滴定実験による土の pH 緩衝能の評価

滴定実験による土の pH 緩衝能の評価
505118 小田 祥子 (土壌圏循環学教育研究分野)
はじめに 土には pH の変化を和らげる pH 緩衝能があり,特に我が国に広く分布する火山灰
土の黒ボク土の緩衝能が大きいことが知られている。pH 変化を伴う土中の酸性溶液やアルカリ
溶液の移動を考えるとき,pH 緩衝能の定量的な評価が必要である。本研究では,滴定実験か
ら土の表面反応基に対する H + の解離と付加反応を定義した変異荷電モデルのパラメーターを
決定し,土の pH 緩衝能の評価を行なった。
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滴定実験 熊本黒ボク土,採土場所が異なる
関東ローム 2 種類,三重黒ボク土の乾土重量
12
11
10
5g に対して 0.1,0.05mol/l KCl 溶液または蒸
0.1mol/l HCl,または 0.1mol/l KOH をそれぞれ
適当量加えて,24 時間以上振動器で撹拌後,
上澄み液の pH と電気伝導度(EC)測定を繰り
返した。三重黒ボク土以外は,KCl 溶液による
8
pH
留水 150ml を加えた懸濁液を作成した。そして
9
7
Observed(熊本黒ボク 土 )
6
Calculated(熊本黒ボク 土 )
5
Observed(関東ロー ム ① )
4
Calculated(関東ロー ム ① )
3
Observed(関東ロー ム ② )
2
Calculated(関東ロー ム ② )
1
-1
洗浄処理を行なった。
変異荷電モデル 表面反応基 j に H + が解離,
+
付加により負荷電と正荷電が発生し,K と Cl
-0.5
0.1mol/l HCl
+
2
Soil j ⋅ OH + H +Cl Soil j ⋅ OH ⋅ Cl
−
このとき,交換性イオンの和として陽イオン交換
容量 CEC=ΣSoil j ⋅ O − K + ,陰イオン交換容量
+
2
−
AEC=ΣSoil j ⋅ OH ⋅ Cl が与えられる。
0.005mol/l(熊本黒ボク土 )
CEC (mmolc/g soil)
−
結果 蒸留水懸濁液の滴定曲線(Fig.1)に対し
0.8
0.2
0
電 特 性が推 定 できることがわかった。いずれの
土も,高 pH と低 pH で大きな緩衝能を示したが,
これは酸性 ではアルミニウムや鉄 の溶解,アル
AEC (mmolc/g soil)
適 合すると,実測 値をよく再 現 できた。このとき,
とほぼ等 しい値 を示 し,簡 易 な滴 定 実 験 で荷
0.005mol/l(関東ローム② )
0.4
0
AEC(Fig.2)は,pH5~8 程度では既往のデータ
0.005mol/l(関東ローム① )
0.6
て 3 種類の反応基を用いた変異荷電モデルを
変 異 荷 電 モ デ ル か ら 推 定 さ れ る CEC と
0.2
0.4
0.005mol/l(熊本黒ボク土 )
0.6
0.005mol/l(関東ローム ① )
0.8
カリ性では CO 2 の溶解,腐植の溶出が原因と
考えられた。また,こうした反応は,非可逆的で
1
1
が交換性イオンとして吸着すると仮定する。
+
0.5
0.1mol/l KOH
Fig.1 酸溶液とアルカリ溶液による滴定曲線
-
Soil j ⋅ OH + K + Soil j ⋅ O − K + + H +
0
(mmolc/g soil)
0.005mol/l(関東ローム ② )
1
5
あることが,逆滴定実験より明らかになった。
Fig.2.
6
pH
7
滴定曲線より推定される CEC と AEC
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