6 養 液 循 環 式 Ebb&Flow で の ミ ニ バ ラ 栽 培 に お け る 窒 素 供 給 量 と 生 育 の 関 係 1.背景・ねらい 岐阜県はミニバラ鉢物栽培の先進県であり、その多くの生産者は Ebb & Flow 方式で栽培を行 っている。この方式において、近年、廃液処理による環境への負荷問題に加え、経費節減対策と して単肥配合による循環式養液栽培技術(クローズドシステム)への関心が高まってきた。しか し、日本ではこの方式における養液組成をはじめ一連の栽培技術が確立されていないため、オラ ンダなどのヨーロッパ諸国の技術を参考に生産者の長年の経験による栽培が行われているのが現 状である。そこで今回は、循環式 Ebb & Flow 方式でのミニバラ鉢物栽培における日本での養液 組成確立のため、8∼ 10 月栽培と2∼5月栽培の結果を用いて、植物体1鉢あたりの窒素供給 量及び吸収量と生育の関係について報告する。 2.試験の方法 ( 1)試験場所 所内ムービングプールベンチ温室(最高 30 ℃ 最低 18 ℃) ( 2)供試品種 シルクレッド(3号鉢に3本挿し 1区 576 鉢) ( 3)耕種概要 8∼ 10 月栽培 挿し木日 試験開始日 1回目ピンチ 2回目ピンチ 試験終了日 2∼5月栽培 6月 25 日 8月4日 8月 17 日 9月9日 10 月7日 1月 10 日 2月 22 日 3月 22 日 4月 27 日 5月 28 日 ( 4)循環養液の養液組成 N 10 :1区 10 :5区 10 :10 区 硝酸態窒素 アンモニア態窒素 55ppm 40ppm 30ppm 5 ppm 20ppm 30ppm P K Ca Mg 20ppm 〃 〃 50ppm 〃 〃 50ppm 〃 〃 20ppm 〃 〃 EC … 10:1区=0.90ms/㎝ 10:5区=1.00ms/㎝ 10:10 区=1.10ms/ ㎝ pH …水酸化ナトリウム(0.1 N)と硫酸(0.1 N)を用い灌液前に pH5.8 に調整した。 養液希釈の基準…タンク内に設置した EC センサ値が既定値から 0.1ms/㎝以上高くなったら既定 値まで水で希釈した。 ( 5)灌液方法 鉢内に設置した pF センサ値が 2.1 ∼ 2.2 を示した時点で灌液を実施した。 ( 6)調査方法 各試験区とも毎週1回灌液5時間後、サンプルとして養液及び植物体を採取した。養液の循環 養液はタンクから約 100ml 、土壌養液は土壌から遠心法を用いて採取した。養液の分析は、アン モニア態窒素はインドフェノール法、硝酸態窒素はキャピラリー電気泳動装置を用いて分析した。 植物体は、各区無作為に5個体選び根、茎、葉に分離し、通風乾燥機にて乾燥させた。乾燥後、 乾燥重を測定し、測定後粉砕した試料をケルダール分解させ、蒸留、滴定を行い植物体内窒素量 を算出した。 3.成果の内容・特徴 ( 1)8∼ 10 月栽培及び2∼5月栽培ともに1鉢あたりの植物体総乾燥重量の変化は、昨年の発表 同様、硝酸態窒素とアンモニア態窒素の比率を変えても大きな差は見られなかった(第1図、 第2図)。 ( 2)1鉢あたりの植物体乾燥重量と供給窒素量との関係は、8∼ 10 月栽培及び2∼5月栽培とも に極めて有意な1次相関関係が認められ、8∼ 10 月栽培及び2∼5月栽培を合わせた場合で も Y = 20.5X − 15.3(r= 0.98)と極めて有意な相関関係が成り立ち、栽培時期及び栽培期 間が異なるにも関わらず同一の回帰式で表すことができた。この回帰式から植物体乾燥重を 1 g 増加させるのに必要な供給窒素量は 20.5mg であった(第3図)。 ( 3)1鉢あたりの植物体総乾燥重量と吸収窒素量との関係を見ると、8∼ 10 月栽培の吸収窒素 (総窒素量)が栽培初期に既に 10mg 程度低かったものの、両栽培区とも極めて有意な1次相 関関係がみられ、回帰式の傾きは8∼ 10 月栽培が 11.7、2∼5月栽培が 12.4 と類似してい た(第4図)。したがって、植物体総乾燥重を1 g 増加させるのに必要な吸収窒素が約 12mg であったのに対し、必要な供給窒素量は約 20mg であったことから、供給した窒素量のうち 約8 mg が土壌への蓄積あるいは脱窒によって吸収されなかったものと推定された。 ( 4)鉢内の土壌養液内窒素量を見ると、8∼ 10 月栽培では平均 11.4mg であったのに対して、2 ∼5月栽培では平均 26.9mg と多く、2∼5月栽培では鉢内土壌への蓄積が多いことが明ら かとなった(第5図、第6図)。 以上のことから、栽培時期に関わらず植物体乾燥重を1 g 増加させるのに必要な供給窒素量と 吸収窒素量に差が見られないことが明らかとなったが、鉢内土壌へ蓄積される窒素量は栽培時期 の違いによる差が見られ、8∼ 10 月栽培では土壌蓄積を上回る植物体の窒素吸収が行われたた め、2∼5月に比べ蓄積した窒素量が少なかったと推定できた。 4.主要成果の具体的数値 10:1区 10:5区 10:10区 3 8 植 物 体 総 乾 燥 重 (g) 植 物 体 総 乾 燥 重 (g) 4 2 1 6 5 4 3 2 1 0 5/23 5/16 5/9 5/2 4/25 4/18 4/11 4/4 第2図 2∼5月栽培における植物体総乾燥重の経時的変化 160 r=0.97 * * r=0.97 * * ○ Y=11.7X+1.64 r=0.99 * * ● Y=12.4X+12.88 r=0.99 ** 120 吸収窒素量(mg) 120 80 ○ 8∼10月栽培 ● 2∼5月栽培 40 3/28 ○ Y=24.0X-23.6 ● Y=20.0X-13.0 3/21 160 3/14 第1図 8∼10月栽培における植物体総乾燥重の経時的変化 3/7 10/7 9/30 9/23 9/16 9/9 9/2 8/26 8/19 8/12 2/28 0 供給窒素量(mg) 10:1区 10:5区 10:10区 7 0 80 ○ 8∼10月栽培 ● 2∼5月栽培 40 0 0 2 4 6 8 植物体総乾燥重量(g) 第3図 1鉢あたりの植物体総乾燥重量と供給窒素量との関係 10 0 2 4 6 8 植 物 体 総 乾 燥 重 量 (g) 第4図 1鉢あたりの植物体の総乾燥重量と吸収窒素量との関係 10 総窒素 硝酸態窒素 40 土壌養液内窒素量(mg) アンモニア態窒素 30 20 10 50 総窒素 硝酸態窒素 40 アンモニア態窒素 30 20 10 5/23 5/16 5/9 5/2 4/25 4/18 4/4 4/11 3/28 3/21 3/14 10/7 9/30 9/23 9/16 9/9 9/2 8/26 8/19 8/12 第5図 8∼10月栽培でのアンモニア態窒素:硝酸態窒素10:10区 における1鉢あたりの土壌養液内窒素量の経時的変化 3/7 0 0 2/28 土 壌 養 液 内 窒 素 量 (mg) 50 第6図 2∼5月栽培でのアンモニア態窒素:硝酸態窒素10:10区に おける1鉢あたりの土壌養液内窒素量の経時的変化 5.期待される効果 栽培時期に関わらず1鉢あたりの植物体乾燥重量1 g を増加させるのに必要な供給窒素量が同 じであったことから、植物体乾燥重量1 g を増加させるのに必要な灌水量を算出し、養液の最適 な窒素濃度を明らかにすることができる。 6.成果の活用面・留意点 総窒素濃度 60ppm では商品価値が低いことから、循環養液内総窒素濃度は 60ppm 以上が推奨 である。
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