技術情報 材料設計支援統合システム Phononは、固体の格子振動を計算・評価するためのツールです。Phononの計算により、固体の自由エ ネルギーに格子の振動エントロピーと零点振動エネルギーを取り入れることができ、自由エネルギーの温 度依存性を評価するうえで重要なツールとなってきました。 今回は、Phononの開発者であるProf. Parlinskiのグループから昨年発表されたジルコニア(ZrO2)の 相変化についての論文[1, 2]を紹介します。調和振動子近似の改善に取り組んだ、Phononの開発における 新しい研究成果です。 ソフトモード ZrO2の相変化 ZrO2 は、代表的な耐火性セラミック材料として 図2から分かるように、立方晶ではX点でソフト 知られています。常圧下では、ZrO2 は3つの相を モードが出現します。図1において、立方晶が高温 持 ち、温 度 の 変 化 と と も に 単 斜 晶 系(P21/c, < での最安定相として得られないのは、立方晶の自 1400K ~ 由エネルギーが正しく評価されていないためで 2570K)、さらに立方晶系(Fm3m, >2570K)へ す。その原因の1つとして、自由エネルギーへのソ と構造相転移します。ZrO2 は、酸素ガスセンサー フトモードの寄与がカウントされないことにある や燃料電池の固体電解質等の応用からも注目され と考えられます。 1400K)か ら 正 方 晶 系(P42/nmc, ており、その相転移については理論と実験の両面 から研究が盛んに行われています。 計算条件 ・ZrO2 2×2×2スーパーセルモデル(96原子) ・LDA、ウルトラソフト擬ポテンシャル(VASP) 図 2 立方晶ZrO2のフォノン分散関係の計算結果 ・平面波カットオフ値494.6eV ・1×1×1 Monkhorst-Pack k-meshサンプリング 構造相転移の 構造相転移の計算 準調和振動子近似 振動 近似 調和振動子近似を改善するために、ソフトモー Phononを用いることで自由エネルギーの温度変 化を計算することが可能です。これらをプロット ドのポテンシャルとして以下の2種類の形式を用い て計算した結果が、図1の点線および破線です。 し、相転移温度を予測します。図1は、自由エネル ギーの温度変化を計算した結果です。単斜晶-正 Gaussian形式: 方晶相転移が1560Kで生じる結果が得られ、実験 2-4ポテンシャル: 1 2 2 ω 0 q + ε {exp( − q 2 / 2σ 2 ) − 1} 2 1 V (q ) = ω 2q 2 + µ q 4 2 V (q) = 結果である1400Kに近い値です。しかしながら、 準調和振動子近似を取り入れることで、エネル 高温での正方晶-立方晶相転移については、再現 ギー値が低く評価されており、高温での相転移は されていません。 再現されないものの、調和振動子近似が大きく改 善されていることが分かります。 本アプローチでは、正方晶-立方晶相転移を再 現するに到りませんでしたが、Phonon開発グルー プでは、積極的に計算手法の改善に取り組んでい ます。今後の研究がさらに発展し、Phonon開発に 反映されることが期待されます。 図 1 単斜晶を基準にした各相における自由エネルギーの 温度変化の計算結果(実線:各相での調和振動子近似での 結果、破線:立方晶でGaussian形式のポテンシャルを用い た結果、点線:立方晶で2-4ポテンシャルを用いた結果)。 1560Kでの正方晶-単斜晶間相転移が予測される。 100 | 菱化システム ニュースレター | 第13巻 第2号 参考文献 献 [1] M. Sternik and K. Parlinski, J. Chem. Phys. 122, 064707 (2005) [2] M. Sternik and K. Parlinski, J. Chem. Phys. 123, 204708 (2005)
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