病院だより イブニングカンファレンス 徳山医師会病院でのPEGの経験 日 時 平成18年5月23日(火) 場 所 医師会病院カンファレンスルーム (医) 神田医院 神 田 博 医師会病院では、脳血管障害、神経性疾患が原因 例目も1995年であり、現在まで約150例施行されて で嚥下障害となり、栄養補給を必要とする患者さん おり、その多くを藤井医院の松田先生の協力を得て が多い。長期となれば、静脈栄養はあらゆる面で困 いる。 難となり、経管栄養とせざるを得ない。欧米では、 PEGの適応を表1に示すが、胃の手術を受けてい 経管栄養のほとんどが胃瘻である。しかし、本邦で ない限り、 経鼻胃管の症例のほとんどが適応となる。 は、 現在でも胃瘻の患者さんを拒否する施設が多い。 合併症は、出血、腹膜炎等が報告されているが、適 医師会病院での症例を示し、胃瘻の長所について検 応を誤らず施行する限り、その可能性は極めて低い 討した。 ものである。 内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic 経鼻胃管とPEGの比較を表2に示すが、経鼻胃管 Gastrostomy:以下PEG)は、外科的開腹操作でな の一番の短所は、栄養注入時は毎回管が胃内に挿入 く、上部消化管用内視鏡を用いて、胃内腔と腹壁に されていることの確認の必要性があり、これが在宅 瘻孔を作製する手術であり、1979年に米国で開発さ であれば非常に困難となる。また、この確認が不要 れ、その後瞬く間に拡がったが、本邦での急速な症 なことがPEGの最大の長所であり、在宅患者さんの 例の増加は1995年以後である。医師会病院での第1 家族の栄養補給の負担を軽減させることができる。 表1 表3 PEGの一般的な適応 PEGの注意例 ①経腸栄養のアクセスとしての胃瘻造設 ・脳血管障害、痴呆などのため、自発的に摂食 ①内視鏡通過困難な咽・喉頭、食道、胃幽門部狭窄 できない例 ・神経筋疾患などのため、嚥下不能または困難 ②多量の腹水貯留 ③極度の肥満 な例 ・頭部、顔面外傷のため、摂食困難な例 ④著明な肝腫大 ・食道穿孔例 ・成分栄養に依存しているクローン病症例 ②誤嚥性肺炎を繰り返す例 ⑥胃の手術の既往 ・咽喉頭、食道、胃噴門部狭窄例 ・摂食できてもしばしば誤嚥する例 ・経鼻胃管留置に伴う誤嚥 ③減圧ドレナージ目的 ・幽門狭窄 ・上部小腸閉塞 ④その他の特殊治療 ⑤胃の腫瘤性病変や急性胃粘膜病変 ⑦横隔膜ヘルニア ⑧高度の出血傾向 ⑨全身状態不良で予後不良と考えられる例 ⑩消化吸収障害 少しだけ経口可能な患者さんの不足量のみ補給する の患者さんが多く、今後PEGの必要性がさらに多く ことができるという長所も有する。誤嚥性肺炎も なると思う。患者さんの負担は胃カメラ+α程度で PEGに明らかに発生頻度は少ない。PEGを造設する あり、手術も10分以内に終了し、安全で迅速に施行 というリスク以上の長所が多い。その手術の注意例 できることを理解していただき、医師会病院だけで を表3に示す。医師会病院でもPEGを依頼されるの なく、他施設にも啓蒙していきたい。 は一部の先生である。医師会病院には、慢性期疾患 経鼻胃管とPEGの比較 表2 経鼻胃管 美 自 容 己 上 抜 去 呼 吸 器 感 染 症 外見上印象が良くない。 表情が保たれ外見が良い。 鼻咽頭腔の違和感、不快感があり、自己 痴呆、不穏状態で自己抜去することがあ 鼻咽頭への慢性機械刺激により鼻咽頭 炎、上気道炎を合併。 高度の噴門閉鎖不全例では胃食道逆流が 抜去が多い。 チューブの存在下で下部食道括約筋圧が 低下し、胃食道逆流が生じ、嚥下性肺炎 を頻発。 スキントラブル PEG る。 残存し、肺炎が改善しない。しかし、大 多数例では、逆流が改善し、嚥下性肺炎 は減少。 チューブを固定している皮膚に皮疹やび 瘻孔周囲炎・不良肉芽・潰瘍を生じる事 皮膚炎を生じる。 保つこと。 らんを生じやすい。 チューブの材質によってはアレルギー性 がある。 胃瘻周囲の皮膚を清潔にし、乾燥状態に 入 浴 体外のチューブ固定が難しい。 胃瘻部の保護は不要。 嘔 吐 腸管粘膜とチューブの接触部位にびら ん、潰瘍が発生し、嘔吐することがある。 胃排出機能低下例では嘔吐が残存。 長いため詰まることがあり、入れ替えが 必要となることがある。 短いため、ミルキング、洗浄ブラシで閉 塞を防ぐ事が可能。 チューブが胃内に挿入されているか確認 胃瘻チューブが回転するかどうか確認が 困難である。 食べたい物を食べたいだけ口から食べ て、不足分をPEGより補う。あるいは、 患者及び介護者に精神的にも医療管理上 身体(胃)に穴を開けることに対する心 理的負担があるので、十分なインフォー チューブトラブル 注入時の注意点 経 口 摂 取 在宅療養に対する 負 担 が必要。 にも負担が大きい。 必要。 水分のみPEGより取ることも出来る。 ムドコンセントが必要。しかし、医療管 理上の負担は軽い。
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