要となってい
ることから、各業者には積極的
の統一化、本格的普及にはまだ
店する。実際にスーパーに入っ
である。
セキュリティ面での不安
たら、客は欲しい商品のバーコ
ードをiPhoneのカメラで
スキャンする。すると、アプリ
に商品の情報が表示され、さら
に過去にその利用者が購入した
来型のクレジットカードなどよ
ったメリットがなければ導入に
このように先進的な支払手段
が登場し、成長が期待されるモ
題がないわけではない。まずは
踏みきれないであろう。利用者
かどうかなどの情報も表示され
あおき たけし
年慶應義塾大学商学部卒、
セキュリティの問題がある。一
も有利なポイント制度やキャッ
年退社。同年アメリカにグロー
りも加盟店手数料が低い﹂とい
決定したらアプリを操作して、
般的にIT企業などの非銀行系
シュバックなど、なんらかのベ
バ ル リ サ ー チ 研 究 所︵
バイルペイメントであるが、課
﹁買物かご﹂に入れる。
業者は銀行と比較するとシステ
ネフィットを求めていくであろ
る。その商品を購入することを
実際の支払いの際には、スー
パー内のセルフサービスレジを
ム面におけるセキュリティが甘
う。
年全
利用する。セルフサービスレジ
い傾向がある。そこで、大手米
アメリカのモバイルペイメン
89
年信金中金
06
ニューヨーク支店次長を経て
09
央金庫︶に入会。
国信用金庫連合会︵現・信金中
経 営 学 修 士︵ M B A ︶
。
に表示されたQRコードをモバ
銀が協業し、ベンダーに情報を
年ニューヨーク大学経営大学院
99
イルでスキャンすると、自分が
e
t
u
t
i
t
s
n
I
C
L
L
,
h
c
r
a
e
s
e
R
l
a
b
o
l
G
f
o
︶設立。
金融財政事情 2013.7.22
29
89