大学生の精神健康に関する実態調査

ÎÓк ½
川崎医療福祉学会誌 ÆÓº ½ ¾¼¼ ½ ¿ß½
資 料
大学生の精神健康に関する実態調査
西山温美£½ 笹野友寿£¾
人に相手にされない」の合計が
はじめに
¾ 点になる回答をし
た対象者は ,相反する内容が問われているのもかか
今日の社会,家庭や学校など 諸状況の変化や有り
わらず双方に○を付けていることから ,調査に対し
様は ,人間生涯の他の時期とは比較できないほど 感
て真剣に答えていないと捉え ,資料から除いた.そ
受性も強く多感な青年期後期の真っ只中を生きる大
の結果,報告の資料となったのは
学生に多大な影響をもたらしていると考えられる.
象の内訳については表 に示す.
½
青年期後期はアイデンティティの確立や精神的自立
¿
が求められる時期であるが ,また ,スチューデント
¿
本調査では ,検証尺度とされる
,
名であった.対
項目(
¾¼ ,
,
¼ )は ,学生の精神的健康の指標でもあるとも
されており ¾µ ,
「健康尺度」として報告する.
アパシー,対人恐怖,自殺などの適応障害が出現し
ÍÈÁには学生が持って来る悩みがほとんど網羅され
たり,精神疾患が好発しやすい時期であるとも言わ
ているという長所がある ¾µ .本調査は学生が回答する
れている.小柳は現代学生の特徴として ,軽度の対
¼項目の各項目を検証することによって ,
人恐怖の増加,青年期の長期化,及び強迫性の不適
¿ 点を挙げている ½µ .これらのことから ,現
質問項目
応化の
本大学における学生の精神的悩みはどんなことが多い
代の大学生は傍目で見る以上に精神的に困難さを抱
のかを知ること,学科間における学生の精神的な悩み
えているのではないかと推察される.学生相談室へ
の違いを知ることを目的としたため,スクリーニング
も様々な問題を抱えた学生が来室してくる.
テストとして作成された
本学の学生を理解するためには学生の精神健康状
実施されるが ,本調査では無記名での実施とした .
態の実態を把握することが必要であると思われる.
結果と考察
そこで ,現在,全国の大学において,最も多く利用
されている入学時の精神健康調査票(
ÍÈÁ )を用い
½ .ÍÈÁ 得点の平均値(表 ¾ 参照)
て ,本学の学生の精神健康の実態調査を試みた .
方
調査対象全体の自覚症状得点(
½
¾¼¼¿年
法
月下旬から
点)の平均値は
¾¼º¿¼( Ë ½½º ¿ )であった .健康得点( 点)の
平均値は½º ( Ë
½º¾ )であった.性別に関して
は Ø 検定を行ったところ,自覚症状得点は女性が男
性より有意に高かった( Ø ¿º ,
¿ ,Ô º¼½ ).
平成 年度の本学の調査では ÍÈÁ 得点は女性が男
対象及び方法
調査期間は
ÍÈÁ は本来ならば 記名で
月上旬であっ
た . 年生を対象とする講義の参加者に対して集団
で実施した.
性よりやや高いという結果が報告されている ¿µ .し
調 査 票は
かし ,長期の傾向を調べた大阪大学,富山国際大学
ÍÈÁ( ÍÒ Ú Ö× ØÝ È Ö×ÓÒ Ð ØÝ ÁÒÚ Ò¹
ØÓÖÝ )を用いた .ÍÈÁ は½ 年に ,全国大学保健
では ,全体を通して男女間の水準に有意差はみられ
µ .健康得点は男性が女
管理協会の学生相談カウンセラーと精神科医が中心
なかったと報告している
になって ,新入生を対象にして ,神経症,心身症そ
性よりわずかに高いが有意差は見られない.
自覚症状得点の分布(図 ½ 参照)は大阪大学(平
½¼年)が左に凸で緩やかに右側に傾斜するパター
ンを呈している µ のとは異なり,本学では得点が ½¾
点の学生数が ½ 人と最も多いが ,½ 点が ½ 人,¿¾点
が ½¾人と自覚症状得点が高い学生が多いことが特徴
の他学生の悩み,迷い,不満,葛藤などの実態を調
査するスクリーニングテストとして作成された .現
成
在,全国の国公私立大学などで広く入学時に実施さ
れ ,学生相談や精神衛生相談に利用されている.
項目からなり,応答は
¼
¾ 件法による.
½ 年生 ¾¾名と
調査対象は ,川崎医療福祉大学の
¼
的である.
した.項目 「よく他人に好かれる」と項目 「他
£½ 川崎医療福祉大学 学生相談室 £¾ 第一福祉大学 人間社会福祉学部 社会福祉学科
倉敷市松島¾
川崎医療福祉大学
(連絡先)西山温美 〒 ¼½¹¼½ ¿ ½¿
½
西山温美・笹野友寿
表½
表¾
図½
調査対象の内訳(人数)
ÍÈÁ 得点の平均値
自覚症状得点及び健康得点の平均,Ë
自覚症状得点の分布
を表記する.
図¾
自覚症状得点の学科別平均値
得点の平均値と Ë を示す.
図¿
健康得点の学科別平均値
得点の平均値と Ë を示す.
¾ .学科別の平均の比較(図 ¾ ,図 ¿ 参照)
学科別における自覚症状得点の平均値は ,保健看
護(以下「保看」と記す),臨床心理(以下「臨心」
と記す),リハビ リテーション( 以下「 リハ」と記
す)が高く,医療福祉マネージ メント(以下「マネ」
と記す),健康体育( 以下「健体」と記す),社会福
祉(以下「社福」と記す)が低い.平成 年度の本
学の調査においても同じ 結果が報告されている ¿µ .
一元配置分散分析を行ったところ,自覚症状得点の
学科間には有意差(
¾º¼
,
¸¿ ¼ ,Ô º¼
)が
ÄË )を行なった結
Å ¾ º¿¼ )と社福( Å ½ º½ ),保看と健
体( Å ½ º ¿ )とに有意差( Ô º¼½ )があり,保看
とマネ( Å ½ º )とに有意差( Ô º¼ )が見られ
,臨
た.また,臨心( Å ¾¾º )と社福( Å ½ º½ )
心と健体( Å ½ º ¿ ),臨心とマネ( Å ½ º )と
に有意差( Ô º¼ )がみられた.
見られた.さらに ,多重比較(
果,保看(
学科別における健康得点の平均値は ,健体とリハ
が高く,医療福祉環境デザイン( 以下「環デ 」と記
す),マネ ,臨床栄養( 以下「栄養」と記す)が低
い.
一元配置分散分析を行ったところ,
自覚症状得点の
¸¿ ¼ ,Ô º¼½ )がみ
られた.多重比較( ÄË )を行った結果,健体( Å
¾º½¼ )と臨心( Å ½º ),健体と環デ( Å º ),健体
とマネ( Å ½º¾½ )
,健体と栄養( Å ½º¾½ )に有意差
( Ô º¼½ )があり,健体( Å ¾º½¼ )と感覚矯正(以下
学科間には有意差( =
¿º½
,
½
大学生の精神健康に関する実態調査
Å ½º ¿ )とに有意差( Ô º¼ )がみ
Å ½º )と環デ( Å º )に有意差
( Ô º¼½ )
があり,
社福
( Å ½º )
と栄養
( Å ½º¾½ )
と
に有意差
( Ô º¼ )
がみられた.さらに,
環デ
(Å º )
,環デと保看( Å ½º )
,環デと
とリハ( Å ¾º¼¼ )
感矯( Å ½º ¿ )とに有意差( Ô º¼ )がみられた .
「感矯」と記す.
られた.社福(
¿ .質問項目の学科別及び全体の割合(表 ¿ を参照)
自覚症状項目で肯定回答出現率の上位
­½
½¼項目は ,
± ),­¾ ½ 「気分に波があり
­
すぎる」
( ± ),¿ ¾¾「気疲れする」
( ¾± ),¿ 「な
んとなく不安である」
( ¾± ),­½ 「首筋や肩がこ
る」
( ± ),¾ 「 記憶力が低下している」
( ± ),
­½¾「やる気がでてこない」( ±),­½ ¾ 「決断力
「体がだるい」
(
± ),¿ 「ものごとの自信を持てない」
± ), 「他人の視線が気になる」( ± )であっ
た .­
½ の「体がだるい」は新潟大学において ,昭和
½年から平成½¼年まで連続的に増加し ていた項目
がない」
(
(
であった µ .また ,大阪大学における健康項目を含
¾¼項目と比べると ,本学における 位の¾
「決断力がない」は ¿ 位,同じ く 位の 「他人の
視線が気になる」は 位, 位の½ は「首筋や肩が
こる」は ½¼位, ¾ 位の½ 「気分に波がありすぎ る」
は ½¾位, ¿ 位の¾¾「気疲れする」は ½¿位, ¿ 位の¿
「なんとなく不安である」は ½ 位, 位の¿ 「もの
ごとの自信を持てない」は ½ 位となっており,上位
に示される項目は µ 似通っている.ÍÈÁ のパターン
で見る ¾µ と ,上位½¼項目の中 項目が感情,気分,
めた上位
情緒に関連した項目である.
「 保看」は肯定回答出現率が他科と比較して
¼±前
後の高い項目が多いことが目立っている.西村と横
山によると看護職者のストレスが非常に高いことが
明らかにされ ,メンタルヘルスケアの必要性が示唆
されている µ が ,本調査では看護職者を目指して ,
入学してまもない学生の時点ですでに ,
「 不平や不
満が多い」
「悲観的になる」
「気分に波がありすぎる」
「気疲れする」
「根気が続かない」
「なんとなく不安で
ある」
(
¼±以上の項目)とすでにストレスや疲労感
をもち,抑うつ気分が強いことがわかった .
.¿¼点以上の得点者の学科別割合( 表 を参照)
ÍÈÁ では自覚症状尺度
項目中
¿¼項目以上を肯
定し た学生は精神科的問題の疑われ る学生とし て
呼び 出し 面接など のスクリーニング 対象者とされ
¿¼点以上の得点者は ,得点の平均値とほ
る µ µ µ.
ぼ 同様に「 保看」,
「 リハ」,
「 臨心」の割合が高く ,
「 マネ」,
「 社福」,
「 健体」が低い .さらに ,
¼点以
上という非常に高い得点を示している学生は ,
「社
¿º ±( ¿ 人),「臨心」が º¼±( 人),「保看」
が º ±( ¾ 人),
「マネ」が º¾±( ½ 人),
「環デ」が
º¼±( ½ 人),「 感矯」が º ±( 人),「 健体」が
º ±( 人),「 栄養」が º ±( ¿ 人),「 リハ」が
½½º½±( ½ 人)であった.学科別では自覚症状得点
の平均値,¿¼点以上の得点者率が両方とも最も高い
「 保看」は ¼点以上の得点者率が低い .逆に ,自覚
症状得点の平均値,¿¼点以上の得点者率が両方とも
低い「健体」に ¼点以上の得点率が高いという結果
福」が
½¼項目は ,­½ 「気
¾± ),­¾ 「自分
の過去や家庭は不幸である」
( ½¼± ),¿ 「排尿や性
器のことが気になる」
( ½¼± ), 「他人に相手にさ
れない」
( ½¼± ),­¾ 「死にたくなる」
( ½½± ),
­
「自分の変な匂いが気になる」
( ½½± )
,
「親が期
待しすぎ る」
( ½¿± ),­ 「 動悸や脈が気になる」
½¼ ¿
( ½ ± ), 「他人に陰口をいわれる」
( ½ ± ),­
「つきあいが嫌いである」
( ½ ± ), ¿「汚れが気に
なって困る」
( ½ ± )であった .肯定回答出現率が
が出た.
「健体」は精神面で健康な学生の中に ,少人
低い項目は年次別にみてその出現頻度はおおむね一
方々や職員の方々とより連携を深めながら ,謙虚な
定していると報告されている µ .鹿児島大学におい
姿勢でそのような悩みをもつ学生をサポートしてい
て ,平成 年度調査された低い項目 位は本学にお
くことが必要であると思われる.
また ,肯定回答出現率の下位
を失ったりひきつけたりする」
(
いても
½ 位の項目
位の項目
,
½
¾
位の項目¾ , ¿ 位は
位は ¾ 位の項目 であった.
数ではあるが ,精神面で多くの悩みを抱えている学
生が含まれていることがわかる.
.最後に
本調査は本来ならば ,スクリーニングテストとし
て記名で実施すべき質問紙を無記名で実施したこと
で ,他大学との比較検討は行うことができない.
上記の欠点があるとはいえ ,本調査の結果,本大
学には精神面での多くの悩みを抱えた学生が少なか
らずいることがわかった .学生相談室は ,講義や演
習などで直接学生と深くかかわっておられる教員の
, 位は
学科別での特徴として ,自覚症状得点が高かった
本調査にご理解いただき,快くご協力下さいました先生
方,並びに学生の皆様方に心より感謝申し上げます.
½
西山温美・笹野友寿
表¿
質問項目の学科別及び全体の割合
質問項目 ¼項目それぞれに関して,各学科及び学生全体の得点の割合を表記する.
½
大学生の精神健康に関する実態調査
¿¼点以上の得点者の学科別割合
表
文 献
学生のメンタルヘルス 学生相談室から見た現代の青年像.精神科治療学,½¿
( ¿ ),¾
½ )小柳晴生:特集
ß¾
,½
.
¾ )山田和夫:大学生精神医学的チェックリストについて .徳田良仁,小林司編,学校精神衛生の展望,初版,日本精神衛
生会,東京, ¿ß
,½
.
¿ )木下清,島田修,保野孝弘,綱島啓司:大学生の精神健康調査.川崎医療福祉学会誌, ( ½ ), ½ß½¼½ ,½
)喜田裕子,高木茂子:学生相談から見た大学生のメンタルヘルスと心の教育
.富山国際大学人文社会部紀要, ½ ,½
調査をもとに
ß½
.
富山国際大学における過去½¼年間の ÍÈÁ
,¾¼¼½ .
)杉田義郎,三上章良:大阪大学における½ 年間の ÍÈÁ 調査結果.
ÅÈÍË À
ÄÌÀ ,¿ ( ¾ ),¾¾½ß¾¾ ,½
.
)森本芳典,三浦まゆみ,橘玲子:ÍÈÁ にみる大学生の精神健康状態と ½¾年間の傾向.新潟大学保健管理センター紀要,
,¿ ß ½ ,½
.
)上山健一,野間口光男,瀧川守国,前田芳夫:特集
の諸問題とその対策.精神科治療学,½¿
( ¿ ),¾
学生のメンタルヘルス ÅÁ と ÍÈÁ からみた学生の精神保健上
ß¾
,½
.
)西村智代,横山茂生:新人看護職者のメンタルヘルスに関する実態調査.川崎医療福祉学会誌, ( ½ )
,¾½¿ß¾½ ,½
( 平成½ 年
Ò
.
月¾ 日受理)
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