お やま だ あきら 名(本籍) : 小山田 晃 学 位 の 種 類 : 博 学位授与年月日 : 平 成 26 年 3 月 26 日 研究科・専攻 : 東北大学大学院歯学研究科(博士課程)歯科学専攻 学位論文題目 : 市販オキシドールの光分解殺菌効果 論文審査委員 : (主査) 教授 氏 士 教授 ( 歯 佐々木 学 庭 啓 ) 野 一 吉 己 教授 学 位 記 番 号 : 歯 学位授与の要件 : 学位規則第4条第1項該当 高橋 博 第 6 6 3 号 信博 論文内容要旨 [目的]われわれは,過酸化水素 (H2 O2 )の光分解によって生成するヒドロキシルラジカル(HO・) の酸化力を応用した殺菌システム(過酸化水素光分解殺菌法)に関する研究を行い,この技術を応用 した口腔内感染疾患に対する新しい治療システムの開発を目指してきた。これまでの実験では1 0M H2 O2 を希釈して評価を行ってきたが,実際に臨床で使用する場合,すでに安全性が担保された市販オ キシドールを用いるのがより簡便であり,品質的にも安定していると考えられる。そこで本研究で は,市販オキシドールを光分解することにより生成するHO・量の計測と殺菌実験を行い,10M H2 O2 を希釈した場合(Ref er enc ec ont r ol (RC))と比較検討した。 [方法]11種類の市販オキシドールとRCを用いて以下の項目について実験を行った。過酸化水素光分 解殺菌法によるHO・生成量は,電子スピン共鳴法により測定した。過酸化水素濃度は,ヨウ化物の 酸化反応を利用した分光学的分析により行った。オキシドール単独および光分解殺菌法での殺菌効果 をSt aphyl oc oc c usaur eus及びSt r ept oc oc c usmut ansを供試菌として調べた。殺菌効果の最も高かっ たオキシドールについて,その原因解明のためpHおよび配合成分が殺菌効果に及ぼす影響を調べた。 [結果および考察] HO・生成量は,HO・のスカベンジャーであるエタノールを含有したいくつかの 製品でRCに比べ軽度ではあるが有意に低い結果となったが,それ以外の製品は,RCと同程度であっ た。11種類のオキシドールの過酸化水素濃度は2. 9~3. 2 w/v%であり,日本薬局方で規定されている 濃度の範囲内であった。製品間で有意差があるものも見られたが,その濃度の違いは0. 3 %以内であ り,今回供試した製品間での過酸化水素の濃度差は過酸化水素光分解殺菌技術においては重要視すべ き問題でないことが示唆された。S. aur eusおよびS.mut ansに対する殺菌効果は,どの市販オキシ ドールを用いても,光照射の有無に関わらずRCと同程度かそれ以上であった。特に11製品中1社の オキシドール製品(以降I と記す)がRCと比較して有意に高い殺菌効果を示した。I のPHが最も低かっ -21- たこと,およびIにのみEDTAが配合されていることに着目しpHとEDTA添加が殺菌活性に及ぼす 影響を検討したが,オキシドールの抗菌活性の増強にはいずれも関与していなかったことから,I の高 い殺菌効果についてはその理由を解明できなかった。 [結語]本研究により,過酸化水素光分解殺菌法を用いる場合,少なくとも市販のどのオキシドール を用いても,試薬レベルの3% w/vH2 O2 を用いた場合と同等かそれ以上の殺菌効果が得られること が示された。 審査結果要旨 申請者らの研究グループでは,過酸化水素 (H2 O2 )の光分解によって生成するヒドロキシルラジ カル(HO・)の酸化力を応用した殺菌システム(過酸化水素光分解殺菌法)に関する研究を行い, この技術を応用した口腔内感染疾患に対する新しい治療システムの開発を行っている。当該研究グ ループでは,10M H2 O2 を希釈して各種評価を行ってきたが,実際に臨床で使用する場合,すでに安全 性が担保された市販オキシドールを用いるのがより簡便であり,品質的にも安定していると考えられ ることから,申請者は,市販オキシドールを光分解することにより生成するHO・量の計測と殺菌実 験を行い,10M H2 O2 を希釈した場合(Ref er enc ec ont r ol (RC))と比較検討している。 試験は,11種類の市販オキシドールとRCを用いて以下の項目について行っている。 1.過酸化水素光分解殺菌法によるHO・生成量:電子スピン共鳴法により測定。 2.過酸化水素濃度:ヨウ化物の酸化反応を利用した分光学的分析法により測定。 3.オキシドール単独および光分解殺菌法での殺菌活性:St aphyl oc oc c usaur eus及びSt r ept oc oc c us mut ansを供試菌として培養法により測定。加えて,殺菌効果の最も高かったオキシドールにつ いて,その原因解明のためpHおよび配合成分が殺菌効果に及ぼす影響を検討。 その結果,HO・生成量は,HO・のスカベンジャーであるエタノールを含有したいくつかの製品で RCに比べ軽度ではあるが有意に低い結果となったが,それ以外の製品は,RCと同程度であることを 示した。1 1種類のオキシドールの過酸化水素濃度は2. 9~3. 2 w/v%と日本薬局方で規定されている濃 度の範囲内であり,製品間で有意差が散見されたが,その濃度の違いは0. 3 %以内であることから,製 品間での過酸化水素の濃度差は重要視すべき問題でないことを示した。S. aur eusおよびS.mut ansに 対する殺菌効果は,どの市販オキシドールを用いても,光照射の有無に関わらずRCと同程度かそれ以 上であることを示すとともに,1 1製品中1社のオキシドール製品(以降I と記す)でRCと比較して有 意に高い殺菌効果が認められたことから,その原因の検討にも着手した。I のpHが最も低かったこと, およびIにのみEDTAが配合されていることに着目しpHとEDTA添加が殺菌活性に及ぼす影響を精 査したが,オキシドールの抗菌活性の増強にはいずれも関与していなかったことから,I の高い殺菌効 果の原因については,残念なから本研究では解明するまでには至らなかった。 本研究は,過酸化水素光分解殺菌法を用いる場合,少なくとも市販のどのオキシドールを用いても, 試薬レベルの3% w/vH2 O2 を用いた場合と同等かそれ以上の殺菌効果が得られることを明らかにし ており,口腔感染症への新しい治療法開発,歯科医療の発展に貢献することが期待される。よって, 本論文は博士(歯学)に相応しいものと判断する。 -22-
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