LC/Q-T TOF による る環境水中 中農薬の挙 挙動追跡 跡

佐賀県衛生
生薬業センター所
所報
第 34 号(平成 24 年度)
[調査研究]
LC/Q-T
TOF による
る環境水中
中農薬の挙
挙動追跡
跡
環境
境衛生課 大窪かおり 草
草場潤一 北島
島淳二
食品
品化学課 中山秀幸
ット分析 LC/
/Q-TOF 農薬
薬 事故 多変量解析
多
キーワード:ノンターゲッ
に
はじめに
1
現代の生
生活において
て化学物質は
は必要不可欠
欠で,その種類
類と使用量が
が近年加速度
度的に増加し
している一方
方
で,適切に管
管理されず誤
誤った使用や
や廃棄により環
環境に拡散し
した場合は,人の健康や
や生態系へ悪
悪影響を及ぼ
ぼ
す恐れが生
生じる.佐賀県
県においては
は,農薬等の 化学物質が
が水源に流出したと考えら
られる水質事
事故が毎年数
数
件発生してい
いるが,調査
査過程で原因
因物質が不明 なことも多く,
,原因究明の
のためには対
対象物質を絞らずできるだ
だ
け多くの物質
質を測定する
ることが求めら
られる.それ
れらの幅広い物
物質を網羅す
するノンターゲ
ゲット分析は
は,コンピュー
ー
タの性能及びソフトウェア
アの飛躍的な
な進歩によりこ
これまで困難
難とされてきた
た解析が可能
能となっている
る.
質事故の原因物質として
て農薬が疑わ
われるケースで
では,クリーク
ク等の停滞し
している水域で
であっても事
事
一方,水質
故原因物質
質の特定に至
至るケースは少
少なく,農薬の
の消長過程に
には不明な点
点が多い.そこ
こで,分解性
性の比較的高
高
い農薬を対
対象に LC/Q-TOF を用い
いて環境水中
中における変
変化の追跡を
を試み,事故原
原因究明手法
法として有用
であるか検討
討を行った.
2
方法
①
試料
クリークで 20012 年 10 月に採水し,G
GF/C でろ過したものを用
用いた.農薬は
は PRTR 集計
計結果1)に基
基
佐賀県内ク
づいて,佐賀
賀県内で使用
用実績の多い
いチウラム,フ
フェントエート
ト,メチダチオ
オン(図 1)を選
選択した.農
農薬は残留農
農
薬試験用標
標準品をそれぞれメタノールに溶解し, 1000mg/L に調製したも
に
ものを原液とし
した.
分析用試料
料は,クリーク
ク水及び対照
照(ミリ Q 水)5500mL に対し
し各原液を 2m
mg/L となるよ
ように添加混
混合後自然光
光
下に放置し,1 時間後(ク
クリーク水のみ
み),6 時間後
後,24 時間後
後,2 日後,3
3 日後,7 日 後に分取し,分析に供し
し
始時の pH は,クリーク水
は
水 7.8,ミリ Q 水 7.0 であっ
った.
た.測定開始
図1 測
測定対象農薬
薬
②
測定
時間を経過した
た試料は,メンブランフィル
ルタ(親水性
性 PTFE 製,A
ADVANTEC
所定の時
過
DISMIC 13HP)でろ過
した後, LC
C/Q-TOF を用いて各試
を
料 3 回ずつ 繰り返し MS Scan 測定及
及び Auto M
MS/MS 測定を
を行った.測
測
定条件は表
表 1 に示すとお
おりである.な
なお,Collisioon energy につ
ついては,予
予備試験で各
各標準物質に対し 5~20V
V
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で測定した ところ,プリカ
カーサイオ
ン強度が低
低下するか,ま
またはプロ
ダクトイオン
ン強度が極端
端に低くな
ったことから
ら,Auto MS//MS モード
の設定値を
を 0V とした.
表 1 測定
定条件
LC Agilen
nt 1200EL
Column
Mobile phaase
A:95% /B:5% (0min) -A
A:5%/B:95% (3
30-45min)
post time:15min
Gradient
③
解析
スクリーニング
グのための
定性的ス
デ ー タ 解 析 に は , Agillent Mass
Hunter Quualitative annalysis for
LC/MS(B004.00)を用い
いた.最初
に,各試料
料のスキャンデ
データから
Molecular F
Feature Extraact により,
強 度 10,0000 以 上 , 質 量 誤 差
7ppm 以下
下のピークを抽
抽出した.
ZORBAX Eclipse
E
C18 2.1x100mm(3.5μm)
A:5mmol/
/L CH3 COON
NH4 /Water
B:5mmol/
/L CH3 COON
NH4 /MeOH
n
0.2mL/min
Flow rate
MS Agilen
nt 6540 Q-TOF
Dual-ESI
Ion source
Positive
Mode
4000 V
Capillary voltage
100 V
Fragmentor voltage
(Auto MS/
Collision en
nergy
/MS) 0 V
Referencess
(SCAN) 12
21.050873,92
22.009798
SCAN範囲
囲(m/z)
(SCAN) 50
0-500 (Auto
o MS/MS) 50
0-400
が予想される
る分解生成物
物を含む農薬
薬精密質量デ
データベース(当所作成,約
約 750 物質収
収録)を用い
い
次に,生成が
て,質量誤差
差 5ppm 以下
下かつ 0.0025Da 以下でデ
データベース
スと一致するピ
ピークを検索
索し一致したピ
ピークについ
い
ては物質名を記録した.また各ピーク
クの強度によ
より経時変化を
を記録した.
データベー
ースと一致した
たピークに対
対しては,分解
解生成物の挙
挙動を把握す
するために多変
変量解析を行
行った.多変
変
量解析ソフト
トは Agilent Mass Profileer Professionnal(Version 2.0)を使用し
2
した.解析条件
件は,Molecu
ular Featuree
Extract によ
よるピーク抽出
出時の条件に
に加え,同一 検体における
る 3 回の測定
定で 100%出
出現した物質を
を対象として
て,
更にその強 度変動が 255%以内の物
物質に絞り込ん
んだ.
3
考察
結果と考
①
各農薬
薬の経時変化
化
添加した
た 3 物質の経
経時変化について図 2 に示
示す.チウラム
ムは対照・クリ
リーク水とも 6 時間後の測
測定時に大き
き
く減少し,更
更に 1 日後に
には完全に消失した.メチ ダチオンは 7 日間を通し
して対照で 100%,クリーク水
水で 20%程度
度
とわずかに減
減少した.フェ
ェントエートは
はクリーク水の
のみで徐々に
に減少し,7 日後に概ね半
日
半減した.
図 2 各試料にお
おける農薬の経
経時変化
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②
多変量
量解析結果
各物
物質についてはそれぞれ分
分解物が生成
成したと考
えられ,
,それらの追
追跡を目的とし
して多変量解
解析を行っ
3d
た.
2d
時的な変化が
が適切に把握
握できることを
を確認する
経時
ために ,最初に各試
試料群を時系
系列でグルー
ープ分けし
て主成
成分分析(PCA
A:Principal Component Analysis)
1d
を行った
た(図 3).この
の結果,試料
料群の経時変
変化が反映
0d6h
7d
されてい
いる様子を視
視覚的に捉え
えることができ
きた.すな
わち主
主成分分析の X 軸及び Y 軸の構成要
要素は経時
的に大
大きく変化して
ている要素で
であることから
ら,これらを
0d1h
追跡す
することにより ,具体的に分
分解物を把握
握すること
ができる
る.
経時
時的に増加した
た物質群のう
うち添加農薬
薬の分解に
図3
経過
過時間別試料
料群の PCA プロット
プ
よって生
生成した可能
能性のあるもの
の 2)3)を,精密
密質量から推
推定される化学
学式及び経時
時的な強度変
変化から推定
定
した(図
図 4).これらを
を含む精密質
質量データベ ースを用いた
た各抽出ピー
ークの検索によ
より,分解物を特定した.
その結
結果を基に,1 時間後(X 軸)と
軸 7 日後((Y 軸)の 2 群間のスキャッ
群
ッタードプロッ
ットを作成した
た(図 5).この
の
図では
は X 軸では右
右下,Y 軸では
は左上に偏る
るほど,その試
試料群に特徴
徴的な成分で
であることを示
示している.そ
そ
の結果
果,経時的に変
変化している
る要素を網羅し
した上で,フェントエートの
の分解生成物
物(PAP acid))が 7 日後の
の
試料に
に特徴的に存
存在することが
が確認できた.
.
Phenthoaate (PAP)
PAP acid
d
S-α-carbo
oxybenzyl=O,O
Odimethyl=p
phosphorothioaate
(PAP acid)
Thiram
Phenthoate
Meth
hidathion
Methiddathion
図4
4(hydroxym
methyl)-2-metthoxy
-1,3,4-th
hiadizole-5(4H
H)-one
(Methidath
hion degradatee)
農
農薬とその分
分解生成物
図5
③
1 時間
間後-7 日後の
の試料比較
農薬の挙動
添加農
チウラ
ラムは水中で
で速やかに消失したが,ス キャン及び Auto
A
MS/MS
S 測定の結果
果から分解生
生成物を把握
握
すること
とはできなかった.これに関しては,分
分解生成物が
が本実験にお
おける測定条件
件で検出でき
きなかった可
可
能性に
に加えて,チウ
ウラム自体の容
容器への吸着
着の可能性が
が考えられ 4)5),更なる検証
証が必要であ
ある.
フェン
ントエート及び
びメチダチオ
オンとそれらの
の分解物として
てデータベー
ース検索で一
一致したピーク
クについて,
それぞ
ぞれの抽出イオ
オンマスクロマ
マトグラム(Exxtracted Ion Chromatograam:EIC)を図
図 6 に示す.メ
メチダチオン
ン
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PAP
P acid
Methidathion
Methiidathion de
egradate
Phentthoate
PAP
P acid
図6
農薬とその
の分解物の抽
抽出イオンマ スクロマトグラム(EIIC)
につい
いては分解物 1 種類のみが
が観測された
た.一方,フェ
ェントエートの
の分解物であ る PAP acid はリテンショ
ョ
ンタイム
ムの異なる 2 本のピークが出現した. いずれの農
農薬についても
も,それぞれ
れのリテンション
ンタイムに重
重
なるピー
ークがあり,こ
これらの経時的な強度変化
化によりその挙動を検証し
した.
メチダ
ダチオン及び
びその分解物
物(図 7-1)につ
ついては,ピ
ピークの経時変
変化がそれぞ
ぞれ同調して
ていたことから
ら,
メチダチ
チオンがイオ
オンソース内で
でイオン化する
る際に分解生
生成した可能
能性が高い.
一方,
,フェントエー
ート及びその分
分解物である
る PAP acid については(図 7-2),フェ ントエートとリ
リテンションタ
タ
イムの同
同じものは経
経時変化が同
同調していたこ
ことから,メチ
チダチオンの場
場合と同様イ
イオンソース内
内で生成した
た
ものと推
推測された.し
しかし,フェン
ントエートよりも
も早いリテン
ンションタイムに
に出現したピ
ピークはミリ Q 水では出現
現
せず,ク
クリーク水のみ
みで 1 日後か
から徐々に増
増加したことか
から,フェントエ
エートが水中
中で分解した PAP acid と
考えられ
れた.
Con
ntrol (MilliQ
Q)
Creak waater
1.5E+06
1.5E+
+06
1.0E+06
1.0E+
+06
5.0E+05
5.0E+
+05
0.0E+
+00
0.0E+00
0d6h
methidathion
図 7-1
1d
2d
3d
0d1h
7dd
0d6h
methidatthion
methid
dathion degradaate
農薬とその
の分解物の経
経時変化(メ
メチダチオン
ン)
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1d
2d
3d
d
7d
m
methidathion deegradate
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Conttrol (MilliQ))
Creak watter
1.5E
E+06
1.5E+06
1.0E
E+06
1.0E+06
5.0E
E+05
5.0E+05
0.0E
E+00
0d1h
0.0E+00
0d6h
1d
phenthoate
図 7-2
2d
3d
7dd
0d6h
1d
phenthoa
ate
PAP acid(18.2min)
a
2d
3d
7d
PAP acid(18..2min)
PAP acid
d(13.5min)
農
農薬とその分
分解物の経時
時変化(フェ
ェントエート)
Autoo MS/MS 測定は,生成
測
した分解物の
の構造につい
いて,より多く
くの情報を得
得るために実施
施した.Autoo
MS/MSS 測定は,こ
この場合ピーク
ク強度 10,0000 以上のピ
ピークについて
て,自動的に
にプロダクトイオンスキャン
ン
を行う測
測定モードで
である.このようにして得られ
れたプロダク
クトイオンのマ
マススペクトル
ルを示す(図 8).フェントエ
8
エ
ートも含
含めていずれ
れも共通するフ
フラグメントイ
イオンのピーク
ク(m/z 247.00)があり,共通
通の構造(C9H12O2PS2)を
を
持って いると推測さ
される.このこ
ことから,ノン
ンターゲット分
分析のように目
目的物質が特
特定できない
い場合では,
Auto M
MS/MS を活用
用することによ
より,確実な分
分解物の帰属
属が可能にな
なる.
PAP acid
(13.47minn)
Phenthoaate
PAP acid
(18.18minn)
図8
フェントエートとその分解物の プロダクトイオンスペクトル
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4
まとめ
環境水中における農薬の分解生成物を LC/Q-TOF を用いて追跡した.スキャンモード測定で添加農薬及
びその分解生成物を把握し,Auto MS/MS 測定により共通の構造を有することを確認した.
クリークのように停滞している場合の多い環境水中では,農薬は吸着や分解により減衰すると考えられる.水
質事故が発生してから通報までには数日が経過していることも多く,より確実に原因物質を突き止めるために
は分解物を追跡することも重要であり,これまで実施してきたスキャンモードのスクリーニングに加えて,同時に
MS/MS 測定によるプロダクトイオンの解析を行うことが有用である.
5
文献
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水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について,水産動植物の被害防止に係る農薬登録保
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