熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
名石の地質学
Author(s)
田村, 実
Citation
熊本地学会誌, 23: 6-8
Issue date
1967-01
Type
Departmental Bulletin Paper
URL
http://hdl.handle.net/2298/26866
Right
【解・観】
名石の地質学
熊本大学教育学部田村実
石ブームは爆発的に拡がっている。自分のである。もっともころがっている川原や海岸
職楊に必ずといってよい程石を磨いている人の石は殆ど学問的な対象にならないが。
がいる今日である。成程自然の風雪によって観賞用として尊ばれる岩石は.次の性質の
細工された形のよい石、磨きあげた色とつや故にそれがたっとばれるのである。即ち、
眺めても飽きのない石が多い。・私は職業柄岩形、つや.色、模様である。
石とは関係が深い。しかし自分で山野を探しこれらの性質の1つ又は2つ以上が岩石に備
廻j,夜遅くまで磨きあげる程の意欲は現在っていて観賞される。でも多ければ多い程そ
の私にはない。それでもああきれいだなあとの石は珍重されてくる。以下順にのべる。
艦雄二鷲:誌幾総図
共には頁岩のホルンフエルスでしかない。頁最近では種灼の機械を使って形を変えるので
岩は一般に小さく割れやすい。しかし熱変質以前に考えられた程との形は重要性を欠いて
をうけると固くなってこまかく割れなくなる。いるようである。しかし自然に出来上った形
こうい'う黒色のホルンフエルスが岩石としては何ともいえない。堆頑岩の中には硬い部分
観獲される例は那智石や宮田石など例が多い。と軟い部分が順に堆積しているものがある。
宮田石篭もう、よい形のものはとれないという。それが風化侵食作用により差別侵食をうける
しかし之とよく似た石一否、もつとす.ぐれてと凹凸のある奇岩が出来る。又石灰分の多い
いると私には思われるのが、富岡の西海岸にところとしからざるところとが互いに層をな
ごろごろしている。白岩崎の少し北である。している岩石では前者の部分がとけこみ石灰
ととは古第三紀の坂瀬川層群の頁岩が流紋岩分の少いところがつきだL6かわった形を現出
その他の岩脈の貫入により熱変質をうけていする。よく水石展に私共には何でもないノジ
る。恐らく殆ど人に知られていない輔その観昼一ル(団塊)が飾ってある。ノジュールは
賞用としての価値は宮田石以上であろう6頁岩等の中によく出来る結核で石灰分や珪酸
ではどうして人に知られないのであろうか。分が集まっていてまわりに比べ固い。熊本県
石集めの玄人という人がいるらしい。しかしでは.姫浦層群などの頁岩中に多い。
蹴撫墓就鶏:鯉国
石の分布は岩石の成因や岩石の種類に応じてつやも磨く技術が進歩しているので特に特定
規則性がある。岩石からなっている地殻を対の石ということはなくなっている。しかし固
象としている地質学が近代的学問の形態をとい石で、紐粒のちみつな岩石はつやが出る。
っているのはそういう規則性があるからであそういうところから考えると、チャー.卜やi罵
る。そこでそういう立場から観賞用の石につルンフエルスがよいつやを持っている。チャ
いて二、三脱明を試みたい。猶この際蒐石家一トは熊本では四万十帯を除くと秩父帯にし
の皆様にお願いしたいと.とは岩石は地質学のか出ない。秩父帯が最も多い。しかしチャー
対象となっているので.限りある貴窟な資料卜は割れ目が多いので塊状のものでないと駄
は出来るだけ大切に扱ってほしいということ目である。球磨川では八代から球磨川中流大
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坂間迄の間が秩父帯にあたり、この幅を東北
される後二者は四国の吉野川や紀の川、関東
東一西南西にのばした地帯にチャートが分布
山地等で名石となっているが、熊本では固い
する。とのチャートは古生層に多いが、石灰
それらの新鮮な岩石の分布が限られているの
岩、輝緑凝灰岩等もとの地帯に多いので、球
で割合に観賞している人が少い。しかし益城
磨川石とか、大分県の紫雲石(チ画コレート
町の下陣川には木山変成岩類中のこれらの石
色の輝緑凝灰岩)とかいうのもこの地帯の岩
が沢山ころがっており盆石の対象となるもの
石である。石灰岩は方解石の集合可従ってや
わらかいが又やわらかい蛇紋岩〔松揺・内田
の笹目石(竹葉石)や緑川石として有名な〃
も多いのではなかろうか。
函
ほたる石"等がこれである〕も磨くと素賭し
一般に模様というものを考えるといろんな原
い光沢を出す。
因によるものがある。火成岩の中で模様を観
回
賞の対象とするものをあまりみない。しかし
球磨川の深水の谷等におちている斑岩e分岩
昔から黒い石とか赤い石、緑の石がよく観賞
、に近いが)は1麺もの長石の斑晶が淡緑色の
用に供されている。黒い石が珍重されるのは
石基の中にめだって水石展にもかざってあっ
チャード、石灰岩、、蛇紋岩、頁岩(粘板岩)
およびそのホルンフエルスで、色の黒さは有
た。火成岩の中に入れるとすると蛇紋岩には
機物や細粒の黄鉄鉱等による掲合が多いとさ
石(又は盤目石)は黒い笹状の部分が白みが
れている..赤い色は主として酸化鉄によるも
かった淡緑色の基地の中にめだったものだが
ので、赤色のチャート(人吉の錦石や高千穂
この黒し笹はかんらん石が変質して蛇紋石と
のジャスパー)紫雲石等のチョコレート色の
なり鉄を遊離している部分で他の部分は主と
凝灰岩の色の原因をなしている。この赤色の
して輝石が変質しているという。模様こそ違
かわった模様がある。全国各地に産する竹葉
チャートは秩父帯の南の四万十帯(熊本県で
え他の蛇紋岩もその変質の梯子は同様で、熊
は大坂間一頭地を結んだ線の以南は全部これ
本県内の蛇紋岩で観賞用として珍重されてい
に入る)でマンガン鉱床を伴っていることが
るのは矢部のほたる石と松橋の竹葉石であろ
多く、銅分を含んでいて緑色が入り混り実に
う
◎
きれいなものがある。チャートは堆積岩であ
既述の如く熊本県では現在あまり対象になっ
るからその分布は走向の方向にはかなりのび
ていないか、結晶片岩類にはとまか!/i摺曲構
るのが普通である。輝緑凝灰岩は石灰岩やチ
造がよく発達し、その磨きあげた様子は必ず
ヤートとこまかい互層をすることがよくある。や盆石の対象となると思う。前記下陣川や天
球磨川流域では白石一大坂間間、球磨川の上草の高浜海岸等のものの質がよい。
流の川辺川筋では頭地から宮園附近に続く、その他古い時代の堆積岩や変成岩には細かい
輝緑凝灰岩の赤色や緑色が石灰岩にしみこん石英脈や方解石脈が発達していて、滝がかか
で、バラ色や緑色のきれいな石灰岩が竹ノ川つたようになっているものがある。水石展で
等にある。又かたいチャートと輝緑凝灰岩やは必ずみかける石である。
石灰岩が互層すると軟い方が侵食の結果へと最近非常によくみかける石には石灰岩喋岩が
み、いろんな奇岩状を呈し、盆石の対象となある。マトリックスがチョコレート色や緑色
るものが多い。の凝灰岩でその中に数czEの石灰岩角牒がつま
緑色も鉄の鉱物の色に基づくものが多く、既ってい草ある石灰岩角操はバラ色や緑色を呈
述の輝緑凝灰岩やチャートそれに緑泥石や緑し、中にはさんご等の化石もはいっていて色、
簾石を含む結晶片岩に多い。緑色片岩と総称模様、磨くと光沢と、非常に面白みをもって
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いる。宮崎県の鞍岡のシルリヤ紀の石灰岩に
以上ふりかえってみると熊本県では北部に
はこの種のものが多いが県内では色彩のあま
殆ど観賞用の石を産しない。それは火山岩や
りきれいなものは少い。しかし殆どの人が対
凝灰岩が多いからで、それらは多孔質のもの
象としていないが石灰岩の中にはさんごやス
が多く盆石の対象とする人が少いからである。
ズリナ°ストロマトポーラ等からたるものが
あり、磨きあげればそのきれいなことは明か
これに反して南部には堆稜岩が多く、観賞用
の石が大部分堆読岩であることがわかるであ
である。梅花石として門司の海百合石灰岩の
ろう。既述の諸性質は岩石を科学的に考える
小さいかけらが1万円もすることや、矢部11J・
人ならよく理解できる筈で、今度の日曜日は
北川内の海百合石灰岩が緑川石展で珍重され
どこへ名石を探しに行こうと県の地質図を広
ていることから考えるとそのうちブームをよ
げて計画を練るようになれば名石探しも無駄
ぶだろう。八代郡泉村の石炭紀一二畳紀の矢
山岳の石灰岩や八代郡坂本付、芦北郡田浦町、
芦北町屋敷野等のジュラ紀の鳥巣石灰岩の中
が少なくなり、よい石も沢山出廻ることにな
ろう。
にはこの種のものが多い。又これらには状
石灰岩が多く、師状椛造のあらいものは磨く
と面白い模様を出すであろう。その他に珪化
木も木目がきれいで大抵の水石展にはかざっ
てある。特に蛋白石などに置換されているも
のは木目の模様と共に観賞用の価値を高めて
いる。
サンコがはいった石灰岩
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