Kobe University Repository : Kernel

 Kobe
University Repository : Kernel
Title
単球、好中球の分化特異抗原MRP8/MRP14複合蛋白の
動態と機能の検討 (助成研究報告)
Author(s)
村尾, 真一 / 松本, 聖也 / 中西, 護 / 西村, 一孝
Citation
神戸大学医学部神緑会学術誌, 10: 167-170
Issue date
1994-06
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81007357
Create Date: 2015-02-01
神 緑 会学術 誌 第 1
0巻
1
9
9
4年
助成研究報告一 一
単球,好中球の分化特異抗原
MRP8/MRP14
複合蛋白の動態と機能の検討
真
尾西 村
松山赤十字病 院 病 理
村中 西
愛 媛 大学 医学部病理学第一
一 (50年卒)
松本聖也
護
孝
国立療養所愛媛病院内科
1.はじめに
原として単離 ・同定した分子量 8kDaと14kDa
最近 S1
0
0蛋白と高い相向性を有する分子種
の 2種 類 の 蛋 白 (
M
i
g
r
a
t
i
o
ni
n
h
i
b
i
t
o
r
yf
a
c
t
o
r
-
の c-DNA遺伝子が,細胞増殖や分化との関連
14
R
e
l
a
t
e
dP
r
o
t
e
i
n-8とMRP-14,以下 MRP8/
から次々に報告されている. MRP8. MRP14.
複複合蛋白と略す)の医学 ・生物学的特性を調
c
a
l
c
y
c
l
i
n
. c
a
l
p
a
c
t
i
n-1 l
i
g
h
tc
h
a
i
n.p
r
o
f
i
l
l
a
g
.
べている 。2)3)この蛋白は 1987年. Odinkらに
r
i
n
.c
a
l
v
a
s
c
u
l
i
n等などと呼ばれるものである
よって最初に,慢性関節リューマチの病変部の
1)
マクロファージから産生される二種類の未知の
これらに共通するのは EF・
handと呼ばれ
i
+結合部位を分子内に 2箇所持つことで,
るc
因子として,完全なかたちの c.DNA遺伝子が
2
Ca +との結合は蛋白としての疎水性結合力が
得られた.遺伝子から予想されるアミノ酸配列
高まると考えられており. Ca2+の関与した細
を検討したところ,それまで多くの研究者から
胞内シグナル伝達の点からも関心が持たれてい
いろいろな名称、,例えば白血球抗原(Ll
る(表1).我々は好中球・単球の分化特異抗
a
n
t
i
g
e
n
)
.c
y
s
t
i
cf
i
b
r
os
i
sa
n
t
i
g
e
n,カルグラニュ
表 1 S100m自ファミリー
名前
1)
(別称)
発現
分化・増殖
機能 ・局在
細胞骨格
S100a/
S100b
グリア細胞,その他
C
a
l
p
a
c
t
i
nl
l
i
g
h
tc
h
a
i
n
(
p
1
1,42C
)
小腸,腎,肺
+
p3 6の リン酸化制御
C
a
l
v
a
s
c
u
l
i
n
(
18A
2,p9ka,42A)
血管平滑筋 ,その他
+
ミクロフィラメントの集合
in (
C
a
l
t
y
c¥
A9)
2
線維芽細胞
+
細胞周期 (
01期)
P
r
o
f
i
la
g
g
ri
n
表皮細胞
+
MRP8
/MRP-14
(CFa
n
t
i
g
e
n,c
a
l
g
r
a
n
u
l
i
n
)
骨髄細胞.
マクロファージ
+
+
ニュ ーロ ンの伸張
ケラチンの凝集
炎症病変
︽ u
h
EA
噌
η
,
,
リン A.Bなどと報告されていたものが.全く
るいは THP-1単球性 白血病細胞を 5nMPMA
同ーの蛋白か,あるいはその一部分であること
存在下で 4日間培養した際の MRP8, MRP14
がわかってきた
遺伝子の発現を N
o
r
t
h
e
r
n法で検討したもので
4)5)
従って,呼び名につい
ては現在でも多少の混乱はあるが,一部を除い
ある .HL6
0細胞では時間の経過とともに漸増
て MRP8 ・MRP14の名称を使うのが一般的で
するが, THP-1細胞では 2日目にピ ー クを迎
ある . この蛋白は分子量 8kDaと1
4kDaのペプ
6
0細胞 に
えたあと減少していく. 一方
, HL-
チドがヘテロダ イマーを構成し ,末梢血単球 ・
PMAを加えた場合は MRP8,MRP14の発現の
好中球に特異的に存在する.末梢血以外では網
誘導は見られない. このような細胞や分化誘導
内系細胞,特に肺 ・肝 ・牌の組織マクロファー
剤による発現の違いをさらに免疫沈降法で検討
ジに弱い発現がみられる. しかし,この蛋白の
した (
図2
)
. HL6
0細胞を 100nMの活性型ビ
生物学的役割は炎症病変への関与が推定される
タミン D3
、
で 3日間処理した後,
ほかほとんど何も知られていない.我々はヒト
加え 4時 間 後 に 細 胞 と 培 養 液 中 に 存 在 す る
前骨髄性白血病 (
HL6
0)細胞の分化 ・増殖の
MRP8/14複合蛋白を NM-6抗体と共にプロテ
5nMPMAを
調節の研究を進める過程において , ヒト骨髄球
イン Aカラムから回収した .MRP8/1
4複合蛋
系細胞(主に末梢血単球)に反応するマウス単
白は前もって 35S メチオニンでラベルされて
1
4複合蛋
クローン抗体のひとつとして MRP8/
いる.培養上清中に MRP8/
1
4複合蛋白が出現
白を認識する抗体 (
NM-6抗体)を得た.
するのは活性型ビタミン D3
にさらに
NM-6抗体は成熟分化をとげた単球 ・好中球
加えた場合のみである(Ja
n
e8).また,細胞
PMAを
と特異的に反応する性質のみならず, HL6
0細
内の MRP8/14複合蛋白も PMA添加でやや増
胞中では活性型ビタミン D3
処理で、分化誘導さ
n
e3と l
a
n
e4).
加しているようにみえる(Ja
れた細胞にも発現が見られる.以下では我々が
このよう、 PMAは HL6
0細胞で直接は MRP
解析しえた幾つかの MRP8/
1
4複合蛋白の特徴
8, MRP14遺伝子の発現を誘導しないが,発
的な性質について述べる .
現された後にそれらを調節する作用が示唆され
る.これは末梢血単球や好中球における MRP
2. HL-60
細胞にお ける MRP8/
14複合
蛋白の発現と放出の調節
8/14複合蛋白の合成や放出が種々の炎症刺激
で調整されている可能詩を考えさせる.
HL-60細胞は各種分化誘導物質の存在下で好
中球(1.3%ジメチルスルフォキシド,
1mM
伽
'
HL 6
0
THP
偏
レチノイン酸など),単球 (
100nM活性型ピタ
D
a
y
s
o0.
511
.
52
ミン D
3
),マクロファージ (2nMp
h
o
r
b
o
l1
2
D
a
y
s
4
0 0.
5
唱
1
.
52 4
m
y
r
i
s
t
a
t
e1
3
a
c
e
t
a
t
e;以下 PMAと略す)様細
胞へと成熟・分化を遂げる .MRP8/
1
4複合蛋
MRP8
白はこれらの中で好中球や単球様細胞に変化す
ることで,処理後 2
4時間を過ぎると細胞内に出
~I ,
・
現し,徐々に増えてくる . MRP8と MRP14遺
伝子はそれぞれ独立して染色体の 1q上に存在
揃 RP14
品 晶 畠 鋪. .
するが,その発現は非常によく同調している .
28
S
rRNA
合成された蛋白は MRP8,MRP14単独で、
はな
く,それぞれ 1
1, 1 2,または 2 2と
いった割合の複合体を形成している.図 1は
HL-60細胞を 1
0
0nM の活性型ピタミン D3
で,あ
-1
6
8
図
MRP8,MRP1
4
遺伝子の発現を H
L
6
0前骨
-1単球性 白血病細
髄性白血病細胞及び THP
r
t
her
nb
lo
ti
n
g法によ る検討
胞の No
神緑会学術誌
第1
0
巻
1
9
9
4年
にあった .一方,入院患者の血清濃度を測定し
30-
たところ,その範囲は 5
0
6,
O
O
O
n
g
/m1に及び,
権患した原疾患や全身状態により値は広い範囲
・-
1
4-
1 2
1".
25(
OH)
2
D3 .ー
PMA . 令
•
4
5 6 7 8
+ +
守 +
+ +
φ
ー +
Lー
ー
一
ー
ー
ーー
ーー
ー
ー
ー
一
向
ーJ
Medt
a
3
」ー一一ーーーー~
C
e
l
l
s
に分布した(図 3). これらの中で 8
0
0
n
g
/
m
l以
上の高値を示した疾患は肺結核,慢性関節リウ
← MRP14
← MRP 8
マチ,肺癌,肺サルコイドーシス,間質性肺炎,
心房中隔欠損症,心不全などがあげられる.そ
の一方,健常者と同じ範囲内には C型肝炎,再
生不良性貧血,骨関節疾患が含まれてい た.一
般に,好中球増多症を伴っている場合には
MRP8/14
複合蛋自の培養上澄中への放出.
l
a
n
e
8はビタミン D3
で分化した H
L
6
0細 胞
に PMAを 4時間加え た.繕養液中に MRP
8
/
1
4
複合蛋白の放出がみられる.
MRP8/
1
4複合蛋白の血清値が高い .こ れは好
3
. MRP8/MRP14複合蛋白の血中濃
肺疾患の多くで高値を 示したことは注目され
図2
中球に含まれる MRP8/
1
4複合蛋白が血中へ放
出されると考えられるが,好中球増多症を伴わ
ない症例でも端息,肺結核,間質性肺炎などの
る.これは肺胞マクロフ
度の測定
7 ージを含む網内系細
9
5名の健康人血清を対照として 5
5例の入院患
胞で MRP8/
1
4複合蛋白の産生や放出が充進し
者血清の MRP8/MRPI4複合蛋白濃度の測定を
ている可能性が考えられる.また,悪性腫傷 (
肺
TwoA
n
t
i
b
o
d
yS
a
n
d
w
i
c
h法で行った
癌を含む)でも高値を示す例が多く,この点に
6)
MRP
8/14複合蛋白の精製は末梢血からマウス ・モ
ついては今後の検討を要する.
ノクローナル抗体 (NM-6) をセフアロース
に架橋したアフイニティーカラムを用いた
2)
さらに, C4逆層カラムで MRP8 と MRP14に
正常および各種疾患における血清 MRP-8/MRP-14
値
000
100,
それぞれ単離したものを,ラピットに 3回以上
免疫し,抗血清を得た.アッセイはまず,抗
MRP8抗体を 9
6-welELISAプレートの底に固
着後,精製された抗原 (MRP8/
1
4複合蛋白)
または希釈された血清を 2時間インキュベート
ピチオン化抗マウ
E
、
cl
Z
1,
000
アルカリフォスフォターゼを加え,基質
100
(
PMPP) を発色させ, 690nmでの吸光度を測
定した.精製抗原を用いた標準曲線では 1
ρ=
ス 1gGl抗体で 2時間処理した後,アピヂン ・
.・・.・“・・4F・hL
th.fυ 叫 曜日官、
し
, NM-6抗体に 2時間,
10,
000
n
g
/mlよりlO
O
ng/m
lの濃度でほぼ直線的に,
その他の 疾怠
心疾患
慈性腫蕩{肺痴を除︿)
階に希釈し,標準曲線の再面性の高い範囲で測
肝炎 ・肝硬変
であった.血清は 1/9, 1/
3
0, 1/
2
7
0の 3段
肺疾患
して, 0.
3
ng
/
m
l以上の濃度の抗原が測定可能
肺癌
上でプラトーに達した.また検出できる限界と
コントロール
10
0
0
ng
/ml以
ついでなだらかなカーブを描き, 4
定した. 9
5例の健健常者の平均値は 1
8
6
n
g
/
m
l
で 90%以 上 が4
0
n
g
/
m
lから 3
8
5
n
g
/
m
lの範囲内
複合蛋自の血清中濃度.
図 3 症例別 MRP8/14
- 169-
4
. おわりに
文献
本稿では好中球・単球の分化特異抗原として
1) K
l
i
g
m
a
n, D
.,•and Hii
t, D
.
C
., Trends
1
4複合蛋白について我々の
単離された MRP8/
,
.
i 13,437-443,1
9
8
8
.
B
i
o
c
h
e
m
.S
c
知見を中心に HL-60細胞での発現や血中濃度
.,C
o
l
l
a
r
t,F
.
R
.,andHuberman,E,
J
.
2) Murao,S
について述べた. MRP8/14複合蛋白はアミノ
酸配列が S1
0
0蛋白と高い同一性を示すことよ
B
i
o.
lC
hem.264,8356-8360,1989.
.,C
o
l
l
a
r
t,F
.R
.
, andHuberman,E
.
3) Murao,S
2
,
り Ca+の関与じた細胞内シグナル伝達や直
接標的となる分子の検索に研究者の注目が集
まっている
C
e
l
lGrowthD
i
f
f
e
r
.1,447-454,1990.
,S
.,Nak
叩a
n
i
s
油h
叫
i
i
,M
. Ma
抗t
sumo
4) Murao
c
a
l
v
a
s
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l
i
n,c
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l
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a
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n 1l
i
g
h
t
,
丸N
.,andHub巴rman,E
.A L
a
b
o
r
a
t
o
r
y
Ued
a
1
0
0蛋白ファミ
c
h
a
i
n,S100sなど多くの S-
.
E
.AcademicP
r
e
s
s
H
a
n
d
b
o
o
k
.E
d
it
.C
e
l
i
s,J
リーに属するものは細胞骨格との聞に親和性を
1
l
lp
r
e
s
s
.
有することや,蛋白リン酸化や細胞骨格の構築
の調節にあずかっているとの報告がある
.
A
.,Edgeworth,
,
.
] andHogg,
N.]
.
5) H
e
s
s
i
a
n,P
L
e
u
k
o
.B
i
ol
.53,197・204,1
993.
1)
MRP8/
1
4複合蛋白につれてはこれまでの炎症
反応や細胞分化の特異抗原として解析されでき
たが, Ca2+の関与という見地から新たな検討
が加えられる時期に来ていると言える.
-170一