自由論題 アジアの社会――イスラーム、ジェンダー 報告2 村上明子(北海道大学大学院経済学研究科助教) イラン女性の社会貢献活動:テヘラン市の事例分析 Iranian Women's Contribution to the Society: The Case Study in Tehran 独自の内的発展理論を掲げる現代イランでは,男女の役割や社会的配置がイスラーム・ ベースの世界観によって導き出されている。報告者はこれまで,同国労働市場を対象に現 地調査を行ってきたが,その全体構造を解明するにあたりいくつかの課題も明らかとなっ ている。特に大きな問題として,女性労働の統計的な評価が現地の実態と乖離しているこ とが挙げられる。すなわち,同国では経済活動人口として公式統計で活動状況が明らかに なっている女性が少なく,女性の従来の活動実態を公刊資料から把握するのが難しい状況 にある。なお,こうした“女性の活動の見えづらさ”には,イスラーム的価値観が大きく 影響している。したがってイラン女性の活動状況を把握するためには,労働市場のみを対 象とするのではなく現地の思考様式と生活形態を考慮した調査設計が重要となる。 以上を念頭に置きながら,報告者は 2015 年の 2 月から 3 月にかけてイランの首都テヘラ ン市で女性が活躍する NGO と,ヘイリーエと呼ばれる慈善組織の調査を行った。 近年のイランでは NGO が新たな価値観と活動を社会全体で共有していくための担い手 として,また女性の活躍の場として大きな期待を集めている。労働需給が逼迫し就業機会 が限られているイランでは,女性のキャリア形成や自己実現の場として今後 NGO の重要性 が増していくと思われる。また同国ではヘイリーエと呼ばれる慈善組織が広く存在してお り,そこでは多くの女性が地域に根ざした活動を展開している。NGO が比較的新しい組織 で外来の価値観に触発される形で広がりを見せているのに対して,ヘイリーエはイスラー ム的相互扶助の価値観をベースにした伝統的な組織と言える。 将来的にはイラン女性について,再生産領域や地域社会における活動全般の事例分析を 重ね,それと同時に労働市場への関与のあり方も検討することで,同国における女性の社 会的配置のあり方を明らかにしていきたい。
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