シンポジウム 自己免疫疾患 - 東京女子医科大学

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(シンポジウム 自己免疫疾患をめぐって)インスリン自
己免疫症候群に関する研究
平田, 幸正
東京女子医科大学雑誌, 57(3):213-220, 1987
http://hdl.handle.net/10470/6162
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
37
〔東女医大誌 第57巻 第3号頁 213∼220 昭和62年3月〕
シンポジウム
自己免疫疾患をめぐって
インスリン自己免疫症候群に関する研究
東京女子医科大学 糖尿病センター
ヒラ
タ
平
ユキ
田
マサ
幸 正
(受付 昭和61年11月12日)
Studies on Illslllin Autoimmune Syndrome
Yukimasa HIRATA
Diabetes Center, Tokyo Women’s Medical College
Since the first patient with insulin autoimmune syndrome was reported by Hirata et al. inJapan,
110patients with this syndrome have been found in Japan and 16 patients with the same syndrome
have been reported in other countries since l972.
This syndrome produces spontaneous hypoglycemia associated with autoantibodies to insulin.
Therefore, it must be quite important to differentiate this syndrome from factitious hypoglycemia,
because secret injection of exogenous insulin develops hypoglycemia and formation of insulin
antibodies. The explanation of relationship between hypoglycemia and insulin autoantibodies must be
troublesome, because antibodies to insulin may block the action of insulin.
However, very recently I have been able to get some events to answer those questions.
1. Clinical features.
Analysis of 110 patients reported in Japan revealed the existence of some drugs containing a
sulfhydryl group which contribute the production of insulin autoantibodies. Among 110 patients with
this syndrome,19 had been treated with methimazole before the first attack of hypoglycemia,15w圭th
thiopronin and three with glutathione.
HLA typing has been done in 7 patients with this syndrome. Among 7 patients 6 had both
HLA−Bw62(B15)and HLA−Cw4;those positivity was much higher than other Japanese controls.
2.Analysis of the serum.
The serum samples were collected by us from 15 patients who were in the period of hypoglycemic
attacks.An enormous amount of total extractable IRI and a very large amount total CPR were found in
those samples.
Scatchard analysis showed heterogeneity of insulin autoantibodies in patients with this syndrome
and affinity constants of those serum samples were smaller than those produced by insulin treatment.
Some patients had quite strange Scatchard plots which were few in the patients treated with insulin.
By HPLC analysis of extracted insulin from patients with this syndrome, only human insulin
could be found.
In conclusion, insulin autoimmune syndrome is quite different from factitious hypoglycemia and
strong heterogeneity of those antibodies can contribute to produce hypoglycemia in this syndrome.
臨床的な特徴は,インスリン注射未施行にも拘ら
緒 言
インスリン自己免疫症候群は,1970年,平田ら1)
ず,血中にインスリン抗体を有し,低血糖を生ず
によって,はじめて報告された疾患である.その
るというものであった.すなわちその診断基準と
一213一
38
しては,空腹時あるいは食後に起こる著明な低血
insulinを用いるほか,スタンダードインスリンと
糖と,その血清中にインスリン注射によって生じ
して,ウシ,ヒト,ブタの純化インスリンの3種
たものではないインスリン抗体の存在があげられ
類を使用した.
Goldmanら4)の方法により,血清を短時間pH3
た.
としインスリンを抗体から遊離させ,炭末法でイ
従って本症候群は,1970年以前には,インスリ
ノーマ,膵島の過形成,さらにはインスリンを秘
ンスリンを除去した血清について,Scatchard
密のうちに注射して起こす低血糖,すなわちfac−
plotsを作製した.この際,半合成ヒトインスリン
titious hypoglycemiaと診断されていたものと思
(Novo)を用い,1251の標識はA鎖の14位アミノ酸
われる.とくに1970年当時はBersonら2}によっ
のみに施行した.
成
て,血中インスリン抗体の検出が容易に行なえる
績
ようになったため,低血糖とともに血清中にイン
1.インスリン自己免疫症候群の臨床像
スリン抗体を証明すれぽfactitious hypo−
1)報告症例の性,年齢
glycemiaと診断すべきであると説かれていた.
1970年目第1例の報告以来,1980年までに110例
従って,その血清中にインスリン抗体を証明する
の報告をみた.その性別および年齢分布は表1の
インスリン自己免疫症候群の独立性について,大
通りであった.すな:わち,110例中52例は男性であ
り,58例は女性で,男女差は大きいものではなかっ
きい疑問が起こったのも当然であった.
方
法
た.
2)臨床経過の治療法
自験例ならびに報告症例から,性別,発症,年
齢,発症前使用薬剤,経過,治療法などについて
全症例110例中,経過年数の不明の13例を除いた
まとめ,本症候群の臨床的特徴を示すこととした.
97例についてみると,低血糖頻発期間が1ヵ月以
さらに本症候群の15名について低血糖頻発期に採
内であったもの42例,1ヵ月以上ではあるが1年
血され,平田のもとで検査まで一15℃に保存され
以内であったもの50例で,計92例が1年以内に低
た血清を用いて,各種の検討を行なうこととした.
血糖頻発期間が終了している.1年以上の低血糖
ただし,血清量の不足もあって,1251・インスリン結
頻発をみたものは,5例であり,とくに極端に長
合率,IRI, CPRの測定は全例に行ないえたが,そ
いものとして19年という報告5)があった.
ただし,再発をみたものが10出あったが,この
のほかの各種の検査法を15名全例に施行するには
場合は第1回目の期間で示した.なお,これらの
至らなかった.
とくにインスリンの種差や変性をみるため,
うち1ヵ月未満の中には,後述する誘発薬剤の使
Bio−Gel P 30カラム18×800mmを用い,2N酢酸
用の中止によって急速に治癒するものを含んでい
によって血清から分子量としてインスリン相当部
る.さらに,これらのなかには,同じ薬剤の使用
分の分画を求めたものについて,Kleinら3>の方法
によって急速に再発と治癒を繰り返したものが6
に準じて,逆相HPLC reverse phase high perfor−
例もあることが注目された.
mans liquid chromatographyを施行した.この
3)誘発薬剤
際,markerとして〔Ala B26, Thr B−30〕bovine
平田らの報告した第4例6)は,甲状腺機能前進
表1 Patients with insulin autoimmune syndrome in Japan,1970∼1986
Age at onset
@
0一
10一
20一
30一
40一
50一
60一
01
10
26
45
11
11
14
@7
P6
P3
18
27
27
70一
yea「s
Male
eemale
Total
1
1
8
9
一214一
89
80一
11
Tota1
52
T8
17
2
110
39
表2 HLA types of the patients with insulin autoimmune syndrome in Japan
Drugs administered
HLA
Patient
Sex
Age
MS
TK
m
31
All Bw62(15) Cw4 DR4
f
52
All Bw62(15) Cw4 DR4
MF
f
51
JN
f
58
All B15
Cw4
`w33 Bw35 Cw3
Aw24 Bw52 Cw3 DR4
TN
f
71
Aw24 Bw62(15) Cw4 DR4
@
Bw52
glutathione
HI
f
72
A2
B15
91utathione
f
82
All Bw62(15) Cw4
IY
`26 Bw35
Cw3 DR2
`w33 Bw44
@
methimazole
、
DRw13
Bw61
DR2
Cw4
`ll Bw61
@
b??盾窒?hypoglycemia
Cw3
thiopronine
glutathione
Bw46
症に対するメチマゾール(methimazole)を使用中
徴であった.またDRを測定することの出来た4
に突然,低血糖を発症したものであり,当時この
例のすべてがDR4を有した.これらの日本人正常
ような誘発薬剤を使用せずに生じたインスリン自
集団中での陽性率をみると,B1520%, Cw410%,
己免疫症候群とは別の分類にすべきではないかと
DR440%であるので,本症候群のHLAタイプ
考えたものであったが,その後,相ついでメチマ
は,かなり特徴的であると考えられた.
ゾール使用中に発症した本症候群の報告をみるに
5)経ログルコース負荷試験成績
至り,その数は19症例に及んだ.
110例の本症候群のうち,12例を除く98例につい
一方,市原ら7)は,わが国で慢性肝炎や,皮膚炎
て,経ログルコース負荷試験が施行され,それぞ
に使用されることの多いチオプロニン(thio−
れ主治医の判定によって,血糖反応の型が分類さ
pronin)によって誘発されたと思われる症例を報
れた.それによると,98例中,正常型は,僅かに
告した.その後,本剤による発症の報告例が相つ
8例にすぎず,境界型28例,糖尿病型62例となっ
ぎ15症例となった.これら2薬剤は,ともにその
た.
分子構造の中にSH基を有することで共通点が
あるが,さらにわが国では,チオプロニンと同様
多量の糖質負荷後に高」血糖が起こることは,本
症候群の一つの特徴といえる.
の目的で使用されることのあるグルタチオン
2.血清サンプルについての成績
(glutathione)で誘発されたと思われる3症例が
1)血中IRIとCPRの存在様式
加わった.
上述の低血糖頻発期に採取された血清をBio・
4)HLA
Gel P30カラムと2N酢酸によって各分画に分け
ると,その成績は常に図1に示すパターンとなっ
インスリン自己免疫症候群が自己免疫疾患と思
われることから,そのHLAのタイプは興味深い
ところであるが,従来,HLAタイプについて触れ
た.すなわち,抗体を含む蛋白部分の流出したあ
た報告例は意外に少ない.最近,東京女子医大輸
ピークが現われた.
血部で測定した患者MSおよびSRL社に依頼し
て測定された患者TK例に,既報者の5例を加え
て,表2に示した.日本人のBw62は,かつての
のほとんど唯一といえるピークを認めた.一方で
と,IRIの小ピークが現われ,ついでIRIの大きい
また,上述のIRIの小ピークに一致して, CPR
は1251−Cペプチドの流出部分をみると,この位置
B15に含まれ,その大部分を占めることから,これ
には一致せず,上述のIRIの大きいピークの後に
らをまとめてB15として表現すると,7例中6例
流出した.
(86%)では,B15とCw4をともに有することが特
以上からインスリン自己免疫症候群において
一215一
40
16
Bio−Gel P 30
18×800mm
14
total ext
2N acetlc acid
IR工7090μU/ml
12
free IRI 12μU/m1
10
8
6
4
表3 Total lRl and CPR in the serum of the
patients with insulin autoimmune syndrome
Patient NT 37−Y M
18 ×10−IOM
戸唱
麟輪留
IRI→
・記戸
へ
廠σ価00QQO。Dσ贈。。o・
10
20
30
40
50
60
Age
TK
MS
NT
m
m
m
m
m
m
m
m
m
19
4,900
69
31
81,140
112
TH
KO
NY
04・g/ml〆
OQO ・
TS
70
UM
HY
YK
tube nurnber
図1 1Rl and CPR of the serum of a patient with
insulin autoimmune syndrome
ET
11
TK
FM
KU
は,多量のプロインスリン様物質がインスリンと
は別にインスリン抗体に結合しているといえた.
したがって,これらの血清で抽出IRIとして表現
Total CPR
Sex
HS
f・ee CPR l 決
2
Toal IRI
Patient
ハU/m1
@ng/m1
37
7,090
72
57
22,000
88
64
879
2
70
9,020
36
7!
6,000
22
71
7,500
24
74
2,200
22
f
21
30,500
74
f
23
13,000
69
f
23
35,000
230
f
25
39,100
101
f
52
4,470
23
f
53
5,700
30
f
68
9,900
54
されているものの中に,多量のプロインスリン様
物質が混在していることが判明した.
スリンをIRI系とCPR系で測定した場合の比率
同様にインスリン自己免疫症候群で,大量の
は,患者血清中のプロインスリンについて両測定
CPRを証明しても,一般にはそのCPRの大部分
系で測定した場合と大きく異なることが判明し
はプロインスリγ様物質を測定していることにな
た.上記のIRIとこのCPRとの比を求めても意
ることが判明した.
義は少ない.しかし,表3にみるように,CPRと
2)総IRIおよびCPRの値
IRIとの間には,ある程度の平行性が認められる.
IRI
とくにCPRが100ng/ml以上の症例では, IRIは
インスリン自己免疫症候群における一つの特徴
35,000μU/ml以上といえるようであった.
は,その血清中に大量のIRIの存在が証明される
3)インスリン自己免疫症候群の血中インスリ
ことである.もし,血清を未処置のまま2抗体法
体の存在によって見掛け上のIRI高値が示され
ンの逆相HPLCによる分析
血中IRIの極めて高い症例MS,血中IRIの比
較的二値を示した患者THの2例と,さらにIRI
るので,まず酸性アルコール抽出物について測定
値でその中間といえる患者TSおよびTKの2
する必要がある.しかし,このようにして抽出し
例を加えた計4例の血中IRI,とくに分子量6,000
たIRIも,また驚くほど高値であって,正常値の
前後のインスリン部分の抽出物を,HPLCによっ
100∼1,000倍に及ぶ.その値は表2に示す通りで
て検討した.その結果,これら患者の血中インス
によるradioimmunoassayで測定する際には,抗
あるが81,140μU/ml(血清11中81U)という大量
リンは,ヒトインスリン(Novoの半合成ヒトイン
から,879μU/ml(血清11中0.9U)までの範囲内
スリン)と完全に一致しており,その他の部分を,
であった.
そのピークの周辺に認めることは出来なかった.
CPR
そのHPLC分析のパターンは図2に示した通
インスリン自己免疫症候群における1つの特徴
りであるが,患者TSについては,希釈が不充分で
として,CPRの上昇があり,正常値の10∼100倍に
極めて高値のピークが示された.その後,更に希
及ぶ.この際のCPRはプロインスリンあるいは
釈して施行したHPLCの成績でも,濃度表示が1/
その誘導体によるものである.合成ヒトプロイン
10になっただけで同様のパターンの成績がえられ
一216一
41
B HP
50
Standard l Beef, Human, Pork insulins
Column:Nucieoci}5C18,4.6×150mm
marker
25
30% acetonitrile in O.1% trifluorOacetic acid
↓
④
像 50
く
Patient MS:Hypoglycemia(May 28,1984∼)
(Serum sample:May 31,1986)
ミ25
)
葦
房500
Patient TS:Hypoglycemia(July 4,1983∼)
(Serum sample:July 4,1984)
≦
q)250
名
諮
田 50
Patient TK:Hypoglycernia(Jun61981∼)
(Serum sample:June 8,1984)
8
暮25
揖
50
Patient TH:Hypoglycemia(1980∼1983)
(Serum samp玉e:Sept.22,1981)
25
20
10
30min
(Human insulin on market irl Japan from 1986)
図2 HPLC of insulin extracted from the serum
Patierlt TS
7!−yr一(,ld, m
B/F
{
Hypogly:June 1,1983∼
{
B/F.
Sel・urIl:Ju!y 4,1984
Dilution 1:40
2.5
{、1。77。1。.,M
klO,83×王09M司
{
0.5
{黙諾識
k10.243×109M−1
2.5
b19.24×10−9M
{
ユ.5
1.5
1.0
膿四隣’1・・
●
●●●
6
6
12
18
{
k20.0014×109M二1
b236.6×10−9M
O.5
0,5
●
3
klO.730×!09M−1
b15.45×10−9M
2.0
k20.005×109M−1
鵬。。,1r,h厘
1.0
52−yr−Qld, f
●
2.0
1.5
Patient TK
68_yr_old, f
Hypog】y=Oct 10,1980∼
B/F
Serum:Oct.21,1980
D註ution!:60
2.5
2.0
Patient KU
24
6
●
12
Bound insulin IO−9 M
図3 Scatchard analysis of autoantibodies to insulin in the patients
た,
4)Scatchard plotによるインスリン抗体の検
索
(k2,b2)が求められている.事実インスリン注射
によって得られたインスリン抗体がScatchard
plot法で双曲線となることは,数多くの経験から
一般的なパターン
疑いのないところである.しかし,インスリン自
インスリン注射によって生じたインスリン結合
己免疫症候群においては,様子が異なっており図
3に示すように単一の直線に近いa伍nity con−
抗体の分析によって,今日,一般的にこの抗体に
ついてtwo・site theoryが適用され,従ってhigh・
stantが得.られた.
a岱nity and low−capacity component(k1,b1)お
極端の例として患者THがあげられる(図5).
よび10w・a缶nity and high capacity component
そのa缶nity constantは,完全な一つの直線であ
一217一
42
採血した実験でも常に変りのない,凸出したPlot
Patient TH a 64−yr−old man
Hypoglycemia:1980∼1983
B/F
であった.
さらにこの症例MSの実験に際して血清を希
Sept.22,1981:Total insulin 879μU/ml
釈しているので,この最:大結合量を原血清にもど
Free antibodies:dilution 1:45
{
kO.16×177M−l
b17.2×10 7M
3
して計算してみたところ,同じ血清からの抽出イ
ンスリン量に近似した値となった.すなわち
2
Scatchard plotの操作で得られた値と,血中から
ユ
のインスリン抽出量が,ほぼ一致するという全く
●
6
12
特有な性格を有する抗体であった.この抗体は
18
IgG, kappa型L鎖であった.
Bound insulin lO−7M
図4
考
Scatchard analysis of autoantibodies to insu要
察
1.インスリン自己免疫症候群の存在
1in of patient TH
Kahnら8)が,当初,問題としたfactitious
り,K値は図3の症例のさらに1/50という低値で
hypoglycemia,すなわち患者が秘密裡にインスリ
ンを注射して,このような病態を作り出している
あった.
のではないかという疑は,次のような点によって
インスリン抗体のScatchard plotは,双曲線,
さらに特殊な場合としての直線があるがさらにそ
反論できると思われる.
の範囲をこえて,凸出したplotを示した1例
日本でヒトインスリンが発売されたのは1986年
(MS)であった(図5).この意味は,添加する抗
であるが,それ以前に本症を発症していた患者の
原がある量を越えて増大すると,逆に結合抗原が
血清中から抽出したインスリンが,完全にヒトイ
減少するということであり,沈降反応を起こす抗
ンスリンに一致したというHPLCの成績が得ら
体で認めることが出来るものである.ところが,
れた.
また特有なHLAのタイプが存在するらしいこ
この症例の場合,沈降抗体ではなく,polyethylen
glycoleの添加によって沈殿を起こす抗体である
とは表1に示す通りであった.もちろん,今後,
のにかかわらず,このようなplotが出来上がっ
症例を増す必要はあるが,特定のHLAを有する
た.繰返して行なった実験,さらに経過を追って
ものだけがfactitious hypoglycemiaを起こす方
July 20, 1985
Dilution rate of
May 31,1986
Dilutiorl rate of
the serurn 1 :120
the serum 1:60
the serum 1 :15
May 30,1984
Dilution rate of
B/F
5
5
5
4
3
2
1.ユ5
0.16
U/L
U/L
0.31
U/L
1
bound insuiin
O,5
1.OU/L
O.5
0.l
O.15
Max. bind 1.15×120=138U/L O.16×60;9.5U/L
Total extractable IRI;95ユU/L
T.ex. IRI=8.4U/L
0.1
0.2
0.3U/L
O.31×15;4.7U/L
T.ex. IRI=4.OU/L
図5 Scatchard analysis of autoantibodies to insulin of patient MS, a 31・yr・old
man. Hypoglycem量a:May 28,1984∼
一218一
43
用されているので問題であった.
向に走るということは考えにくいことである.
次にSH基を有するいくつかの内服剤で本症
加えて,症例THのように,たとえ抽出インス
候群が誘発されることが,わが国の110症例中34%
リン量は少なくても,極度に小さいa伍nity con−
において証明された.現在,日本以外の国で16症
stantであり,極めて解離を起こしやすいインス
例の本症候群の報告をみる.その内訳は米国8例,
リン抗体とのインスリンの結合であれぽ,容易に
ヨーロッパ5例,香港2例9),韓国1例10)であるが,
低血糖を起こすであろうことが理解できる.また
この16例中4例(25%)がメチマゾール(2例),
患者MSのScatchard plotが示すように,抗原量
ネオメチマゾール(1例),ペニシラミン(1例)
がある点を越えて増加すると,突然に結合抗原量
などのSH基を有する薬剤によって誘発されて
の絶対量が減少するという抗体では,低血糖を生
いる..このようなSH基を有する薬剤を,国民の
じやすいと思われる.このようなことは,従来の
1/4∼1/3に相当するものが服用しているとは考え
インスリン注射によるインスリン抗体では考え及
にくい.また,これら薬剤の再使用により,低血
ばないことであった.
糖の再発が起こるということが,インスリンの秘
結
論
1.本症候群の発症原因は不明である.また,わ
密裡の注射開始と一致することは,到底考えられ
が国で頻発する原因も不明である.ただし,SH基
ない.
を有する薬剤による本症候群の誘発は,国の内外
さらにインスリン抗体の性質をみてみると,
Scatchard plotにおいて,従来のインスリン注射
を問わずに存在する.この頻度は全症例の1/3∼1/
によって生じたインスリン抗体ではまず認めるこ
4である.
2.少なくともわが国の本症候群では,特有な
とのない特有なタイプが発見された.
以上の事実は,すべて本症候群の特異性を示す
HLAタイプ,とくにBw62(B15), Cw4, DR4と
ものと思われた.
の関連が考えられる.
3.本症候群の血中インスリンのHPLCによる
2.インスリン抗体で低血糖の発現する理由
Kahnら8)に限らず,多くの研究者がもっとも不
分析では,完全にヒトのインスリンに一致してお
思議に思ったことは,インスリン抗体が何故に糖
り,他動物のインスリン注射によって低血糖が起
尿病状態を作らず,低血糖を生ずるかという点で
こっているとは言えないものであった.
4.本症候群のScatchard plotによる検討で,
あった.
インスリン自己免疫症候群では,その抗体が自
極めて特有な性質を持つインスリン抗体が発見さ
分のインスリンで充分に飽和されているというこ
れた.これらの性質の中のあるものは,低血糖の
とと,その飽和量が極めて大量であり,そのごく
発現の説明に対して有利な証拠となるものと思わ
一部でも遊離すれば,かなりの遊離インスリンの
れた.
血中増加が,正常血糖あるいは低血糖でも起こり
わが国における症例の統計は,私の発表したものの
うる.さらに加えて,低血糖頻発期の血清につい
ほか,貴重な症例報告を集めることによって組み立て
て私の行なったScatchard plotでみるかぎり,
a缶nity constantが異常に低いことに注目した
られた.各症例の御報告を使用させて頂いたことを心
い.従来の報告では,国の内外を問わず,すでに
から感謝申し上げる,また症例報告にもとづいてお願
いしたところ,貴重な15症例の血清を頂くことによっ
低血糖頻発期を過ぎた時期の採血による1血清で検
て,今回の血清に関する試験管内実験の成績を得るこ
討が行なわれていることが多いようである.とく
とができたことを深謝したい.
に米国のGoldmanら4)の報告では,明らかに極期
をすぎた時期の血清について行なった成績が示さ
れ,インスリン注射によるものと差がないようで
ある.しかも,このGoldmanら4)の報告は広く引
一219一
文
献
1)平田幸正・石津注・大内伸夫・他:インスリン自
己免疫を示した自発性低血糖症の1例.糖尿病
13313∼320 (1970)
44
Spontaneous hypoglycemia with insulin
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