色素増感型太陽電池 伊那北高校理数科 牛山泰喜 春日柚香 掛川恭吾 齋藤壮来 高橋壮太 新田杏奈 松崎未来 三浦夏海 Ⅳ実験の結果と考察 Ⅰ研究動機 近年になって、化石燃料などの有限資源による発電方法の将来が懸 念され、発電時に発生する二酸化炭素をはじめとした地球温暖化の影 響を及ぼす温室効果ガスが発生しない発電方法が模索されている。さ らに3月に福島で原発事故が起こり、今まで以上に環境に優しい新し いエネルギーへの需要と関心が高まっている。その中で幅広く普及し ているシリコン型太陽電池に比べ材料が比較的安価で、手軽に制作す ることができる色素増感型太陽電池というものを知り、最先端の技術を 実感したいと思った。 1.色素を染み込ませる時間と起電力 染み込ませる時間によらず、起電力はおよそ一定であった。色素を滴下した瞬間、ペー スト表面に付着するため、染み込ませる時間にかかわらず一定量の発電量を得られる。 2.酸化チタン膜の厚さと色素の濃度と起電力の関係 電池の発電量には、酸化チタン膜の厚さと色素液の量や濃さとの間に相関が見 られた。6枚で10%のときに発電量が一番大きかった。 0.75 0.7 0.65 濃度 (%) 5 電 圧 0.6 (V) Ⅱ研究目的 実物を用いてその仕組みについて考察を深め、より起電力の高い 電池を製作する。 Ⅲ電池の仕組み 電池の構成要素と構造:色素増感型太陽電池は、電気が通るよう にITOと呼ばれる酸化インジウムスズをガラス表面に薄い膜状に蒸 着させたITOガラスと、二酸化チタン(TiO2)、色素、電解液でできてい る。構造はITOガラスにTiO2ペーストを塗布・焼成後、色素を染み込 ませた負極とITOガラスに黒鉛を付着させた正極との間に電解液を 挟み込んだ構造となっている。 発電の原理:光が当たる間、以下の①~⑤が繰り返され、電気が流 れる。(図1) ① 太陽の光がITOガラスを通して入射し、二酸化チタンに吸着して いる色素に当たり、吸収される。すると、色素内の電子は光電効 果により、エネルギーの低い状態(基底状態)から、エネルギーの 高い状態(励起状態)になり、二酸化チタン粒子へ放出される。 ② 放出された電子は、二酸化チタン粒子を通って伝導性ガラスへ と移動する。 ③ 色素が失った電子は電解液として用いるヨウ素溶液中のヨウ素 とヨウ化物イオンが三ヨウ化物イオンに変化する(3I- → I3- + 2e-) ことにより補充される。 ④ -極で生まれた電子は導線を通り、+極に移動する。この時、 電子の流れ(=電流)によってモーターを回転させたり、電子オルゴ ールを鳴らしたりと、電子機器を作動させることができる。 ⑤ +極に到達した電子は、電解液中の三ヨウ化物イオンに取り込 まれ、③の逆反応が起こり (I3- + 2e- → 3I-)元に戻る。 0.55 10 0.5 15 0.45 3 4 5 6 7 8 枚数(枚) 3.酸化チタン膜の面積と起電力 電池の光が当たる面積の広さに関係なく、発電量はあまり変わらない。一方、電流の 大きさは面積に比例して大きくなる。 電圧(V) 電流(mA) 1.20 1.10 0.63 0.56 0.55 0.64 0.63 0.35 10 20 面積(㎠) 30 40 4.負極に金属粉(鉄・銅)を混ぜた場合 金属粉を混ぜた場合は、普通に作った平均的な電池 に比べて発電量が小さくなった。 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 平均電圧 銅粉を混ぜた場合 平均電圧 鉄粉を混ぜた場合 5.色素を金属イオンで代用した場合 鉄イオン( Fe2+)、銅イオン(Cu2+)ともに電解液と化学反応が起こり、沈殿が生じ、発 電しなかった。 左:鉄イオン( Fe2+) 右:銅イオン(Cu2+) 6.糖分の膜を酸化チタン膜の表面に付着させた場合 起電力は、一般的な電池と比べて著しく低くなった。これは、糖分によって電子の授 受が妨げられたからである。このような現象は、果物などを色素に用いたときにも起 こる。 Ⅴまとめ 図1 ○発電量は、光のあたる面積に関係なく、色素の量と酸化チタン膜の厚さによって変わ る。酸化チタン膜の厚さと色素液の濃度には相互に最も適した組み合わせがある。酸 化チタン膜が薄すぎる場合はたくさんの色素を吸着できず、酸化チタン膜が厚すぎる 場合は電子の授受が難しくなることや、光が透過しにくくなることから発電量は小さく なってしまう。色素は薄すぎると発電量に限界があり、濃すぎると余剰分が固形物と なり、電子の授受を阻害するため発電量は落ちてしまう。 ○色素増感型太陽電池として、一般的に知られている素材以外のもので一部を代用し たりすることは、今回はあまり良い結果にはならなかった。 ○金属イオンの多くは、反応の核となるヨウ素と反応してしまうため、電池としての反応 自体をできなくしてしまう。よって、色素として用いる事はできない。 ○天然に存在する植物色素などは、糖分を含んでいるものもあり、糖分によって電子 の授受が阻害されるため、そのままでは、高い発電量を示さないものもある。
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