非ステロイ ド系抗炎症剤 (NSAーD) の治療効果と その

非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)の治療効果とその
作用機序に関する研究
研究代表者 成田光陽 研究協力者 小山哲夫,稲毛博実
筑波大学臨床医学系内科
1.序言 慢性腎炎の治療は病型によって rad重oimmunoassay法を用いた。血小板より
も異なるが、ステロイド・免疫抑制療法の他に、の5−H T放出反応はO PT塩酸法そ用いて蛍
現在は主として抗血小板療法、非ステロイド系光法により測定した。
抗炎症剤(NSAID)療法が行われている。
現在頻用されている酸性NSA I Dは非常に速 3・成績 1)azapropazoneの臨床効果につ
効性で、強力な蛋白尿減少効果を有している。 いては表1のごとくで・尿蛋白減少効果は5&3
その副作用としては腎機能の低下、浮腫、尿量彩が著効、25%が有効であり、16.7が不変で
の減少などが指摘されているが、N S A I Dの あった。一方腎機能に関しては・14・7彩が不
尿蛋白減少効果の機序との関係は未だ明確でな変であり、58.3%が低下した。
い。本研究は種々のN SA I Dの臨床的効果並表1 成 績(アザプロパゾン)
びにNSA I D投与による腎病態の変化につい
て検討し、N SA I Dの尿蛋白減少効果の機序
夢走 伽明
■
について若干の考察を加えた。
2.対象・方法対象は慢性腎炎患者31例で、
酸性NSAIDとしてはazapropazone,pirox.
icamを使用し、塩基性NSAmとしてtiara
mideを用いた。臨床効果の判定基準として、尿
蛋白減少効果については、D=〔1一(投与後
2
3
4
5
6
7
8
9
■ 0
白排泄量)÷投与前1週間尿蛋白排泄量〕×100
■ ■
(%〉を用い、D≧50を著効、50>D≧25を有
効とした。腎機能については、D=〔1一(投
与後Ccr値一投与前Ccr値)÷投与前Ccr〕×
100(%)を用い、D値が25%以上減少したもの
■ 2
畢
畢
亭
畢
畢
畢
畢
ウ
畢
畢
畢
⇒
ゆ
ゆ
ゆ
ゆ
ウ
畢
畢
畢
⇒
弓50z以上滅少
マハ2(58,3沿
轟平 1面
腎 機 o縁
25−50客減少
3112 (25.0=)
不変
211’
畢
[﹀
尿蛋白排泄量1週間平均値一投与前1週間尿蛋
蛋 白 重泉 .
畢
o 不嚢 了112(41.7零)
瀕少
5112 (58。3わ
(16、7驚)
を腎機能低下とした。
これらのN SA I Dを腎機能に応じて投与量 しかしながら、投与量を減ずる事により、腎機
を加減しながら、或は血中濃度を測定しながら能の低下を来すことなしに尿蛋白減少を来す事
使用することによりその最少有効量を求め、かが可能である。このことは図1のごとく尿蛋白
つその際の腎病態、特に腎機能(GFR,RPF)、の変化率を横軸に、Ccrの変化率を縦軸にと
尿蛋白、血中・尿中prostaglandi兎(PG)、血 り、投与直後(図1−a)と投与鼻を調節した
小板放出反応の推移を検討した。P Gの測定は 3週間目(図1−b)との比較で、腎機能の低
一15一
下と尿蛋白の減少が解離し、尿蛋白減少効果が下は酸性、塩基性NSAIDともに認められた。
著名となることからも明らかである。
表2成績(ピロキシカム)
図1−a尿蛋白と腎機能の変化率の経過
アザブロバゾン
4』G o r
蛋 自 尿
腎朝陸禽巨上昇
尿至口自減少
2
3
畢
5
6
7
8
9
かIOO軍 4UP
+聞竃
響30
\迅”
腎槻郭旨低下1
腎楓肉旨{匡下
尿誠自畑加i
尿置臼,或少
殻与』開始■迎扱
φ
亭
畢
⇒
o
畢
ウ
畢
畢
ウ
D
σ
■ 0
4C g『 0600叫/‘轟γ
△¢00m8■ご昌ン
畢50藩以上減少
ロ200−50m窟/d5y
6110(60.0驚)
図1−b 尿蛋白と腎機能の変化率の経過
言平 {而
25−5儲減少
不変
!10(80.0審)
少2110(20.0峯)
2!且0(20,0=)
アザプロバゾン
」4C c r
腎槻幽匡一ヒ昇
尿舐自2曽コ旧
φ
畢
畢
畢
畢
4
』u p 腎 機 霜邑
o
■
︹>
賢槻働上鐸:
塀世自増加『
症 仮噌
不爽
7び槻愈瞳一ヒ昇
2!10(20.0客)
尿歪煙臼渦吃少
50竃
図2−a
−U P
ゆ ま ロ ヤロロぼ
,50零
尿蛋白と腎機能の変化率の経過
ピロキシカム
4」C c r
6』U P
一薗
腎磯禽旨上昇
尿ヨ匠自減少
腎機倉巨上昇
尿蛋自増力ロ
腎襯〃邑{殴下
弼 膏機能低下
尿ヨ隆自,曽加
◎亀眺
尿至量自薯収少
●600悶ε/d昌γ
股与扱3週以降
▲400m3/d畠y
一Cc r■ 口200爵ξO胤8/d隔y
届』U P
r四鑑
こ つ れた。piroxicamではazapropazoneに比し、
比較的腎機能の低下率が低く、投与3週間目と
殆ど変化を認めなかった(図2−a,b)。
』U P
.1,\
2)piroxicamの臨床効果についてはazapro−
pazoneと同様であり、表2のごとく尿蛋白減
少著明のもの60%㍉やや減少したもの20%であ
り、また腎機能の減少したものが20彩に認めら
ロて
・如ヱ
腎櫨能低下i
尿蛋自増加i
腎曜麗禽巨1氏下
尿ヨ医自滅少
』C c r 投尋開始1返復
020m耳/d己y
△10mg/“y
口5−2.5m8/6ay
4)NSAID(piroxicam)投与前後の血中、尿
3)塩基性NSAIDである塩酸tiaramideで
中P Gの推移については図3のごとく、P G F
はその臨床効果は酸性N SAI Dに比して弱く、
2α.,.PG E2ともに有意に低下する。
表3のごとく尿蛋白の減少効果は22.2%に認
められたが、腎機能の低下率も低値であり、
5)N S A I D投与前後の血小板中、血漿中の
5−HT、即ち血小板よりの5−HT放出反応
33.3%であつた。尿蛋白の減少と腎機能の低を検討してみると、N S A I D投与によりその
一16一
放出反応は有意に抑制されていた(図4)・
図3
図2−b尿蛋白と腎機能の変化率の経過
ピロキシカムによる血中 ピロキシカムによる血中
ピロキシカム
メ』C c r
PG関連物質の変動 PG関連物質の変動
腎機禽巨上昇
尿ヨ資自減少
賢掘禽隆上昇
尿ヨ隆自増カロ
\
rp o、噂r
:騒ll鴇,
◆30竃
曙5阿量“
一UP
隔 細謝
◎50= qoo零
‘」U P
冒30、 O
、
腎機臼巨1氏下
尿五資臼減少
尿蟹目増抑
憶
\
、
腎搬能低こ下
』一・P O.鳴一一屠
p o.腸
氏惜。隅
舳階 川亀Or
.6C c r 投尋役3週以陣
●20ロ9/d巳ン
e酬配o A促”
図4
▲10m‘/d置y
腸5−2.5α}‘/d&y
Pbsma5HT,htrapl8telet5HT and Proteinuri8,
UR Un UR UP
表3成績(塩酸チアラミド)
deoro8s・d uncha㎎ed dOGro麗gd mcha曜●d
n区/㎡
症 傅唖
畢
[﹀
4
︻﹀
2
3
ウ
[>
■
蛋 臼 尿
腎 機 自旨
80fore
A 昭力♂国
f零敏r
8
B
A
A
B
400
400
200
2●o
畢
畢
ゆ
ウ
σ
5
』P<02一
6
畢
0
畢
±60.‘ ±”9.2土29.6 ±38.8
⇒
o
7
1r慮rq頃鵬dbt5H↑
P幅5m●5HT
⇒
ウ
8
φ
9
が、その副作用として消化器障害、造血器障害、
LP<O.02謡
185., 131.6 209.8 210.8
172.9 369.竃 223、5 ∼Z2.3
±62,0 士40.5 士54.1 ±13.5
1﹀
⇒不変 6/9(66.?乞)
畢50纏上減少
腎障害、特に腎機能の低下、浮腫、乏尿があり、
219(22。2:〉
その使用にあたり、注意を要する薬剤である。
減少
25−50:滅少
喬平 1面
3/9(33.3零)
0!9( 0=)
N S A I Dの尿蛋白減少効果についての作用機
不変
序は抗血小板剤同様不明の点が多い。 第一に
7!9く77.8駕)
Michielsenらは酸性NSAI Dが強力に腎PG
4.考察 腎疾患に対する治療法で現在広く用 の産生を抑制することから、angiotensinの存
いられているものは、ステロイド・免疫抑制療在下、腎血流量の低下を来し、ひいてはGFR
法を除けば、抗血小板療法とN SA I Dがそのの低下により尿蛋白は減少すると報告している。
大半を占めている。特に小児期を含め慢性に経確かにNSA I Dを投与することにより明らか
過する腎炎においては、副作用が少なく、かつ に腎機能、GF Rの低下を来すが、今回の成績
長期間使用に耐えるものであることが望まれる。でも明らかなように必ずしも尿蛋白減少効果と
N S AI Dはその尿蛋白減少効果が顕著である 腎機能低下作用とは平行しておらず、投与量の
ことより、古くから使用されている薬剤である 減少により腎機能の低下を来すことなく尿蛋白
一17一
の減少をもたらすことが可能であり、極端な場
により定まる。かかる点を考慮すれば、腎疾患
合、本剤中止後、腎機能が正常化してもその効
に対する本療法の意義については短期効果のみ
果が持続する。すなわち、この現象は必ずしも
でなく、長期にわたるcontrolled trialによる
腎機能の低下とは関係なく、しかも、P Gの産
解明が必須であると考えられる。
生に無関係とされている塩基性NSA I Dにお
いても同様の現象が生じる事からも、この効果 6.文献
をP Gのみに帰することはかなり無理があると
1)Michielsen,P.ヲVerberc㎞oes,R.:
考えられる。第二に本剤は広義には抗血小板剤
Treatment of proteinuria with an antiin−
であり、我々の成績でも、抗血小板剤と同様に
flammatory drug.Abstacts.3rd lnt.
血小板よりの5−HT放出を抑制することが判
Congr.Nephrol.Wa shington,P342,1966,
明している。これらの薬剤は5−HTをはじめ、 2)Michielsen,R et al.l Treatment of
種々のmediator、特に毛細血管の透過性因子 chronic glomerulonephntis w量th indome−
の放出を抑制することが知られており、本剤も thac童n.Proc.Wth Int Cong Nephro1.
抗血小板剤と同様にGBMのいわゆるcharge Stockholm,p92,1970.
barrierの保持に働くとの報告も考慮すれば尿 3)上田泰他:糸球体腎炎におけるIndome
蛋白減少効果の機序の一つと考えられる。第三
thacin療法の評価:日腎誌、16:351,1976,
に本剤は多核白血球のmigrationを抑制し、活 4)鏑木他:非ス.テロイド系抗炎症剤アザプロ
性酸素の発生を抑制する事が知られており、同 パゾンの腎炎に対する効果(第一報)目腎誌、
様に尿蛋白減少効果の機序として関与している
19: 421,1977.
ものと思われる。第四に、腎炎などによるrenal
5)東條静夫他:腎疾患時におけるPiroxicam
massの減少に伴う腎血流の代償性変化、即ち
療法。腎と透析、15:559,1983.
hyPe「filtration(vascular resistenceの低下、
6)成田光陽=ネフ・一ゼ症候群一治療、新腎
腎血流量の増加によるhydraulic pr.の増加、
炎のすべて。本田西男編、p255,1971.
ultrafiltaration coefficiency(Kf)の増加)
7)Garella,S.et a1.l Renal effects of
を来し、腎障害を進展させる事が知られている
prostag璽andins an(1 clinical adverse effects
が、NSA I Dはこの代償機能を抑制すること of nonsteroidal anti−i㎡lammatory agents.
により尿蛋白の減少および腎障害の進展を阻止 Medicineシ63;165,1984.
する可能性が考えられている。
8)Kutyrina,1.M.et al.l Effects of in−
このようにN SA I Dの尿蛋白減少効果につ
domethacin on the renal function and
いては諸説が推測されているが、本研究におい
renin−aldosterone system in chronic
て明らかなように、P G系の関与やGFRの低
glomerulone phritis。Nephron,32:244,
.下のみでは説明がつかず、多数の因子が関与し
1982.
〆
ているものと考えられる。
9)Michielsen,P,Varenterghem,V.
Proteinuria and nonsteroidal anti−inflam−
5.結論 N SA I Dの尿蛋自減少効果の作用
matory drugs.,Adv.Nephro1.12:139−
機序としてはG F Rの低下、毛細血管の透過性
150,1983.
の調節、炎症反応の減弱、腎血流状態の変化等
による機序が考慮される。慢睦に経過する腎疾
患では薬物療法の効果は基本的には原疾患の
natural courseにどのような影響を与えたか
18_寸