温度応力解析に用いる設計用値取得のための簡易物性評価 - 土木学会

土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
Ⅴ-315
温度応力解析に用いる設計用値取得のための簡易物性評価試験法
東京工業大学大学院
学生会員 ○赤熊 宏哉
法政大学大学院
学生会員
竹内 直也
法政大学
正会員
溝渕 利明
1.はじめに
コンクリート構造物の耐久性を損なう要因のひとつとして,セメントの水和熱による温度ひび割れがある.
温度ひび割れ発生抑制のために断熱温度上昇試験装置で得られた解析に用いる設計値をもとに温度応力解析
を行い,ひび割れ発生の有無やひび割れ抑制のため検討が行われている.本研究では,現場への運搬が比較的
簡便な発泡スチロール製の簡易断熱容器を用いて,解析用物性値の取得の可能性について検討を行った.本検
討では,普通セメント,高炉セメント B 種及び低熱ポルトランドセメントの各セメントについて,簡易断熱
容器を用いて,断熱温度上昇式,熱膨張係数及びマス養生下での強度特性について実験を行い,JCI ひび割れ
制御指針 2008・土木学会コンクリート標準示方書[施工編]に示されている物性値と比較検討を行った.
2.試験方法
190mm
試験の要因と水準を表-1 に示す.以降,普通ポルトランドセメントを N,
745mm
高炉セメント B 種を BB,低熱ポルトランドセメントを L とする.簡易断
熱容器を図-1 に示す.簡易断熱容器では,容器中心部に位置しているコン
クリート供試体(φ300×450mm)の中心部に埋設したひずみ計で温度とひ
ずみの計測を行い,熱膨張係数の算定を行うと共に断熱温度上昇特性を推
900mm
1460mm
図-1
簡易断熱容器全体図
定した.また,簡易断熱容器中の両端に位置する強度試験用の供試体を用
いて圧縮強度,引張強度及びヤング係数を求めた.ただし,本実験ではコ
ンクリート温度がほぼ外気温と同様となった材齢 13 日以降恒温室にて封
かん養生を行った.また,簡易断熱容器で測定された温度から図-2 に示す
解析モデルを用いて同定解析を行った結果と JCI ひび割れ制御指針で得ら
図-2 簡易断熱容器解析モデル
れた値をもとに解析を行った結果と比較を行った.本検討で用いた断熱温
表-1
度上昇式を以下に示す.



T  K 1  exp   (t  t0 )β ・・・・・・・(1)
ここで K は終局断熱温度上昇量(℃)
,α,β は温度上昇速度
に関する定数,t0 は発熱遅れ時間(日)
,t は材齢(日)であ
る.
3.試験結果及び考察
要因と水準
要因
水準
セメント種類
N,B,L
単位セメント量
(kg/m3)
養生
強度材齢(日)
250,300,350,400
簡易断熱養生,水中養生
3,7,13,28
結果の一例として,L300 の簡易断熱養生での温度履歴を基に同定
解析した断熱温度上昇式とひび割れ制御指針に示されている断熱温
度上昇式とを比較した結果を図-3 に示す.また,N 及び L のコンク
リートを使用し,簡易断熱容器及び断熱温度上昇試験装置を用いて得
られた温度履歴をもとに同定解析を行った結果を図-4,5 に示す.
図-3 断熱温度上昇式の比較(L300)
キーワード 断熱温度上昇特性,マスコンクリート,温度ひび割れ,マス養生
〒152-8552 東京都目黒区大岡山 2-12-1 東京工業大学
-629-
針で示されている断熱温度上昇式とほぼ同様の挙動を示した.
図-4,5 から,単位セメント量と終局断熱温度上昇量及び単位セメン
ト量と温度上昇速度に関する定数は,両者ともほぼ比例する関係を示
した.ただし,簡易断熱容器を用いた断熱温度上昇特性は終局断熱温
度上昇量 K が断熱温度上昇試験で得られた値と比べて,各セメント種
とも平均して約 2℃高い結果となり,温度上昇速度に関する定数 α は
断熱温度上昇試験で得られた値と比べて約 0.2 低い値となった.以上
より,簡易断熱容器から得られた断熱温度上昇特性は,断熱温度上昇
試験装置から得られた断熱温度上昇特性の値に比べて若干異なるもの
の,ほぼ同様の値が得られたことから,簡易断熱容器を用いることで,
コンクリートの断熱温度上昇特性をほぼ推定できるものと思われる.
N,BB 及び L の有効材齢と圧縮強度の関係を図-6 に示すとともに,
60
50
40
30
簡易断熱容器(N)
断熱温度上昇試験装置(N)
簡易断熱養生(L)
ひび割れ制御指針(L)
20
10
200
図-4
250
300
350
400
単位セメント量(kg/m3)
450
断熱温度上昇量の関係(N と L)
2.5
図-7 に圧縮強度と引張強度との関係を示す.図-7 において,ひび割れ
制御指針とはひび割れ制御指針の算定式より算出したものである.ま
70
0
温度上昇速度に関するα
図-3 から,簡易断熱より得られた断熱温度上昇式は,ひび割れ制御指
終局断熱温度上昇量K(℃)
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
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簡易断熱容器(N)
断熱温度上昇試験装置(N)
簡易断熱養生(L)
ひび割れ制御指針(L)
2
1.5
1
0.5
0
200
300
400
単位セメント量(kg/m3)
500
図-5
温度上昇速度の関係(N と L)
れ制御指針により算定された値とほぼ同様の挙動を示した.図-8 から
図-6
有効材齢と圧縮強度の関係
ヤング係数と圧縮強度と関係は,N・BB・L のいずれのセメント種類
4.5
た,図-8 に圧縮強度とヤング係数の関係を示す.図-8 において,ひび
割れ指針とは図-7 と同様にひび割れ制御指針の推定式より算出したも
のである.図-6 から,マス養生での圧縮強度は水中養生で得られた強
度に比べて低い結果となった.これは,マス養生の供試体が標準養生
の供試体と比べて水和のために必要な水分が不足し,強度増進が見ら
れなかったのではないかと思われる.図-7 から,N・BB・L のいずれ
のセメント種類においても養生条件の影響をほとんど受けず,ひび割
4
においても養生条件の影響はほとんど受けず,ひび割れ制御指針に示
4.まとめ
本検討では,簡易断熱容器を用いて,N,BB 及び L の各セメントに
ついてマス養生下での熱的特性及び力学的特性の推定,温度応力解析
引張強度(N/mm2)
されている関係式とほぼ同様の挙動を示した.
3.5
3
2.5
1.5
1
0.5
に用いる解析用物性値の取得の可能性の検討を行った結果,熱的特性
0
に関しては,簡易断熱容器の測定結果から得られた断熱温度上昇特性
0
図-7
たものとほぼ同様の値が得られたことから,簡易断熱容器を用いてコ
45
ンクリートの断熱温度上昇特性を推定できる可能性を見出すことがで
40
力学的特性に関しては,マス養生下における圧縮強度が標準養生の場
合に比べて低くなるという結果となった.圧縮強度と引張強度,圧縮
強度とヤング係数の関係については,養生条件にかかわらず,ひび割
れ制御指針の関係式とほぼ同様の挙動を示すという結果が得られた.
ヤング係数(kN/mm2)
は,断熱温度上昇試験装置を用いた場合やひび割れ制御指針に示され
きた.
-630-
10
20
30
40
圧縮強度(N/mm2)
50
60
圧縮強度と引張強度の関係
35
30
25
N-簡易断熱養生
N-水中養生
BB-簡易断熱養生
BB-水中養生
L-簡易断熱養生
L-水中養生
ひび割れ制御指針
20
15
10
5
0
今回は実験室で測定を行ったが,今後は現場測定を行うことにより,
現場での簡易断熱容器の使用の可能性を検討していく必要がある.
N-簡易断熱養生
N-水中養生
BB-簡易断熱養生
BB-水中養生
L-簡易断熱養生
L-水中養生
ひび割れ制御指針
2
0
図-8
10
20
30
40
圧縮強度(N/mm2)
50
60
圧縮強度とヤング係数の関係