全食協東海北陸ブロック研修会で発表)(26KB)(PDF文書 - 四日市市

豚丹毒菌の選択増菌培地について
四日市市保健所食品衛生検査所
○中川涼子
はじめに
豚丹毒は豚丹毒菌によって起こり、豚の全部廃棄処分となる疾病である。豚丹毒の診断
には病変部から菌を分離し同定することが必要となるが、病変部で菌が少ないケースもあ
る と 報 告( 1 )さ れ て お り 、液 体 培 地 に よ る 選 択 増 菌 後 、分 離 培 地 に 塗 抹 し て 培 養 し て い る 。
当 所 で は 、 選 択 増 菌 培 地 に GK ブ イ ヨ ン ( 以 下 、 GK) を 使 用 し て い る 。 GK は 、 ア ジ 化 ナ
トリウム、クリスタルバイオレット、ゲンタマイシンおよびカナマイシンを添加した培地
で あ り 、ア ザ イ ド 液 体 培 地( 以 下 、ア ザ イ ド )と 抗 生 物 質 添 加 液 体 培 地( 以 下 、抗 生 物 質 )
よりも選択性が高いと考えられる。選択性が高いだけならば、他の菌のコンタミネーショ
ンを防ぐこともでき、判定には適していると考えられるが、病変部の菌数によっては豚丹
毒 菌 の 増 殖 が 抑 制 さ れ る 可 能 性 が あ る 。 そ の た め 、 GK、 ア ザ イ ド お よ び 抗 生 物 質 そ れ ぞ れ
の発育可能な最小菌数と、その発育の仕方および選択性について調査及び試験を行った。
材料および方法
(1)材料
平 成 23 年 7 月 ∼ 24 年 8 月 に 四 日 市 市 食 肉 セ ン タ ー に 搬 入 さ れ 、 と 畜 検 査 で 豚 丹 毒 お よ
び 敗 血 症 の 疑 い で 保 留 検 査 対 象 と な っ た 豚 45 頭 の 病 変 部 78 ヶ 所 を 材 料 と し た 。 ま た 、 各
ブイヨンにおける菌数の測定試験には、当所で豚丹毒菌と同定された菌株を使用した。
(2)方法
・各ブイヨンにおける発育可能な最小菌数と発育の仕方
GK で 2 日 培 養 し た 豚 丹 毒 菌 の 菌 液 を 、滅 菌 生 理 食 塩 水 で 段 階 希 釈 し 、そ れ ぞ れ の 100μ l
を GK、 ア ザ イ ド お よ び 抗 生 物 質 ( 表 1 、 以 下 、 各 ブ イ ヨ ン ) 10ml に 接 種 し 、 24 時 間 培 養
後 、そ れ ぞ れ を 滅 菌 生 理 食 塩 水 に よ り 段 階 希 釈 し た 菌 液 50μ l を 血 液 寒 天 培 地 に 接 種 し 24
∼ 48 時 間 培 養 後 、 菌 数 を 確 認 し た 。
表1.各ブイヨンの組成
GK ブ イ ヨ ン
アザイド液体培地
抗生物質添加液体培地
トリプトソイブイヨン
30g
30g
29.5g
Tween80
1g
1g
1g
Tris( ヒドロキシメチルアミノメタン)
3g
3g
3g
アジ化ナトリウム
0.1g
0.1g
Crystal Violet
0.01g
0.01g
蒸留水
1000mL
1000mL
ゲンタマイシン
50mg
50mg
カナマイシン
400mg
500mg
1000mL
・各ブイヨンによる選択性
各 ブ イ ヨ ン で 37℃ 24∼ 48 時 間 培 養 後 、3000rpm15 分 間 遠 心 分 離 し 、沈 渣 を 血 液 寒 天 培 地
に 塗 抹 し た 。37℃ 24 時 間 培 養 後 、菌 の 発 育 が 認 め ら れ た 場 合 は 鏡 検 、生 化 学 性 状 検 査 な ど
を行い、豚丹毒菌であるか、他の菌であるのかの確認を行った。
成績
(1)各ブイヨンにおける発育可能な最小菌数と発育の仕方
初 期 菌 数 と 各 ブ イ ヨ ン に お け る 24 時 間 培 養 後 の 菌 数 ( /ml) の 関 係 は 以 下 の グ ラ フ ( 図
1)のとおりであった。発育できる最小菌数を各ブイヨン間で比較すると、アザイド液体
培 地 は 初 期 菌 数 が 少 な く て も 良 く 発 育 し 、次 に 抗 生 物 質 添 加 液 体 培 地 、GK ブ イ ヨ ン の 順 で
あった。
100000000
GKブイヨン
アザイド液体培地
抗生物質添加液体培地
1000000
10000
100
1
7
6
5
4
3
初期菌数(対数)
2
1
抗生物質添加液体培地
アザイド液体培地
GKブイヨン
0
図 1 . 初 期 菌 数 と 各 ブ イ ヨ ン に お け る 24 時 間 培 養 後 の 菌 数
(2)各ブイヨンによる選択性
豚 丹 毒 お よ び 敗 血 症 の 疑 い で 保 留 検 査 対 象 と な っ た 豚 45 頭 78 検 体 の う ち 、 豚 丹 毒 で 廃
棄 さ れ た も の は 7 頭 、他 の 菌 に よ る 敗 血 症 廃 棄 と な っ た も の は 14 頭 、合 格 と な っ た も の は
24 頭 で あ り 、 今 回 豚 丹 毒 と し て 廃 棄 と な っ た 7 頭 18 検 体 の う ち 、 全 て の ブ イ ヨ ン で 豚 丹
毒菌の発育がみられたのは 5 頭 5 検体であった。
ま た 、 豚 丹 毒 菌 の 発 育 が み ら れ た の は 、 関 節 液 を 培 養 し た 27 検 体 中 、 GK で 3 例 、 ア ザ
イ ド で 5 例 、抗 生 物 質 で 4 例 で あ っ た 。心 内 膜 炎 の 疣 状 部 を 培 養 し た 16 検 体 中 で は 、各 ブ
イ ヨ ン 1 例 ( 同 じ 検 体 ) で あ っ た 。 内 腸 骨 リ ン パ 節 を 培 養 し た 24 例 中 で は 、 GK で 3 例 、
ア ザ イ ド で 0 例 、抗 生 物 質 で 1 例 で あ っ た 。皮 膚 を 培 養 し た 5 検 体 中 で は 、GK で 3 例 、ア
ザイドで 2 例、抗生物質で 2 例であった。
一 方 、 豚 丹 毒 菌 以 外 の 菌 が み ら れ た の は 、 関 節 液 を 培 養 し た 27 検 体 中 、 GK で は 1 例 、
ア ザ イ ド で 2 例 、 抗 生 物 質 で 4 例 で あ っ た 。 心 内 膜 炎 の 疣 状 部 を 培 養 し た 16 検 体 中 で は 、
GK で 5 例 、ア ザ イ ド で 15 例 、抗 生 物 質 で 8 例 で あ っ た 。内 腸 骨 リ ン パ 節 を 培 養 し た 24 例
中 で は GK で 2 例 、ア ザ イ ド で 6 例 、抗 生 物 質 で 6 例 で あ っ た 。皮 膚 を 培 養 し た 5 検 体 で は 、
GK で 2 例 、ア ザ イ ド で 2 例 、抗 生 物 質 で 3 例 で あ っ た 。以 下 に 、各 ブ イ ヨ ン 中 の 豚 丹 毒 菌
と 他 の 菌 の 発 育 の 有 無 を 示 す ( 図 2 )。
合計
GK
疣状心内膜炎
アザイド 抗生物質
関節液
GK
アザイド 抗生物質
内腸骨リンパ節
豚丹毒菌
他 の菌 の発 育 +
他 の菌 の発 育 −
GK
アザイド 抗生物質
GK
アザイド 抗生物質
図2.各ブイヨン中での豚丹毒菌と他の菌の発育の有無
関節液の培養で、豚丹毒菌がアザイドのみからみられた例が 2 例、アザイドと抗生物質
の み か ら み ら れ た 例 が 1 例 あ っ た 。ま た 、内 腸 骨 リ ン パ 節 の 培 養 で 、GK の み か ら 豚 丹 毒 菌
が み ら れ た 例 が 1 例 、 皮 膚 の 培 養 で 、 GK の み か ら 豚 丹 毒 菌 が み ら れ た 例 が 1 例 あ っ た 。
考察
豚 丹 毒 菌 の 発 育 可 能 な 最 小 菌 数 を 各 ブ イ ヨ ン 間 で 比 較 す る と 、GK よ り も ア ザ イ ド お よ び
抗生物質の方が、初期菌数が少なくても増菌していることがわかった。このことから、初
期 菌 数 が 少 な い 検 体 の 場 合 、GK で は 他 の ブ イ ヨ ン と 比 較 し て 、豚 丹 毒 菌 が 増 殖 し な い ケ ー
スがあることが示唆された。
今 回 の 実 験 か ら 、GK は 他 の 2 つ の 液 体 培 地 に 比 べ て 選 択 力 が 強 い た め 、他 の 菌 の 増 殖 を
防ぐことができ、それは検体に実質臓器などを用いた場合に特に有効であることがわかっ
た 。関 節 液 を 検 体 と し た 場 合 は 、GK よ り も ア ザ イ ド お よ び 抗 生 物 質 が 適 し て い る と 考 え ら
れ 、実 質 臓 器 な ど の 培 養 で 他 の 菌 の コ ン タ ミ ネ ー シ ョ ン が 問 題 と な る 場 合 に は 、GK が 適 し
ていると考えられる。より確実で、より精度の高い検査のためには、選択増菌培地の選択
は重要であると考えられる。
引用文献
( 1 )赤 瀬 悟 、宮 尾 陽 子 、宗 村 佳 子 、依 田 昌 樹 、鈴 木 達 夫 、今 田 由 美 子:日 獣 会 誌 60、221
− 225( 2007)