地下空洞周辺のゆるみ領域を可視化 - 電力中央研究所

トンネル内の電気探査実験風景
地下空洞周辺のゆるみ領域を可視化
―― 物理探査法で地下の構造を探る ――
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地下探査技術で地盤の物理特性を調べる
掘削で生じた空洞周辺のゆるみ域を可視化
掘削斜面での物理特性の分布を可視化
ひとこと 我孫子研究所 地圏環境部 上席研究員 鈴木 浩一
地下探査技術で地盤の物理特性を調べる
ボーリング孔を掘らずに地表面から電流や地震波を送って地下構造を立体的に調査できる物理
探査法は、例えばトンネルや大深度の地下空洞周辺岩盤の物理特性を効率的に、しかも低コスト
で調査できる手法として期待されています。しかし、物理探査法で得られる比抵抗や弾性波速度
の分布からはおおよその地質構造は把握できても、地盤の力学的な強度特性や水理的な特性につ
いては一義的に解釈することは困難とされてきました。電力中央研究所では、地盤の電気特性が
岩石の含む地下水量と関係があることに着目し、数年前からいろいろな種類の岩石の電気特性を
解明し、地下の水理特性の評価に役立てるための研究に取り組んでいます。
■ 地盤の電気特性とは
■ 岩石の過剰伝導現象
比抵抗とは、物質固有の電気の流れにくさを示
岩石を流れる電流は間隙中の地下水だけでな
す値です。電流は主として地盤を構成する鉱物間
く、岩石を構成する鉱物粒子と地下水の境界面
のすき間(間隙)にある地下水を流れることから、
との間に形成される電気の流れやすい領域(電
火成岩のように緻密で固い岩石は間隙が小さく比
気二重層)にも流れるものと考えられます。こ
抵抗は高くなります。逆に、地質年代の若い堆積
れは岩石の過剰伝導現象(表面容積比抵抗)と
岩や未固結の砂礫地盤など間隙の大きい地盤の比
呼ばれており、地下水との並列回路で表せます。
抵抗は低くなります。さらに、地下水の比抵抗が
すなわち、地下水比抵抗が低い条件(海水程度)
低いほど地盤の比抵抗も低くなります。ボーリン
では、地下水を流れる電流の影響が強く現れま
グ調査により採取したコア試料に対し、強制的に
すが、地下水比抵抗が高い条件(淡水)では、
間隙水の塩分濃度を変えた条件で電気特性を室内
この電気二重層を流れる電流の影響が強くなる
で計測しました。その結果、地下水の塩分濃度が
と考えられます。粘土層のように鉱物粒子が微
高い領域(約10Ωm以下)では地下水比抵抗が高
小なほど地下水との境界面は大きくなり、過剰
くなるにしたがい岩石比抵抗も高くなりますが、
伝導現象が強く現れます。また、火成岩のよう
塩分濃度が低い領域(約10Ωm以上)では地下水
な緻密な岩石でも細かな割れ目を含んでおり、
比抵抗には依存しないで岩石比抵抗が一定の値に
鉱物粒子の場合と同じように過剰伝導現象が発
なることがわかりました。
生するものと考えられます。
固相
液相
電気二重層
一般的な岩石モデル
固相
電気二重層による
過剰伝導現象
@Katsube & Hume(1983)
1
1
1
ρR = Fρw + ρc
ρc=dρsF
ここに、F:真の地層比抵抗係数、
ρw:間隙水比抵抗、ρc:表面容積比抵抗
d:間隙幅、ρs:表面伝導による比抵抗
103
岩石比抵抗/間隙水比抵抗
104
電気二重層
103
102
Sl-a
Sl-b
M
Si-a
Si-b
S.
101
100
10−1
100
101
102
103
F=aφ−m
a=2.46, m=1.26
r2=0.9562
104
地層比抵抗係数
間隙水
電流
岩石比抵抗(Ωm)
マトリックス
102
101
100
100
DD(2)
MO6/OB4(2)
UL-100(2)
MO5/OB5(1)
MO4/OB6(1)
DR6/OB4(2)
WA-100(3)
CV8/BA2(1)
103
102
101
101
102
100
10−1
Gd
Toil
An
Lm
Ph
Sd(Plio.)
Sd(Mio.)
Sd(Pal.)
Sd(Mes.)
間隙水比抵抗(Ωm)
飽和度(%)
100
101
間隙率(%)
間隙水比抵抗と岩石比抵抗の関係
水分飽和度と岩石比抵抗の関係
間隙率と地層比抵抗係数との関係
図 地盤の電気比抵抗モデルとコア試料による室内試験結果
102
掘削で生じた空洞周辺のゆるみ域を可視化
■ ゆるみ域の分布状況
■ ゆるみ域内の地下水の挙動
深部地下に掘削されたトンネル周辺の岩盤がゆ
掘削2年後の結果では、トンネルより約数
るんだ領域の分布を調査するで目的で、トンネル
10cmの領域のみ比抵抗が高く変化していること
の軸方向に直交する円周状の測線を展開し、掘削
がわかります。ここで、トンネル坑口での地下
1年後と2年後に電気探査法を行いました。その
水湧水量の測定結果をみますと、掘削直後から
結果、掘削1年後ではトンネルを取り囲むように
湧水量は徐々に低下していることがわかります。
約1m領域の比抵抗が低くなっており、地下水を
したがって、掘削1年後の時点で周辺岩盤からの
含む量が多い領域、すなわち岩盤がゆるんで間隙
地下水の供給量が十分であったため岩盤が飽和
が多少大きく変化した領域をとらえているものと
状態であったものが、掘削2年後の時点では周
考えられます。また、掘削2年後ではトンネルよ
辺岩盤からの地下水の供給量よりトンネル坑口
り約数10cmの領域のみ比抵抗が高く変化してお
からの地下水の蒸発量の方が多くなったため、
り、トンネル壁面より地下水が蒸発して乾燥が進
トンネル壁面より数10cmの領域においては地下
行した部分をとらえたものと推定されます。
水が蒸発して乾燥が徐々に進行したものと推定
されます。
63100
39800
25100
15800
10000
6310
3980
2510
1580
1000
631
398
掘削後1年3ヶ月
TBM
Tunnel
TBM
Tunnel
TBM
Tunnel
比抵抗
(Ωm)
63100
39800
25100
15800
10000
6310
3980
2510
1580
1000
631
398
掘削後2年4ヶ月
ゆるみ領域
(厚さ:1m)
変化率
(%)
不飽和領域
(厚さ:数10cm)
TBM
Tunnel
比抵抗
(Ωm)
湧水量
(l/min) 供給される地下水量:S
900
1年後
2年後
400
350
300
250
200
150
100
50
0
-50
比抵抗変化率
1年後
2年後
トンネル
内に蒸発
トンネル
内に蒸発
600
S>V
トンネル内への蒸発量:V
時間
S<V
ゆるみ域への地下水の供給量:S
ゆるみ域からトンネルへの蒸発量:V
図 トンネル内でのゆるみ領域の可視化の例
風化花崗岩の掘削斜面での物理特性の可視化
■ 地盤の風化状況を把握する
■ 今後の取り組み
風化花崗岩が分布する山間部で12年前に掘削さ
現時点では地盤の間隙率や含水率の分布まで求
れた道路横の掘削斜面において、電気探査法と弾
めることは可能ですが、浸透率など地盤の水理特
性波探査法を行い、両者の解析断面を複合的に解
性の分布を精度良く求めるまでには至っていませ
析して、地盤の間隙率と含水率の断面図を作成し
ん。間隙の大きさ・形状・続成作用によるセメン
ました。その結果、法面の中・上部の自然斜面で
ト分布などの要因と浸透率との関係については未
は間隙率が数10%以上の領域が7∼8mと厚く分布し
解明な部分が多く、様々な岩種に対する物理モデ
ており、掘削前より存在していたと考えられる風
ルを構築していくことが重要と考えられます。今
化が強い領域をとらえたものと考えられます。一
後、これらの課題の解明に向けて、さらに詳細な
方、法面下部ではその厚さは1m程度であることが
室内試験を行い探査技術の高精度化を図っていく
わかります。これら間隙率が大きい領域は貫入試
計画です。
験結果によるN値が小さい領域とほぼ整合していま
● ひとこと
す。以上より、掘削後12年間で法面下部だけが急
岩石コア試料を使用し
ての室内実験はすぐに成
果がでるわけでもなく実
に地道な作業ですが、デ
ータを一つ一つ積み重ね
ていくことによりいずれ
は“答え”が見えてくる
と信じて常日頃研究に取
り組んでいます。
速に風化が進行したことが推定されます。
測線斜面
slope P1
12年前
測線斜面
我孫子研究所
地圏環境部 上席研究員
鈴木 浩一
計測時
35 間隙率
30 (%)
25
20
15
10
5
20
18
16
14
12
10
8
6
4
15
10
含水率
(%)
15
10
5
間隙率断面
0
5
10
15
20
5
0
25
水平距離(m)
水分飽和度断面
0
5
10
15
20
鉛直距離(m)
slope P1
0
25
水平距離(m)
図 風化花崗岩の掘削斜面における摘要例
■ 既刊「電中研ニュース」ご案内
No.369 2002・2003年度短期経済予測
No.368 アーク電流遮断用アークホーンを商用化
Central Research Institute of
Electric Power Industry
No.367 日本列島の火山の分布を調べる
No.366 CRIEPIのうごき 2002秋
2002年 1 2 月25日発行
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