シート状補強材によるコンクリート板の耐爆性能向上 - 土木学会

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土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
シート状補強材によるコンクリート板の耐爆性能向上メカニズムに関する研究
防衛大学校
正会員
○別府万寿博
1.緒言
大久保一徳
大野友則
250
鉄筋コンクリート部材が大きな爆発荷重を受けると,局部的
C4爆薬
50
トでコンクリート板の裏面を補強することにより,コンクリー
.
H型鋼
100
本研究は,シート状補強材によるコンクリート板の耐爆性能向
繊維シート
80
1),2)
無筋コンクリート板
200
ト板の耐爆性能が向上することを実験的に明らかにした
支台
70
な損傷や破壊が発生する.著者らは,繊維シートや樹脂系シー
上メカニズムについて,考察を行ったものである.
2.実験の概要および実験結果
100
実験は,図-1 に示すように質量 125g の C4 爆薬を 7cm のス
砂地盤
鋼板
Unit:mm
図-1 実験の概要
タンドオフで爆発させる近接爆発実験である.コンクリート板
供試体は縦横 500mm,厚さ 80mm で,コンクリートの圧縮
強度は 22.3N/mm2 である.実験で用いた繊維シートの種類
は,カーボン,アラミド繊維,ステンレスおよびビニロン
スポール深さ
スポール
スポール直径
強化エポキシアクリレート樹脂,特殊アクリル樹脂,ポリ
ウレア樹脂である.計測項目は,図-2 に示すように,①ス
斜めひび割れの深さ
ポールの直径,深さ,②板内部に発生する斜め方向のひび
斜めひび割れ
割れ(斜めひび割れ)の幅と深さ,③板とシート間の接着
接着面の損傷
斜めひび割れの幅
接着面の損傷の幅
面の損傷幅,である.
図-2 局部損傷の種類および計測項目
図-3,図-4 に,スポールの深さ,斜めひび割れの高さと
60
引張剛性の関係を示す.ここで,引張剛性とは,シート状補
かる.すなわち,局部損傷の低減には引張剛性が大きな影響
を与えていることがわかる.
スポールの深さ (mm)
大きくなるにしたがって,ほぼ線形に低減していくことがわ
VAFR1枚
40
VAFR2枚
特殊アクリル樹脂2m m
30
特殊アクリル樹脂4m m
20
特殊アクリル樹脂8m m
ポリウレア樹脂2m m
10
ポリウレア樹脂4m m
3.耐爆性能向上メカニズム
3.1
SAFR1枚
50
強材のヤング率 E と材厚 t の積で定義される.これより,ス
ポールの深さ,斜めひび割れの高さはいずれも,引張剛性が
無補強
0
0
応力波の反射の影響
5
コンクリート板が爆発荷重を受けると,図-5(a)に示すよう
は,次式で表される.
σ xx ≠ 0 , σ xy = 0 , σ yy = 0
(1)
(自由端)
(2)
(半固定端) σ xx ≠ 0 , σ xy = σ fr , σ yy = 0
図-5(b)および次式に示す三角パルスの圧縮応力波を入射
させて,裏面における応力波の反射率 3)を求める.
2方向カーボン 繊維シート1枚
2方向カーボン繊維シート1枚
50
斜めひび割れの高さ (mm)
が存在する場合(以後,半固定端という)の力学的境界条件
25
60
とでスポール破壊が生じると考えられている.そこで,応力
いて考察する.裏面が自由端の場合および繊維による応力 σfr
20
図-3 スポールの深さと引張剛性の関係
に表面から圧縮応力波が入射され,裏面で自由端反射するこ
波理論により,補強材の有無が裏面の反射に与える影響につ
10
15
引張剛性 ( kN/mm)
2方向アラミド繊維シート1枚
SAFR1枚
40
SAFR2枚
30
VAFR1枚
VAFR2枚
20
ポリウレア樹脂2mm
10
ポリウレア樹脂4mm
ポリウレア樹脂8mm
0
0
10
20
30
40
50
引張剛性 (kN/mm)
図-4 斜めひび割れの高さと引張剛性の関係
キーワード
爆発荷重,耐爆補強,シート状補強材,コンクリート板
連絡先
〒239-8686 横須賀市走水 1-10-20 防衛大学校建設環境工学科 TEL:046-841-3811
-1053-
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土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
U 0 (x, y, t ) = A0 (1 −
x cosα0 + y sinα0 + c1t
)
λ
爆発
(3)
応力波の入射
ここに,A0 は変位振幅,λ は波長,c1 は膨張波の伝播速度,
入射波の角度α0
α0 は入射角である.
図-6 は,シート状補強材によって生じる裏面の応力が 0,
(a) 爆発荷重による応力波の入射
20,40N/mm2 の場合における,応力の反射率を示している.
振幅
入射角が 0°,すなわち裏面に圧縮波が垂直に入射する場合
をみると,自由端(σfr=0)では反射率は-1 となり引張応力が
生じることを示している.一方,裏面の応力が大きくなるに
A0
したがって,反射率はプラスに転じて圧縮波として反射され
波長
ることがわかる.つまり,裏面を繊維シートで補強すること
λ
により引張波が低減され,コンクリートのスポール破壊が小
(b) 三角パルスの応力波
さくなることを示している.
3.2
図-5 応力波解析の仮定
せん断耐力の影響
シート状補強材で裏面を補強すると,コンクリート板の押
し抜きせん断耐力は向上する.次に示すコンクリート標準示
6
方書による押し抜きせん断耐力式を用いて,裏面補強による
5
せん断耐力を算定する.
4
(4)
ここに,β は係数, f pcd = 0.20 f c (N/mm2),u p = u0 + 2π ⋅ d ′ / 2 ,
fc:コンクリートの圧縮強度(N/mm2),u0:載荷面の周長(mm),
up:仮想断面の周長(mm),d’:有効板厚(mm)である.
本研究では,シート状補強材の引張剛性を,鉄筋比を考慮
する係数 β p の中で次式のように考慮した.
σfr=20
3
反射率
V pc = β d ⋅ β p ⋅ βγ ⋅ f pcd ⋅ u p d ′ / γ b
σfr=40
2
σfr=0
1
0
-1
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
-2
入射角( °)
Ef ⎞
⎛
βp = 3 100 ⎜⎜ ps +
bt ⎟
Es ⎟⎠
⎝
(5)
係を示している.これより,斜めひび割れの高さは,押し抜
きせん断耐力が大きくなるにしたがって小さくなっている.
すなわち,シート状補強材によって押し抜きせん断耐力が増
加することで,斜めひび割れ損傷が低減されたものと考えら
55
斜めひび割れの高さ (mm)
ここに,ps は鉄筋比,E f はシート状補強材のヤング率,Es は
鉄筋のヤング率,b はコンクリートの幅,t は補強材厚である.
図-7 は,斜めひび割れの高さと押し抜きせん断耐力との関
図-6 半固定端条件と応力反射率の関係
2 方向カーボン繊維
シート1 枚
2 方向カーボン繊維
シート2 枚
2 方向アラミド繊維
シート1 枚
SAFR1 枚
50
45
SAFR2 枚
40
VAFR1 枚
VAFR2 枚
35
れる.
45
55
65
押し抜きせん断耐力 (kN)
参考文献
図-7
1)大久保一徳,別府万寿博,大野友則,佐藤和幸:繊維シート補
の関係
斜めひび割れと押し抜きせん断耐力
強によるコンクリート板の耐爆性能向上に関する実験的研究,
コンクリート工学年次論文集,Vol.29,No.3,2007.7.
2)大久保一徳,大野友則,別府万寿博,福井秀平,横島順一:高分子材料で裏面補強したコンクリート板の耐爆効
果に関する実験的研究,防衛施設学会平成 19 年度研究発表会概要集,pp.56-61,2007.12.
3)林卓夫,田中吉之助編著:衝撃工学,日刊工業新聞社,1988.8.
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