社会医療法人 黎明会北出病院

医学フォーラム
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<病 院 だ よ り>
社会医療法人 黎明会北出病院
院長
は
じ
め
尾 崎
に
和歌山県御坊市の地に現理事長である北出俊
一が「北出外科病院」として病床 22床の病院を
開設したのは,昭和 37年 12月でした.当時は
開腹手術を行う施設は近辺になく,県下の田
辺,串本などからも多くの患者様が集まったと
いいます.開設当初より北出理事長は進取の気
概に富み,昭和 57年 QCを取り入れた業務改善
の取り組みを始め,また昭和 63年には当時県下
でまだ数台しかなかった MRIを導入.さらに
当初より漢方診療を積極的に取り入れ,昭和 61
年には中国より研修医 2名を招聘.このころよ
り始まった中国上海の病院との姉妹関係は現在
充
も続いています.一方検診事業への参入も早
く,昭和 58年には成人病検診指定病院となり,
平成 5年には健康管理増進施設を開設.積極的
に企業検診,住民検診,人間ドッグなどを行い,
現在の検診実績は年間 3万人を超えています.
さらに平成 24年度より日高川町の検診が新た
に加わり,早くから念願であった日高郡内の住
民検診を一手に行うこととなりました.また平
成 8年より休日診療を開始し年中無休体制を打
ち出し,平成 20年よりさらに休日の小児救急を
始め,当時対応が遅れていた休日診療や休日小
児救急への対応を図りました.こうした実績が
認められて,平成 21年には社会医療法人に認定
され,和歌山県下では現在のところ 2施設が認
現・北出病院 外観
〒644
‐0011和歌山県御坊市湯川町財部 7284
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定病院となっています.
北出病院が立地する日高地域は和歌山県の中
央部にあって,住民およそ 7万人の二次医療圏
です.病院の近隣には国保日高総合病院,独立
行政法人国立和歌山病院,および北裏整形外科
病院の 3病院があり,これらの施設と北出病院
との連携も比較的スムーズに行われ,和歌山県
の他の二次医療圏に比べれば比較的恵まれた医
療環境にあります.しかし小児救急の不足,在
宅高齢者のサービスなどに課題が多く,社会医
療法人病院として救急体制の充実,在宅高齢者
医療,過疎地医療などへの対応が迫られている
と言えるでしょう.
沿
革
昭和3
7
年1
2
月 北出外科病院として発足.一般
病室 22床
昭和3
8年10月 北出胃腸病院に名称変更.
昭和5
7
年 9月 外部講師による QC教育を始め
る.
昭和5
8
年 6月 和歌山県健保連(組合管掌)の
成人病検診指定病院となる.
昭和5
9
年 4月 東洋医療(漢方)診療開始
昭和6
1
年1
1
月 中国より研修医 2名を招聘
昭和6
2
年 3月 特定医療法人に承認される.
昭和6
3
年 1月 外来透析開始(透析ベッド 20
床)
昭和6
3
年1
2
月 増改築にて病床数 108床とな
る.MRI導入.
平成 1年1
2
月 中国上海普陀区中心医院の招聘
により北出院長が訪中.名誉顧
問に就任.友好関係が始まる.
平成 5年 5月 健康管理増進施設開設.施設内
に健診センター・キタデおよび
フィットネスクラブ・アクオを
作り,人間ドッグ,住民検診,
企業検診などの事業を本格化す
る.
平成 6年 4月 訪問看護ステーションと在宅介
護支援センターを開設.
平成 8年 4月 休日診療を開始.年中無休体制
を打ち出す.
平成 9年 3月 日高川町に老人保健施設「和佐
の里」を開設.園芸療法を取り
入れた認知症治療に取り組み,
全国的にも注目された.
平成1
2
年 4月 一般病床 80床,療養型病床 102
床へ増床.
平成1
3
年 7月 日本医療機能評価機構の受審,
合格.
平成1
7
年 6月 回復期リハビリテーション病棟
開設.41床.
平成1
7
年 6月 I
SO9001
:2000認証取得.
平成1
9
年 3月 地域リハビリテーション広域支
援センターの指定を受ける.
平成2
0
年 7月 病児・病後児保育委託事業開始
平成2
0
年 8月 休日小児救急診療開始
平成2
1
年 4月 DPC対象病院となる.
平成2
1
年 7月 社会医療法人に認定される.
法 人 の 概 要
社会医療法人黎明会は北出病院以外に 3つの
施設を有します.
1.健康管理増進施設
《健診センター・キタデ》および《メディカル
フィットネスクラブ AQUO》を有し,前者では
成人病検診,人間ドッグ,一般検診,企業検診,
特殊検診などを行っています.また《メディカ
ルフィットネスクラブ AQUO》
ではマシンジム,
ダンススタジオ,温水プール,入浴施設などを
備え,地域でも珍しい医療法人の経営する
フィットネスクラブにより地域住民の健康な運
動習慣を奨励しています.
2.介護老人保健施設 和佐の里
認知症専門棟 50床,一般棟 50床を備え,現
在通所リハビリ 50名,予防通所リハビリ 18名
などの,リハビリテーションによる高齢者の健
康管理を積極的に進めています.
3.訪問看護ステーション・キタデ
看護師 8名,准看護師 2名,理学療法士 6名
のスタッフを擁し,訪問看護,訪問リハビリ
テーションなどの在宅サービスを積極的に進め
ています.
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病 院 の 現 況
黎明会北出病院は現在病床数 182床,うち急
性期病床 79床,ハイケアユニット 4床,回復期
リハビリテーション病床 39床,亜急性期病床 9
床,療養病床 51床(すべて医療保険適用)の内
訳となっています.
診療内容は,開設以来の伝統である消化器外
科診療が第一の大きな柱となっています.平成
23年 4月より京都府立医大消化器外科教室より
園山医師を招聘し,同教室の石原医師と共に現
在 5名の消化器外科常勤医を擁しています.園
山医師による肝切除などの専門性の高い手術が
行われるようになり,平成 23年度の外科手術件
数は 246例と前年度より 10%強の件数増加でし
た.また,胃がん,大腸がんなどの腹腔鏡手術
の例数も増加しています.
一方,内視鏡医療の進展により,EMR,ESD
などの内視鏡治療の需要が増加しており,当院
でも超音波内視鏡,拡大内視鏡などの器機を揃
え,京都府立医大消化器内科教室出身の織田医
師が中心となって診療に当たっています.平成
23年度は検査総数 4008件と初めて年間 4000件
を超えました.
当院では平成 12年より整形外科の診療を始
めており,関節鏡などによる内視鏡治療を積極
的に行っています.上下肢骨接合術,膝・股人
工関節置換術,膝・肘・肩関節鏡視下手術,手
の外科,腫瘍切除術,下肢切断術など平成 23年
度の手術実績は 154例でありました.
また脳外科医が 1名常勤しており,脳血管疾
患の受け入れ,リハビリテーションなどを行っ
ています.当法人では PT,OT,ST併せて 61
名のセラピストを擁しており,
「地域リハビリ
テーション広域支援センター」の指定を受けて
いて,地域のリハビリテーション診療の指導的
な施設として疾患の改善,ADLの向上に努めて
います.
平成 8年に年中無休体制を打ち出してより地
域の救急医療への貢献を常に心がけてきました
が,最近になり漸く救急件数も増加し,平成 23
年度は救急受け入れ件数が 823件と,10年前の
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2.
5倍となっています.また平成 21年より夜間
の当直医を 2名態勢で対応しており,より幅広
い救急疾患の受け入れに努めています.
昭和 63年より外来透析を始めていましたが,
透析専門医の就任と共に患者数が増加し,平成
24年には 60名の透析患者が通院するようにな
りました.今後長時間透析など新しい透析方法
に取り組み,地域の透析医療の先進施設を目指
しています.
北出病院では平成 5年より糖尿病専門外来を
行っており,メディカルフィットネスクラブ
AQUOと共同で運動療法などで大きな成果を上
げています.平成 23年度より京都府立医大代
謝・内分泌内科教室より非常勤の医師の支援を
いただいており,今後日高地域の糖尿病診療の
中心的な役割を担うべく努力しています.
また,京都府立医大出身の小児科医が常勤し
ており,喘息,皮膚アレルギーなどの小児アレ
ルギー専門外来を立ち上げ,地域のアレルギー
児の診療にあたっています.
北出病院では早くから感染対策委員会,I
CT
などの活動を行っており,平成 24年度には感染
対策の認定看護師が誕生することとなり,院内
感染防止になお一層努めています.また,NST
(栄養サポートチーム)
,褥瘡対策委員会,リス
クマネジメント委員会などのコメディカルス
タッフ中心の委員会活動が活発に行われていま
す.
今後の課題と展望
北出病院の現在の病棟は 50年前の開設当時
の建物を含め老朽化が著しく,最新の耐震基準
では不合格となることが分かり,早急に改築の
必要が出ていました.最近になり土地の確保が
出来ることとなり,全面的に外来棟,病棟の増
改築を行うこととなりました.職員で様々な意
見を出し合い設計図も一通り完成し,平成 24年
3月より工事を開始しています.設計図上は総
床面積約 10000m2の広大なものとなりました
が,それだけ働きやすく患者様にも喜んでもら
える病院が出来そうだと期待しています.現在
のところすべての工事の完成は平成 26年 6月の
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予定です.
日高医療圏は県下 7医療圏の内,人口 6万
7000人余りと最も住民数の少ない地域であり,
特に 15歳から 64歳までの若年人口の占める割
合が全県で最も少なく,反対に 65歳以上の高齢
化率が 28.
8%と新宮医療圏に次いで 2番目に高
いという,県下でも有数の高齢化地域となって
います.住民層のこのような高齢化率の高さは
毎年の死亡率,さらに死亡の原因となった疾患
の内容にも反映されており,人口千人対の死亡
率は 14.
4人と県下で 2番目に高く,その死亡原
因となった主要疾患死亡率では悪性新生物,心
疾患が高い割合となっていて,これらの割合が
全県下で 2番目に高くなっています.がんの部
位別では胃がん,肺がん,大腸がんが全国平均
を上回っており,しかもがんによる死亡率は
年々上昇しています.平成 17年度と平成 22年
度の比較データを見ると,脳血管疾患の死亡率
が 5年間で 34%も低下しているのに比べ,心疾
患による死亡率が 26.
5%増加,肺炎も 48.
7%増
加,そしてがんに至っては 68.
1%も増加してい
ます.高齢者の割合が増加するに従い,今後も
こうした傾向は続くものと思われます.
一方がん検診の受診率は胃がん,大腸がん
で,検診を受けるべき住民のうちの 20%前後,
肺がん検診で 28%程度と,検診を受けている人
は住民の 2
~3割程度にしか過ぎず,まだまだ低
い数字です.
こうした高齢化率の高さ,がん,心疾患によ
増改築完成
る死亡率の高さなどの日高医療圏の特徴を考え
ますと,今後私たち医療者が考えてゆく方向と
しては,やはり胃がん,大腸がんを含めた消化
器がん診療の充実と,さらにはがん検診の充実
が求められます.検診受診率向上のために講演
会などの啓蒙活動も必要になるでしょう.
一方,がんや肺炎などで入院された高齢の患
者様を迅速に地域の医療機関へとつないでゆく
ためには,診療所や施設との連携が大きなキー
ワードになります.日高地域は都市部から遠い
ために若い勤労者層が流出してそのために独居
老人が多く,今後も訪問看護,デイサービスな
どの在宅サービスの重要性がますます高くな
り,診療所などの医療機関との連携が必要で
す.最近,サービス付き高齢者向け住宅などの
在宅施設が作られ始めていますが,こうした高
齢者の在宅環境を整えるために,私たちとして
も出来ることを考えてゆく必要があります.
訪問看護,訪問リハビリに始まって,訪問栄
養指導,服薬指導なども介護サービスの一環と
して考えられています.更に治療食の宅配など
も行われている地域があります.このような在
宅サービスは今後ますますニーズのある分野に
なるものと思います.
北出理事長がいつも言われるように,
『患者
さんのためになることを一生懸命やっていれば
必ず報われる.
』その事を信じてわれわれも更に
頑張ってゆきたいものだと考えています.
予想図