第 7 回次世代の太陽電池システムシンポジウムに参加して

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 13
第 7 回次世代の太陽電池システムシンポジウムに参加して
高
峰
Hou KOU
物質化学専攻修士課程
2年
コニア製ポットに充填した.ポット内を N2 ガスで
1.はじめに
置換し,遊星ボールミルを用いて粉砕・混合を行
私は,2010 年 7 月 8 日・7 月 9 日の 2 日間,北九
い,CZTSe 粉末を合成した.しかし,メカノケミ
州市の北九州国際会議場で開催された第 7 回次世代
カルプロセス(MCP)だけでは CZTSe は合成でき
の太陽電池システムシンポジウムに参加した.そし
なかった.それで,MCP で得られた粉末を N2 雰囲
て,「Cu 空孔を含む Cu2(1−X)ZnSnSe4 系太陽電池材料
気中 550℃ で 5 h 焼成して CZTSe を得た.CZTSe
の合成と評価」という題目でポスター発表を行っ
の結晶構造は X 線回折(XRD)データを用いたリ
た.
ートベルト法で解析した.さらに,スクリーン印刷
/焼結法で薄膜の作製を行った.得られた CZTSe
2.研究概要
2. 1
膜は走査電子顕微鏡(SEM)で観察し,可視・近
序論
赤外吸収スペクトルを測定して,禁制帯幅を決定し
化合物薄膜太陽電池の光吸収層として CuInSe2 や
た.
Cu(In, Ga)Se2 固溶体が用いられている.しかし,
希少金属である In の需要の増加に伴い,In を含む
2. 3 結果
!!
材料の高コスト化が問題となっている.そこで Cu-
図 1 に Cu2−2XZnSnSe4(0 X 0.0875)粉末の XRD
InSe2 中の 2 個の In(Ⅲ)を Zn
(Ⅱ)と Sn(Ⅳ)で置
図形を示す.Cu の不足量(X)の増加,つまり Cu/
き換えた Cu2ZnSnSe4 や Cu2ZnSnS4 が注目を集めて
(Zn+Sn)比の減少とともに回折ピークは高角側に
いる.本研究では,まず Cu2ZnSnSe4 の合成プロセ
シフトする.これは,Cu/(Zn+Sn)比の減少とと
スを明らかにした.次に,CuInSe2 の場合と同様に
もに Cu2−2XZnSnSe4 の格子定数が小さくなるためで
Cu の不足組成側に固溶領域が存在していると考え
られるので,Cu2−2XZnSnSe4 の単一相が得られる領域
を決定し,次に X 線回折データを用いたリートベ
ルト法で Cu2−2XZnSnSe4 の結晶構造の解析を行った.
最後に,スクリーン印刷/焼結法を用いて膜の作
製し,可視・近赤外吸収スペクトルから禁制帯幅を
決定した.
2. 2
実験方法
Cu2−2XZnSnSe4(CZTSe)は元素粉末 Cu, Zn, Sn, Se
を所定量秤量し,ジルコニア製の球石とともにジル
― S-71 ―
図1
Cu2−2XZnSnSe4 の XRD 図形
!!
法で求めた Cu2−2XZnSnSe4(0 X 0.0875)の結晶構
造は Cu/(Zn+Sn)比の減少とともに,格子定数 a,
c は小さくなり,c/a も小さくなる.さらに,スク
リーン印刷/焼結法で CZTSe 膜の作製を行った.
直接遷移半導体を仮定して,hν に対し( α hν )2 を
プロットすることで CZTSe の禁制帯幅を求めたと
ころ,1.05 eV が得られた.この値は文献値 1.02 eV
とほぼ一致している.
3.発表について
図2
Cu2ZnSnSe4 膜の透過率
今回,学会に参加することが初めてだったの全て
が新鮮でした.初めての学会でポスター発表の質問
!!
ある.この図から,0 X 0.0875 の範囲でほぼ単
に正確に答えることができるのか不安ではあったの
一相の Cu2−2XZnSnSe4 が得られる事がわかる. CIS
ですが,いざ始まるとたくさんの方々が質問にこら
の場合に Cu の不足量(X)の増加とともに回折ピ
れたので,不安であったことも忘れて一生懸命質問
ークが高角度側にシフトし,格子定数が小さくな
に答えた.ポスター発表でたくさんの方々が質問に
る.リートベルト法で求めた Cu2−2XZnSnSe4 (0 X
来られて,こんなにも私が今行っている研究は注目
!
!0.0875)の結晶構造は Cu/(Zn+Sn)比の減少とと
されているということを知り,より今の研究に対す
もに,格子定数 a, c は小さくなり,c/a も小さくな
る意欲が湧いてきました.しかし,私はまだまだ勉
る.u パラメーターは Cu/(Zn+Sn)比の減少とと
強に研究に励んでいかなければならないと実感させ
もに,Ux(Se),Uy(Se)が小さくなり,Uz(Se)は
られた.この学会で経験したことを生かして,今後
大きくなる.
の研究に努力していきたいと思う.
図 2 に CZTSe 膜の可視・近赤外吸収スペクトル
を示す.この図から,CZTSe 膜は 1100 nm 近傍に
4.おわりに
吸収端を持つことがわかる.挿入図のように直接遷
私の所属する和田研究室では,学会へ参加する機
移半導体を仮定して,hν に対し( α hν )をプロッ
会を多くいただけます.今回のような学会への参加
トすることで CZTSe の禁制帯幅を求めたところ,
は,私にとって非常に良い経験になった.このよう
1.05 eV が得られた.この値は文献値 1.02 eV とほ
に学生時代に次々と新しいことを経験させていただ
ぼ一致している.
けることは,今後の自分にとって大きなプラスとな
2
ると思う.最後になりましたが,このような貴重な
2. 4
結論
ZnSnSe (0!X !0.0875)固溶体
MCP 法で Cu2−2X
4
機会を与えてくださった和田隆博教授や研究室の皆
様方に深く感謝したいと思う.
を合成することに成功した.そして,リートベルト
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