第5章 さまざまな人権課題に対する取り組み 人権尊重の理念に関する理解を深めるためには、法の下の平等や一人ひとりの人権を 個人として尊重するという普遍的な視点と、人権問題を現実社会の中で具体的な問題と して捉え、身近な課題に積極的に取り組んで解決していこうとする視点との両面からの アプローチが大切です。常に理念の理解を現実の問題に結びつけなければなりません。 その意味で、「「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画」、「兵庫県人 権教育及び啓発に関する総合推進指針」においても重要課題とされている、女性、子ど も、高齢者、障がいのある人、同和問題、外国人、HIV感染者(注)等、インターネッ トによる人権侵害などの人権課題について、これまで進められてきた人権尊重の視点か らの取り組みや今後の方針などを踏まえつつ、以下のように教育及び啓発を進めます。 1 女性 (1)現状と課題 わが国では、法の下での男女平等がうたわれていますが、性別による固定的な役割 分担意識やそれに基づく社会通念、慣習、しきたりが社会のあらゆる分野に根強く残 っています。また、政策や方針の決定過程においても、未だに男女の均等な参画が確 保されていない状況にあり、さらには、ドメスティック・バイオレンス(DV)に代 表される女性の人権にかかわる多くの課題があります。 少子高齢化の進行、社会・経済構造の急速な変化に対応するため、男女が互いにそ の人権を尊重しつつ責任を分かちあい、その個性と能力を十分に発揮することができ る男女共同参画社会の実現は、重要な課題となっています。 国は、平成12(2000)年に「男女共同参画基本計画」を策定し、県は、平成13 (2001)年に「兵庫県男女共同参画計画」を策定しました。旧社町においても平成16 (2004)年に「やしろ男女共同参画プラン」を策定し、男女共同参画社会の実現に向 けて取り組んできました。 平成20(2008)年に本市が実施した「男女共同参画に関する市民意識調査」の結果 によると、社会全体で見た男女の地位の平等感については、「男性が優遇されている」、 「どちらかといえば男性が優遇されている」と答えた市民が合わせて62.1%、これに 対して、「平等」と答えた市民は、14.9%となっており、男女共同参画社会の実現に 向けた取り組みの必要性が求められています。 − 14 − 【あなたは、現代の社会における男女の地位について、どのように思いますか】 0 20 40 60 80 100% 1.4 全体(N=798) 13.5 男性(N=326) 12.0 48.6 47.5 14.9 6.1 18.1 4.5 10.9 8.9 7.4 2.1 女性(N=464) 49.8 14.7 12.5 4.0 13.4 4.3 0.9 4.5 男性が優遇されている(全体13.5%、男性12.0%、女性14.7%) どちらかといえば男性が優遇されている (全体48.6%、男性47.5%、女性49.8%) 平等になっている(全体14.9%、男性18.1%、女性12.5%) どちらかといえば女性が優遇されている (全体6.1%、男性8.9%、女性4.3%) 女性が優遇されている(全体1.4%、男性2.1%、女性0.9%) わからない(全体10.9%、男性7.4%、女性13.4%) 無回答(全体4.5%、男性4.0%、女性4.5%) 図2 現代社会における男女の地位 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) (2)取り組みの方向(施策展開) ● 固定的な性別役割分担意識の解消に向けての意識啓発を進めます。 ● 各種審議会などの委員への女性の積極的な登用を図り、政策や方針決定過程への 女性の参画を進めます。また、計画年次中の数値目標を30%とします。 ● 男女共同参画推進に当たり、さまざまな情報の収集やその提供、各種相談、活動 のための拠点施設を整備し、男女を問わず誰もが自由に交流できる場の提供に努め ます。 − 15 − 2 子ども (1)現状と課題 近年、大量の物や情報が氾濫する一方で、少子化や核家族化、地域での関係の希薄 化、利己主義的な考えや学歴偏重の社会風潮などにより、子どもを取り巻く家庭環境 の変化は憂慮すべきものがあります。 このような状況において、児童虐待、家庭内暴力や学校でのいじめ、少年非行の凶 悪化、薬物乱用の低年齢化、援助交際や児童ポルノなどの性の商品化など、子どもの 人権をめぐる問題が深刻化する中、子どもの生命が脅かされる事件が全国的に多発し、 子どもの安全確保は地域に課せられた重要な課題となっています。 国では、平成15(2003)年に「次世代育成支援対策推進法」が制定されました。本 市においても、平成19(2007)年に旧町の取り組みを受け継いで、子どもが健やかに 成長でき、子育てに夢と希望が持てる、いきいきとしたまちづくりを進めるための 「加東市次世代育成支援行動計画」を策定しました。 今後は、子どもを保護の対象としてだけではなく、権利の主体として認めるという 「児童の権利に関する条約」(平成6(1994)年批准)の趣旨を十分踏まえた教育及 び啓発を進める必要があります。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 子どもの人権上とくに問題だと思うことについては、「親が子育てを放棄すること」、 「親が子どもに身体的、心理的、性的な虐待を加えること」、「子ども同士の暴力、 仲間外れ、いじめなど」が高い割合を占めており、親と子どもそれぞれへの支援が求 められています。 【あなたは、子どもの人権上とくに問題があると思うのはどのようなことですか】 ・親が子育てを放棄すること 49.2 ・親が子どもに身体的、心理的、性的な虐待を加 えること 44.0 ・子ども同士の暴力、仲間外れ、いじめなど 31.6 ・いじめを見て見ぬふりをすること 29.6 ・メール、インターネットによるいじめや嫌がら せ 28.3 ・親が、子どもにしつけのつもりで体罰を与える こと 24.8 ・ビデオ、インターネット、携帯電話などでの性 情報の氾濫 19.8 ・学校や就職先の選択などについて、大人が子ど もの意見を尊重しないこと 10.5 ・教師による体罰やいじめ 全体(N=798) 8.6 0 20 40 60% 図3 子どもの人権問題 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) − 16 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● いじめ、不登校など子どもをめぐる人権にかかわるさまざまな課題の解決に向け て、学校、家庭、地域が連携したきめ細やかな取り組みを進めます。 ● 平成18(2006)年に設置した「加東市要保護児童対策地域協議会」を中心として、 関係機関との連携を図りながら児童虐待への適切な対応を図っていくとともに、親 が事前に相談できる窓口体制づくりを進めます。 ● 大人が、未来を担う子どもたち一人ひとりの人格を尊重し、健全に育てていくこ との大切さを認識し、自らの責任を果たしていく意識の高揚に努めます。 − 17 − 3 高齢者 (1)現状と課題 わが国の高齢化は、世界にも例を見ない速さで進んでいます。本市においても、平 成21(2009)年7月1日現在の65歳以上の高齢者人口は、総人口の21.3%となり、 全国平均の22.6%には及ばないものの、超高齢社会の目安となる21%に達しています。 こうした超高齢社会を単に高齢者が多い社会とは捉えず、住民だれもが長寿を喜び、 高齢者が健やかに、また病気や身体が不自由になっても、一人ひとりが自立して地域 で暮らし、人生をいきいきと過ごせる社会づくりが求められています。 高齢者は、働きたいという意志や能力があるにもかかわらず、高齢であるというこ とのみをもって就労の機会が奪われるなど、社会参加し、自己実現を図るための権利 が十分に保障されているとは言えない状況にあります。 また、心身の機能の衰えなどから介護等が必要になった際に、人格やプライバシー を無視した扱いを受けたり、ややもすれば虐待、悪徳商法や詐欺などの財産侵害を被 るなど、高齢者の「人間としての尊厳」が否定される問題も生じています。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 高齢者の人権上とくに問題だと思うことについては、「悪徳商法や詐欺などによる被 害が多いこと」、 「働ける能力を発揮する機会が少ない」、 「情報を高齢者にわかりや すい形にして伝える配慮が足りない」が高い割合を占めており、財産侵害に対する予 防、社会参加の機会づくり、情報伝達についての配慮などが求められています。 本市においては、平成21(2009)年に「加東市高齢者保健福祉計画・第4期介護保 険事業計画」を策定し、「地域で支え合い生きがいと安らぎをつむぐまち」の実現を めざしています。 【あなたは、高齢者の人権上とくに問題があると思うのはどのようなことですか】 ・悪徳商法や詐欺などによる被害が多いこと 43.6 ・働ける能力を発揮する機会が少ない 37.6 ・情報を高齢者にわかりやすい形にして伝え る配慮が足りない 33.1 ・病院での看護、福祉施設での介護などの対 応が十分でない 24.2 ・高齢者が邪魔者扱いされ、意見や行動が尊 重されない 23.3 ・家族が世話することを避けたり、家族から 虐待を受ける ・道路の段差解消、エレベーターの設置など、 暮らしやすいまちづくりや住宅づくりが進 んでいない 20.9 19.0 ・高齢者だけでは住宅への入居が難しい 11.4 0 20 全体(N=798) 40 50% 図4 高齢者の人権問題 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) − 18 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● 高齢者が住みなれた地域で安心して暮らせる地域づくりを行っていくために、「高 齢者虐待防止ネットワーク」を中心として、高齢者虐待の予防、早期発見、早期対 応、再発防止を図ります。 ● 悪徳商法や詐欺などをはじめとする高齢者への人権侵害に関する相談、支援の充 実に努めます。 ● 高齢者の豊かな知識や経験は、地域活動、職業活動などにおいて大きく期待され ており、年齢を理由に就労をはじめとする社会参加の機会が制限されない取り組み を進めます。 ● 高齢者に、わかりやすい方法で生活に必要な情報を伝えるよう努めます。 − 19 − 4 障がいのある人 (1)現状と課題 国連は、昭和56(1981)年を「国際障害者年」と定め、「完全参加と平等」をスロ ーガンに行動計画を策定しました。障がいのある人の人権問題を個人の身体的精神的 機能の不十分さやそれによって引き起こされる能力の不足と捉えるこれまでの考え方 を大きく転換させました。 このことは、社会環境が障壁(バリア)をつくり、障がいのある人を受け入れてこ なかったことにあり、問題は社会にあるとの認識に立ち、その後の施策を、障がいの ある人が自分で自分の生き方を選択して決める権利が保障され、障がいのある人もな い人も、共に生活ができる社会の実現を基本とするようになりました。 障がいのある人が地域の中で暮らしていくうえにおいては、さまざまな障壁(バリ ア)があります。例えば、視覚障害者用点字ブロック、音響信号機や身体障害者用ト イレの未整備などによる「物理的障壁」、点字図書や字幕付きテレビ放送番組の不足 などによる「情報面の障壁」、資格制限などによる「制度面の障壁」、さらに障がい のある人を特別視する「心の障壁」により、障がいのある人の自立と社会参加が阻ま れています。また、判断力の不十分な人が悪徳業者による不当な消費契約の被害に遭 うなどの財産侵害や、施設における不適切な処遇など人権侵害の問題が生じています。 このような背景のもと、本市では、障がいのある人が家庭や地域で安心して生活を 営み、積極的に社会参加できるノーマライゼーション(注)の社会を実現するため、平 成19(2007)年に加東市障害者基本計画及び第1期障害福祉計画を策定し、平成21 (2009)年には計画の進捗状況や課題などを踏まえて、第2期加東市障害福祉計画を 策定しました。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 障害のある人の人権上とくに問題だと思うことについては、「働ける場所や機会が少 ない」、 「障害のある人の社会復帰や社会参加への受け入れ態勢が十分でない」、 「道 路の段差解消、エレベーターの設置など、暮らしやすいまちづくりや住宅づくりが進 んでいない」が高い割合を占めており、社会参加の機会づくり、道路や施設のユニバ ーサル化(注)などが求められています。 − 20 − 【あなたは、障害のある人の人権上とくに問題があると思うのはどのようなことですか】 ・働ける場所や機会が少ない 56.4 ・障害のある人の社会復帰や社会参加への受 け入れ態勢が十分でない ・道路の段差解消、エレベーターの設置など、 暮らしやすいまちづくりや住宅づくりが進 んでいない 42.4 33.5 ・学校や職場で不利な扱いを受ける 17.8 ・障害のある人の意見や行動が尊重されない 14.4 ・日常生活に必要な情報をわかりやすく伝え る配慮が足りない 12.5 ・スポーツ活動や文化活動などへ気楽に参加 できない 8.0 ・病院での看護、福祉施設での介護などの対 応が十分でない 7.5 ・障害のある人の住宅への入居が難しい 6.5 0 全体(N=798) 20 40 60% 図5 障害のある人の人権問題 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) (2)取り組みの方向(施策展開) ● 障がいのある人が自立し、社会参加を果たしていくために、乳幼児期からそれぞ れの状態や必要性に応じた一貫した支援と教育を行います。 ● 障がいのある人に対する正しい理解が必要であるため、広報紙、ケーブルテレビ、 ホームページなどを活用し、さまざまな啓発活動を実施するとともに、社会福祉協 議会をはじめとする各団体とも連携して、それぞれに啓発活動を展開します。 ● 障がいのある人が地域の中で安心して生活するために、その拠点となる住宅環境 や道路、交通機関、公共施設などのユニバーサル化をさらに進めます。 ● 「障害者自立支援法(平成18(2006)年)」の施行により、これまで障がい種別 ごとに分かれていた各種サービスを「自立支援給付」、「地域生活支援事業」とし て定着させ、障がいのある人の要望に十分対応できる総合的なサービス基盤の構築 をめざします。 ● 平成19(2007)年に策定した「加東市障害者基本計画及び障害福祉計画」による 取り組みを推進します。 − 21 − 5 同和問題 (1)現状と課題 同和対策審議会答申(昭和40(1965)年。以下「答申」という。)では、 「同和問題 は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって 保障された基本的人権にかかわる課題」と位置づけ、その早急な解決は「国の責務で あり、同時に国民的課題である」と述べています。この答申を受けて、 「同和対策事業 特別措置法」(昭和44(1969)年)が施行されて以来、3度にわたる特別措置法が施 行されました。 同和問題は基本的人権にかかわる重要課題であるとの認識のもと、特別措置法によ る諸施策によって、生活環境の改善、教育上の格差の解消、差別意識の解消などに対 する取り組みが図られてきました。 本市では、平成18(2006)年3月の合併前の旧町時代からこの答申の精神を踏まえ、 特別措置法に基づく同和対策事業や同和教育を実施してきました。 その結果、住宅や道路などの環境は大きく改善され、進学や就職の機会も拡大され ました。また、市民の同和問題への正しい理解や人権感覚、人権意識の向上など、一 定の成果もみられるようになりました。 特別措置法による対策は、概ねその目的を達成できる状況になったとして、平成14 (2002)年3月末日をもって終了し、産業、就労、教育などの残された課題について は、一般施策に移行しました。しかしながら、一部では依然として偏見が根強く存在 し、潜在化の傾向が見られるなど、同和問題の完全な解決に至らず結婚や就職などの 差別が今なお残っています。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 交際相手が同和地区の人であるとわかった場合に、「家族や親戚の反対があれば、結 婚しない」、 「絶対に結婚しない」と答えた未婚者は合わせて7.8%、 「家族や親戚の反 対があれば、結婚を認めない」、「絶対に結婚を認めない」と答えた既婚者は合わせ て4.8%となっており、結婚についての差別意識は完全には払拭されていません。 引き続き行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、同和問題の早急 な解決に向けて人権教育・啓発の取り組みをさらに推進することが今後に残された課 題です。 − 22 − 【あなたが、結婚しようとする相手が、同和地区の人であるとわかった場合、あなたはどうしますか】 7.1 0.7 4.3 未婚の方 (N=141) 35.5 24.1 0 20 18.4 40 60 9.9 80 100% 自分の意思を貫いて結婚する(24.1%) 家族や親戚の反対があっても説得に全力を傾け、できるだけ理解 を得て、自分の意思を貫いて結婚する(35.5%) 家族や親戚の反対があれば、結婚しない(7.1%) 絶対に結婚しない(0.7%) その他(4.3%) わからない(18.4%) 無回答(9.9%) 図6 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) 【たとえば、あなたのお子さんが結婚しようとする相手が、同和地区の人であるとわかった場合、あなたはどうしますか】 1.6 2.2 2.6 1.9 既婚の方 (N=644) 44.7 0 28.9 20 40 60 9.5 80 8.7 100% 子どもの意思を尊重する(44.7%) ためらったら勇気づける(1.6%) 親として不安であるが、子どもの意思が強ければしかたない (28.9%) 家族や親戚の反対があれば、結婚を認めない(2.2%) 絶対に結婚を認めない(2.6%) その他(1.9%) わからない(9.5%) 無回答(8.7%) 図7 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) − 23 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● 同和問題を人権教育・啓発活動の重要な柱と位置づけ、学校、地域、企業などの あらゆる場における教育、啓発の推進を図ります。 ● 同和問題の解決を著しく阻害する「えせ同和行為」(注)が未だに全国的に横行し ており、関係機関への働きかけにより、その根絶に向けた取り組みを強化します。 ● 加東市人権・同和教育研究協議会などの関係団体との連携を図り、幅広い人権教 育・啓発のための研究や研修の充実を図ります。 ● 各種人権相談、差別事象については、法務局、社人権擁護委員協議会などの関係 機関や関係団体との連携を図り、対応します。 − 24 − 6 外国人 (1)現状と課題 日本に住む外国人は年々増加し、平成20(2008)年末には221万人に達していま す。また、本市に住む外国人は、平成20(2008)年末では404人となっています。 近年、急速に増加している日系人をはじめとする外国人は、多くの地方都市で重要 な労働力となっており、定住化傾向が強くなっています。一方で、不安定な雇用や、 社会保険への未加入、不十分な日本語習得など多くの問題が発生しています。外国人 と地域との間には、言葉や習慣などの違いから、軋轢、摩擦が生じている場合が少な くありません。 国の「人権教育・啓発に関する基本計画」の中に「我が国の歴史的経緯に由来する 在日韓国・朝鮮人等をめぐる問題のほか、外国人に対する就労差別や入居・入店拒否 など様々な人権問題が発生している」と述べられており、外国人の人権問題が大きな 課題となっています。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 外国人の人権上とくに問題だと思うことについては、「就職時や職場で不利な扱いを 受ける」が26.8%、 「年金、健康保険など社会保障で不利な扱いを受ける」が24.6%、 「日常生活に必要な情報を外国人にわかりやすく伝える配慮が足りない」が24.6%と 高い割合を占めています。 このような状況のもと、外国人市民が地域の一員として活躍できるよう、自分と異 なる文化、生活習慣、宗教、言語などをだれもが寛容に受け止め、互いに違いを認め 合い、安心して暮らすことができる地域づくりが必要です。 【あなたは、日本に居住している外国人の人権上とくに問題があると思うのはどのようなことですか】 ・就職時や職場で不利な扱いを受ける 26.8 ・日常生活に必要な情報を外国人にわかり やすく伝える配慮が足りない 24.6 ・年金、健康保険など社会保障で不利な扱 いを受ける 24.6 ・生活や文化の違いから不当に扱われた り、嫌がらせを受ける 17.0 ・就学時や学校生活で不利な扱いを受ける 12.9 ・外国人であることを理由に周囲から結婚 を反対される 12.3 ・住宅の申込や入居で不利な扱いを受ける 全体(N=798) 11.2 0 10 20 30% 図8 外国人の人権問題 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) − 25 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● 外国人への情報提供、相談体制の充実など、外国人が暮らしやすい環境づくりを 推進します。 ● 外国人に対する嫌がらせや差別事象の発生を根絶するための啓発活動を推進しま す。 ● 兵庫教育大学留学生や姉妹都市との交流を通して、異文化理解や多文化共生の重 要性に対する理解を深め、市民の国際感覚の醸成と外国人と共生する意識の高揚を 図ります。 − 26 − 7 インターネットによる人権侵害 (1)現状と課題 全世界で高度情報化社会が急速に進展し、だれもが手軽に情報の受発信ができる 便利なメディアとして、パソコンや携帯電話によるインターネットやEメールが急 速に普及しています。その反面、だれでも匿名で、どのような情報でも簡単に発信 できることから、他人を誹謗中傷する表現や差別を助長する表現、個人や団体にと って有害な情報がEメールで送信されたり、インターネットの掲示板に掲載される など、人権にかかわる問題が数多く発生しています。 平成14(2002)年5月には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発 信者情報の開示に関する法律(通称:プロバイダ責任制限法)」が施行され、特定個 人の権利が侵害されたことが明白な場合などに限り、発信者情報の開示を請求できる ようになりましたが、依然として人権侵害はあとを絶たない状況です。 平成20(2008)年に本市が実施した「人権に関する市民意識調査」の結果によると、 インターネットを悪用した人権侵害についての問題点として「他人への誹謗中傷や差 別的な書き込み」が64.8%、「犯罪を誘発する場となっている出会い系サイト」が 43.1%、「インターネット取引を悪用した悪徳商法、詐欺などの存在」が36.1%と高 い割合を占めています。 今後、情報化がさらに進む中、情報の収集や発信における個人の責任や情報モラル についての正しい理解と認識を広げるための教育や啓発活動の推進を図る必要があり ます。 また、大量の個人情報を保有する本市においては、「加東市個人情報保護条例」の 遵守を徹底し、個人情報の保護に努める必要があります。 【あなたは、インターネットを悪用した人権侵害について、とくに問題があると思うのはどのようなことですか】 ・他人への誹謗中傷や差別的な書き込み 64.8 ・犯罪を誘発する場となっている出会い系サ イト 43.1 ・インターネット取引を悪用した悪徳商法、 詐欺などの存在 36.1 ・第三者が無断で他人の電子メールを閲覧す る行為 23.3 ・学校におけるインターネットによる人権侵 害 15.3 ・違法または有害なアダルトビデオなどの氾 濫 14.0 ・捜査対象の未成年者の名前や顔写真などの 掲載 12.8 0 全体(N=798) 50 100% 図9 インターネットによる人権問題 (*H20「人権と男女共同参画に関する市民意識調査」より) − 27 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● 一般のインターネット利用者やプロバイダ(注)などに対しては、個人のプライバ シーや名誉に関する正しい理解を深めることが必要であることから、ケーブルテレ ビやホームページを通して、人権侵害防止の啓発活動を行います。 ● 学校においては、情報に関する学習などで、インターネット上の誤った情報や偏 った情報をめぐる問題と、情報化の進展が社会にもたらす影響について知り、情報 の収集や発信における個人の責任や情報モラルについて理解するための教育の充実 を図ります。 ● 個人のプライバシーや名誉に関する正しい理解をさらに深めるための教育・啓発 活動を推進するとともに、メディアリテラシー(注)を身につけることができるよう な学習システムの構築をめざします。 − 28 − 8 その他さまざまな人権問題 【HIV感染者等】 (1)現状と課題 現代社会においては、さまざまな病気についての正しい知識と理解が十分に普及し ているとは言えません。 HIV感染症は、感染力が弱く感染経路が限られているため、正しい知識をもって 予防ができれば日常生活では感染することはなく、いたずらに感染を恐れる必要がな いにもかかわらず、病気そのものや患者・感染者を特別視する差別意識が存在してい ます。 また、ハンセン病(注)は、らい菌による感染症で、その菌は感染力が極めて弱く、 現在では治療方法も確立され完全に治る病気であり、遺伝する病気ではありません。 しかしながら、依然として病気や元患者に対する偏見や差別意識が残っています。 これらの感染症については、まず治療や予防など、医学的な対応が必要になること はいうまでもありませんが、患者、元患者、家族が背負う人権問題の解決も同じよう に重要な課題として位置づけ、解決に向けた取り組みを進めなければなりません。 (2)取り組みの方向(施策展開) ● 病気や感染症に対する正しい知識や情報の普及と啓発に努めます。 ● 医師や看護師などの医療関係従事者には、人権意識の徹底が図られるよう関係機 関・団体などと連携を強化しながら取り組みを進めていきます。 ● 市民病院などにおいて、患者の人権に配慮した医療が行われるよう努めます。 【刑を終えて出所した人】 (1)現状と課題 刑を終えて出所した人に対しては、本人に更生の意欲があっても人々の意識の中に 根強い偏見や差別意識があり、就職に際しての差別や住居の確保が困難なことなど、 社会復帰をめざす人たちにとって現実は極めて厳しい状況にあります。 刑を終えて出所した人が真に更生し、社会の一員として円滑な生活を営むことがで きるようにするためには、本人の強い更生意欲とともに、家族、職場、地域など周囲 の人々の理解と努力が不可欠なことから、偏見や差別を解消するための啓発活動を推 進する必要があります。 (2)取り組みの方向(施策展開) ● 刑を終えて出所した人が、社会の一員として円滑な生活が営めるよう偏見や差別 意識を解消し、その社会復帰を支援するため、保護司会や更生保護女性会を中心に 「社会を明るくする運動」の啓発活動を推進します。 − 29 − 【犯罪被害者等】 (1)現状と課題 犯罪の被害者は、事件による直接的な被害だけでなく、刑事手続の過程等で受ける 精神的な被害やさまざまな経済的負担などの二次的被害を受けています。また、これ まで犯罪被害者の権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けら れず、社会において孤立することを余儀なくされてきました。 犯罪被害者とその家族には、マスメディアによる行き過ぎた報道や過剰な取材によ ってプライバシーの侵害、名誉の毀損、私生活の平穏侵害などの問題が起こっていま す。 (2)取り組みの方向(施策展開) ● 平成17(2005)年4月に「犯罪被害者等基本法」が施行されました。この法律の 主旨に沿って、犯罪被害者とその家族の人権擁護に資する啓発活動を推進します。 【性同一性障害】 (1)現状と課題 性同一性障害は、生物学的な性(体の性)と性自認(心の性)が一致していない状 態を言い、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類に位置づけられています。性同一 性障害のある人は、公的な書類(戸籍、住民票、パスポートなど)の性別が外見や社 会生活上の性別と食い違っているため、さまざまな不利益や差別を受けることがあり ます。 平成16(2004)年7月「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施 行され、一定の条件のもと、戸籍上の性別を変更することが可能になりました。さら に平成20(2008)年6月の法律改正により、性別変更できる特定の条件が緩和されま した。 (2)取り組みの方向(施策展開) ● 性同一性障害を理由とする偏見や差別をなくすため、本人とその家族の人権を擁 護する啓発活動を推進します。 【アイヌの人々】 (1)現状と課題 アイヌの人々は、アイヌ語をはじめとする独自の文化や伝統を有しています。 アイヌ独自の文化や伝統への無関心や誤った認識から、結婚や就職をはじめとする 差別や偏見が依然として存在しています。 アイヌの人々が置かれている現状の認識と民族としての歴史、文化、伝統への理解 を深めるための啓発が求められます。 − 30 − (2)取り組みの方向(施策展開) ● アイヌの人々の民族としての歴史、文化、伝統及び現状に関する認識と理解を深 める啓発を推進し、アイヌの人々の人権が尊重されるよう努めます。 【その他】 ● ほかにも、自殺者やその遺族等への人権侵害、ホームレスの人権、拉致問題やそ の他の人権侵害など、さまざまな人権問題が存在し、社会・経済構造の変化などに 伴い、今後、さらに多様化、複雑化する傾向にあります。本市では、これらの問題 についても、その解決に向け、関係機関と連携して取り組みます。 − 31 −
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