厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼすMnとREと冷却速度の影響

310
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 5 号
研究論文
厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼす
MnとREと冷却速度の影響
藤 本 亮 輔* 平 塚 貞 人**
小 綿 利 憲** 堀 江 皓**
Research Article
J. JFS, Vol. 87, No. 5(2015)pp. 310 ~ 317
Effect of Manganese, Rare Earth Elements and Cooling
Rate on Microstructure and Mechanical Properties of
Heavy Section Spheroidal Graphite Cast Iron
Ryosuke Fujimoto*, Sadato Hiratsuka**,
Toshinori Kowata** and Hiroshi Horie**
In recent years, there has been an increase in the amount of manganese(Mn)contained in heavy section cast iron due to
changes in raw materials. It is thought that the increase of Mn content has various influences on the mechanical properties
of cast iron. It should be considered together with the optimum amount of RE(Rare earth elements)to be added to highMn heavy section spheroidal graphite cast iron. However, no such studies have been reported. Therefore, this study aims to
investigate the effects of Mn and RE contents for mechanical properties and structural changes of FCD450-10 with different
thicknesses. Spheroidal graphite cast iron was used as specimens with a Mn concentration of 0.3, 0.9% and RE concentration of 20ppm, 200ppm. The cooling rate to the eutectic temperature of the specimens with changed thickness was 0.22K/s,
0.12K/s and 0.08K/s respectively, for different specimen thickness.
When the cooling rate was reduced and concentration of Mn increased, graphite grain size increased and formed a coarse
cementite phase. When the specimen with RE concentration decreased from 200ppm to 20ppm, the pearlite area showed
decreased nodule count and increased nodularity. For specimens with reduced RE, tensile strength and elongation increased
with structural changes.
Keywords : manganese, rare earth elements, heavy section spheroidal graphite cast iron, mechanical property,
metallographic structure
2)
1.緒 言
発生が指摘されており ,球状黒鉛鋳鉄の材質は RE の添
加量によって変化する.そのため最適な RE 量を検証する
近年,自動車の軽量化を目的とした高張力鋼の使用率が
ことは,品質,コスト面で重要である.
増加しており,リサイクルされたスクラップ鋼中には普通
また,2010 年には RE の国際需要が急激に増加し,RE
鋼に比べて Mn を多く含む高張力鋼の量が増加している.
の価格は 10 倍前後の水準に上昇した .この RE 価格上
鋳鉄の原料として高張力鋼を多く含むスクラップ鋼が用
昇に伴い RE を含む球状黒鉛鋳鉄の添加剤の価格も高騰し
3)
いられると Mn 量増加により,フェライト系球状黒鉛鋳鉄
た.これを機に価格変動に対する影響を低減するため低
の組織,機械的性質に様々な影響を及ぼす.著者らのこれ
RE 化に関する多くの研究
までの研究
1)
で肉厚が増加し,Mn 量が増加すると,黒鉛
粒径や結晶粒径が粗大化し,粗大なセメンタイト組織が形
4, 5)
が行われている.
このように Mn 増加対策や RE 低減が望まれているが,
Mn と RE が厚肉球状黒鉛鋳鉄の材質に及ぼす影響につい
成して引張強さ,伸びを低下させることを確認している.
て調べた報告はない.そこで,本研究では肉厚を変化させ
薄肉球状黒鉛鋳鉄においては希土類元素(以降 RE)を微
た厚肉球状黒鉛鋳鉄 FCD450-10 の組織と機械的性質に及ぼ
量添加すると黒鉛粒数が増加し,フェライトが増加して伸
す Mn 量と RE 量の影響について調べることを目的とした .
びが増加することが報告されている.厚肉球状黒鉛鋳鉄に
おいては RE が必要以上に含有されるとチャンキー黒鉛の
受付日:平成 26 年 10 月 7 日,受理日:平成 27 年 3 月 2 日(Received on October 7, 2014; Accepted on March 2, 2015)
*
**
東芝機械
(株)
技術開発部 Engineering development department Toshiba machine Co., Ltd
岩手大学 工学部 Faculty of Engineering, Iwate University
厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼす Mn と RE と冷却速度の影響
311
共晶温度に到達するまでの単位時間あたりの温度変化を
2.実験方法
もって冷却速度とした.冷却速度は 100×100×500mm 試
銑鉄,既知 Mn 含有量の鋼スクラップ,Fe-75%Si,加炭
験片では 0.22K/s,300×300×500mm 試験片では 0.12K/s,
材を配合し,10t 低周波誘導炉で溶解し元湯とした.Mn
500×500×500mm 試験片では 0.08K/s であった.
量は 0.3% 及び 0.9% となるように Fe-75%Mn 添加量で調
肉厚 100mm の試験片は肉厚中央部,肉厚 300mm の試
整した.Mn 量を変化させた元湯を取鍋で Fe-50%Si と Fe-
験片は肉厚中央部と上下 100mm の 3 か所,肉厚 500mm の
50%Si-5%Mg-RE 系球状化剤を用いたサンドイッチ法にて
試験片は肉厚中央部と上下 100mm 間隔で 5 か所から平行
球状化処理を行い 1 条件につき 1500kg の溶湯とした.こ
部の直径φ14mm,標点間距離 50mm の 4 号試験片(JIS Z
の時,RE(Ce+La)量が溶湯に対して 20ppm,200ppm と
2201)に加工し,引張強さ,伸びを測定した.また,4 号試
なるよう RE 含有量の異なる 2 種類の球状化剤を用いた.
験片採取位置近傍の試料をナイタール腐食しマクロ組織観
Table 1 に目標化学組成を示す.溶湯温度 1623K で 100×
察とミクロ組織観察を行った.マクロ組織は,広範囲での
100×500mm,300×300×500mm,500×500×500mm の 厚
パーライト組織観察を行うために,ここでは垂直落射光を
肉ブロック試験片型(自硬性砂型)に注湯した.このとき
使用せずに,パーライトが乱反射によって白く見えるよう
3 種類の厚肉ブロック試験片の温度を測定し,1523K から
にした.ミクロ組織観察では各試料について 5 視野観察し,
黒鉛粒数,黒鉛球状化率,パーライト面積率について調査
Table 1 Target chemical composition of specimens.
した.肉厚 500mm の試料については,EPMA による面分
RE 添加による含有元素の分布の変化を調査した.
析を行い,
試験片の目標化学組成.
(%)
C
Si
Mn
P
S
Mg
Fe
3.5
2.6
0.3
0.9
≦ 0.03
≦ 0.01
≧ 0.04
Bal.
3.実験結果
3. 1 組織に及ぼす Mn と RE の影響
Fig. 1 に Mn 量 0.3%,0.9% で RE 量 を 20ppm,200ppm
0.12K/s
0.22K/s
5%
8%
10%
7%
3%
11%
11%
12%
34%
39%
22%
51%
Mn-0.3
RE-20ppm
0.08K/s
Mn-0.3%
RE-200ppm
P.A
Mn-0.9%
RE-20ppm
P.A
Mn-0.9%
RE-200ppm
P.A
P.A
P.A:Pearlite area
Fig. 1 Macrostructures of specimens.
試験片のマクロ組織.
2000μm
312
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 5 号
に変化させた各肉厚試験片のマクロ組織を示す.図中に
表面から 250mm で 3.26% と上部の黒鉛量が多くなった.
白く見えるのがパーライト組織である.Mn 量 0.3% では
この時,試料切断面の上型側表面付近に浮上黒鉛を確認し
RE 量の変化によってパーライト量に大きな変化はないが,
ている.このことから冷却速度の低下による黒鉛粒数の減
Mn 量 0.9% では RE 量の変化によりパーライト量が変化
少については黒鉛粒径の増大や,黒鉛の核となる RE 化合
する.各冷却速度の試料においてパーライト面積率は RE
物粒子の凝集したクラスター,あるいはその RE 化合物に
量 20ppm に比べて RE 量 200ppm の方が 10% 以上増加し
黒鉛が晶出した状態でストークス近似に従って浮上した
ている.Mn 量が 0.9% の場合,パーライト量に対する RE
ことが要因として考えられる.
量の影響が大きくなることがわかる.
Mn 量増加による黒鉛粒数の減少は,共晶凝固時に黒鉛
Fig. 2 に は Mn 量 が 0.3%,0.9% で RE 量 を 20ppm,
化阻害元素である Mn によって黒鉛晶出が,抑制されてい
200ppm とした各肉厚試料のミクロ組織と黒鉛粒数,黒鉛
ることがわかる.
球状化率を示す.冷却速度が低下し 0.08K/s で最も黒鉛粒
RE は(RE,Mg)S を形成し球状黒鉛核となるが,RE
数,黒鉛球状化率が低下している.同じ冷却速度の試料で
量が過度に多くなり,溶存 S 量が十分に消費され過剰な
比較すると Mn 量が 0.9%,RE 量が 200ppm で黒鉛粒数,
RE が残ると,共晶温度は急激に低下する .S と化合し
6)
黒鉛球状化率が低下する条件となった.
ない遊離 RE の持つチル化促進効果により,黒鉛粒数が減
黒鉛粒数は冷却速度の低下,Mn 量の増加,RE 量増加
少
によって減少している.冷却速度 0.08K/s の試料(肉厚
0.22K/s の試料において共晶凝固最高温度を比較すると,
500mm)の各位置の C 量を測定した結果,RE 量 20ppm の
RE 量 20ppm が 1427K,RE 量 200ppm は 1415K で, 共 晶
7)
したと考えられる.本実験で最も冷却速度が大きい
試料では上型側表面から 50mm,250mm の位置で 3.32%
凝固最高温度は 12K 低下している.
と変化しないが,RE 量 200ppm は表面から 50mm で 3.48%,
また,RES は黒鉛の核となり,S 量,RE 量は化学量論
0.12K/s
0.22K/s
Mn-0.3
RE-20ppm
0.08K/s
39 count/mm
76%
2
55 count/mm
80%
2
92 count/mm
85%
2
30 count/mm
64%
2
49 count/mm
75%
2
75 count/mm
82%
2
24 count/mm
69%
2
35 count/mm
76%
2
82 count/mm
79%
2
21 count/mm
66%
2
25 count/mm
73%
2
62 count/mm
80%
2
Mn-0.3%
RE-200ppm
N.C
N
Mn-0.9%
RE-20ppm
N.C
N
Mn-0.9%
RE-200ppm
N.C
N
N.C
N
N.C:Nodule count, N:Nodularity
Fig. 2 Microstructures of specimens.
試験片のミクロ組織.
400μm
厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼす Mn と RE と冷却速度の影響
的な割合として RE/S 比で表現される.小綿らは薄肉球状
313
黒鉛球状化率は Mn 量 0.3%,0.9% で,冷却速度の大き
黒鉛鋳鉄において S の値 0.015% に対して RE 量は 0.02 ~
い 0.22K/s の試料では 80% 程度でほぼ同じ値を示してい
0.03% で大きく黒鉛粒数が増加し,RE 量 0.03% 以上では
る.しかしこのケースを除き,冷却速度の低下,Mn 量と
4)
黒鉛粒数の増加量が減少すると報告 している.この報告
RE 量の増加で球状化率は低下している.黒鉛球状化率の
において黒鉛粒数が最も増加するのは RE/S 比が 1.3 ~ 2.0
低下の原因としては,前述した黒鉛粒数低下に伴う黒鉛粒
の時である.本研究において S 量は 0.006 ~ 0.010% であっ
径の粗大化と RE 量 200ppm の組織に現れる異常黒鉛の影
た.よって黒鉛粒数が少ない RE 量 200ppm では,RE/S
響が考えられる.この異常黒鉛については後述する.
比は 2.0 ~ 3.3 である.一方,黒鉛粒数が多くなる RE 量
3. 2 機械的性質に及ぼす Mn と RE の影響
20ppm では,RE/S 比は 0.2 ~ 0.3 であり,厚肉球状黒鉛鋳
Fig. 3 に機械的性質に及ぼす Mn 量,RE 量と冷却速度
鉄は薄肉球状黒鉛鋳鉄よりも少ない RE 量で黒鉛粒数増加
の関係を示す.Mn 添加量と機械的性質は,いずれの試
のピークを持つことが推測できる.水木らは大物鋳物にお
料においても Mn 添加量が 0.3% から 0.9% に増加すると,
いては元湯 S が 0.012% の時 RE 量を 20ppm 程度まで下げ
引張強さは増加し伸びは低下した.特に,冷却速度が大き
ることが可能と報告
8)
し,この場合 RE/S 比は 0.2 程度で,
本実験の RE/S 比に近い.
0
0
0
0
0
0
.
.
.
.
.
.
2
1
0
2
1
0
2
2
8
2
2
8
K
K
K
K
K
K
い 0.22K/s の試料ではその傾向が顕著であった .
RE 添加量と機械的性質については,Mn 添加量 0.9%
/
/
/
/
/
/
s
s
s
s
s
s
-
M
M
M
M
M
M
n
n
n
n
n
n
0
0
0
0
0
0
.
.
.
.
.
.
3
3
3
3
3
3
%
%
%
%
%
%
-
R
R
R
R
R
R
E
E
E
E
E
E
2
2
2
2
2
2
0
0
0
0
0
0
ppm
ppm
ppm
0ppm
0ppm
0ppm
0
0
0
0
0
0
.
.
.
.
.
.
2
1
0
2
1
0
2
2
8
2
2
8
K
K
K
K
K
K
/
/
/
/
/
/
s
s
s
s
s
s
-
M
M
M
M
M
M
n
n
n
n
n
n
0
0
0
0
0
0
.
.
.
.
.
.
9
9
9
9
9
9
%
%
%
%
%
%
-
R
R
R
R
R
R
E
E
E
E
E
E
2
2
2
2
2
2
0
0
0
0
0
0
ppm
ppm
ppm
0ppm
0ppm
0ppm
Fig. 3 Influence of Mn, RE and cooling rate on mechanical properties(Mn-0.3%,0.9%).
機械的性質に及ぼす Mn,RE,冷却速度の影響.
314
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 5 号
で 冷 却 速 度 が 0.22K/s と 大 き い 試 料 で は,RE 添 加 量 が
性質の低下要因について考察する.Mn 量 0.9% で RE 量
200ppm と多くなると引張強さは大きくなった . しかし,
を 20ppm,200ppm に変化させた各肉厚試料の引張強さ,
それ以外の試料全てで RE 添加量の増加に伴い引張強さは
伸びとパーライト面積率,黒鉛粒数,黒鉛球状化率の関係
低下した . 伸びについては,Mn 量が 0.3% と低い試料では
を Fig. 4 に示す.
RE の増加に伴い伸びは低下したが,Mn 添加量が 0.9% と
一般的に冷却速度が大きくなるに伴い,パーライト面積
多い試料では,伸びの変化は RE 添加量の増加に伴い若干
率,黒鉛粒数,黒鉛球状化率が増加するため引張強さは増
低下する程度であった .
加する.また,伸びも球状化率,黒鉛粒数の増加に伴い増
冷却速度と機械的性質の関係を見ると,冷却速度が小さ
加する.しかし,パーライト面積率の増加に伴い伸びは減
くなり厚肉になるほど,引張強さ,伸びが低下した.しか
少するはずであるが,本研究では増加した.これは冷却速
し,RE 添加量 20ppm と低い試料では,機械的性質に対す
度が小さくなるに伴いパーライト面積率は減少するが,黒
る冷却速度の影響が小さくなることが分かった.
鉛球状化率も同時に減少するためだと考えられる.
薄肉球状黒鉛鋳鉄の様に冷却速度が大きい場合には,冷
4.考 察
却速度が大きくなるに伴い黒鉛粒数が増加し,パーライト
Mn 量 0.9% では RE が増加すると,冷却速度の低下で
面積率も増加する.よって薄肉球状黒鉛鋳鉄では引張強さ
急激に引張強さが低下し,伸びも Mn 量 0.3% と比べて大
は増加し,逆に伸びが減少する結果となる.
きく低下する.Mn 量の増加によって組織,機械的性質が
しかし,本研究のように冷却速度が小さい厚肉球状黒鉛
大きく変化している.そこで Mn 量 0.9% に着目し機械的
鋳鉄では,引張強さが増加すると伸びも増加している.冷
0.22K/s-RE200ppm
0.22K/s-RE20ppm
0.12K/s-RE200ppm
0.08K/s-RE200ppm
0.12K/s-RE20ppm
0.08K/s-RE20ppm
Fig. 4 Relationship between mechanical properties and microstructures.
機械的性質とミクロ組織の関係.
厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼす Mn と RE と冷却速度の影響
却速度の増加に伴い黒鉛粒数は増加するが,直接黒鉛粒数
10)
率
315
が影響し,黒鉛球状化率が 80% 以上になることで伸
の増加がフェライト面積率を増加せずに,共析変態時に
びが増加することが知られている.冷却速度 0.22K/s では
パーライト面積率を増加させる結果となっている.このこ
RE 量 200ppm,20ppm いずれの試料もほぼ 80% の値で,
とから伸びの増加には基地組織ではなく,黒鉛球状化率が
この場合パーライト面積率が影響する.冷却速度 0.12K/s,
大きく関与していることがわかる.
0.08K/s では RE 量の減少により黒鉛球状化率が増加し,
このような厚肉球状黒鉛鋳鉄において,RE 量による組
引張強さは増加するが,伸びはパーライト面積率が影響せ
織変化と機械的性質に着目する.冷却速度 0.22K/s では
ず,80% に満たない黒鉛球状化率の増加によって若干伸
RE 量が 20ppm から 200ppm に増加すると,パーライト面
びが増加する.
積率は増加し,黒鉛粒数が減少し,黒鉛球状化率が同等の
Fig. 5 に Mn 量 0.9% で RE 量 200ppm,冷却速度 0.08K/
値を示した結果,引張強さが低下し,伸びが増加した.
s の試料最終凝固部に見られる組織を示す.Mn 量増加の
冷 却 速 度 0.12K/s,0.08K/s で は RE 量 が 200ppm か ら
影響で粗大な Mn を固溶したセメンタイトが形成されてい
20ppm に低減するとパーライト面積率が減少するが,黒鉛
る .その他の部分には異常黒鉛が晶出している.この粗
粒数,黒鉛球状化率が増加し,引張強さは 400MPa 以上に
大セメンタイトや異常黒鉛晶出も,機械的性質が低下の一
増加した.伸びについては,冷却速度 0.08K/s,0.12K/ s
因と考えられる.
ではパーライト面積率に変化があるにも関わらず,ほと
Fig. 6,Fig. 7 に 冷 却 速 度 が 0.08K/s,RE 量 20ppm と
んど変化しなかった.伸びは基地組織
9)
と,黒鉛球状化
1)
200ppm の試料の最終凝固部結晶粒界を EPMA によりマッ
ピングを行った結果を示す.Fig. 5 の白いセメンタイト部
RE200ppm-Cooling rate 0.08K/s
Coarse cementite
Abnormal graphite
に Mn が固溶していることがわかる.共晶凝固時のオース
テナイト/溶鉄間における Mn の分配係数は 0.85
11)
で最
終凝固部に濃化する.Mn が濃化した最終凝固部付近には
Mg,O,Sb,RE が分布している.
O と化合物を形成しており,
RE 量 20ppm では Sb が Mg,
ここに RE は関与していなかった.RE 量 200ppm では RE
100μm
Fig. 5 Abnormal structure of heavy section specimen
(Cooling rate:0.08K/s).
0.08K/s RE-20ppm
厚肉試験片(冷却速度:0.08K /s)の異常組織.
は P,Mg,O,Sb と化合物を形成している.この時,粒
界付近に球状化していない異常黒鉛が確認できる.これは,
Sb は粒界に偏析するとその部分の融点を下げるので,黒
12)
鉛組織が成長しやすくなる
ためだと考えられる.RE の
主成分である Ce の共晶凝固時のオーステナイト/溶鉄間
SEI
Mn
Ce
La
C
Sb
Mg
O
100μm
Fig. 6 Scanning electron micrograph and distribution of Elements by EPMA(RE-20ppm).
SEM 像と EPMA による元素分布(RE 量:20ppm).
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 5 号
0.08K/s RE-200ppm
316
SEI
Mn
Ce
La
C
Sb
Mg
O
100μm
Fig. 7 Scanning electron micrograph and distribution of Elements by EPMA(RE-200ppm).
SEM 像と EPMA による元素分布(RE 量:200ppm).
2)
における分配係数は 0.03 と非常に小さい ため凝固時に
s,0.12K/s で黒鉛粒数が減少し,異常黒鉛が晶出す
液相中に排出され,結晶粒界の Mn が濃化した部と異常黒
ることで黒鉛球状化率が低下した.
鉛周囲に分布している.RE 量が 200ppm の試料は共晶凝
4) Mn 量の増加で引張強さは増加し伸びは低下し,RE
固後半で溶融状態の最終凝固部付近に黒鉛核となる化合物
量の増加で冷却速度 0.22k / s の試料を除き,引張強さ,
を形成し異常黒鉛が晶出したのではないかと推測する.
伸びは低下して RE 量 20ppm と低い試料では,機械
RE 量は 200ppm よりも 20ppm で最終凝固部の残存量は
的性質に対する冷却速度の影響が小さくなることが
少なかった.共晶凝固時間が長くなるとチャンキー黒鉛が
晶出しやすく,共晶セル境界の Ce の偏析が関わっている
6)
分かった.
5) Mn 量 0.9% に おいて RE 量 20ppm から 200ppm に
ことが考えられる ため,RE200ppm よりも最終凝固部に
増加することで冷却速度が 0.22K/s ではパーライト面
Ce が残存しない RE20ppm が好ましいと考えられる.
積率増加に伴い引張強さが増加するが,冷却速度が
5.結 言
Mn 量を 0.3% と 0.9% として,RE 量及び冷却速度を変
0.12K/s,0.08K/s では黒鉛粒数,黒鉛球状化率の低
下により引張強さが低下した.
6) Mn 量 0.9% に おいて RE 量 20ppm から 200ppm に
えた厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質を調査した結
増加することで冷却速度が 0.22K/s ではパーライト面
果,以下の結論を得た.
積率が増加して伸びが低下したが,冷却速度 0.12K/s,
1) Mn 量 0.9% に おいて RE 量 が 20ppm から 200ppm
0.08K/s においては黒鉛球状化率の影響で伸びはほと
に増加すると,全ての冷却速度でパーライト面積率が
んど変化しなかった.
増加するが,Mn 量 0.3% ではパーライト面積率に大
きな変化は見られない.よって,Mn 量 0.3% では RE
参考文献
量はパーライト面積率にあまり影響を及ぼさないが,
1)藤本亮輔,平塚貞人,堀江皓,晴山巧,本間周平:鋳
Mn 量 0.9% では RE 量はパーライト面積率に影響する.
2) 大物厚肉鋳物では黒鉛粒数は Mn 量の増加,冷却速
度の低下,RE 量の増加で減少する.本実験において
は RE / S 比は 0.2 ~ 0.3 で黒鉛粒数が増加しており,
大物厚肉鋳物では薄肉鋳物と異なり RE / S 比が小さく
なる傾向を示す.
3) 黒鉛球状化率は Mn 増加によって低下し,更に RE
量が 20ppm から 200ppm に増加すると冷却速度 0.08K /
造工学 85(2013)651
2)木口昭二:鋳造工学 76(2004)114
3)福田一徳:日本と中国のレアアース対策(2013),
(有)
木鐸社 27
4)小綿利憲,平塚貞人,横山瑛紀,勝負沢善行,鹿毛秀彦:
鋳造工学 85(2013)771
5)小綿利憲,平塚貞人,勝負沢善行,鹿毛秀彦,藤島晋平:
鋳造工学 85(2013)782
厚肉球状黒鉛鋳鉄の組織と機械的性質に及ぼす Mn と RE と冷却速度の影響
6)菅野利猛,
姜一求,
水木徹,
中江秀雄:鋳造工学 73(2001)
441
7)小綿利憲,堀江皓,平塚貞人,稲葉三男,藤木友好:
鋳造工学 71(1999)233
8)水木徹,姜一求,菅野利猛:鋳造工学 84(2012)720
317
9)中村幸吉,炭本治喜:鋳物 39(1967)480
10)藤田忠雄:鋳物 40(1968)300
11)中村幸吉他:鋳鉄の科学(社団法人日本鋳物工業会)
(2005)96
12)片岡義博:職業訓練大学校紀要 17(1988)57