湿地・沿岸域研究委員会 講演概要 「咲洲キャナル水質改善策検討及び試験施工実施業務」 木村和也(日本ミクニヤ株式会社 大阪支店)、増沢有葉(同左)、神保幸代(同左) 1.はじめに 近年、都市の再開発や沿岸部遊休地の多目的な利 活用が進められるに伴い、水辺空間の利用が注目さ れている。一方で、都市河川・沿岸海域では、陸域 の生産活動に伴う流入負荷により富栄養化し、水質 の劣化、単一生物の増殖等、生態系に不均衡が生じ 問題とされている。 業務対象地となったコスモスクエア海浜緑地咲洲 キャナル(以下、「咲洲キャナル」という。)は、大 阪湾奥の埋立地「咲洲」内の、コスモスクエア地区 中央部を東西に貫く、全長約 1.3km、水面の基本幅 員が 9mの運河である(図 1)。平成 8 年度より整 備が行われ、平成 15 年 8 月 1 日より供用開始され ている。近年、咲洲キャナル沿いでは、大学の開学 や住宅地の開発が進められており、今後、咲洲キャ ナル周辺は子供の遊び場および地区内居住者や学生 等の憩いの場として利用されることとなる。しかし、 季節により藻類が大量に発生するなど咲洲キャナル の景観を損ねるとともに水質劣化が懸念されている。 このため、平成 19 年度より公立大学法人大阪市立 大学と大阪市との共同研究による水質改善に向けた 検討が進められた。 本業務では、共同研究で検討された各種水質改善 方法についての試験施工に係る検討及び実施並びに 効果検証を行った。 コスモスクエア 大阪湾 咲洲 500m 対照区 試験区 1 試験区 2 図 1咲洲キャナル位置図 ポンプアップ 水の流れ 水流・微細気泡 藻類の除去・定着阻害 水流+微細気泡 水流・微細気泡 底泥耕耘 図 2底泥耕耘による効果のイメージ 2.検討項目 共同研究で検討された水質改善方法を示す。 ○水位の調整による藻類増殖抑制方法の検討 ○微細気泡を用いた底泥耕耘(以下「微細気泡耕 耘」)による藻類増殖抑制方法の検討 ○藻類の捕食性生物の添加放流等による藻類増殖抑 制方法の検討 本稿では、紙面の都合上、微細気泡耕耘による藻 類増殖抑制方法の検討に関する話題を中心に、業務 事例紹介を行うこととする。 微細気泡耕耘による藻類増殖抑制および底質、水 質改善効果として考えられる項目を示す(図 2)。 ・藻類のマット形成抑制,浮上・排出 ・底泥のヘドロ化抑制 ・底質の好気化(有機物分解促進) 3.試験施工および効果検証方法 試験施工は、平成 19 年 10 月 30 日(試験区 1,2)、 11 月 27 日(試験区 2 のみ)に実施し、1 回目の試 験施工の当日、1 日後、1 週間後、2 週間後、1 ヵ月 後、2 ヵ月後に効果検証を実施した。 試験施工にあたり、微細気泡海底耕耘機(森機械 製作所製、図 3)を使用した。本耕耘機は、通常、 船上にエンジンユニットを搭載し、ノズルを曳航し ながら底泥に微細気泡を噴射するが、咲洲キャナル においては、将来の施工方針(市職員自らが施工で きる簡便な方法)を鑑みて人力で施工可能な方法を 採用した(水路幅が狭いことや両岸に歩道が整備さ れていることから、市販の台車にエンジンユニット を搭載し、人力でノズルを曳くこととした)。 また、試験施工の際は、試験区(水路幅×30m) 内を一様に耕耘するよう、ノズルを 10 往復し、一 方向に移動する際のみ耕耘を行った。耕耘時の濁水 の影響を把握するため、多項目水質計(ALEC 電子 社製:AAQ1386 型)にて、耕耘中∼後に、濁度の SS換算値(mg/L) 500 0 (左)エンジンユニット及び ノズル 1000 0.0 (下)動作イメージ ノズル (水中) 水深(m) 0.5 エンジンユニット (陸上) 1.0 1.5 図 3微細気泡海底耕運機 2.0 鉛直分布を測定した。測定した濁度は、現地の海水 及び底泥から別途求めた係数にて SS に換算した。 藻類増殖抑制効果検証(藻類の発生の有無・底泥 状況の確認)には、水中カメラシステム(広和株式 会社製:MARINE EYE)を使用した。 4.結果および考察 試験区近傍における耕耘前・中・直後の SS(濁 度からの換算値)を図 4に示す。耕耘開始より 15 分後では、耕耘に起因すると思われる濁りが発生し た(水面下 1.0∼1.3m で顕著)が耕耘終了から約 1 時間後には、耕耘前と同等の値となった。 2 回目の試験施工翌日(平成 19 年 11 月 28 日) の底泥表面の状況を図 5、表 1に示す。試験区 2 については耕耘より 1 日、試験区 1 については耕耘 より約 1 ヶ月が経過していた。対照区において、糸 状藻類が、水底より数 cm の高さまで生長している ことが確認された。試験区 1 では、底泥表面に菌類 と考えられる網目状の凹凸が見られた。試験区 2 で は、耕耘により底泥と直上水が混合され液状化し、 所々耕耘跡の窪みが見られた。試験区 1、2 におい て、調査期間中に藻類の発生は確認されなかった。 対照区で確認された糸状藻類が、試験区にて発生 しなかったことより、藻類の定着もしくは発生前の 耕耘は、藻類の生長を阻害し増殖を抑制する効果が あったと考えられた。一方、藻類が繁茂した状況で の耕耘の効果については、本業務期間中に対象とさ れる藻類が繁茂しなかったため、本耕耘機による直 接的な藻類増殖抑制効果を確認することが出来な かったが、底泥の攪拌が確認されたことから、本耕 耘機の能力は、繁茂した藻類を除去するのに十分で あると考えられた。 今後は、藻類増殖抑制効果の持続期間の検証と合 わせて直接的な藻類除去効果についても春季∼夏季 にかけての試験施工の継続を予定している。 耕耘前 耕耘中15分 耕耘後1時間 耕耘中10分 耕耘後5分 図 4試験区近傍の耕耘中・直後の SS(換算値) 耕耘翌日 耕耘 1 ヵ月後 2cm 対照区 図 5底泥表面の状況(上、左下)と 対照区にて発生した藻類(右下) 表 1底泥表面の状況(平成 19 年 11 月 28 日) 対照区 耕耘後 経過時間 耕耘なし 底泥状況 表面に網状 の凹凸 藻類の 有無 糸状藻類を 確認 試験区 1 1 回目耕耘 より 1 ヵ月 試験区 2 2 回目耕耘 より 1 日 表面に網状 耕耘により の凹凸 液状化 確認されず 確認されず 参考文献 新開理絵,矢持進:大阪南港咲洲運河の水質改善の た め の 事 前 調 査 , 海 洋 開 発 論 文 集 , 第 23 巻 , pp.715-720,2007
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