虚血再灌流による急性腎不全の検討

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APP−089 sOD−1欠損マウスにおける・虚血再灌流による急性腎不全の検討
山形大学医学部腎泌尿器外科学分野1),山形大学医学部生体分子機能学講座2}
山辺 拓也1),柴崎 智宏1),内藤 整1),川添 久1),中野 裕子1),梶沼 陽1),武藤 明紀1),加藤 智幸1),長岡 明1),
ビリーム ウラジミルi),藤井 順逸2),冨田 善彦1)
【目的】腎臓に血液が十分に供給されない虚血状態では、その臓器に低酸素による障害が生じるが、再灌流によりさらに重篤な臓器障害が惹起され、
これらの障害は腎移植における初期の移植片機能不全の病因として重要であり、この障害を軽減することは移植腎の長期生着のためにも重要である。
腎臓の虚血/再灌流では、活性化された好中球から活性酸素種が産生され、この活性酸素種腎臓が急性腎不全の発生に大きく関与している。抗酸化剤
の投与が、腎不全を改善することはよく知られているが、内因性の抗酸化システムの寄与については、知られていない。そこで、我々は活性酸素の消
去酵素であるSOD−1の欠乏が虚血再灌流による腎不全を悪化させるかどうかについて検討した。【方法】SOD−1ノックアウトマウスまたはWild type
のマウスについて、最初に右の腎臓を摘出、その2週間後に左腎臓の腎動静脈を血流遮断クリップで45分間クリッピングした後、クリップを外し血
流を再開した。虚血再灌流手術後7日後に血清の尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)を測定し、左腎臓を摘出して免疫組織学的検討、イムノブロッ
トを行った。【結果1虚血再灌流後1週間後の検討では、BUNではSOD−1ノックアウトマウスで有意に高値であり、Crについても高値となる傾向で
あった。また、虚血再還流後24時間後の検討では若いマウス(10−12週齢)では、SOD−1ノックアウトマウスCrが有意に高値でありBUNが高値
傾向であった。老齢のマウス(24−28週齢)ではBUN,Cr共にSOD−1ノックアウトマウスで有意に高値であり、SOD−1ノックアウト群では急性腎
不全が高度であると考えられた。また、腎臓の組織標本においても、SOD−1ノックアウトマウスで尿細管の拡張、尿細管上皮の空胞状変化、及び尿
細管上皮の脱落といったダメージがより顕著であった。また、免疫組織染色ではDNAの酸化ストレスの指標である8−OHDGの発現が虚血再灌流を
行ったSOD−1ノックアウトの群で高くなっていた。これらの、野生型マウスとSOD−1ノックアウトマウスとの間の障害の程度は老齢のマウスで特
に顕著であった。【結論1今回、炎症によって惹起された活性化好中球から産生される活性酸素種を消去するSOD−1の欠乏が腎不全を悪化させること
が明らかとされた。活性酸素種は、それ自体の直接の臓器障害だけでなく、一酸化窒素の合成を誘導することなども知られている。一酸化窒素が虚血
再灌流障害に不利に働くか有利に働くかは未だに議論の残るところではあるが、活性酸素の消去が腎不全に有利に働くことが示された。これらの結果
は、臓器移植時などにみられる虚血再還流による急性腎不全に対して抗酸化剤や抗炎症剤の投与が有効である可能性を示唆するものである。
APP−090carbamylatederythr・p・ietinによる腎虚血再灌流傷害に対する組織保護効果
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(泌尿器科)1),大阪大学大学院医学系研究科先端移植基盤医療学2),
大阪大学保健センター3)
今村 亮一1),猪阪 善隆2),守山 敏樹3),市丸 直嗣1),張 道中2),高原 史郎2),奥山 明彦1)
【目的】今日、われわれの報告を含めerythropoietin(EPO)が主に腎、心、神経組織の虚血傷害に対し保護効果を持つことが証明された。とく
に腎移植において、われわれはこれまでEPO術前投与が、腎虚血再灌流傷害予防に有効である可能性を提示してきた。しかしながらEPO投与
による造血効果のため、本来健常である臓器提供者に多血症等の種々の合併症を誘発する可能性も否定できず、臨床応用に向け重要な検討課題
であった。近年EPOに対する受容体が造血作用と組織保護作用では異なり、さらにcarbamylation反応を誘導したEPO(CEPO)は、組織保
護に対する受容体のみに対し高い親和性をもつことが報告された。つまり組織保護のみに働き、造血効果は示さない可能性が示唆され、目的と
していた移植術前投与に有用である可能性が高いと考えられた。われわれはCEPOを精製し、ラット腎虚血再灌流傷害に対する組織保護作用に
関し検討した。【方法】42匹の雄性Sprague−Dawleyラットを3群に分類し、それぞれコントロール群(n=15)、EPO(投与)群(n=12)、CEPO
(投与)群(n=15)とした。コントロール群には1m1の生理食塩水、EPO、CEPO群にはそれぞれ100単位/KgのEPOおよびCEPOを隔日で
2週間、計6回皮下投与した。なおCEPOはEPOにシアン化カリウムを反応させ、リジン基をカルバミル化させることで精製した。最終投与
翌日に腹部正中切開下に45分間両側腎門部を阻血し、再灌流24時間、72時間、7日後の各パラメーターおよび腎組織所見を評価した。【結果】
血液検査上、血清Cr値は他群に比しCEPO群で有意に抑制されていた。TUNEL染色によりapoptosisを検討したところ、コントロール群に比
しEPO,CEPO群で有意に抑制されており、その抑制効果はCEPOにおいてより強力であった。またalpha−smoothmuscleactin(alpha−SMA)
においても同様の結果であり、CEPOは尿細管間質の形質転換を抑制していることが示唆された。粗織保護効果の機序をWestem blotにて検討
したところ、CEPO群においてPI3K−Aktpathwayの発現の充進を認めた。CEPO群ではE26trans‘ormationspeci且c−1(Ets−1)の発現の充進
が認められ、Ki−67の発現の充進も認めたことより、CEPOは尿細管の再生をも促進していると考えられた。CEPO群ではEPO群に比しhemo・
globinの上昇は認められず、コントロール群と有意差を認めなかった。【結論】CEPO投与により、コントロール群のみならず、EPOと比しても
より強力に腎組織保護効果を認めた。また造血効果は認められず、前述の腎移植術前投与に対し、より有用性が高いと考えられた。