残留動物用医薬品等規制物質の検査について

残留動物用医薬品等規制物質の検査について
健康科学研究センター健康科学部主席研究員 後藤操
1 はじめに
日本の食料自給率はカロリーベースで約 40%、畜水産物では約 26%と輸入食品への依存度が
高い状態が続いている。畜水産業では畜水産動物を疾病から守り生産性を向上させるため、動物
用医薬品の使用が必要不可欠となっている。しかし、動物用医薬品が食品中に残留すると、アレ
ルギー反応の誘発、薬剤耐性菌の出現など、人への健康に影響を及ぼす恐れが考えられることか
ら、食品衛生法で厳しく規制されている。そして、輸入食品が多様化する中、この規制が守られ
ているかどうかを確認するためには食品中の残留検査が重要である。今回、食の安全、安心に向
けて、県がすすめる「食の安全安心推進計画」の一環として、研究センターが取り組んでいる残
留動物用医薬品の検査および研究の一端を紹介する。
2 残留動物用医薬品の規制
表1 動物用医薬品の主な種類と使用方法
動物用医薬品とは、病気の予防や治療などの目的に動物
専用に用いられる医薬品で、表 1 に示すように、抗生物質、
合成抗菌剤、寄生虫駆除剤、ホルモン剤などがある。食品
衛生法では、食品中の医薬品について、その基準に合致し
主な種類
主な使用方法
抗生物質
合成抗菌剤
動物の病気の治療、
伝染病の予防
寄生虫駆除剤
動物の寄生虫駆除
および予防
ホルモン剤
成長促進
た場合に限り含有が許容されるが、抗生物質又は化学的合
成品たる抗菌性物質を含有してはならないと規定されて
いる。また、平成 18 年にポジティブリスト制度の導入に
より、抗菌性物質を除く動物用医薬品については、個別に残留基準が定められていない場合、農
薬同様、一律基準(0.01 ppm)が設定された。
3 研究センターにおける取組み
1200
寄生虫駆除剤
研究センターでは、
「食の安全安心推進計画」を踏
まえた兵庫県食品衛生監視指導計画に基づき、県内を
流通する輸入食品に対して動物用医薬品の残留検査
を実施している。図 1 に年度毎のモニタリング検査の
実績数について、平成 11 年度から 5 年毎の推移を示
検
査 800
実
績
数
(件)
400
ホルモン剤
合成抗菌剤
抗生物質
した。
平成 17 年度までは 80~100 件程度であったが、
ポジティブリスト制度の導入以降、検査対象とする医
薬品を大幅に増やした結果、検査実績数は 1,000 件と
0
H11
H16
H21
H26
図1 検査実績数
なった。さらに、平成 24 年度からは主に県内産畜肉
について食肉衛生検査センターからの収去検査にも対応し、平成 26 年度には 1,039 件のモニタ
リング検査を実施した。このように流通食品の安全性の確保に検査の充実は必要であり、対応す
るためにも検査法の迅速化や効率的
分析法の概略
な検査法の開発などは重要である。
①試料の調製
②抽出
③精製
近年の研究例の一つとして、平成
精製 &
誘導体化など
24 年度から県内産畜肉を対象に検
査を実施するために取り組んだ、寄
④測定
☆検討点
所要時間短縮
約1/3
汎用固相ミニカラムの導入
生虫駆除剤のスクリーニング分析法
迅速化
短時間の誘導体化法の採用
の開発について紹介する。動物用医
誘導体化&測定の自動化
薬品などの分析法は、一般的な作業
簡便化
反応安定化
工程の例として図 2 に示すように、
対象医薬品:4→5(種類)
図2 スクリーニング分析法の開発
①試料の調製、②試料から目的成分
の抽出、③食品由来など測定の妨害となる成分の除去や成分を測定しやすくするための誘導体化
を行う精製、④HPLC、LC-MS、LC-TOF/MS などの測定機器を用いて目的成分を測定の 4 区分
からなる。本研究では、抽出および精製工程で、他の分析などで汎用されている固相ミニカラム
を導入するとともに、精製工程で行う誘導体化を室温で短時間に行う方法を採用することで、公
定法(個別法)と比較して作業の所要時間を約 1/3 に短縮することができた。また、誘導体化と
蛍光検出器による測定を併せて自動化したことで、試料と誘導体化反応溶液の混和操作などの煩
雑さが解消し、反応の迅速性と安定性が向上した。さらに公定法では 4 種類の寄生虫駆除剤の同
時分析法であるが、5 種類について同時分析が可能となった。この分析法については、妥当性評
価ガイドラインに従い、選択性、真度、精度、定量限界を測定し、分析法として妥当であること
を確認したうえで、新たな項目として検査に導入した。そして、図 3 に示すように、モニタリン
グ検査対応として整備した項目数は平成23年度と比べ増加しており、
検査体制が充実している。
H23年 5系統33種類
H26年 8系統41種類
抗生物質
テトラサイクリン系
抗生物質
4
テトラサイクリン系
合成抗菌剤
酸性キノロン系
3
酸性キノロン系
フルオロキノロン系
8
フルオロキノロン系
サルファ剤系
ホルモン剤
4
合成抗菌剤
16
サルファ剤系
2
新規整備
3
8
16
ホルモン剤
2
寄生虫駆除剤
マクロライド系
6
ベンゾイミダゾール系
1
ポリエーテル系
1
図3 モニタリング検査の体制
4 おわりに
輸入食品は多様化が進み、市場には膨大な量の食品が溢れ、流通する全ての食品の安全性を確
認することは困難になっている。しかし、効率的な分析法の開発を進め、検査の充実、強化を行
うことで効果的な監視の実施に寄与し、健康被害を予防することが可能となる。健康被害発生時
など緊急的対応も含め、食の安全を守るために研究センターの果たす役割は重要であり、当研究
センターの取り組む検査・研究が、食の安全安心の確保につながると考えられる。