介護施設で 行う高齢者の ターミナルケアのポイント

介護施設で行う高齢者の
ターミナルケアのポイント
-QOLを高めるターミナルケアの実践京都保健会盛林診療所
所長 三宅貴夫(老年科医)
2005年7月16日
1.高齢者のターミナルケアの
基礎知識
1)高齢者とは

高齢者

老人
2)老化とは①
加齢に伴う
心身の機能の低下により
自立した生活が困難な状態
2)老化とは②

生理的老化

病的老化
3)老化の要因


内因
外因
遺伝
気候
風土
食生活
住居
仕事
嗜好:アルコール、タバコ
精神的環境
4)高齢者の特徴




多機能が混在している。
ホメオスターシス(恒常機能)が低下している。
身体・精神・生活の相互影響性が強い。
死を迎えつつある。
5)高齢者の疾患の特徴




複数の疾患をもっている。
症状が非定型的なことが多い。
精神症状が現れやすい。
治療に抵抗し、障害を残し、死に至りやす
い。
6)ターミナルとターミナルケア①
用語について
 ターミナルケア Terminal care
 終末期ケア Terminal care
 緩和ケア Palliative care
 ホスピスケア Hospice care
 エンドオブライフケア End-of-Life care
6)ターミナルとターミナルケア②
ターミナルとは-何時から、どのような状態か
身体疾患の場合

認知症の場合
6)ターミナルとターミナルケア③
ターミナルケアとは
その人中心に
身体・精神・生活をみる
多職種による
死に向かうより高いQOLの生の支援
6)ターミナルとターミナルケア④
QOLとは



人生の質
より健康で幸福な人生の質
生活の質
より苦痛が少なくより自由な生活の質
生活環境の質
より自由な生活を保障する生活環境の質
7)高齢者のターミナルケアの特徴



死を受け入れやすい。
苦痛が少ない。
複数の疾患がある。
8)高齢者のターミナルケアと
高齢者観・死生観

高齢者本人

家族

看護・介護職
9)高齢者のターミナルケアとその他の課題

尊厳死または安楽死

倫理的課題

法的課題

宗教の役割
2.身体疾患の高齢者の
ターミナルケアの実際
1)高齢者の身体疾患①
がん






肺がん
胃がん
大腸がん
前立腺がん
乳がん
その他のがん
1)高齢者の身体疾患②
心疾患

心筋梗塞

心不全
1) 高齢者の身体疾患③
呼吸器疾患

肺炎

慢性呼吸不全
1)高齢者の身体疾患④

腎不全

老衰

その他
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際①

ターミナルの判断

状態・症状の観察と判断
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際②
症状別対応①

疼痛

呼吸困難

嚥下困難

縟創
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際②
症状別対応②

排尿障害

関節拘縮

かゆみ

その他の身体状態
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際②
症状別対応③

せん妄

幻覚妄想状態

不穏

うつ状態
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際②
その他の対応

経管栄養:胃瘻など

中心静脈栄養法

気管切開

その他
3.認知症高齢者の
ターミナルケアの実際
1) 認知症高齢者について①
認知症の判断基準(DSM-Ⅳ)
以下のすべてがそろっていること
① 記憶障害がある。
② 失語・失認・失行・実行機能障害のひとつがあ
る。
③ ①と②のために生活に支障がある。
④ ①と②の原因として脳などの身体疾患が原因
である。
⑤ 意識ははっきりしている。
1) 認知症高齢者について②
認知症の原因
 1次要因
アルツハイマー病
脳血管障害
その他(慢性硬膜下血腫、低酸素脳症、ヤコ
ブ病など)
 2次要因
身体状態(脱水、熱発、貧血など)
精神状態(緊張、不安、うつ状態、混乱など)
生活・環境状態(介護者、住環境など)
1) 認知症高齢者について③
認知症高齢者の心理
 記憶の障害
 判断の障害
総合的判断
抽象的判断
時系列的判断
 過去に生きる
 感情が残る
1) 認知症高齢者について④
認知症高齢者のケアの基本
 認知症の人を知る
 残存能力に働きかける
 「生けている世界」を受け入れる
 感情や思いに配慮する
 身体状態を把握する
 身の安全を守る
 周囲の理解を得る
 地域のサービスを利用する
 人権に配慮する
1) 認知症高齢者について⑤
認知症の治療
 薬物療法
抗認知症薬(アリセプト)
向精神薬(抗不安剤、抗うつ剤など)
その他

非薬物療法
回想法
音楽療法
バリデーション
その他

外科的治療
2)認知症高齢者のターミナルケア①
認知症高齢者のターミナルの定義(狭義)




認知症である。
意志疎通が困難か不可能な状態である。
認知症の原因疾患に伴い嚥下が困難か
不可能な状態である。
上記の状態が非可逆的である。
2)認知症高齢者のターミナルケア②
認知症高齢者のターミナルの定義(広義)
狭義のターミナルの状態である。
または
 治癒しない認知症であり、認知症とは直接
関係ない身体疾患がターミルの状態であ
る。

3)認知症高齢者のターミナルケアの基本①
意思の確認



認知症高齢者
家族
介護・医療職
3)認知症高齢者のターミナルケアの基本②
意思の妥当性



意思決定をする人
意思決定の過程
意思決定の妥当性の判断
3)認知症高齢者のターミナルケアの実際①
認知症の原因疾患による場合

アルツハイマー病

脳血管障害

その他の認知症性疾患
3)認知症高齢者のターミナルケアの実際②
他の身体疾患による場合




がん
心疾患
呼吸疾患
その他
4.介護施設におけるターミナルケア
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―①
「高齢者介護におけるターミナルケア調査研究事業
特別養護老人ホームアンケート調査中間報告(概
要)」(Association of Supporting Care Service
Management 2005 winter 掲載)より
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―②




調査主体:日本介護支援協会
調査期間:2004年8月~10月
調査方法:全国1606箇所の介護老人福祉
施設に回答用紙を送付
回答施設数:856(回収率53.3%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―③
調査結果



死亡退所者:813施設で8532人(2003年度間)
死亡場所:病院:5028人
当該施設:3491人
その他:66人
施設別施設内死亡割合:0%(18%)
1%~10%(12%)
60%~70%(10%)
100%(2%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―④



終末期の利用者数の推移:
増えている施設(81%)
変わらない施設(32%)
減っている施設(3%)
利用者本人に「人生最期について」の意思を聞
いているか:聞いている(21%)
聞いていない(77%)
終末期ケアに関する希望をいつ確認するか(重
複回答) :状態の変化時(83%)
入居時(35%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑤

「利用者、家族から施設で最期を迎えたい」と希
望されたら。
原則受け入れる(36%)
利用者・家族の協力があれば受け入れる(27%)、
受け入れない(8%)

マニュアル・ガイドライン
ある(11%)
ない(88%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑥

今後の方針
利用者を施設内で看取ることも含め対応し
ていきたい(78%)
利用者を施設内で看取ることには対応しな
い方針であるが、終末期ケアについては
充実させていきたい(16%)
利用者を施設内で看取ることも終末期ケア
についても対応しない(2%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑦


終末期ケアにどのような条件が必要か
医療との連携(71%)
方針の明確化(47%)
介護職の医療行為(34%)
死亡退所の利用者の直接の死因
心不全(25%)
老衰(22%)
肺炎(20%)
がん(8%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑧

死亡退所の利用者の生前の意志確認
施設内で自然に人生を終えたい(77%)
最期まで病院でできるかぎりの治療を受けい(13%)
最期は施設以外の望む場所に最期を迎えたい(10%)

家族の希望
施設内で自然に人生を終えさせたい(75%)
最期まで病院でできるかぎりの治療を受けさせたい(23%)
最期は施設以外の望む場所で迎えさせたい(2%)
2)介護施設別の現状と対応と課題
-施設・設備、職員、体制、医療協力-

介護老人福祉施設

介護老人保健施設

介護療養型医療施設

グループホーム

ケアハウス
3)ターミナルケアにおける
職種別の役割と連携







介護職
看護職
医師
その他の職種
家族
ボランティア
その他
4)ターミナルケアにおける
医療機関との連携

診療所

病院
5)ターミナルケアのおける
高齢者と家族への精神的支援①

高齢者の思いとその支援

家族の思いとその支援
5)ターミナルケアのおける
高齢者と家族への精神的支援②
高齢者と家族の関係







理性的関係
情緒的関係
倫理的関係
法的関係
経済的関係
文化的関係
宗教的関係
6)その他の課題



死後の家族のケア
スタッフのケア
その他
身体拘束の禁止
成年後見制度
その他
5.事例検討
1)「老衰」で養護老人ホームで
最期を迎えた女性の場合
86歳のとき、日常生活の活発さが少なくなり、臥床することが
多くなる。食事量が少なくなり、衰弱が目立つが意思疎通は良
好で認知症は認めない。がんなど疑い、本人の同意を得て検
査入院する。諸検査にて衰弱の原因と考えられる疾患は認め
られず、「老衰」によると判断し退院する。ホームで毎日、
500ccの点滴を末梢から行う。その後1週間ごろ、本人が点滴
を止めてほしいと希望する。本人には配偶者、子供なく、最も
親しい親戚に経過を説明し、点滴を中止を決定する。1週間後、
死亡される。老衰死。
2)アルツハイマー病で
病院で最期を迎えた男性の場合
60才頃、もの忘れが目立ち、仕事に失敗が多くなる。他病院
でアルツハイマー病と診断される。認知症は漸次進行し、意思
疎通が一層困難となり日常生活動作の低下と失禁等の状態
のため通院も難しくなる。保健婦の紹介で往診する。重度のア
ルツハイマー病との印象である。当病院の外来で基本的な検
査を行い、アルツハイマー病と再度診断する。病状と予後につ
いて家族に説明し、在宅療養の継続の希望する。訪問診療、
訪問看護、保健婦の訪問を行う。嚥下障害が顕著となり、経口
摂取量が少なくなる。家族は最期まで家で看たいと希望される。
しかし経口摂取量が著しく少なくなり、点滴希望などのため当
病院に入院する。1日1000ccの点滴を末梢から行う。約1月後
死亡される。
3)脳血管性認知症で
在宅で最期を迎えた男性の場合
79歳男性で脳血管性認知症で在宅で妻と生活する。食事
量が減り、家族が心配し往診の依頼がある。食事の減少
は嚥下障害によるより拒食によるとの印象と受ける。衰
弱がすすむので家族の希望で入院、検査、治療を進める。
本人が胃内視鏡検査を拒否し、負担を与えない検査で
胃などに通過障害を認めず。中枢性によるとも判断せず。
家族が本人が好むものを経口で摂らせようとするが量は
少なく、家族の希望により末梢からの点滴を行うが、本人
がチューブを抜くなどの行為があり、上肢を縛る。家族が
再度に在宅で看たいと希望する。帰宅後も経口量少ない
まま経過し、2週間後、急変との連絡あり、往診する。急
性心筋梗塞による死亡と判断した。
6.まとめ
7.質疑応答
付録:認知症に関するサイト
「ぼけ」なんでもサイト(三宅貴夫編)
http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.
htm
 社団法人呆け老人をかかえる家族の会
http:www.alzheimer.or.jp
 認知症を知るホームページ
http://www.e-65.net/
