Ⅱ 1 花いっぱい運動の理念と目標 基本理念 社会の成熟化にともなう人々の価値観の多様化、地域のアイデンティティ模 索・地域間交流の推進といった社会潮流や、兵庫県の特性と動向、花をいかし たまちづくり活動における現状と課題を受け、「花いっぱい運動」を進めるに あたっての基本理念を以下のとおりとする。 <運動の基本理念> 多様な主体の「参画と協働」による花いっぱい運動の展開 ∼新しい「公」の領域における花をいかしたまちづくりの実践∼ 成熟社会においては、従来の「私的領域」「公的領域」というとらえ方に加 えて、自律的な住民の参画と協働を基本に構築される「新しい「公」の領域」 という新たなとらえ方が求められている。 花いっぱい運動についても、領域別・主体別に進められてきた活動について、 今後は、「私的空間(私的領域の空間)」「公的空間(公的領域の空間)」と いった所有形態にとらわれず、公開性の高い場所を「中間領域」としてとらえ、 プライベートな空間における個人単位での運動の展開とともに、中間領域での 住民・事業者・行政など様々な主体が参画と協働により花いっぱい運動を展開 していくことを基本理念とする。 また、その上で、住民及び行政の役割や意識を明確にし、住民は参画と協働 に基づき自立した活動を行うことを目指し、初期段階は身近な目標設定から運 動を進めること、行政は、住民の自立に対して適切な支援を行い、またその活 動の成長を長い目で見守ることを基本に運動を展開していく。 -25- 新しい「公」の領域における取り組みのイメージ 【私的空間】 駐車場・空き地 屋上、壁面 農地・山林・ため池 工場敷地 … 個人住宅の庭 事業所敷地 <プライベートな領域> <取り組みの方向> 個人・事業者が、 敷地等をオープンガ ーデンとして公開す るなど、まちなみ美 化を意識した取り組 みを行う。 【中間領域】 【公的空間】 道路・河川・公園 山林・農地・ため池・ 駐車場・空き地・工場の緩衝緑地 施設エントランス・屋上・壁面 学校 など <オープンスペース> 道路・河川・公園 山林・学校 <取り組みの方向> 公開性の高い場所を「中間領域」 としてとらえ、住民・事業者・行政 など様々な主体が役割を分担し、花 をいかしたまちづくりを行いなが ら、“参画と協働”により、花いっ ぱい運動を推進する。 -26- 公開性の低い公有施設 <アクセスしにくい公共領域> <取り組みの方向> 行政により花を植 えた公有施設を定期 的に公開するなど、 花いっぱい運動の普 及・啓発に努める。 2 運動の目標 (1) 運動の目標 基本理念に基づき、運動の目標を以下のとおりとする。 「花いっぱい運動」を通して、心豊かな人・社会を育む 花やみどりを媒介とした活動を通して、人々が自己の実現を繰り返 し、段階を追って成長し、最終的には花・みどりの分野だけでなく福 祉やまちづくり、教育など様々な面で活躍しうる技術と心の豊かさを 得る。また、そのような人々が心豊かな社会を育んでいくことを目標 とする。 (2) 目指す姿 運動の展開により、下記のような社会の実現を目指す。 ① 花やみどりを通じた心の通い合うコミュニティ ・花の世話をする人たちの間で会話が弾み、花に関する話題以外にも様々 な情報が交換され、心の通い合うコミュニティが育まれる。 ・誰からも好かれ愛される花を媒介に、高齢者、定年を迎える世代、働き 盛りの世代、子どもたちが交流し、地域のコミュニティが活発になり、 その中でまちづくりに関わる豊富な人材が育まれ活躍する。 ・地域に根ざした組織とテーマ型の組織が一緒になって活動し、より活発 なまちづくりが行われる。 ② 花やみどりを通じた地域の文化発掘や景観醸成による“らしさ”の確立 ・古くは万葉集に詠まれるなど花は昔から人の生活に深くかかわってきた。 これら生活に密接にかかわる花には文化や歴史にまつわる話がたくさん ある。花に関する様々なことを掘り起こすことで豊かな地域文化が育ま れる。 ・花を植える活動が、点から線さらに面へと発展し、まちなみが季節感豊 かな花であふれる。また、地域と地域が競いあうことでそれぞれの地域 の個性が育まれる。それが地域の活性化にも結びついていく。 -27- ③ 環境に配慮した社会、豊かな自然の育成 ・花やみどりの存在により、二酸化炭素の吸収量が増え地球温暖化の抑制 に貢献するなど、環境に配慮された生活が送れるようになる。 ・また、植物の燃料化などに関する研究と利用が進み、いままで廃棄され ていた資源がいかされる。 ・身の回りで花を植える活動が、地域の希少種や郷土種を対象にしたり、 やがては郊外の里山管理活動などへ発展し、地域の自然の保全・復元が 進む。 -28- Ⅲ 花いっぱい運動の基本方向 課題、理念と目標をふまえ、以下の4つの柱を花いっぱい運動を進める 際の基本方向とする。 基本方向に基づき、花いっぱい運動を進めることにより、まちづくりへ の積極的な参画やコミュニケーションの促進、地域間の連携を促し、花・ みどりの分野だけでなく福祉やまちづくり、教育など様々な分野まで発展 し、最終的な目標である「心豊かな人・社会を育む」ことを実現する。 (2) 地域らしさをいかした花いっぱい運動の展開 (3) 環境や多様な生態系の保全・創出に資する花い っぱい運動の展開 -29- (4) 運動を支える支援体制の充実 多様な主体の﹁参画と協働﹂による花いっぱい運動の展開 (1) 住民の自立・継続した花いっぱい運動の展開 (1) 住民の自立・継続した花いっぱい運動の展開 ○ 現状では、住民が主体となった活動の参加率は高まっているが、活動 の継続が困難な団体が数多くある。また、個々の活動が点であり、線、 面へとつながっていない。 ○ したがって、今後、花いっぱい運動を展開していくにあたっては、行 政と住民の役割分担を適切におこなった上で、NPOや地域コミュニ ティ、企業などより多くの主体が連携し、参画と協働により自立的・ 継続的な運動を進める体制づくりを行う。 ○ 住民が主体となって、自立的に活動を行うために習得する、経済的自 立や人材発掘・確保などの技術は、他のまちづくり関連の活動におい ても活用することができる。また、団体と団体、人と人とが集い、顔 を合わせながら活動を行うことで、地域内や地域間でのコミュニケー ションが図られていく。これらは、地域の新しい共有財産となってい くことが期待される。 (2) 地域らしさをいかした花いっぱい運動の展開 ○ 多自然居住の推進など地域間の連携・交流が盛んに行われるようにな ると同時に、地域では「らしさ」や「アイデンティティ」の確立が求 められている。 ○ 花やみどりは、景観を美しく彩るとともに、地域の固有種や郷土種な ど、地域独特の気候や風土、生活風習、伝統的文化を表しているもの も多い。また、都市部では、空き地や駐車場等の緑化といった特有の 課題も生じている。 ○ 今後は、まちづくりの一環として花いっぱい運動を行い、個々の取り 組みをまち全体の魅力向上へとつなげていくと同時に、自らが住む地 域のことをよく知り、その気候や風土、生活文化面、独自性など地域 らしさをいかした特徴ある花いっぱい運動を展開していく。このよう な活動を続けることで、地域の住民による地域らしさの再発見が行わ れ、アイデンティティの確立へと結びつくことが期待できる。 (3) 環境や多様な生態系の保全・創出に資する花いっぱい運動の展開 ○ 現在、地球環境破壊が大きな問題となっており、環境や生態系の保全 などへの配慮が求められている。*ヒートアイランド現象等諸問題に対 応するために、「みどり」は重要な役割を果たす。 ○ *レッドデータブックなどに指定されている「希少種」は、地域の気 候や風土に依存した植物も多い。また、*ワイルドフラワーとして植え -30- *ヒートアイランド現象 都市中心部の都市活動 の結果生じる気温上昇現 象。気温の等高線を描く と、都市部が巨大な熱の 島のように見えることか ら呼ばれる。自動車や建 物から放出される熱や、 アスファルトなどで地面 が覆われているため、放 熱が悪いことなどが原因。 られる外来種の帰化や在来種との交配により、在来種の存立が脅かさ れるケースもあり、生態系への配慮が必要である。 ○ 一部の休耕田やニュータウンの残存緑地などは、園芸種などを多用せ ずビオトープ(生物の生息空間)として自然に配慮した形で残してお くことにより豊かな生態系が育まれることとなる。また、都市部で は、花をいかしたまちづくり活動を、新たなビオトープづくりや屋上 緑化・駐車場緑化など、環境に配慮した取り組みに関係づけることが *レッドデータブック 絶滅のおそれがある野 生生物をリストにして、 その分布や生息状況を詳 しく紹介するガイドブッ クのことで、危機を意味 する赤い表紙からこのよ うに呼ばれている。1966 年に国際自然保護連合 (IUCN)が作成した。 環境庁(環境省)が、19 91年に日本版を作成。 可能である。 ○ したがって、花いっぱい運動においては、環境や自然の生態系の保全 ・創出を視野に入れ、本来自然が豊かな場所や地域の特性が保存され ている場所についてはそれらを保全・育成するなど、地域の特性に応 じた活動を行う。これらの活動を通じて、豊かな環境を育むことを目 標とする。 (4) 運動を支える支援体制の充実 ○ 現在、県・市町事業として、緑化資材の提供などの物的支援、講座の 開催などの人材育成、コンクールなどの普及啓発事業など多様な取り 組みが展開されているが、今後は、住民の主体的な活動が広がる中で、 行政の役割としては、住民による活動の自主性、自由さを尊重しなが ら、その活動をサポートする方向へと転換が求められている。 ○ 基本理念に基づき、今まで支援の主な内容であった花苗・種子・土な ど物的な資材については、各活動者が自立的に確保する体制を整える ことをめざし、行政が行うべき役割を再認識し、人材育成、技術向上 支援、場づくり、普及・啓発、情報発信・PRの仕組みづくりなど、 活動者の自立を支える支援制度の充実を図る。また、活動団体に対す る適切な支援のあり方も確立する。 ○ さらに、行政内部における推進体制の整備や関連施策との連携を図る。 -31- *ワイルドフラワー 休耕田、道路沿い、河 川敷のような広い空間で、 野生的な花の種子をまい て植栽すること。野生の 花の種子をまく場合もあ るが、市販のコスモス、 リナリアなど野生的雰囲 気をもつ花の混合種子を まくことが多い。
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