Ⅱ.緩和ケアにおけるコンサルテーション活動の専門性 Ⅱ.緩和ケアにおけるコンサルテーション活動の専門性 3.緩和ケアチームで活動する看護師の役割 得橋 晃子 (静岡県立静岡がんセンター 緩和ケアチーム) はじめに 緩和ケア診療加算の施行や,がん診療拠点病院 静岡がんセンターにおける緩和ケアチ ームの現状 の条件に一般病棟における緩和医療の提供体制の 静岡がんセンターは,多職種チーム医療を基本 整備が挙げられたことで,一般病棟における治療 方針とし,最先端治療から終末期医療までがんの と併行した緩和ケアの重要性が認識されてきてい すべての時期の医療に最善を尽くすことを目指し る。緩和ケア診療加算では,チームを構成する医 て 2002 年 9 月に開院したがん専門病院である。 師の要件については定められているものの,看護 開院当初より緩和医療科医師,看護師,心理療法 師の役割については明記されておらず,緩和ケア 士のチームで一般病棟に入院中の患者の緩和ケア チームで活動する看護師は,自施設での緩和ケア のコンサルテーション活動を行っていたが,2004 チームに何が求められているのか,看護師として 年 4 月よりがん看護専門看護師を専従看護師とし どのような役割を担っていくべきなのか試行錯誤 て配置して緩和ケアチームとして活動を開始し, しながら活動していると思われる。 緩和医療科,精神腫瘍科の連携が強化された(図 緩和ケアチームが関わる対象は患者,家族だけ 1)。 でなく,病棟スタッフ,病院全体と多岐にわた 身体的な苦痛のコントロールが図れており,精 る。そこには,患者と家族,患者,家族と医療ス 神的問題が主となる場合は,精神腫瘍科,心理療 タッフ,緩和ケアチームと病棟チーム,一般病棟 法士が対応していること,緩和医療科への転科に と緩和ケア病棟などさまざまな関係が存在する 関する相談を緩和ケアチームが受けていること, が,現象の捉え方,価値観,知識,情報量など一 認定看護師や薬剤師,心理療法士が緩和ケアニー 様ではなく,そこには少なからず「ギャップ」が ズのある患者のスクリーニング,緩和ケアチーム 生じる。そのギャップの存在に気づかずに放置し への橋渡しを行っていることが特徴である。 ていると,ますます「ギャップ」は大きくなり, 関係者の間に緊張が走り,衝突に発展する可能性 もある。緩和ケアチームにおける看護師の役割 緩和ケアチームにおける看護師の役割 は,関係者の間に存在するさまざまな「ギャッ 当院の緩和ケアチームへの依頼内容は,①症状 プ」を埋めてなだらかになるように調整すること 緩和に関する相談と,②緩和医療科への転科・転 にあるのではないかと筆者は考えている。本稿で 棟に関する相談に分類される (図2)。緩和ケア は,その「ギャップ」を見極め,埋めるためにど チームの看護師が関わる対象は患者,家族だけで のような実践活動を行っているのかについて述べ なく,病棟スタッフ,病院全体,緩和ケアチーム る。 内と多岐にわたる 1)。おのおのの対象にどのよう な役割を果たしているかを説明する。 31 身体症状のマネジメント 緩和ケア病棟への移行 緩和ケアチーム 緩和医療科医師 専従看護師 心理療法士 精神腫瘍科 精神症状の マネジメント 心理的問題の マネジメント 緩和ケアチーム薬剤師,認定看護師 ■図1 当院における緩和ケアチームの機能 500 450 件 17 400 依 300 頼 件 数 200 354 件 19 115 緩和紹介 99 215 件 14 139 転科 症状緩和+転科 症状緩和 98 99 100 42 138 179 60 0 2003 年度 病床数 403 床 2004 年度 406 床 2005 年度 509 床 ■図2 緩和ケアチームへの依頼内容推移 1 症状緩和に関する相談について 緩和ケアに対する知識,技術,態度をアセスメン 1.病棟スタッフに対する役割 トし,病棟の傾向を理解することができる。ま 痛みや呼吸困難などの症状緩和に関する新規依 た,教育的な関わりをもつことで緩和ケアチーム 頼を受けた場合は,診療録から情報収集を行い, にまかせきりにするのではなく,病棟スタッフが 担当医や看護師と症状のアセスメントをつき合わ 主体的に,患者の緩和ケアに関われるような意識 せたうえで,患者,家族を診察している。診察後 づけに役立つと考える。 は,病棟スタッフと緩和ケアチームの間のアセス 難治性の疼痛や終末期の倦怠感など症状緩和に メントにずれがないかを確認し,患者,家族に生 難渋する場合は,患者を 24 時間ケアする病棟看 じている問題点を整理し,薬剤の使用方法や評価 護師が抱えるストレスは非常に大きなものとな 方法など緩和治療の方針についてアドバイスを行 る。緩和ケアチームとして共に関わり,対応方法 う。これらのプロセスを通して,病棟スタッフの を検討していくことを保証していくとともに,看 32 Ⅱ.緩和ケアにおけるコンサルテーション活動の専門性 護師が抱えている困難感に共感し,患者から逃げ を維持し,部署内でリーダーシップが発揮できる ずに寄り添うことも意味があることを伝え,サポ ように,緩和ケアチームのラウンド時には意図的 ートしている。 にコース修了生から情報収集を行い,相談を受け 2.患者,家族に対する役割 ている。 ースについては承諾を得たうえで,患者,家族へ 2 緩和ケア病棟への転棟に関する相談につい て の直接援助を行う。患者が体験している症状の苦 緩和ケア診療加算では,療養の場の移行に関す 痛の程度,病状理解,緩和ケアに対する考えなど るサポートは緩和ケアチームの機能に挙げられて について語ってもらい,患者の生活にその症状が いないが,積極的な治療から緩和ケアを中心とし どの程度影響を及ぼしているのかという視点で評 た医療へのギアチェンジのサポートも緩和ケアチ 価している。評価の際には,病棟スタッフが気づ ームに期待されている役割であると考える。緩和 いていない緩和ケアのニーズがないか,患者が緩 ケア病棟がある当院では,緩和ケア病棟への移行 和治療の方針に納得しているかに特に注意を払 をスムーズに進めるための役割が求められてい う。 る。 病棟スタッフが症状緩和で対応困難と感じたケ また,患者の考え方に大きく影響を与える家族 1.患者,家族に対する役割 の認識についても可能なかぎり話を聞く機会を設 当院では緩和ケア病棟への転棟については,担 けている。患者の信念を擁護し,患者自身で意思 当医から患者,家族へ積極的治療の継続が困難に 決定できるようサポートするアドボカシーの役割 なり,緩和ケア病棟への移行の時期であることが は緩和ケアチームの看護師の重要な役割である 2, 3) 。 3.緩和ケアチーム内での役割 説明されたうえで,緩和ケアチームが患者,家族 と面談し,転棟の意向を確認するという手順を踏 身体症状に焦点をあてた依頼の場合でも,抑う んでいる。がん専門病院で治療を受けてきた患 つ,せん妄などの精神症状により身体的苦痛が増 者,家族は治療への期待が強く,また患者同士の 幅され,アセスメントが困難なことは度々遭遇す 情報交換から「緩和ケア=死」のイメージを抱く ることである。当院では,緩和ケアチームへの依 患者,家族も少なくない。担当医に緩和ケア病棟 頼には基本的に緩和医療科医師,緩和ケアチーム への転棟を承諾する返事をした場合でも,再度気 専従看護師で対応しており,精神科医師や心理療 持ちが揺れることもある。患者,家族の心理状態 法士は必要に応じた介入である。 に配慮しながら緩和ケア,緩和ケア病棟について 一般的に精神科やカウンセリングについては抵 の情報提供を行い,結論を急がないことを伝え, 抗感をもつ患者,家族も多いため,直接ケアがよ 納得した意思決定ができるように配慮している。 いか間接的なサポートがよいか,またどのタイミ 症状緩和のサポートを継続することで苦痛症状 ングで介入してもらうことがよいのかを病棟スタ を緩和することの重要性への気づきを深めたり, ッフと相談している。 緩和ケア病棟の見学やイベントへ参加し,ゆった 4.院内全体に対する役割 りとした環境で過ごすメリットを患者,家族に実 院内全体の症状緩和の質を向上させるために, 緩和ケアの基本的な考え方,症状マネジメントの 知識・技術についての教育は必要である 1, 2, 4) 。当 感してもらうことで,緩和ケアへの抵抗感を和ら げるように働きかけている。 2.一般病棟スタッフに対する役割 院では,新採用看護師は緩和医療,がん性疼痛緩 「餅は餅屋」といわれるように,一般病棟のス 和の講義が必須となっているほか,臨床経験を積 タッフは,終末期は物理的,人的環境の充実した んだ看護師が,がん性疼痛について専門的に学べ 緩和ケア病棟へという意識が強い。緩和ケア病棟 る専門コースを開講している。専門コースの修了 への転棟を勧めても患者,家族がなかなか意思決 生がリンクナースとして活動できる体制の整備は 定ができなかったり,また希望しても満床のため 現在検討段階であるが,修了生がモチベーション タイミングよく転棟できない場合は,患者のケア 33 にジレンマを感じ,治療およびケアの主体を緩和 イミングや,転棟後のホルモン療法や内服の抗が ケアチームに一任したい思いにかられるのではな ん剤などの継続の可能性について,現在,各診療 いかと思われる。一般病棟でも緩和ケア病棟と同 科と緩和ケア病棟,緩和ケアチームで話し合いを 様に,迅速な症状緩和が図れるよう前述した症状 進めている。がんセンターで求められている緩和 緩和に関する病棟へのサポートをより強化してい ケアチーム,緩和ケア病棟のあり方については, るが,その際には担当医と緩和ケアチーム医師の 病院全体の傾向を踏まえ検討していくことが必要 責任の所在を明確にし,病棟スタッフが混乱しな と考えている。また,MSW や在宅支援担当者と いように特に注意を払う。 協働し,地域の施設との連携を深めていくことも スタッフのジレンマに対するサポートとして 大切であるが課題である。 は,患者,家族がスタッフへ信頼感をもっている ことをフィードバックしたり,患者,家族とのか かわりで困っていることの相談にのり,緩和ケア 病棟転棟後も解決できない問題もあることを伝え るようにしている。 患者,家族がなかなか意思決定できない場合 おわりに 先日,緩和ケア病棟の遺族会で,ある遺族の方 から「緩和ケアに抵抗があったけど,あの時に紹 介してもらってよかった。最期をあの場で迎えら は,患者,家族にとって望ましい療養環境を検討 れてよかったと思う」という言葉をいただいた。 するために,病棟スタッフと共に緩和ケア病棟へ 一般病棟と緩和ケア病棟を繋ぐ役割である緩和ケ 移行するメリット,デメリットを確認し,転棟を アチームの看護師として,全体を見渡せる高度な 拒んでいる場合は,その要因を整理し,具体的な アセスメント能力と冷静さ,調整能力を身につけ 対応方法を考える。 ていく必要があると感じている。 3.緩和ケア病棟スタッフに対する役割 今後は,緩和ケアチームで活動する多施設の看 転棟後も積極的治療への期待を捨てきれなかっ 護師間でネットワークを構築し,情報交換を行 たり,前病棟スタッフへの信頼感が高い患者,家 い,アセスメント能力を磨いていくとともに,緩 族のケアにあたっては,緩和ケア病棟のスタッフ 和ケアチームの看護師に必要な学習内容を整理し はジレンマを感じやすい。また,転棟後,患者が ていくことも必要である。 早期に死亡した場合には不全感を抱く。当院で は,緩和ケア病棟師長,緩和ケアチームメンバ ー,医療ソーシャルワーカー(MSW),一般病棟 スタッフなどが参加し緩和ケア病棟入棟カンファ レンスを行い,転棟の妥当性,順番を決定してい るが,その際に転棟決定までのプロセス,患者, 家族が価値をおいていることなどを情報提供し, ケアの継続性を持たせるようにしている。また, 緩和ケア病棟スタッフへは長期的な視点で転棟し たことの意味を評価するように助言している。 4.院内全体に対する役割 転棟の依頼側と受け手側で双方の理解が深めら れるように,緩和ケア病棟への転棟を相談するタ 34 文 献 1)長谷川久巳,笹原朋代,大八木靖子,他:院内 緩和ケアチームで活動する看護師の役割―フォ ーカス・グループ・インタビューの結果から. 緩和ケア 16 : 365―370, 2006 2)Raelene Rees:緩和ケアコンサルトチームの一員 としてのナースの役割と課題.ターミナルケア 14 : 243―245, 2004 3)Jack B, Oldham J, Williams A : Impact of the palliative care clinical nurse specialist on patients and relatives : a stakeholder evaluation. Europ J Oncol Nurs 6 : 236―242, 2002 4)戸谷美紀:緩和ケアチームにおける看護師の役 割.がん患者と対症療法 15(2): 23―27, 2004
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