医療型障害児入所施設 京都府立舞鶴こども療育

医学フォーラム
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<病 院 だ よ り>
医療型障害児入所施設
京都府立舞鶴こども療育センター
所
長
診療部長
は
じ
め
濵 岡 建 城
四 方 あかね
に
2010年にこのフォーラムページに施設紹介
をさせて頂いて以来,5年の月日が経ちました.
この 5年間に肢体不自由児施設を取り巻く状況
はめまぐるしく変化し,舞鶴こども療育センター
もその例外ではあり得ませんでした.中でも中
丹地域医療再生計画に伴い当センターの移転整
備が決定されたことと,児童福祉法改正によっ
て障害児入所施設が障害種別や重症度にかかわ
らず「医療型障害児入所施設」として一元化さ
れたことは,療育センターの今後の方向性を変
える重要なできごとでした.今回の病院だより
では,2016年春の移転に向けた取り組みも含め
てご報告します.
沿
革
1958
年
(昭和3
3
年)
12
月 国家公務員共済組合連
合会により京都府下で
初めての肢体不自由児
施設として舞鶴共済整
肢学園を開設(40床)
1979
年
(昭和5
4
年)4月 京都府立舞鶴こども療
育センターとして新設
移転(60床)
,共済組合
連合会が京都府から管
理運営を受託,同年 5
月身体障害者診断指定
医療機関に認定
1983
年
(昭和5
8
年)4月 日本整形外科学会認定
医制度研修施設認定,
府立看護学校看護実習
指定病院認定
2003
年
(平成1
5
年)4月 精神科を追加標榜
2006
年
(平成1
8
年)1月 重症心身障害児(者)通
園事業 B型開設
2006
年
(平成1
8
年)
10
月 障害者自立支援法によ
る短期入所,契約入所
実施
2012
年
(平成2
4
年)4月 医療型障害児入所施設
に移行
京都府立舞鶴こども療育センター完成予想図
〒625
‐0080京都府舞鶴市北吸無番地
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現
況
診療科:整形外科(週 2回)
,小児科,リハビ
リテーション科,精神科(月 2回)
,小児外科
(月 1回)
,歯科(週 1回)
医師の派遣について:医師は 1971年に地域
医療への貢献を掲げて本学に設置された医療セ
ンターの職員として配置されています.所長は
2004年度まで歴代の本学整形外科学教室教授
に,2005年度からは小児科学教室教授に兼任し
て頂いており,現在は小児科学教室循環器・腎
臓小児科学部門教授の濵岡建城所長のもと地域
医療に邁進しています.
整形外科:2013年度より非常勤体制となり
ました.毎週水曜日は舞鶴赤十字病院の片山先
生と西田先生に交互に外来診療を担当して頂い
ており,入所患者の姿勢や装具についても診て
頂いています.金曜日は月 1回北部医療センター
の吉田先生に,それ以外の 3回ないし 4回は本
学整形外科学教室から小児整形外科専門の金先
生はじめ多数の先生方に来て頂いており,舞鶴
にいながらにして大学の先進医療の知識に触れ
ることができます.整形外科診療の主な内容は,
脳性麻痺,頭部外傷後遺症,二分脊椎,神経筋
疾患,代謝・変性疾患などによる身体障害の診
察,装具処方,ボツリヌス治療等です.重度痙
縮に対してバクロフェン持続髄注療法を行って
いる入所患者が 2人おられ,この分野の第一線
で活躍されている本学池田先生に治療をご指導
頂いています.非常勤の先生方のご尽力で整形
外科外来閉鎖の危機は乗り越えているものの,
整形外科手術に伴う入所を受けられないことが
経営上の大きな損失となっており,常勤医体制
の復活を切望しています.
小児科(常勤医 2名,非常勤医 1名)
:外来で
は発達障害,心身症,夜尿,チック,緘黙,愛
着障害など児童精神科領域の疾患,ダウン症候
群などの染色体異常や奇形症候群,脳性麻痺と
それに伴うてんかん,中枢神経疾患後遺症,神
経筋疾患などの診療を,完全予約制で行ってい
ます.2009年より臨床心理士を採用し,不登校
や引きこもりに対するカウンセリングも可能と
なりました.発達障害診療では,家庭,学校,
医療機関の 3者が共通認識を持って当事者を支
える事が重要であり,学校の先生方との面談を
日常的に行っています.また虐待のリスクも高
いことから,要保護児童対策地域協議会(子ど
もを守る地域ネットワーク)にも多く関わって
います.丹後保健所で年 18回,中丹西保健所で
年 6回の発達クリニックを担当し,舞鶴まで足
を運べない方の相談も受けています.
リハビリテーション科:理学療法士 2名,作
業療法士 2名,言語聴覚士 2名の体制で子ども
の発達を最大限に引き出す専門的な(リ)ハビ
リテーションを行っています.
精神科(非常勤医 1名)
:月 2回もみじヶ丘病
院の谷先生が担当し,内容は発達障害の二次障
害や,成人施設における行動障害など,ほとん
どが困難なケースの相談です.
重症心身障害児(者)通園事業 B型は,2012
年の一元化以降は児童発達支援事業・放課後等
デイサービスとして継続しており,一日定員 5
人です.9時半から 3時半までの通園部門では
40分枠のリハビリテーション枠ではできない
摂食訓練が可能です.看護師が常駐しているの
で医療的ケアが必要なお子さんも四季折々の行
事に安心して参加して頂くことができ,利用者
アンケートでも通園部門は大変好評です.地域
の保育園への入園に不安があるお子さんでも,
集団ならではの楽しさが経験できる場です.
入所部門は年々人数が減少するとともに患者
の多様化・重度化が進み,今年度は 22人中 14
人が歩行不能かつ I
Q35以下の重症児です.人
工呼吸器の必要な患者の入所依頼には現状では
答えられません.短期入所(在宅障害児のレス
パイト入所)の枠は 1日 2人で,前年度 1日平
均 0.
7人から今年度 0.
9人に微増しています.短
期入所の対象疾患は肢体不自由に限定していま
せんが,寝たきりの重症心身障害児と行動障害
のある知的障害児とを同じ空間でケアすること
は不可能ですので,看護部が部屋割りや人員配
置などその都度工夫して対応しています.
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障害児福祉・医療の変遷
当センターは医療機関であると同時に児童福
祉法に基づく児童福祉施設でもあります.児童
福祉施設のうち障害児入所施設(第 42条)には,
「福祉型」と「医療型」があり,さらに医療型は
従来,知的障害児施設,肢体不自由児施設,重
症心身障害者施設に分類されていました.この
3種の施設が前述のように
「医療型障害児入所施
設」として一元化されましたが,3種の施設は異
なる施設基準に基づいた設備と職員配置で運営
しているため,本来の対象疾患以外の重症児に
対応するのが,すぐには難しい状況です.現段
階では,すべての障害児に対する受け入れ努力
をしつつ前身の専門分野を生かした対応を行う
ことが,各施設に期待されています.
この法改正は自施設の存在意義を改めて見直
す機会となりました.肢体不自由児施設は,
1947年に公布された児童福祉法の第 43条の 3
において「上肢,下肢または体幹の不自由な児
童を治療するとともに,独立自活に必要な知識
技術を与えることを目的とする施設とする」と
明記され,当時まだ一般的でなかったリハビリ
テーションの理念をもとに,医療的機能をもっ
た児童福祉施設として福祉制度の中に位置づけ
られたとされます.
「療育」とは,治療,教育,
職能の三位一体を表す言葉であり,肢体不自由
児施設としての舞鶴こども療育センターは,心
身の障害が軽度から中等度の範囲にある児を対
象とし,医師,看護師,療法士,保育士,児童
指導員と隣接する支援学校の教師がチームを組
んで,自立と地域移行を目標に療育を行ってき
ました.しかし 1977年をピークに全国肢体不
自由児施設入所児数は減り続けており,当セン
ターでも 1日平均入所患者数が 1989年度 52人
から 2014年度 24人にまで減少しました.これ
はポリオ,結核性関節炎,先天性股関節脱臼,
血友病性関節障害などの整形外科疾患が減少し
たこと,軽度肢体不自由児が家庭から通学でき
る環境が整ったことなど,喜ばしい変化の結果
ではありますが,肢体不自由児施設にとっては
根本的な変革を迫られる事態となりました.
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一方で,重症心身障害児(者)施設は常に満
床で待機児(者)を多数抱えており,全国の肢
体不自由児施設のうち 11施設が 2006年までに
重症心身障害児入所施設へと運営方法を方向転
換し,地域のニーズに答えながら経営を改善し
ました.しかし大多数の肢体不自由児施設で
は,当センターのように旧体制のまま重症児を
受け入れているのが現状です.また,肢体不自
由児施設入所児の 2割を虐待など養育上の問題
に帰する社会的入所の児童が占め,その中には
身体障害が全くない知的障害児や自閉症児も多
く含まれるようになってきました.
今回の法改正はこのような現状の歪みを是正
し,重症児の在宅支援を強化するために施行さ
れたものと言えます.
移転整備の概要
2016年 4月に舞鶴医療センターへの敷地内に
移転し,2階建ての 1階が外来部門,2階が入所
部門と舞鶴支援学校分校になります.
外来部門は障害児療育の北部拠点としての機
能を強化するため,新たに精神科診察室,心理
療法室,スヌーズレンルーム,在宅障害児支援
室を設置して児童発達支援事業を拡充します.
リハビリテーションスタッフを増員し,十分な
頻度で各療法が行えるようにするほか,保育所
などに出向く地域支援事業の計画に着手してい
ます.
入所部門は定床 30に減じる一方,短期入所を
一日最大 5名受け入れる計画で,医療の必要性
が高い重症児と,行動障害のある多動児の両方
に対応できるよう,病棟を 3つのユニットに区
切ります.医療ユニットはナースステーション
の最寄りに配置し,舞鶴医療センターと連携し
て準超重症児の受け入れを目指しています.行
動障害児ユニットは個室 8床と仕切りのない広
い空間からなり,多動のある児童も過ごしやす
い環境を整えます.医療行為や多動への配慮が
必要のない大半の子供たちは,家庭のような生
活空間ユニットですごせるようになります.食
事も調理室からサテライトキッチンへ運ばれ,
家庭的な食事風景を作り出します.このユニッ
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トケアを成功させるため,子ども一人ひとりに
寄り添う新たな看護シフトに取り組んでいます.
移転整備への道は険しいですが,大学ならび
に周辺関係機関の先生方のご支援のもと,子ど
もたちの笑顔あふれる施設へと生まれ変わるよ
う全力を尽くす所存ですので,よろしくお願い
申し上げます.