Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR Title Author(s) Citation Issue Date URL Rights ラット脂肪細胞におけるグルココルチコイドのインスリ ン拮抗作用 渡辺, 知之 信州医学雑誌 26(3): 341-350(1978) 1978-09-30 http://hdl.handle.net/10091/8268 f言少H医轟志, 26(3) :341∼350, 1978 原 著 ラット脂肪細胞におけるグルココルチコイドの インスリン拮抗作用 渡辺知之 信州大学医学部第二内科学教室 (主住:小田正幸教授) ANTAGONISM OF INSULIN ACTION ON RAT ADI- POCYTES METABOLISM BY GLUCOCORTICOIDS Tomoyuki WATANABE Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, Shinshu University (Director:Prof, M. Oda) Key words:脂肪細胞(adipocytes) イソスリソ抵抗性(inSulin resistance) グルココルチコイド(glucocOrticoids) イソスリソ抵抗性の機序として,インスリンレセブタ 1・緒 言 一の変動よりむしろ,レセプター・と結合したのちの細 来梢組織のイソxリン抵抗性は,肥瀞),化学的糖 胞内酸素活性の変動を重要視する報告をおこなってい 尿病2》,内因性高脂i血症患者3),。b/。bvウス4),視床 る。 下部内側核破壊ラット5)等に共通してみられる代謝異 グルココルチコイドを一定期間投与すると・きわめ 常であり,同時に高イソスリソ血症をともなうことが て早期に高イソスリソ血症・耐糖能異常また末梢組 知られている。 織のイソスリン抵抗性が招来されることはよく知られ この病態の機序は動物や人間の素として肝細胞,脂 ており,多くの知見が集積されている8)9)。そしてそ 肪細胞,リγパ球などの細胞膜にあるイソスリソレセ の機序としてin vivOおよびin vitro実験による プターとの関連において検討され,組織のインスリソ と,グルココルチコイドは脂肪細胞のインスリンレセ 抵抗牲が,インスリンとそのレセプターとの結合能の プターの減少,あるいはブドウ糖の細胞膜透過を障害 低下とよく相関していることがあきらかとなった。 することにより,インスリンによるブドウ糖の代謝促 一方,Amatrudaら6)は,インスリン抵抗性を示す 進作用が阻害されると報告されている10)H15}。しかし 肥満した人間から得た大きい脂肪細胞は,標準体重の 細胞内酵素活性との相関は充分明らかにされてはいな 人間の小さな脂肪細胞にくらベインスリンとレセプタ い・ 一の結合は質的,量的に同じであることを報告してい そこで本研究は臨床的薬理量に近いグルココルチコ る。そして肥満者の脂肪細胞にみられるインスリソ感 イドを3H間ラットに投与し,その副睾丸脂肪細胞に 受性の低下は,レセプターの数の減少ではなく,それ おけるイソスリソ感受性を,ブドウ糖酸化,脂質合成 が細胞膜表面に拡散(dilution)していて粗になって 促進作用,および脂質分解抑制作用について検討し・ いるためか,あるいは細胞内のヘキソキナーゼを代表 解糖系の律速酵素であるヘキソキナーゼ,そのアイソ とする酵素の変動にょる糖,脂質代謝異常であろうと ザイム,また脂肪合成に必要なNADPH産生系とし 推測している。またCzechら7)も脂肪細胞における て脂肪合成の律速酵素と考えられる5炭糖リソ酸圓路 No,3,1978 341 渡 辺知之 脱水素酵素,NADP+一リソゴ酸脱水素酵素との相関 カップをつるしたゴムキャップで密閉し反応を開始 について検討した。そしてグルココルチコイドのも し,80サイクル/分の速さで,37°C,1時間振盈後, たらす末檎組織のインスリソ抵抗性,とくに脂肪細胞 0.2mlの1N硫酸を反応液に加え反応を停止させた。 における代謝変動について,その作用機序を解析し そして反応液中より放出された14CO2を,0.2mlの た。 ハイアミソをハイアミンカップに加え,さらに1時間 振盈し吸着させた。 ff・実験方法 また14C一総脂質への転換量は, Dole17)の抽出液(イ ウイスター系雄性ラットをオリエソタル固型飼料に ソプPtピルアルコール:ヘプタソ:1N硫酸需40:10 て飼育し,体重120∼140gのものを実験に用いた。対 :ユ)を反応液に加えて5分間抽出器で振盈後15分間 照群,デキサメVゾソ(以下Dex.と略す)群に分 放置し,つぎにヘプタン,水を追加して3分間振撮 け,Dex、群はDex.20μg/100g体重を,対照群は生 して総脂質を抽出した。一定量のヘプタソ層をエバポ 食水を3日間腹腔内投与し,最終投与後12時間,早朝 レーター−eこて蒸発させ,6mlのシソチレーショソ液を「 に断頭屠殺して血液,副睾丸脂肪組織を採取し実験に 加え,その放射能を液体シソチレーショソ計数器で 供した。ブドウ糖負荷試験、インスリンの脂質分解抑 測定した。シンチレーション液はo.4%,2・5diph一 制作用は一夜絶食させ,その他の実験には飽食の状態 enyloxazole,0・ 05%, p−・bis〔2−(5−phenyloxazolyl)一 のラットを用いた。 benzene Teluene溶液にて測定した。 ブドウ糖負荷試験は,軽いエーテル麻酔下で,体重 脂質分解の指標としては,脂肪細胞からのグリセロ 100gあたり250mgのブドウ糖溶液を経口的に投与し, 一・ル放出量をえらんだ。一夜絶食させたラットから遊 尾静脈より0,30,60,90,120,180分と計6回経時 離脂肪細胞を作製し,エピネフリソを脂質分解刺激剤 的に採血した。血糖はGlucose−Oxidase法,血漿 として,ブドウ糖を含まない3.5%牛血清アルブミン IRIはイソスリソリアキット(ダイナボットRI研究 (7ラクションV)Krebs−Ringer−bicarbonate緩衝 所)を用いた2抗体法で測定した。 液(pH 7. 4)に最大刺激濃度18)である1μg/mI濃度に 遊離脂肪細胞は,Rodbellの方法16)に従い作製し 添加した。95% 02 −5% CO2混合ガス下に80サイク た。容量25m1のシリコン化したポリエチレンバイヤ ル/分の速さで,37°C,2時間振鍛をおこない,0.25 ルに,3.5%ウシ血清アルブミン(フラクションV) m1の30%過塩素酸を加えて除蛋白,反応を停止さ を含むKrebs−Ringer−bicarbonate緩衝液(pH7.4)を せ固型KHCO3で中和,4℃,30分間放置後遠心し 3m1入れ,これにcrude bacteria1 collagenase 10mg KCIO4を沈澱させ上清をグリセμ一ルの測定に用い を添加してよく溶かした後,3匹のラットの副畢丸 た。グリセロールの測定は,酵素法によるベーリンガ 脂肪組織をすばやくとり出しイソキnベートした。 一・マソハイム社製のキットを使用した。 ついで95% 02−5% CO 2の混合ガス下で,120サ 遊離脂肪細胞の数は,2%Osmium tetroxide−co1一 イクル/分の速さで37℃,1時間振盈したのち,遊離 lidine塩酸緩衝液(pH7・4)で37°C,24時間固定後, した脂肪細胞をナイロソメッシュでろ過した。このよ 光学顕微鏡で測定したユ9)。 うにして分離した脂肪細胞を,コラーゲナーゼを含ま 脂肪組織のヘキソキナーゼ活性は,Bernsteinと ない同一の緩衝液10mlで,400×g 1分間遠心洗浄の Kipninsの変法20)により測定した。組織の5倍量の 操作を3回くり返し脂肪細胞浮遊液を作成した。 抽出液(0.15M KCI:10mM K phosphate, pH 7.0 : 脂肪細胞の糖代謝におけるインスリン感受性は,イ 5mM NaEDTA;5mM DTT:10mM GIucose)で氷 ソスリン添加による〔U・−14C〕一一glucoseから14CO 2, 水中でホモジネートし,さらにスーパーソニックパイ 14C一総脂質への転換量を指標とした。2m1の3.5%牛 ブレーターで1分間超音波処理したのち,800×g, 血清アルブミソ(フラクションV)Krebs−Ringer− 10分間遠心してその上清を総ヘキソキナーゼ活性測 bicarbonate緩衝液に〔U−14C〕−glucoseをブドウ糖 定に用いた。また上清の一部は、10倍量の10mM K 濃度1mMあたり0.1μCi/m1となるように添加した。 phosphat6, pH 7,0,5mM NaEDTA,5mM DTTで 各反応パイヤルに約1x105個の遊離脂肪細胞を分注 45°C,45分間熱処理し,ヘキソキナ・−tfI型を測定 し,総反応液量を2.5m1とした。95% 02−5% CO2 した。総ヘキソキナーゼ活性と1型との差をヘキソキ の混舎ガスをバイヤルに飽和させ,中央にハイアミン ナーゼ皿型とした。 342 信州医誌 Vol,26 ラット脂肪細胞のインスリン感受性 5炭糖リン酸回路脱水素酵素・NADP+一リンゴ酸脱 F B S IRI IRI/FBS 水素酵素活性の測定は,組織の2倍量の0.25MSu− croseで氷水中でホモジネート後,12000×g,15分間 遠心後の上清を酵素活性に用いた。測定は“Methods in Enzymology”21)22)の記載に準んじ・2mMグルコ 100 100 1.0 _ス6リソ酸,L一リンゴ酸をそれぞれ基質として, mg/de ,“U/・e O.1M Tris緩衝液, pH 7,6に5mM MgCI 2,0.1mM NADP+存在のもとに酵素活性を測定した。抽出液の 蛋縢巌盤、器r醗齢,平均催、 … 5… 土SDで表現した。 皿.試 薬 イ・・リソは・・+;i・liの結購インスリン・生物学 .P・N・S・ <。.。r く。.。1 的活性27.OLu、/mgのものを用いた。コラーゲナー 〔コC。ntr。i ゼ(136U/mg)はWorthington社より,〔U−14C〕一 團Dexamethas。ne 20N9/lOOgBW/3days gluc。、e(14,3mCi/mm。1)はN,w E。gl、nd N。cler liEi Mean±SD 社より入手した。また牛血清アルブミソ(フラクショ n =7rats ソV)はSigma社より入手しt 4。 C,24時間蒸留水 Fig・1・Effect of dexamethasone on FBS にて透撒実験岬、、た.デキサ.サゾンは硝製 and lRI 薬,L一エピネフリソはSigma社1ハイアミソ10X− Gluc。se OHは半井社のものを用いた。その他の試薬は市販最 mg/d2 良晶を用いた。 300 300 ●■ IY.成 績 A.空腹時血糖および血中イソスリソ ゜ ●● (図1) 200 200 対照ラットの空腹時血糖,血漿IRIは,それぞれ ● 102.9±38.6mg/dl,25.1±8. 3ptU/mIであった。こ れに対し,Dex.群ではそれぞれ・117.9土38.6mg/dl, 95.9土1&3μU/m1と空腹時血糖には有意の差はみら れないが,IRIはD,x.群で有意の増加(P<0.01) 1°D 1°° を認めた。またIRI/FBSは対照耕O.24土O. 08, Dex. 群0・82土0ほ8とDex.群において有意(P〈0.0め C。ntrol Dexamethasone の高値をとった。 n=4 nnv4 B・ブドウ糖負荷試験 (図2) 0 60 120 1§O O 60 120 180 体重100gあたり250mgの経ロブドウ糖負荷試験で mi”’ min’ は洛嚇に鮒る醐の血機を)ヒ較すると,・・ :.;ll:91 分,6°雅}こお・・てそれぞれPく…5・Pく…1の Fig..2. Gl。,。,。.t。1。,ance,,,t 有意差でDex,群で耐糖能の異常がみとめられた。 C・糖代謝におけるイソスリン感受性 糖存在下に,各濃度のイソスリンの糖代謝促進作用を 1.インスリン濃度の影響 (図3) 検討した。 脂肪細胞における〔U−14C〕−glucoseから14CO 2, 反応液中にイソスリソを含まないbasal levelに uC総脂質へのとり込みを指標として,1mMブドウ おける14CO 2へのとり込みは,対照群で2344±627 No.3,1978 343 渡辺知 之 410‘cpm/105ce【ls!h 3 δ ♀ £ .量 巴 2 9 ノ 唇 o $ 8 2 9 6日 E ⊇、 // Control H Dexamethasone H n==6 lnsulin(剣U/rnl) 0 2.5510204080100 1000 N.S. く0.01 <O。Ol〈0.01 <0.Ol<O.OlくO.Ol <0.Ol P Fig.3. Effects of various concentrations of 至nsulin on 〔U..14C〕− glucose metabolism cpm/105cells/h, Dex,群で1905土552cpm/105cells ンスリン100μU/ml刺激では0.59 ±O. 017と報告され ノhで両群の間に有意の差はみられない。反応液中の ている。今回の実験では対照群において,basal level インスリン濃度を2.5,5,10,20,40,80,100,1000 ではO. 46±O.085,インスリソ100μU/ml刺激では μU!mlと増量させると両群において明らかな糖代謝 O・・64±O・078であった。一方Dex.群ではそれぞれ 促進作用がみられるが,100μU/m1を越えると,その 0・42土0・105,0.62土0.124であり, Minemuraと 促進作用は飽和となる。この結果はRodbelll6)の成績 Croffordの報告に近い値と考えられる。また対照群 と一致する。イソxリン100ptU/m1濃度においては, とDex.群で〔U−14C〕−glucoseから14CO2,τ4C一総 14CO 2へのとり込みは,対照群34942±5631cpm/105 脂質への転換量の比には有意の差はみられなかった。 cells/h, Dex.群16522土4312 cpm/105cells/hとイ 1.ブドウ糖濃度の変化にたいするインスリ ンスリンに対する反応は両群の間に有意の差(Pく ンの糖代謝促進作用 (図5) 0.01)が認められた。Basal levelとの相対比は,対 反応液中のブドウ糖濃度をO.1,10mMに変化させ, 照群で14.9倍,Dex.群で8.6倍と,インスリン100 イソスリン無添加と,100μU/m王濃度に添加したとき μU/ml存在下ではDex.群で対照群に比較して約57 のブドウ糖酸化促進作用について検討した。 Basal %のインスリン感受性の低下がみられた。 levelでは,各ブドウ糖濃度において両群の間に差は 1℃一総脂質へのとり込みは,ブドウ糖酸化に対する みられなかったが,イソスリン添加により0.lmMで インスリソの促進作用と平行して変動し,basal level P<O.Ol,10mMでP<0.05の有意の差でDex.群 では両群の間に差はないが,各濃度のインスリン添加 のインスリン感受性の低下がみられた。 により,両群の間に有意の差(Pく0.01)が生じた 3.ブドウ糖濃度の影響 (図6) (図4)。 反慈液中のブドゥ糖濃度を1.25,2.5,5,10,20, 〔U−−14C〕−glucoseから14CO 2,12・・総脂質への転換 40mM(〔U」4C〕−glucoseはブドウ糖1mMに対し, 量の比(14CO2:14一総脂質)はMinemuraとCrof− 0.1μCi/mlに添加)と変化させ,インスリンを添加 ford23)によると, basal levelでは0.39±O. 038,イ しないbasal levelにおいて両群のブドウ糖酸化を比 344 信州医誌 Vo1.26 ラット脂肪細胞のインスリン惑受性 6 P 旦 8 可 焉 マ ♀4 2 唇 ’否 雪 唇 02 Control硅一Q 王 留 8 Dexamethasone H ヨ n=6 響 ’「「 当レづ lnsulsn (uUitml[/ 0 2.5510204080100 1000 N・S・く0・01く。・。1<O・Ol〈0.01くO.Ol〈O.Olく0.Ol くO.OI P Fig.4. Effects of various concentrations of insulin on 〔U−14〕− glucose metabolism 陣」哩亙懸聾コ 「唖嚇i…三色 o・4. 4・ 10‘opm ilO5cePs /10be¢lls !h !.h の o o,3. 9 3 l 4 2 .量 醤 o,2 /jl1−s 2 さ 8 訓 Lヒ 塁 田 8 1. コ ¢ 0.1 1 6. 5、・・5 ← う. Co〔trol H Dexamethasoneひ___● tw,:i:,° 1°° .° 1°°巳翻1」!,。.e [=6 PN・S・ ・...。・Dl N・S・ ..0・05 〔コ 、 一⊥一… 一一 n==6 1.252.5 5 10 20 40 Gluco50 cc・nctentrntion伽M) Fig。5. Effects of glucose concentrations on 〔U..14C〕_glucose ox至dation with Fig.6. Effects of graded concentrations or wi亡hout added insし11in 」 of glucose on〔U−14C〕−gh見cose・oxi− dation 較すると,ブドウ糖濃度10mMまでは両群の間に差 がみられないが,20,40mMの高濃度では軽度(P〈 て1型は8,7土2. 8mU/mg蛋白,皿型は46.8土12.6 0・05)の差がみられた。 mU/mg蛋白であり, Dex.群ではそれぞれ4.3土1.2 D.ヘキソキナーゼおよび脂肪合成系酵素 mU/mg蛋白,22.2土4. 5mU/mg蛋白であった。爾 の変動 (表1) アイソザイムともDex.群で,約÷の活性低下が認め 脂肪組織のヘキソキナービ活性は,対照群におい られ,とくに丑型は著しい(Pく0.001)活性低下を示 NQ.3, 1978 3ヰ5 渡辺知之 Table 1. Effect of dexamethasone on enzyme activities in the adipose tissue ’ Control Dexamethason n=6 n=6 Mean土SD Mean±SD P Hexokinase I 8.7ニヒ 2.8 4.3土 1.2 く0.025 Hexokinase 正 46.8ニヒ12.6 22.2土 4.6 <:0,001 G麟灘鼎ate 11・1±2・・9・・±1・・<…1 Malate dehydrogenase 6.1±1.1 6,1±0,2 NS (decarboxylating) (NADP) (mU./mg. protein) uM/ioscells Dexame │s°ne 9・ −Dexa・:・h・s・ne n=:55° @ / 30 20 0.5 10 ,/. ,t 一一lvg/ml−一一一一シEpinephrine log insulin cono・ (uU/ml) Fig.7. A. G正ycerol re工ease B. Inhibition of glycero正 release した。 は右への移行を示し明らかにインスリソの脂質分解抑 5炭糖リン酸回路脱水素酵素活性は対照群で11.1土 制作用における感受性の低下がみら乳た。 2.1mU/mg蛋白, Dex,群で9.5土1.2mU/lng蛋白と Dex.群で有意(P<O、 01)の活性低下をみとめた。 V◆考 察 一方NAtDP+一リソゴ酸脱水素酵素活性には両群の間 グルココルチコイドを生体に投与することにより, に有意の差はみられなかった。 脂肪組織や筋において糖利用を妨げ,肝において糖新 E.脂質分解抑制作用 (図7) 生を促進する結果,血糖値を上昇させ,また一方では 脂肪細胞からのグリセロール放出は,basal state 投与後きわめて早期に高イソスリソ血症をもたらすこ では両群で差がないが,エピネフリソ鰻大刺激では, とはよく知られているax)本実Wtでもデキサメサゾンを Dex.群で増加(PくO.・OI)を示した。 3日間投与後のラヅトにおいて,耐糖能異常,.高イソ エピネフリン最大刺激によるグリセP一ル放出に スリン血症がみとめられた。 対して,インスリンを各濃度に添加したときの脂質分 この高インスリン血症の機序については,なお異論 解抑制作用について検討した。この抑制率(劾の のあるところで,これまでに2,3の可能性があげら dose−response曲線は,図7. Bのごとく,Dex.群で れている。グルコ=ルチコイドは,末梢組織において 346 信州医誌 Vol,26 ラット脂肪細胞のインスリン感受性 イソスリンに拮抗的な作粥をもっている。Marcoら みている!o)12)”15)。しかし今回のin vivo−in vitro as)は,この拮抗作用による末梢のインスリソ感受性の 実験では,膜透過レベルの障害は,前述のOIefsky15) 低下が血糖上昇を介して,代償的なインスリソ分泌増 の結果と照し合わせると,グルココルチコイドをin 加をきたすとしている。一方PerleyとKipnins26) vivoに投与したときにみられる膜透過レベルの障害 は,人にグルココルチコイドを投与すると,投与前後 は,インスリンの脂肪細胞膜への結合の低下による二 で血糖値は不変であるが,」血中イソスリンは飛躍的 次的な結果である可能性も否定できない。 に高値をとることを報告しており,またMalaiseと ヘキソキナーゼは解糖系の律速酵素として,またそ MalaiSe−−Lague27)}X in vitroの実験で,グルコー=ル のアイソザイムの変動は糖代謝調節に特異的な役割を チコイドが直接膵B細胞に働ぎかけ,イソスリソ分泌 はたしていることが知られている29)。アイソザイムに 刺激に対する感受性を高めるとしている。 は1,皿,M, W型の4種が知られており,肝臓にお デキサメサゾン投与により,図3,4のごとく,生 ける】y型(グルコキナーpビ)を除けば,とくに皿型の 理的濃度のみならず非生理的高濃度のイソスリソeeよ 活性は組織のイソスリソ感受性と密接な関係があり, っても,ブドウ糖酸化,脂質合成促進作用に対する脂 絶食,ストレプトゾトシン糖尿病ラットで著しい活性 肪細胞のイソスリン感受性の低下がみられた。 低下が認められることが報告されている30)u本喫験で イソxリンが脂肪細胞の糖,脂質代謝におよぼす作 も,総ヘキソキナーゼの活性低下のみならず、とくに 用機構は,ホルモンの膜への結合(レセプター),ブ ll型の活性が著しく低下していたことは,グルココル ドウ糖のリン酸化,解糖系,TCAサイクル,5炭糖 チコイド投与による脂肪組織のイソスリソ感受性低下 経路など,各ステップが相互に関連して脂肪細胞全体 には,ブドウ糖のリソ酸化の段階も一つ重要な律速段 の代謝調節がなされていると考えられる。 階として関与Lていると考えられる。 グルココルチコイド投与による細胞膜レセプターの このヘキソキナーゼが生体内組織のイソスリン感受 変動に関して・Olefskyi5}は・デキサメサゾンを急性, 性において重要であるということは,次のような報告 慢性にラットに投与し,その副繋丸脂肪細胞のインス からも麦持されている。すなわちヘキソキナーゼは, リンレセプターの変動を検討し報告している。急性投 グルコースー6一リン酸にょり非競含的阻害をうけ,ま 与では,レセプターの数の減少を認めたが,慢性投ゲ た可逆的に細胞膜へ結合するとされており,このこと では・レセプターの数の正常への回復を認めた。一一fi がイソスリン作用のカギになっていることが知られて 同時におこなった肝細胞膜のレセプターでは,急性, いる31)。またKarpartin32)は,結合型ヘキソキナー一 慢性投与どちらにおいても減少を示し,急性慢性実験 ゼのグルコースー6一リン酸にに対するKiは,可溶性 によるインスリンの標的細胞における感受性の一様で のそれより3倍高い二と,結合型ヘキソキナーゼがこ ないことを報告している。 の酵素にとって生理的に活性な型であることを報告 脂肪細胞におけるブドウ糖の膜透過は,担体によっ し,さらにBernsteinら20)は,筋肉などでは大部分 ておこなわれる受動輸送・すなわち促進拡散であり, が可溶性であるが,脂肪組織では皿型の約÷が結合型 インスリンによって促進をうけることが知られてい であり,1型には結合型は見い出されなかったことを る。反応液中のブドウ糖濃度が0・5mM以下になる 報告している。 と・ブドウ糖の酸化の律速段階がブドウ糖の膜透過レ 脂肪合成に必要な補酵素の産生系として,5炭糖リ ベルとなるため,発生するユ4CO2を測定することは, ン酸回路脱水素酵素, NADP+−vン:1’酸脱水素酵素 間撞的にブドウ糖の膜透過速度を測定することにな は,脂肪酸合成の律速酵素と考えられており,脂肪合 るca)。本実験において,ブドウ糖濃度0・1mMにおけ 成系と平行して変化する。これらの酵素はホルモン条 るイソスリンの膜透過促進作用は,デキサメサゾン群 件,栄養状態,遺伝的肥満症などで脂肪酸合成速度の で著しく低下していた。このことは,ブドウ糖の膜透 変動と対応して一一・f9に変化するとされている鋤。今回 過レベルにおける障害が,グルココルチコイドによる の実験では,デキサメサゾン投与後3日目において, インスリン抵抗性の一つの律速段階であることを意味 前者はDex,投与群で有意の活性低下がみられたが, していると考えられる。in vitre実験系におけるグ 後灌}は対照群と有意の差はみられなかった。 ルココルチコイドの糖代謝抑制作用は,膜透過レベル 脂肪細胞に貯蔵されているトリグリセライドは, における障害と考えられており,大方の意見の一致を cAMP dependent protein kinaseの作用で活性化を No.3, 1678 347 渡 辺 知 之 うけるリパーゼにより1脂肪酸とグリセロールに分解 作用について観察し,脂肪組織の解糖系律速酵素の’、 される。水解されたグリセロールは,脂肪組織におけ キソキナーゼ,そのアイソザイムおよび脂肪台成系酵 るグリセロキナーゼの欠如により再エステル化をうけ 素との相関について検討した。 ないとされている。このグリセロ・・一ル放出を脂質分解 2)デキサメサゾン投与群では耐糖能異常また高イ の指標としてみると,basal leve!における脂質分解 ソスリン血症がみられた。 では両群の間に差がないが,エピネフリン刺激による 3)インスリンにょるブドウ糖酸化,脂質台成促進 脂質分解では・Dex・群で有意の高値を示した。この 作用はbasal levelでは有意の差はみられないが,イ 成績は,グルココルチコイドの脂肪動員に対する[許 ンスリソにょるその促進作用は生理的濃度のみなら 容効果」によるものと考えられるaすなわちShafrir ず,非生理的高濃度においてもデキサメサゾン群で有 とKerperisS4)らは,ラットの副睾丸脂肪組織を用い 意の低下がみられた。またブドウ糖濃度0. lmMにお たin vitroの実験結果から,エピネフリンによる脂 け・るイソスリンの膜透過促進作用においても同様の結 肪組織からの脂肪酸とグリセロールの放出が,コルチ 果がえられた。 ゾール処理によってともに増強され,コルチゾール単 4)デキサメサゾン群でヘキソキナーゼ活性の低下 独ではほとんどその効果のないことを示した。同様の がみられ,とくに皿型の著名な活性低下がみられた。 現象はin vivo実験においても認められている35)。 また脂肪合成系の律速酵素である5炭糖リソ酸回路脱 このようにグルココルチコイドは他のホルモソ,とく 水素酵素活性は,デキサメサゾン群で有意の活性低下 にカテコールアミソやグルカゴンに対して応答しやす がみられたが,NADP+一リソゴ酸脱水素酵素活性に い状態に組織を維持する作用があることが知られてお は変動はみられなかった。 り,この作用はグルココルテコイドの「許容効果」と 5)デキサメサゾン群では,エピネフリン刺激によ よばれている。 る脂質分解は充進していた。一方イγスリンの脂質分 インスリソによる脂質分解抑制作用は,Dex.群で 解抑制作用に対する感受性は低下していた。 相対的な感受性低下を示していた。このインスリンの 6)以上の結果から,臨床的薬埋量に近いデキサメ 脂質分解抑制作用の機序についてはなお確立されてい サゾンを3日間ラットに投与することにより,その副 ないAdenylate cyclaseの阻害36)とPhosphodie一 畢丸脂肪細胞において,インスリンによるブドウ糖 steraseの活性化37)の2説があり,少なくともインス 酸化,脂質合成促進作用,脂質分解抑制作用にたいす リンの糖代謝促進作用とは異なる機序で作用している る感受性の低下がみられた。その機序として,ブドウ ことが明らかとなっている。今圃の実験において, 糖の膜透過,およびリン酸化,5炭糖リソ酸回路の Dex。群でインスリンの脂質分解抑制作用に対する感 酵素系の変動が大きく関与していることが明らかとな 受性の低下がみられたことは,Adenylate cyclase一 った。また脂質分解抑制作用に関与するAdenylate cyclic AMP系の変動を示唆する所見と思われる。 cyclase−cyclic AMP系の変動も示唆された。 脂肪組織は生体全体のブドウ糖の代謝回転の5%に 賃献しているにすぎないという報告があるzz)。グルコ 本論文の要旨は,昭和52年5月第20回日本糖尿 コルチコイドのもたらす末構組織のイソスリン抵抗性 病学会総会において発表した。 は,脂欄のみな・ず・働・いは㈱・闘 灘織繊甚翼犠製響魁 るところが多く,Olefskyls)の報告}こみられるレセプ に,御協力をいただいた糖尿病班の諸氏に感謝の ターの闇題,ヘキソキナーゼおよびそのアイソザイノ、 意を義します。 の変動等の生体内各組織にみられる感受挫の異動は, 今後注目されるところである。 文 献 1)Archer, J. 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