2009年度集合と位相 - TOKYO TECH OCW

2009 年度集合と位相
2009 年 6 月 23 日
1
選択公理,ツォルンの補題,整列可能定理
2 つの集合 S と T の直積とは,すべての対の集まり {(x, y) | x ∈ S, y ∈ T } の
∏n
ことであった.これをもとに,有限個の集合 Si (i = 1, 2, . . . , n) の直積 i=1 Si も
∏
定義できる.無限個の集合 Sλ (λ ∈ Λ) が与えられたとき,その直積 λ∈Λ は,各
λ ∈ Λ に対し, Sλ の元を一つ対応させる写像として定義できる.
では,添字集合 Λ がどのように大きな集合のときも,すべての λ ∈ Λ に対し一
斉に Sλ の元を対応させることができるのであろうか?これを保障するのが,次の
選択公理である.普通はこの公理を認めて議論を行なう.
公理 1 (選択公理). Λ を添字集合, Sλ (λ ∈ Λ) を集合とする.すべての λ ∈ Λ に
∏
対して Sλ =
̸ ∅ が成り立つなら,直積 λ∈Λ Sλ は空でない.
∏
定義 1. Sλ を空でない集合とする(λ ∈ Λ).直積 λ∈Λ Sλ (選択公理より空でな
い) の要素 x は,各 λ から Sλ への写像とみなせるので,x に対し Sλ の要素が一
つ決まる.この要素を x の λ-成分という.
∏
∏
また, x ∈ λ∈Λ Sλ に λ-成分を対応させる写像 pλ :
λ∈Λ Sλ → Sλ を λ-成分へ
の射影という.
∏n
有限個の直積 i=1 Si であれば, i-成分は,第 i 成分, i-成分への射影 pi は,第
i 成分への射影である.
例 1. S, T を空でない集合とし, f : S → T を全射とする.そのとき,単射 s : T → S
が存在して f ◦ s = idT が成り立つ.ただし, idT は T の恒等写像である.
∏
証明. y ∈ T とすると,f の全射性より f −1 (y) ̸= ∅ である.よって,直積 y∈T f −1 (y)
∏
は空でない.x ∈ y∈T f −1 (y) に対し y-成分への射影 py (x) を考えれば, py (x) ∈
f −1 (y) であるから, f (py (x)) = y となる.
T ∋ y → py (x) ∈ f −1 (y) ⊂ S によって定まる写像を s : T → S とする.f ◦ s = idT
であることは,定義より明らかであり, s の単射性は一般論からわかる.
(ψ ◦ φ が
単射なら φ は単射(5 月 19 日定理 1))
選択公理と同値な命題を紹介する.
定義 2 (帰納的半順序集合). (S, ) を半順序集合とする.S の任意の全順序部分集
合が上界を持つとき, (S, ) を帰納的半順序集合という.
より大きな元が存在しないような元のことを極大元という.つまり,
1
定義 3 (極大元). (S, ) を半順序集合とする.m ∈ S は,
「m
るような x ∈ S 」が存在しないとき極大元であるという.
x かつ m ̸= x とな
次の定理をツォルンの「補題」といい,選択公理と同値であることが知られている.
定理 1 (選択公理 ⇒ ツォルンの補題). 帰納的半順序集合には極大元が存在する.
この定理の証明は難しいので省略する.
(興味のある人は教科書を参照せよ.
)
定理 2 (ツォルンの補題 ⇒ 整列可能定理). S を集合とする.S 上の順序
して, (S, ) は整列集合となる.
が存在
証明. S の部分集合とその上の順序の対 (A, ≤A ) で,整列集合となるもの全体のな
す集合を S とおく.
(同じ部分集合 A でも順序関係 ≤A と ≤′ A が異なっていれば,
もちろん (A, ≤A ) と (A, ≤′ A ) は異なるものとする.
)
S に順序関係を入れて半順序集合にしよう.(A, ≤A ), (B, ≤B ) ∈ S に対して,
(A, ≤A ) = (B, ≤B ), または, (A, ≤A ) が (B, ≤B ) の切片になっているときに限り
(A, ≤A ) ≼ (B, ≤B ) であることにする.ただし, (A, ≤A ) = (B, ≤B ) というのは順
序関係も込めて同じであるということである.
(S, ≼) が半順序集合であることを示そう.
• 反射律:定義より (A, ≤A ) ≼ (A, ≤A ) となるので,反射律は明らかである.
• 推移律:(A, ≤A ) ≼ (B, ≤B ) かつ (B, ≤B ) ≼ (C, ≤C ) と仮定する.(A, ≤A
) = (B, ≤B ) または (B, ≤B ) = (C, ≤C ) のときは,明らかである.(A, ≤A )
が (B, ≤B ) の切片, (B, ≤B ) が (C, ≤C ) の切片だと仮定しよう.これ
は, A = B⟨x⟩, B = C⟨y⟩ となる x ∈ B, y ∈ C が存在するということ
である.切片の定義より, A は B の部分集合であり, ≤A は ≤B を A
に制限したものである.また, B は C の部分集合であり, ≤B は ≤C
を B に制限したものになる.よって, A ⊂ C であり, ≤A は ≤C を A
に制限したものとなっている.また,
A = {u ∈ B | u ≤B x かつ u ̸= x}
B = {v ∈ C | v ≤C y かつ v ̸= y}
だから,
A = {w ∈ C | w ≤C x かつ w ̸= x} = C⟨x⟩
となり, (A, ≤A ) は (C, ≤C ) の切片である.
• 反対称律:(A, ≤A ) ≼ (B, ≤B ) かつ (B, ≤B ) ≼ (A, ≤A ) と仮定する.
(A, ≤A ) = (B, ≤B ) のときは明らかなので,A = B⟨y⟩ かつ B = A⟨x⟩ と
なる x ∈ A, y ∈ B が存在すると仮定する.x ∈ A = B⟨y⟩ より x ≤B y
かつ x ̸= y, また y ∈ B = A⟨x⟩ より y ≤A x かつ y ̸= x となる.A, B
は互いの切片であるから順序関係は同じものを共有しており,これは不
合理である.よって (A, ≤A ) = (B, ≤B ) が成り立つ.
次に (S, ≼) が帰納的であることを示す.
2
(T , ≼) を (S, ≼) の全順序部分集合とする.
∪
U :=
A⊂S
(A,≤A )∈T
とする.U には,整列集合となるような順序 U が入り, (U, U ) が (T , ≤)
の上界となることを示そう.
簡単に言うと,U は切片を「切り口」の大きさの順に並べて,それらをすべて
集めたものである.よって, U が (T , ≤) の上界であることはほぼ明らかであ
る.念のために詳しい証明を与えておく.
• 順序の定義:x, y ∈ U とすると, x ∈ A, y ∈ B となる (A, ≤A ), (B, ≤B
) ∈ T が存在する.(T , ≼) は全順序集合だから, (A, ≤A ) ≼ (B, ≤B ) ま
たは (B, ≤B ) ≼ (A, ≤A ) が成り立つ.A = B のときは, ≤A を使って,
x U y または y U x を定める.A が B の切片のときは ≤B を, B が
A の切片のときは ≤A を使って U を定義する.これで, (U, U ) は半
順序集合となる.
(つまり,A, B どちらか大きい方の順序関係を使って
いる.
)
• 整列集合であること:U ⊃ C ̸= ∅ をとる.そのとき A ∩ C ̸= ∅ となる A
で (A, ≤A ) ∈ T となるものが存在する.A は整列集合だから A ∩ C に
は最小元 m が存在する.m は C の最小元であることを示す.x U m
で x ̸= m となる x ∈ C が存在したとする.すると, x ∈ B となる B
で (B, ≤B ) ∈ T となるものが存在するが, x の取り方により x ∈ B \ A
である(A には m より小さい元は存在しないから).A, B は全順序集
合 (T , ≼) の元だから,これらは一致するか一方が他方の切片となってい
る.B \ A ̸= ∅ より,B が A に含まれることはないので, A が B の切
片になっているはずである.つまり, A = B⟨y⟩ となる y ∈ B が取れる
はずである.m ∈ A だから, m U y かつ m ̸= y であるが, x U m
より x U y かつ x ̸= y となり, x ∈ B⟨y⟩ = A が得られ不合理である.
よって, (U,
U)
は整列集合になる.
• 上界であること.T の任意の元が U に一致するか, U の切片であるこ
とを言えばよい.A ∈ T を U に一致しないものとする.すると A ⊂ U ,
A ̸= U だから U \ A ̸= ∅ である.z := min(U \ A) とおく(U は整列集
合だから最小元が存在する).
z ∈ B となる T の元 B を選ぶ.A, B ∈ T であり z ̸∈ A だから A = B⟨b⟩
となる b ∈ B が存在する.
(B が A の切片になることはない.
)
ところで, z = min(U \ A) だから w ∈ U ⟨z⟩ なら w ̸∈ U \ A, つまり,
w ∈ A がわかる.つまり, U ⟨z⟩ ⊂ A である.
また, B ⊂ U , b U z (B は整列集合だから全順序集合となり, z ̸∈ A =
B⟨b⟩ より 「z U b かつ z ̸= b」とはならないので)だから B⟨b⟩ ⊂ U ⟨z⟩
である.
よって U ⟨z⟩ ⊂ A = B⟨b⟩ ⊂ U ⟨z⟩ となる.これは A = U ⟨z⟩ ということ
だから, A ≤ U となった.
以上より U は (T , ≤) の上界であることがわかった.
3
以上より (S, ≼) が帰納的半順序集合であることがわかった.よって,ツォルンの補
題より,極大元 (M, ≤M ) が存在する.M = S を示せば証明が終わる.
M ̸= S と仮定し w ∈ S \ M をとる.M ∪ {w} に w が一番大きいような順序
′
≤ M を入れる.つまり,
x≤′ y ⇔ x ≤ y
z≤′ w
(x, y ∈ M のとき),
(z ∈ M のとき)
と定義する.(M ∪ {w}, ≤′ M ) は,明らかに整列集合であり, M = (M ∪ {w})⟨w⟩
だから, M の極大性に反する.
よって M = S となり, S が整列集合であることがわかった.
命題 1 (整列可能定理 ⇒ 選択公理).
∏
証明. {Sλ }λ∈Λ を集合系とする.任意の λ ∈ Λ に対し,Sλ ̸= ∅ であれば λ∈Λ Sλ ̸= ∅
を示せばよい.
(⊔
)
⊔
非交和 λ∈Λ Sλ を考えると,整列可能定理より,順序 が存在して
S
,
λ
λ∈Λ
⊔
が整列集合になる.よって, λ∈Λ Sλ の空でない部分集合である Sλ は最小元 min Sλ
を持つ.
⊔
∏
直積 λ∈Λ Sλ の元として,λ-成分が min Sλ であるものを選ぶことにより, λ∈Λ Sλ ̸=
∅ がわかる.
レポート問題
(締切:6 月 24 日(水)13:30.提出先:数学科事務室)
問題 1 (超限帰納法). 超限帰納法とは,次のような論法である.
(証明は教科書参照.
)
(S, ) を整列集合とし, S の各元 x に対し,ある命題 P (x) が対応して
いるとする.
(i). m := min(S) とし, P (m) は真であること.
(ii). x ∈ S (ただし, x ̸= m)が任意に与えられたとする.S の x に
よる切片 S⟨a⟩ の任意の元 y に対して P (y) が真なら, P (x) も真
であること.
以上の (i), (ii) が示されれば,すべての元 x ∈ S に対して P (x) は真と
なる.
超限帰納法をもとにして,数学的帰納法の原理を説明せよ.
問題 2. (S, ≤) を半順序集合とし, S の部分集合で全順序集合となっているもの全
体のなす集合を Σ とする.Σ に包含関係 ⊆ で順序をいれ,半順序集合とみなす.
Σ には極大な全順序集合が存在することを示せ.
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