事業事前評価表(開発調査) - JICAナレッジサイト

事業事前評価表(開発調査)
作成日:平成 17 年 6 月 29 日
担当グループ:地球環境部第一グループ
1.案件名
東ティモール国ラクロ川及びコモロ川流域住民主導型流域管理計画
2.協力概要
(1)事業の目的
本プロジェクト対象 2 流域(ラクロ川及びコモロ川)における流域管理計画の策定、及び他の流域においても
活用可能な流域管理ガイドラインの策定を通じ、東ティモール国における住民の参加を核にした流域管理の
方策を提示する。また、農林水産省職員及び地域住民、その他関係者の流域管理保全に係る能力の向上
を図る。
(2)調査期間
2005 年 9 月から全体で約 36 カ月(第 1 フェーズ 約 12 カ月、第 2 フェーズ 約 24 カ月)
(3)総調査費用
1.9 億円
(4)協力相手先機関
a. 協力相手国実施機関名:森林・水資源局
b. 協力相手国実施機関の責任者:森林・水資源局局長
(5)計画の対象(対象分野、対象規模等)
a. 調査対象地域:ラクロ川及びコモロ川の 2 流域
(対象県:Dili 県、Manatuto 県、Aileu 県、Liquica 県、Ermera 県)
b. 対象面積・人口:約 160,000ha、約 76,000 人
c. 対象分野:流域管理
3.協力の必要性・位置付け
(1)現状及び問題点
東ティモール国では、1972 年から 1999 年の間、年 1.1%の割合で森林面積が減少し、密林の 35%、林地の
24%が失われた。この直接の原因は、森林火災、薪採取、焼畑農業、無秩序な伐採等と考えられている。森
林の減少は、雨量が多く急勾配の傾斜地が多い東ティモール国において、土壌劣化、洪水などを引き起こ
し、住民の生活にとって大きな影響を与えている。一方で、農民の多数は、高地での焼畑農業に従事してお
り、その多くが比較的土壌の良い流域で焼畑及び放牧を行うため、流域の環境劣化を加速する要因となって
いる。農林水産省灌漑・水資源部の試算によれば、河川の氾濫により、毎年、約 280 ヘクタールの灌漑水田
が被害を受けており、年間の被害総額は 81 万ドルに及ぶと推定されている。
このような現状を改善するためにも、適切な森林・流域管理が必要とされているものの、独立後間もない同
国では、森林と流域管理に関する新政府の法律は制定されていない。併せて、インドネシア統治時代には約
300 名の林業省の職員が配置されていたが、現在、森林行政を担う農林水産省森林・水資源局の職員数は
54 名、うち林学の学士資格を有するものがわずか 7 名のみと、制度・人的にも非常に脆弱であり、森林及び
流域管理に必要な人的資源と組織能力の向上が必要とされている。
行政側の取り組みに加え、荒廃した流域の復旧・保全を図るためには、農民が森林を始めとした流域の天然
資源の利益を持続的に享受できるよう、主体的に移動耕作や放牧のあり方を見直し、森林の整備・保全活
動、農地や放牧地の土壌保全活動に取組む必要があることが、課題として挙げられる。
(2)相手国政府国家政策上の位置づけ
国家計画(NDP)(2002 年策定)は、全セクターでの貧困削減と持続的かつ公正な経済成長の 2 本柱の目標
を掲げ、その実現のためにセクター別の目標を示している。農林水産セクターでは、食料の安定供給と、農
業システムの多様化と農産業の育成による農村の雇用改善の 2 つを目標としている。農林水産省国家森林
水資源局はこのセクター目標に沿って、「森林・流域サブセクターの政策と戦略」(2004 年 11 月)を策定し
た。
なお、同「政策と戦略」における主要な目標は以下のとおり。
a.
b.
c.
d.
森林と流域の荒廃を抑制し、保全地域に残された森林資源と生物多様性の保全を図る。
資源の取引と効果的な資源管理に最適な政策と法的な枠組みを確立する。
森林と流域管理に必要な人的資源と組織能力の向上を図る。
ステークホルダー間の効果的な連携と参加を確保する。
(3)他国機関の関連事業との整合性
本件調査内容に関連するドナー及び NGO 等関連機関として、ハワイ大学、欧州委員会(EC)が流域管理・
開発プロジェクトを実施・準備している。また、UNOPS、CARE International が Manatuto 県において、農民グ
ループを組織し、アグロフォレストリー、植林資源管理を含む村落開発プロジェクトを行っている。
これらの機関の活動は、村落住民の食料の安全保障を主目的にしているが、住民参加型のアプローチや現
地 NGO の活用など、プロジェクトの実施方法については類似点がある。社会調査の方法、サイト選定方法、
現地 NGO の活用方法について情報・意見交換の場を持つことが重要である。
(4)我が国援助政策との関連、JICA 国別事業実施計画上の位置づけ
適切な流域管理の実施には、地域住民に対する森林資源以外からの代替生計手段の確保等、農村開発的
な働きかけが必要である。本調査では、当該分野の調査、パイロットプロジェクトの実施を取り入れている。こ
れは、わが国の対東ティモール国援助政策のうち「農業・農村開発」支援に合致する。また、同国に対する
JICA 国別事業実施計画の援助重点分野「農業農村開発」のうち「農林水産省組織強化-人材育成及び調
査・開発能力強化」とも合致している。
4.協力の枠組み
(1)調査内容
<フェーズ 1>
データの収集・分析、流域管理計画(案)の作成、パイロットプロジェクトの実施準備
a. 作業チーム(農林省職員、地域事務所職員、県農林局職員、本格調査団)の結成
b. 既存情報の収集、現地調査の実施
1. 自然条件
2. 社会経済条件、土地所有制度、ジェンダー、ディリ市内販売用の薪の伐採量を含む村落住民
の森林への依存度
3. 森林及び林業の現状
4. 農業及び社会インフラ
5. 他ドナー、NGO による類似プロジェクトからの提言、教訓
c. 調査対象地域における土地利用図、植生図の作成(25,000 分の 1)
d. 流域管理を促進もしくは阻害する社会経済的、物理的、技術的、組織・制度的要因の解明
e. 流域管理を効果的に実施するための戦略の策定
f. 対象流域における住民主導型流域管理計画(案)の策定
g. 関係者に対する調査結果の報告、調査及び管理計画(案)へのフィードバックを目的とした ワークショ
ップの開催
h. 流域管理計画(案)に基づく住民参加によるパイロットプロジェクトの実施準備
1. 対象村落の選定
2. パイロットプロジェクトの実施計画の作成(目的、想定されるアウトプット、活動、投入、活動ス
ケジュール、実施体制、モニタリング・評価体制等)
3. 地域住民との協議結果に基づく流域管理活動の策定
<フェーズ 2>
パイロットプロジェクトの実施、流域管理計画の策定、住民主導型流域管理ガイドラインの作成
a. 現地 NGO と連携したパイロットプロジェクトの実施
1. 対象地域の住民の参加による活動の実施
2. 参加型による活動の評価
b. パイロットプロジェクトの結果を反映した対象流域における住民主導型流域管理計画の作成
c. 調査結果に基づく住民主導型流域管理ガイドラインの作成
d. 関係者に対する調査結果の報告、調査及び管理計画(案)へのフィードバックを目的としたワークショ
ップ開催
(2)アウトプット(成果)
a. 土地利用・植生図(25,000 分の 1)の作成
b. ラクロ川及びコモロ川流域における住民主導型流域管理計画の策定
c. 農林省職員を対象にした住民主導型流域管理ガイドラインの策定
(3)インプット(投入):以下の投入による調査の実施
a. コンサルタント(分野/人数)
総括/参加型流域管理/1
アグロフォレストリー/1
植林/1
村落開発/1
住民参加/1
b. その他
調査に必要な資機材の購入
5.協力終了後に達成が期待される目標
(1)提案計画の活用目標
•
•
農林省職員が、策定した流域管理計画に基づき、ラクロ川及びコモロ川流域において、住民と協調し
持続的な流域管理を行う。
農林省職員が、策定した流域管理ガイドラインを活用し、プロジェクト対象地域外において、流域管理
に必要な各種調査、管理計画の策定を行う。また、かかる経験を通じガイドラインの改訂を行う。
(2)活用による達成目標
•
対象流域において持続的な森林管理及び適切な農地管理が実施され、地域住民の生計向上・生活
の改善と同時に森林の再生が図られる。
6.外部要因
(1)協力相手国内の事情
•
•
•
政治的要因:政権交代等による森林保全や流域管理に係る政策転換
社会的要因:治安の大幅な悪化
自然的要因:大規模な洪水や山火事等の自然災害
(2)関連プロジェクトの遅れ
特になし
7.貧困・ジェンダー・環境等への配慮(注)
•
パイロットプロジェクトの実施方針、流域管理計画及びガイドラインは、貧困住民の森林資源への依
存度等を十分調査し、彼らのニーズを反映させたものとなるよう配慮する。
•
また、パイロットプロジェクトの実施においては、女性の参画を促進するよう配慮する。
8.過去の類似案件からの教訓の活用(注)
•
•
ドミニカ共和国「サバナ・イェグア・ダム上流域管理計画調査」では、住民参加を前提として実施される
各種事業の円滑な展開のためには、実施機関、地方機関、住民組織間の信頼度を高め、確固たる
協力関係の構築が必要であるとしている。本調査においては、森林水資源局、地方農林局、調査団
が作業チームを結成し、共同で調査を実施する。また、現地事情に精通している NGO を活用し、住
民組織とのネットワークを構築し、彼等のニーズを積極的に調査内容に反映させていく。
本調査対象地域で UNOPS が実施した「コミュニティー活性化プロジェクト」からは、現地農林局の体
制は非常に脆弱であるため、直営形式で住民組織を支援する必要があり、かつ住民組織のキャパシ
ティー・ビルディングが重要であるとしている。本調査においては、パイロットプロジェクトの実施を通
じ、住民組織のキャパシティー・ビルディングを図ることとするが、事業の持続性の観点からも可能な
限り、地方農林局の関与を促していくこととする。
9.今後の評価計画
(1)事後評価に用いる指標
a. 活用の進捗度
• 対象地域において、本調査中に実施したパイロットプロジェクトを継続している村落数。
• 流域管理計画を基に、新たにパイロットプロジェクトに類する活動を実施した村落数。
• 流域管理ガイドラインの改訂状況。
b. 活用による達成目標の指標
• 対象流域における森林管理の実績(苗木生産本数、植林面積等)
• アグロフォレストリー等の実施により、地域住民の生計が向上した割合
(2)上記(a)および(b)を評価する方法および時期
必要に応じて調査終了後 2009 年度以降に評価を実施する。