ハスモンヨトウ成虫と次世代幼虫における薬剤感受性の相関、及び野外捕獲虫 の複合抵抗性 [要約]チオジカルブフロアブル剤に抵抗性を示すハスモンヨトウ成虫の次世代幼虫は、 同剤に対して抵抗性を有している。また、本研究で供試した同剤抵抗性系統は、エトフェ ンプロックス乳剤および PAP 乳剤に対しても複合抵抗性を示した。 茨城県農業総合センター園芸研究所 成果 区分 研究 1.背景:ねらい 農業経営規模の拡大や大規模農業団地の形成が進む一方、連作や農薬の多用による病害 虫の難防除化が著しい。大型チョウ目害虫においても、薬剤抵抗性の獲得が相次いで報告 され、既存の薬剤に替わって新規化合物に対する防除効果に期待が集まっており、これら が繁用される傾向にある。したがって、薬剤感受性の低下を常に念頭に置き、生態系の一 方向への変異を誘発しない防除体系が必要と考えられる。また、一旦感受性の低下が顕著 となった薬剤に対しても、使用頻度が減少することによって、ふたたび感受性の復帰が認 められる場合もある。したがって、野外捕獲虫の薬剤感受性をモニタリングすることは、 効果的な防除を行ううえで極めて重要である。 フェロモントラップにより捕獲した雄成虫を用いて薬剤感受性を判定することで、次世 代に発生する幼虫の薬剤抵抗性をいち早く知る技術を確立する。 2.成果の内容・特徴 1)ハスモンヨトウ成虫のチオジカルブフロアブル剤感受性は当代幼虫の感受性程度を十 分に反映する(図1)。 2)チオジカルブフロアブル剤抵抗性系統の自殖によって、次世代系統の幼虫にも抵抗性 が認められ(図1)、雄成虫が獲得した薬剤抵抗性は次世代幼虫に発現する。このこと から、誘引雄成虫における薬剤感受性を評価することにより、抵抗性個体群の発生・消 長に重要な情報を得ることができる。 3)抵抗性雄と感受性雌の交雑により、次世代幼虫の薬剤感受性は両親の中間的位置に現 れる(図1)。 4)抵抗性系統の自殖系統は、いずれもチオジカルブフロアブル剤とともにエトフェンプ ロックス乳剤および PAP 乳剤に対しても感受性の低下が著しく、これらの薬剤に複合抵 抗性を有していた(図2)。 3.成果の活用面・留意点 1) 成虫に十分吸水させるため、供試虫は予め数時間低温(4℃)に置き、活動を緩慢に させておく。 成虫のLC50(mg/l) 1000 4.具体的データ 100 10 抵抗性自殖系統 (感受性×抵抗性)交雑系統 感受性自殖系統 1 0.1 1 10 100 1000 10000 3齢幼虫のEC50(mg/l) 図1.チオジカルブ剤抵抗性ハスモンヨトウの次世代系統における同剤感受性 EC50 (mg/l) 1000 エトフェンプロックス剤 100 10 < 6.3 1 1 10 100 1000 10000 1000 PAP剤 100 抵抗性自殖系統群 <15.6 (感受性×抵抗性)交雑系統群 10 感受性系統群 1 1 10 100 1000 10000 チオジカルブ剤に対するEC50 (mg/l) 図2.チオジカルブ抵抗性ハスモンヨトウ系統のエトフェンプロックス剤 ならびに PAP 剤に対する感受性 5.試験課題名・研究期間・担当研究者 試験課題名:難防除鱗翅目害虫の薬剤感受性判定法 研 究 期 間:2000~2004 年度 担当研究者:西宮智美・中西 宏
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