腸管ホルモングルカゴン様ペプチド-1 分泌に及ぼす スフィンゴイド塩基の影響 若山智慧 海洋生物生産利用学 【目的】2 型糖尿病は、インスリン感受性の低下が原因となり高血糖を呈する慢性疾患であ り、日本を含むアジアでは食生活の欧米化などの生活様式の変化に伴い、患者数が年々増 加している。Glucagon-like peptide-1(GLP-1)は、血糖値に依存して β 細胞によるインス リン放出を促進する消化管ホルモンであり、インクレチンとも呼ばれる。GLP-1 の類縁体や インクレチン分解阻害剤による 2 型糖尿病治療薬の実用化が進められている。近年、α-リ ノレン酸などの遊離脂肪酸が下部消化管に局在する G タンパク質供役型受容体(GPR120)を 介して GLP-1 の分泌を促進することが報告されている。スフィンゴ脂質の構成成分である スフィンゴイド塩基は長鎖アミノアルコールであり、脂肪酸と長鎖の炭素鎖を持つ構造が 類似している。さらに、消化管吸収が極めて低いことが分かっており、下部消化管に到達 できるため食品成分として GPR120 を介した GLP-1 分泌に影響を与える可能性が推測される。 そこで、本研究ではスフィンゴ脂質の新しい機能性としてスフィンゴイド塩基が GLP-1 分 泌に与える影響を評価した。 【方法】乾燥マナマコから総脂質を抽出し、スフィンゴ糖脂質画分(CMH 画分)をケイ酸カラ ムクロマトグラフィーで単離精製した。さらに、弱アルカリ分解及び酸加水分解によって スフィンゴイド塩基画分を調製し、誘導体化後、蛍光 HPLC、GS-MS 及び LC-MS に供してス フィンゴイド塩基組成を解析した。 また、 ICR マウス(オス 7 週齢)を一週間馴化飼育した後、 18 時間絶食させ、α-リノレン酸、スフィンゴシン、トウモロコシ由来 CMH のスフィンゴイ ド塩基、ナマコ由来 CMH のスフィンゴイド塩基をそれぞれ 0.5%カルボキシメチルセルロー ス溶液に溶解して経口投与した。投与 1 時間後に門脈から採血し、ELISA 法を用いて血漿中 の GLP-1 分泌量およびインスリン分泌量を測定した。 【結果】蛍光 HPLC、GC-MS 及び LC-MS による分析の結果、本研究で用いたナマコ由来 CMH のスフィンゴイド塩基組成は主に d16:1、d17:1、d18:1、d18:2、d18:3、d20:0 であり、ト ウモロコシ由来 CMH のスフィンゴイド塩基組成は主に t18:1、d18:2、d18:3、d19:1 である ことを確認した。マウスを用いた動物実験の結果、α-リノレン酸投与群及びトウモロコシ 由来スフィンゴイド塩基投与群、ナマコ由来スフィンゴイド塩基投与群はコントロール群 と比較して門脈血中の GLP-1 濃度が有意に増加した。また、インスリン濃度については有 意差はないものの増加傾向にあった。 以上の結果から、スフィンゴ脂質の新しい機能性として GLP-1 分泌促進作用を介した 2 型糖尿病改善作用が期待された。
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