パブリックセクター改革 - 三菱総合研究所

地方公営企業、地方公社、外郭団体(公益
法人など)、第3セクターなど、行政本体
との関係が深い各種パブリックセクターは、
経営状況が自治体財政に多大な影響を与え
る。そのため、その存在意義を問い直すこ
とも含め、経営改革が求められている。
これらのパブリックセクター改革について
どのように考え、どのように進めるべきか
―有識者、首長、シンクタンク、それぞ
れのスタンスから考えたい。
特
集
パブリックセクター改革
−官民の「中間領域」にメスを入れる−
中間領域
民間セクター
自治体チャンネル+
公的セクター
パブリックセクター
地方公営企業、地方公社、外郭団体
(公益法人など)、第 3 セクターなど
1
民
平成
19 年
官
(自治体)
月号
7 行政サービス
公共サービス
資料:三菱総合研究所
インタビュー(1)
:有識者に聞く
求められる官と民の「中間領域」の制度設計
2頁
北海道大学公共政策大学院 教授 宮脇 淳氏
インタビュー(2)
:首長に聞く
民営化の前にできること
4頁
横浜市 市長 中田 宏氏
研究レポート(1)
パブリックセクターの活路
6頁
行政本体と水平的な関係の構築を
研究レポート(2)
パブリックセクター改革において問われる「民力」
求められる地道な民力涵養の施策
8頁
特
集
パブリックセクター改革
インタビュー(1):有識者に聞く
求められる官と民の「中間領域」の制度設計
宮脇 淳氏(写真)
北海道大学公共政策大学院 教授 聞き手:三菱総合研究所 地域経営研究センター 主席研究員 山田 英二
自治体チャンネル+
平成
2
年
19 月号
7 これまで、独立行政法人や破綻法制などの制度設計
に関わり、最近では地方分権改革推進委員会の事務局
長として活躍されている北海道大学公共政策大学院の
宮脇教授に、パブリックセクターの存在意義、経営形態、
公的関与のあり方などについてお伺いした。
に区分けされてしまう。実態としては、公的セ
●パブリックセクターの存在意義
も、いろいろな官による制約が出て付加価値を
パブリックセクターの存在意義ですが、その
クターが行っている事業、あるいは公的セク
ターの仕組みで拘束された事業に対して、民間
セクターが資本を投入して自由にやろうとして
生まないという事業が多いはずです。
あり方については抜本的に見直さなければいけ
こういう官民の縦割りの構造が矛盾をもたら
ない、というのが基本的な私の考えです。その
し始め、一方で責任が曖昧な構造をもたらしま
理由は 2 つあります。
す。最終的には、そのツケは財政が担う、国民
1 つは、公的なセクター(自治体など)が担
の税金が担うことになります。そういう不透明
う公共サービスの領域が拡大していることです。
かつ非効率な構造をつくってきてしまいました。
なぜ、そうなったのでしょうか。
そこに関わっているのが、地方公営企業や地方
民間セクターは、過去の急速な経済成長に対
公社、第3セクターなどのパブリックセクター
して、持っている資源を自らの領域に、集中的
です。まず、ここを見直していく必要がありま
に投入しなければならなかった。そうすると、
す。
共通領域たる公共財等に多くの資源投入ができ
ず、その領域は公的セクターが行うという分業
●パブリックセクターの役割
化が進みました。その結果、官と民との「中間
パブリックセクターの役割については、事業
領域」は、公的セクターが担うという仕組みが
に公共性があったとしても、その事業を提供す
拡大しました。ところが、民間セクターでも資
ること自体をパブリックセクターがやらなけれ
本蓄積がかなりできてきて、資源的にみていろ
ばいけないという根拠はないのです。一定水準
いろなことが民間セクターでできるようになり
のサービスを提供・モニタリング等することを
ました。
「中間領域」にも民間がどんどん出て
担保すればいいわけです。直営でなければなら
行ける能力と体力を持ち始めています。そうい
ないものはきわめて限定的で、大概のものは民
う時に、
「中間領域」を担ってきた公的セクター
間、住民が担うことができるサービスです。担
の見直しは、社会全体の効率性、有効性のため
保と提供を分けることが重要なのです。
にも重要になってきます。
見直しのもう 1 つの理由は、日本の制度は、
結論的に言えば、
「中間領域」は民間に渡し
ていいのです。ただし、事業内容により公的関
官と民を完全に分けて二元論にしていることの
与の程度の違いを認識して、対処しなければな
弊害です。
「中間領域」は、官か民、どちらか
りません。
●「中間領域」の制度設計
福岡県の赤池町でも北海道の夕張市でも、多
くの債務を発生させたのは、第 3 セクターとか
地方公社とかいった周辺部分、パブリックセク
ターです。なぜ、そういう部分に、公的セク
ターが積極的に展開していったのでしょうか。
1 つの理由は前述した通りです。もう 1 つの理
由は、中央集権下の地方自治体において、本体
の普通会計の自由度がほとんどないことにあり
ます。地域において特色のある事業を行おうと
従来の公共サービスを、民間サービスにする方
ませんでした。それは、公社とか第 3 セクター
法です。その物差しは、民間がやめたくなった
などのパブリックセクターということになりま
らやめていいものです。もう 1 つは、経営を民
す。財政的にも税金は普通会計の財源となりま
間に任せるが、一定の規制を行う方法です。規
すから、外枠の事業は借金で行うしかない。地
制をする代わりに、準独占状態を担保すること
方行財政システムが根本的に持っている問題点
もあります。例えば、電力事業です。どの方法
自治体チャンネル+
がそこにあるのです。
にせよ、責任の明確化が貫ける経営形態が必要
3
になります。そして、公的セクターが経営責任、
事業責任を担わなければならない組織・領域と
れは、経営的には決定的に悪いということはあ
は何かを考える必要があるでしょう。
りません。もう 1 つの借金でやっているパブ
リックセクターに問題があるわけです。こう
●民間セクターに任せる仕組みづくり
いった事業は、日本の今までの社会システムで
いずれにしろ、日本の場合、法律・制度的に
いうと、官が行っている仕組みです。そのため
民間セクターに任せる仕組みを一度つくった方
に、民の方も最後は官に責任を求めていきます。
がよいでしょう。それも難しければ、
「中間領域」
そうすると、自治体の損失補償の条項を契約書
を制度化することが必要です。その場合、法体
に入れることになります。事業が破綻しても、
系の整備が必要です。
「中間領域」の地域性に
その契約があると債務の責任は全部自治体にい
ついては、条例でパブリックセクターの仕組み
きます。夕張など、
その典型です。どこまで行っ
をつくる方法があります。地方分権改革推進委
ても、パブリックセクターは官であるという概
員会がまとめた「基本的な考え方」 では、条例
念でやってきました。民間もそれを前提にして
の上書き権の確立を提案しています。
始めた第 3 セクターなどが、圧倒的に多い。そ
また、地方財政健全化法の健全化判断指標で
れは、
「中間領域」という制度設計を行ってこ
は、地方公営企業、地方公社、第 3 セクターな
なかったことによります。
どのパブリックセクターも対象としていますが、
この利点は経営実態の把握が進むことです。パ
●パブリックセクターの民営化
パブリックセクターにおける事業を全部民間
に任せる方法には、 2 種類あります。 1 つは、
ブリックセクターの改革を進めるためには、ま
ずは経営実態を把握し、民営化や市場化テスト
などの展開を図ることが重要と考えます。
7 月号
2 種類あります。 1 つは補助金によるもの。こ
19 年
パブリックセクターが事業を行う方法には、
平成
すると、普通会計の外側に持っていくしかあり
特
集
パブリックセクター改革
インタビュー(2):首長に聞く
民営化の前にできること
中田 宏氏(写真)
横浜市 市長 聞き手:三菱総合研究所 地域経営研究センター 主席研究員 山田 英二
横浜市では、地下鉄・バス等の交通事業をはじめと
した公営企業改革とともに、外郭団体の自主的・自立的
経営の促進が図られている。このような横浜市の取組
みについて、中田横浜市長にお伺いした。
なければなりません。しかし、そのことと、横
浜市が直接的に経営することはイコールではあ
りません。
横浜市営交通(地下鉄、バス)は、
「横浜市市
営交通事業あり方検討委員会」で経営のあり方
―横浜市の新時代行政プランの重点改革項目
について議論していただきました。結論的に、
の一つとして、「市立病院、市立大学、市営交
民営化まで舵をきれなかったのではなく、現実
通事業等のあり方検討の推進」があげられてい
的にできなかったのです。これは、地方分権の
4
ます。市営の交通事業について、委員会をつく
議論にもつながりますが、国の責任が第一です。
19 り、検討されました。検討過程では民営化も視
JRができる時、特別法をつくって国鉄をJRに
野に入っていましたが、その中で、市長として
変えましたが、我々の市営交通を民営化する場
どのように考えられましたか。
合、どこにもそういう法律は存在していません。
中田市長:公共交通機関と言うと、鉄道、電気
例えば、出てきたネックとしては、約5,000億
等の公共料金の体系に入っていますが、公共と
円の地下鉄の企業債を一括償還しなければ、民
いう言葉を一度考え直してみましょう。まず、
営化できないことになっています。バスも同様
公共=行政という考え方を捨てる必要がありま
で、約82億円の企業債の一括償還と、約1,700
す。今まで公共サービスは、行政サービスとほ
人の職員のうち、新会社への転籍を望まない者
ぼ同義語として使われていましたが、決してそ
を市の行政サイドで雇用しなければなりません。
うではありません。民間を含めて公共を担う、
民営化しようが、市営のままであろうが、民
自治体チャンネル+
●市営交通のあり方
平成
年
月号
7 ということを考える必要があります。公共のつ
間と同じ経営コスト、営業成績があって、事業
くり方については、民間だからできないわけで
者として立派に成り立っていれば、民営でも市
はなく、行政だからイコール行政サービスでや
営でもどちらでもいいのです。民営化すること
るという話でもありません。
になれば、株式化してそれを売却し、今までの
交通事業などは、公共料金の中に含まれて、
投入コストを回収する。そうした中で我々は、
すでに民間も担っている分野です。ただ、社会
株主として公共性を担保する経営を迫ってもい
インフラですから、それを国・地域の中で維持
いと思います。一方で、市営のバス・地下鉄と
することに、行政は責任を持つ必要があります。
してやっていく場合は、民間と同じになるとい
維持というのは、経営ではなく、サービスを維
うことは黒字になるということです。その黒字
持していくということです。市民の足を確保す
が、横浜市に利益をもたらしてくれる組織にな
ることについては、横浜市は十分な責任を持た
る。そういう公営企業の鏡となることでもいい
と思います。
今は民営化ができなかったので、民間と同じ
経営効率(コスト面、営業面)を達成させると
いうことで、市営交通の運営を進めています。
ただし、まだ道半ばです。
―民営化の最大のネックは、企業債の償還に
尽きるということですね。一方、経営効率が民
間に比べてどうなのか、ということは検討され
ましたか。
成り立っているところでは、横浜市の関与を減
員会」で検討していただきましたが、悪かった
らそうと、株式の比率を下げようとしています。
ですね。地下鉄の負債の約5,400億円(建設中の
例えば、
「株式会社横浜アリーナ」はそうです。
路線分含む)を返すためには何年かかるか、計
一方で、横浜市が関与しなければならない公的
算していただきました。現実には30年の市債償
な意義があり、いきなりやめるわけにはいかな
還期間で返済するという計算をして、その中で
いものは市が支えています。
に派遣している市職員はこの 3 年くらいで40%
億円は返せるという試算になりましたが、残り
程減らしていますし、市OBの役員は30%減ら
については、一般会計からの繰り入れになりま
しています。自立をさせていくために、外堀を
す。市債返済の責任が横浜市にあるので、税金
埋めていく。自立ができるようになれば、民間
による穴埋め額を明らかにするため、市営交通
に任せてもいい。外郭団体市場を民間に開放し
がどれだけ返せるかを計算して、人員配置・賃
てもいい。
金等の水準を試算したとも言えます。
指定管理者制度も、横浜市はすべて公募して
います。競争に負けた外郭団体もありますが、
●外郭団体の行方
その職員を他の外郭団体に就労させることを条
―横浜市の新時代行政プランの重点改革項目
件とはしていません。競争で負ける外郭団体が
の一つとして、「外郭団体の整理統合」があげら
出てきて初めて、自分達の自立を高めなければ
れています。外郭団体の中には、設置当初の使
ならないということになっています。
命が終わっているものがありませんか? 外郭
美術館、博物館の管理は民間では難しいです
団体に対する公的関与をどこまでやるか、とい
が、それも指定管理者を公募しました。外郭団
う点にも触れていただければ有り難いです。
体が競争に勝ちましたが、それは民間に負けま
中田市長:使命が完全になくなっていれば議論
いと努力した結果です。
は簡単ですが、どこかに社会的・公共的使命が
残っているものが圧倒的に多いので、外郭団体
―結局、官であろうと民であろうと適正な競
の整理が今、問題になっているわけです。
争環境があればいいわけですね。本日はどうも
外郭団体に対して、横浜市は善意的に対処し
ていると思います。経営効率がよくて、経営が
ありがとうございました。
19 7 月号
するという想定で計算しました。結局、約3,900
5
年
公的関与といった時に、横浜市から外郭団体
平成
返すために、人員配置や賃金水準を民間並みに
自治体チャンネル+
中田市長:
「横浜市市営交通事業あり方検討委
パブリックセクター改革
特
集
研究レポート(1)
パブリックセクターの活路
―行政本体と水平的な関係の構築を―
三菱総合研究所 地域経営研究センター
主席研究員
自治体チャンネル+
平成
6
年
19 月号
7 山田 英二
地方公営企業の中でも上下水道のように必需
供者になれば、パブリックセクターは、①民間
性が高いもの、地方住宅供給公社のように当初
参入がない場合のセーフティネット、②適正な
の使命を終了したもの、公共施設の管理運営の
競争環境維持のための民間のカウンターとして
ために設立された外郭団体(公益法人など)
、民
のみ、その存在意義を見出すことになる。
間と競合する観光集客事業を行う第 3 セクター
それでも多くのパブリックセクターが存続し
など、同じパブリックセクターでもその存在意
ている背景には、①財政的支援の裏づけとなる
義は微妙に違う。
個別法や通知などによる制度保障、②行政によ
そのため、地方公営企業、地方公社、外郭団
体、第 3 セクターなどの存廃を含めたあり方に
関する検討が、全国自治体で行われてきた。
る最終責任の慣例(契約)
、③雇用保障の判例な
どがあげられる。
規制改革・民間開放の流れの中で、例えば、
公共サービスの需給構造が変化し、パブリッ
これまでの制度保障が緩和されれば、経営効率
クセクターの存在意義が問われる中で、行政本
性の面で民間と伍していけないパブリックセク
体と新たな関係性を構築することが求められて
ターは、廃止を余儀なくされる。
いる。
■パブリックセクターの経営形態
■縮小するパブリックセクターの存在意義
公共サービスは、民間参入を誘導しながらも、
パブリックセクターの自主・自立の経営に向
けて、公営企業の全適化(地方公営企業法の全
サービス提供を保障する観点から、行政本体に
部適用)
、地方独立行政法人化、民営化、民間
よる直接提供のほか、公共サービス提供団体と
譲渡など、さまざまな経営形態が模索されてい
して地方公営企業や地方公社、外郭団体、第 3
る。公共サービス提供団体として、制度保障の
セクター等のパブリックセクターが設置された。
アドバンテージを活用するほか、公共サービス
しかし、これらの団体が提供する公共サービ
の質の高さやコストの低さなどで、民間と比較
スの需給構造の変化と経営効率の低さなどが明
して遜色のないレベルを実現する必要がある。
らかになってきた。これにしたがい、介護保険
ただし、前述の通り、行政は公共サービスの
のように、行政は公共サービスの保障・調整を
提供者から保障者・調整者に転換する中で、パ
行い、公共サービス提供はなるべく民間に委ね
ブリックセクターの位置付けが制度保障されな
た方が環境変化に柔軟に対応でき、かつ効率的
くなれば、廃止または民営化が基本となる。
・効果的であるとの考え方が広がった。
指定管理者制度の導入により外郭団体の存在
行政が公共サービスの保障者・調整者として
基盤、経営基盤が揺らいだように、公共サービ
の役割を担い、民間が公共サービスの主たる提
ス改革法(市場化テスト法)などの適用範囲が
図表1 パブリックセクター(PS)の評価分析(3つのメルクマール)
公益性
(1)需要の存在
(PS が提供している公共サービスは
需要があるか)
制度保障なし
制度保障あり
(PS の優位性なし) (PS の優位性あり)
必需性
需要の存在
PS の廃止
・民営化
優位性の発揮
公的支援
需要なし ( 縮小 )
需要あり
(3)PS への公的関与
(公的支援と公的事業のプレミアム
コストのバランスが適正か)
PS の廃止
プレミアムコスト
(付加的経費)
政策判断
個別法 ・ 通知等
(2)PS の存在意義(制度保障)
(個別法 ・ 通知などにより PS が位置
付けられ、何らかのアドバンテージ
があるか)
財政的支援等
バランスの適正化
適正である
民間並みの
経営効率化
資料:三菱総合研究所
自治体チャンネル+
代替(民間)の可能性
適正でない
(公的支援が経
営効率化を妨
げている)
平成
7
年
19 意義や経営形態に与える影響も大きい。
■行財政改革とパブリックセクター
地方財政健全化法における健全化判断4指標
の中には、地方公営企業、地方公社、第3セク
■パブリックセクターへの公的関与
パブリックセクターに対する制度保障として、
ター等との連結指標がある。これを受けて、行
政本体とパブリックセクターの一体性を重視す
個別法や通知などで対象事業、起債や基準内繰
るか、パブリックセクターの自主性・自立性を
入金などのルールを明記し、安定した公共サー
意識するかで、パブリックセクター改革の方向
ビス提供を支援してきた。このようにルール化
性も違うものとなる。
された制度保障のほか、地方公営企業における
地方分権改革推進委員会の「地方分権改革推
基準外繰入金、地方公社に対する無利子貸付、
進にあたっての基本的な考え方」では、
「自由
第 3 セクターの債務保証など、行政は制度外保
と責任、自立と連帯」
「受益と負担の明確化」
障でもパブリックセクターを支援している。
が重視されている。
その一方で、採算性の低い地域での交通事業、
このような認識を踏まえると、公共サービス
下水道事業の展開など、収益事業では発生しな
の保障者・調整者(行政本体)と提供団体(パブ
い公的事業のプレミアムコスト(付加的経費)
リックセクター、民間セクター等)が一体化す
も生じている。
ることより、それぞれの役割を確認し、パブリッ
パブリックセクターの公的関与のあり方を考
クセクターの自主性・自立性を意識する中で、
える場合、このような公的支援と公的事業のプ
水平的な関係を構築(ルール化)することの方
レミアムコストのバランスが適正であるか、評
が重要と言えるのではないか。
価分析し、ルール化することが重要である。
7 月号
広がれば、地方公営企業や地方公社などの存在
パブリックセクター改革
特
集
研究レポート(2)
パブリックセクター改革において問われる「民力」
―求められる地道な民力涵養の施策―
三菱総合研究所 地域経営研究センター
研究員
■改革の鍵を握る「民力」
自治体チャンネル+
平成
年
月号
7 ■オーダーを決めるのは納税者
パブリックセクター改革を進めるにあたって
公共サービスのオーダーを決めるのは、納税
は、
「民の力(民力)
」が重要な鍵を握る。ここ
者である。納税者は、
「いくら払ってどういう
でいう「民」には、納税者(受益者)としての
サービスを受けるか」を自ら考え、意思表示を
民と、サービス供給者としての民の二つの意味
していく。そして、それを実行に移していくの
がある。自治体は、自己の民力を冷静かつ客観
が、自治体の役割にほかならない。
的に把握した上で、独自の自治像を描き、その
実現を図っていく必要がある。
このように「自ら考え、決定していく力」が、
非常に重要である。これが十分に備わっていれ
ば、自治体はその執行機関として、円滑にその
8
19 佐々木 仁
■パブリックセクター改革に関する誤謬
我が国では、パブリックセクター改革につい
て、いくつかの誤謬があるように思われる。
第一に、
「改革イコール縮小」ではない。我
が国では、行財政改革は、財政・公務員数の縮
減といったイメージが定着している。しかし、
実現に向けた施策を展開していくことができる。
逆に、そうでなければ、自治体と住民の間の乖
離が埋まらず、十分な理解・満足が得られない
可能性がある。場合によっては、地域の社会経
済が停滞してしまう危険性すらある。
ここで特に重要なのは、
「身の丈にあった」
公共サービスの基本的な仕組みは、住民が税を
意思決定を行っていくことである。納税者は、
納めて、自己の求める公共サービスを受けると
基本的には自己の財布の中にある予算でしか
いうものである。改革の本質は、適切な公共
オーダーできない。
「使えるお金がいくらで、
サービスの範囲の設定と、その提供方法の適正
それで何を買うか」
。そうした感覚を納税者が
化を図ることにあることを、認識しなければな
持ち、自己の体力と責任にもとづいて、意思表
らない。
明をしていくことが重要である。
第二に、改革のゴールやそれまでのアプロー
チは、自治体によって異なるべきものである。
■サービス供給者としての「民」
当然のことながら、都市部における自治体と地
「民」のもう一つの意味は、サービスの供給
方部における自治体の状況は異なる。また、類
者である。委託や指定管理者制度の例をあげる
似の地域の自治体においても、住民ニーズや財
までもなく、現代における公共サービスの提供
政状況等は異なる。自治体は、先行自治体の動
にあたり、民の存在はもはや大前提である。
向をそのまま倣った教科書的なものではなく、
もちろん、民間主体は企業だけでない。ほか
個々の事情を踏まえたオーダーメイド的な改革
にも、公益法人、第 3 セクター、NPO、市民団
を進める必要がある。
体など、多様なものがある。こうした広がりは、
図表2 民力の涵養による公共サービスの深化(イメージ)
民力の向上
自助努力
相
乗
効
果
を
通
じ
た
公
共
サ
ー
ビ
ス
の
深
化
適切な自己認識にもとづく
公共サービス範囲の設定
納税者としての
民力
支援
自助努力
サービス供給者
としての民力
支援
民と官(自治体)の対話の場
自治体の施策
・広報・啓発活動の推進
・行政経営への参加機会増加
・研修・説明会の開催
・供給者としての経験提供
・自己責任型行政への転換
・試行的民間委託
・民間発案制度
・官民人材交流
・起業・研究開発支援
・インセンティブ付与
自助努力
相
乗
効
果
を
通
じ
た
公
共
サ
ー
ビ
ス
の
深
化
自助努力
官力の向上(コア・コンピタンスの強化等)
資料:三菱総合研究所
するためには、地域の企業、公益法人、NPO等
「第三の道」
、あるいは前述の宮脇教授の言葉で
の育成や、十分な力量を有する企業等の参画を
自治体チャンネル+
促す仕組みづくりなどを考える必要がある。
9
言うと、
「中間領域」が開けていることを示唆
するものである。自治体は、それらを踏まえた
考えていく必要がある。
■必要な「民力の涵養」と制度・環境の整備
以上述べたように、新たなパブリックセク
ターの姿を描き、実現していく上で「民力の涵
養」は重要なテーマである。もちろん、民自身
■指定管理者制度で明らかになった民力の違い
の努力がなければ、民力の充実は図れない。し
こうしたサービス供給者としての民力の違い
かし、公共サービス提供における民の存在が大
が如実に現れているのが、今般の指定管理者制
前提となっている以上、自治体としても、何ら
度の導入である。民力が充実している地域では、
かの形で民力の涵養を支援していく必要がある。
応募者数も多く、また、その主体も多様である。
上の図は、民力(及び官力)の涵養による公
逆に、そうでない地域は公募しても応募者が 1
共サービスの深化のイメージを示したものであ
社、場合によってはゼロということもある。ま
る。容易に想像できるように、これといった決
た、運営内容も、前者ではさまざまな創意工夫
め手があるわけではない。現実的な方法として
やサービスの向上が図られているのに対し、後
は、こうした複数の施策を地道に実施・継続し
者ではそれが限られている。実際、指定期間の
ていくほかはない。
途中で指定の取り消しとなった事例も多くみら
れる。
ただし、民と自治体の対話が十分にできてい
ない、あるいは中間領域を含めた民の活動環境
公共サービスの担い手としての民力は、地域
が確立していないことも事実としてある。した
によって大きな差がある。力量が十分でない地
がって、まずは民と自治体が十分な対話を行う
域は、住民ニーズはあっても、それに十分に応
ための環境整備や、民がより幅広く活動できる
えられないという状況が発生する。それを改善
ための制度設計を進めていくことが求められる。
7 月号
自身に最適な公共サービス提供の主体と手段を
19 年
上で、サービス供給者としての民の力を把握し、
平成
単に「官か民か」の二元論でなく、英国で言う